スネイプ教授の絶対零度の睨みを物ともせず今尚ローブを離さない黒い珍生物はギルデロイ・ロックハートと名乗った。顔を見たことは愚か名前すら聞いたことがないのだが本人の口ぶりからすると有名人らしい。
私と同じく9月から新しくホグワーツで教鞭をとる事になっている事から始まった自己紹介は止まることを知らず、記憶する必要ないと判断した私の脳は入ってきた情報を右から左へと流す。
好きな色はライラック色だとかいつ活用されるのかわからないような情報まで話しだしたところで漸くスネイプ教授の表情が目に入ったらしく態とらしくおどけてから咳払いをした。
「おや、素敵なお嬢さん。私、今プライベートなのでサインは受け付けてないのですが貴女は実に運がいい、特別にプレゼント致しましょう」
「え、あのお構いなく」
今の今までスネイプ教授の陰に隠れていた私に気づいた瞬間、スネイプ教授の眉間の皺をこれでもかというほど寄せた表情など頭からすっかり消え去り、パチリとウィンクと共に近づいてきた。
「なに、恥ずかしがらなくていいんですよ。なんて言ったって勲三等マーリン勲章受賞者に会う機会なんてなかなか無いですからね。あ、もしかして握手もしたかったとか?」
「いえ、私は結構です。どうぞプライベートの時間を満喫してください」
初めて会うタイプの人間に頭をフル回転させて渡り合い方を模索するも空腹の今、なに1つ浮かばない。どんなに否定してもどんなメカニズムをしているのか彼の脳は全て肯定的に受け取る。際限なく返ってくるポジティブな言葉に内心頭を抱えていると視界の端に蝙蝠の背中を捉えた。
ロックハートさんの注意が私に向いたのをこれ幸いと1人退散しようとするスネイプ教授を逃してはいけないと訴える脳に従い、先程のロックハートさんよろしく遠慮なくローブを掴んで引き止めた。この際少しくらいローブが伸びたところで困りゃしないだろうと意地でも離さない。
恨みがましくブスブスと刺さる視線は容赦なく心を抉りにかかってくるがこのよく分からない生物と今2人っきりになる事だけは避けたい。
「なに帰ろうとしているんですか。見捨てないでください」
「その手を離したまえ、私は忙しいのだ」
「そもそも、この人教授に用があって話しかけてきたんですよ。私に押し付けて1人で逃げさせませんから」
尚も1人喋り続けるロックハートさんに背を向け、スネイプ教授と小さな声で言い合う。どちらも譲らない押し問答は私のお腹の音で終了した。かち合った視線でお互いの考えていることを理解したからこそすかさず一言。
「私、1人で帰れる自信ありません」
小馬鹿にするように鼻で笑われ、喉元まで出かかった言葉はグッと押し込める。すり足で後ずさり物陰に逃げ込むと嫌々差し出された腕にしっかりと捕まり、酔わないように軽く目を瞑るとポンという音と共にその場を後にした。
ギリギリ姿現しができる場所に移動しホグワーツに戻ると物凄く焦った様子のフリットウィック先生とすれ違ったが気にする余裕がなく、一直線に大広間に向かい夕食の席へとついたのだった。
その後、戻ってきたフリットウィック先生の後ろに目に涙を微かに浮かべたロックハートさんがいた。フリットウィック先生に促され彼の隣に腰を下ろしたのを見計らってくるりと体の向きを変える。
「先程は失礼しました。本年度から魔法陣魔法を担当します、アリシア・フォードです。よろしくお願いします、ロックハート先生」
食事を終え大満足な私は相手が口を開く隙を与えずに一方的に挨拶をしてデザートに戻った。チラリと一瞥するとポカンとした顔に内心満足して糖蜜パイを頬張った。
帰り際にこっそりと教えて貰ったのだが、ロックハート先生はホグワーツまでの道のりが分からず立ち往生していたのだそうだ。私が言えたことではないがホグワーツ卒業生らしい彼なら姿現しすれば良かったのではと思ったがその言葉は飲み込んでおいた。
担当教科は魔法陣魔法です。どんなものかは後々明らかになります。元々ある教科を担当しても良かったのですが既存の先生方が好きなのでボツになりました。
因みに大広間のアリシアの席順ですが闇の魔術にたいする防衛術教授と魔法薬学教授の間です。