今日は本当に楽しい日だったと思う。
文の家で夕食を食べながら、心の底からそう思った。
朝からずっと文と遊べたし、文の知らなかった一面を知ることができた。……文っておてんばだと思う。でも、きっと何に対しても真っ直ぐに考えて動くから、そう見えるんだろう。
でも、さすがにずっとここにいる訳にもいかない。
家に帰ったらまた父様に叱られ、文に会うことの難易度が上がるのが予測できるから、少し憂鬱になる。
でも、そんな暗い気持ちは文に笑顔を向けられるとすぐに消えて、楽観視できるようになるんだ。
そろそろ家に帰ろうか。笑顔を忘れないうちに。
「文、そろそろ俺は帰るよ」
「そうですか。桐、わすれものはありませんか?」
「うん、大丈夫。そもそもあまり物を持ってきてないからね」
「あ、そうでしたね……」
こういう風に人を気遣える文は、本当にすごいと思う。
「うん、それじゃ、また来るよ」
「はい。楽しみに待っていますね!」
にこりと微笑んだ文を見て、まだいたい気分になったが、もう夕方を過ぎている。速く帰らなければいけないだろう。
思いっ切り羽根を動かす。妖力だけでも飛べるが、羽根も使った方が楽に飛べるから、俺はそうしている。ちなみに、鴉天狗の羽根はしまうことができる。
文と俺の家は実はそれほど遠くない。空ならほぼ直線距離で進めるため、今の速さなら30分もかからないだろう。昨日文の家に行くのに、あんなに時間がかかっていたのは森の中を走り回って追手を撒いていたからだ。
家の門の前に立つと、中から父様が出てきた。何というタイミング。絶対計ってるだろ……うん、怒ってる。青筋が出てるよ……
「た、ただいま帰りました……」
「ああ…………何処へ行っていたんだ?」
無言の笑顔がものすごくこわい。もとの顔立ちがどちらかというと綺麗な人だから、それはもう、こわい。何を考えているのかさっぱり分からない。
「ゆ、友人の家です……」
「友人?そうか、その友人の名は何だ?」
以前調べた時に、文の家と俺の家の仲が悪いという情報がなかったから、言ってもいい気がする。
「射命丸、文です」
「射命丸?……ああ、檜の娘か。アイツの親バカのせいで山から出られないっていう可哀想な娘」
「……文のこと、知ってたんですね」
「ああ。風の噂で聞こえてくるからな。……お前、何で知り合ったんだ?」
「つい先日、あの山のあたりを歩いていたら、迷ってしまって。屋敷を見つけたので入ってみたら、文がいたんですよ」
勿論、嘘だけど。
「そうか。…………とにかくオレはお前に友人ができて嬉しいぞ、桐」
そんなこと思われてたのか、まあいいけど……
「そうですか」
だって俺も友人ができて嬉しかったから。