「はあ……」
またため息だ。ため息をつくと幸せが逃げるというのに。
桐が最後に遊びに来てから、もう1ヵ月は過ぎている。
最近の私は、気が付くとため息ばかりついている。それもこれも全部、彼が来てくれないせいだ。……そんなことはないって分かってる。でも、彼に会えないと、寂しいのは本当だ。何だか、生活から色が欠けている気がする。
私はこの家からめったに出られないし、彼の家がどこにあるかも知らない。どうしようもない。
でも、せめて、この家から自由に出られたらいいのに…………そう思っていたことに気付いた。
……この家から出たいなんてこと、初めて思った。今までそんなことを思ったことがなかった。
でも、きっとそれは私にはできないことだ。
「…………桐、早く来てほしいです」
私には、願うことしかできないと、思った。
初めて文に出会ってから、半年が経ち、最後に文に会ってからは、1ヵ月経った。
今すぐにでも会いに行きたい。でも、それができないのは……父様直属の部隊の天狗10名に追われているからだ。段々と会いに行くのが難しくなってきている。うん、絶対父様は楽しんでるよな。
実を言うと、俺が家を出ようとしてから、既に3週間経っている。
罠だらけになった家を出るのに1週間、家からここまで2週間。
文の家に行こうと自室を出て、一歩踏み出すと床が抜け、突然のことに驚いた俺は、動くこともできずに穴へ落ちた。
地下迷宮となっていたそこから抜けだすのに4日要し、やっと地上に出たと思ったら罠だらけで更に3日を要した。…………地上に頭を出そうとした瞬間に天井からぶら下がった鉄球が飛んできたのは怖かったな……
自宅がダンジョンと化していると悟った時の俺の心情は筆舌に尽くしがたい。
やっとの思いで家から出た俺は、そこで更なる地獄を見た。
空を鴉天狗4名、陸を白狼天狗6名が巡回していたのだ。
どこから行っても必ず出会ってしまいそうなところを、俺は慎重に慎重を重ね、飛べば30分くらいの距離を2週間という長い期間を持ってして攻略した。
そして俺は今、文の家の前に立っている。
うん、達成感がすごい。
そして、もうこんなことしたくない。
前から思っていたことだが、家を出たい。俺が自宅にいなくてはならない理由は、はっきり言って存在しない。家出したらいつでも文に会えるし…………よし、こうなったら勢いだ。俺は明日、家出する!
文の家に入ると、文は自室にいた。うん、今日も可愛い。
「あ…………桐、ひさしぶりですね!」
「うん。久し振りだね、文。ごめんね、なかなか来れなくて」
「……さみしかったんですよ?でも、桐にも用じがあるかと思って」
本当に文はすごいと思う。自分のことだけでなく、相手のことも考えられるというのは、普通にすごい。
「……本当にごめん」
「べつにいいですよ。そんなに気にしていませんから」
…………そうだ、文にも言わないとな。
「文、大事な話があるんだ」
「大じなはなし、ですか?」
「うん。…………明日、家出しようと思うんだ」
文の瞳が見開かれ、驚いたことを如実に表していた。
『家出しようと思うんだ』
その言葉は、突然だった。
家出、する……?
それってなかなか会えなくなるってことだよね……?
…………そんなの、絶対に嫌。
貴方に出会って、私は変わることができた。
初めて友達ができて。
初めて外の世界に興味を持って。
初めて誰かに会いたいと願った。
貴方といると、初めてのことがいっぱいで。
嬉しくて、楽しくて、もっと一緒にいたくて。
だから、私は……
「私も、つれて行ってください」
そう、伝えた。