「私も、つれて行ってください」
そう、確かに。告げられた。
はっきり言って…………意外だった。
何故、この娘がそう言ったのか分からないけれど、迷惑になってしまうと思いつつも心のどこかで嬉しく感じている自分がいて。
いけないと分かっているけれど、事情も聞かずに一緒に行きたいと言う、この娘に少し、希望を見出だしてしまって。
どれだけ自分がこの娘といたいのかも分かってしまって。
ああ、こんなにも俺は文が大切なんだって。分かってしまったから。
「……うん、分かった」
……もう1人では、いられなかった。
まっすぐ前を向くと、文はほっとした表情を浮かべていた。
今まであまり外へ出たことがなかったらしいのに、こんなことを言ったんだ。それはどう考えてもこの娘にとっては大きな一歩だろう。文は、変化している。…………それに比べて俺は、何も変わっていないんだろうと思う。
人は、人と出会うことで成長する。
よく言われる言葉だが、本当にそうだと思った。
文と一緒に過ごすと、新しいことが見えてくる。それはきっと文にとっても同じで。
俺が文に出会うことで、文は成長した。俺も、誰かと出会うことで成長できるだろうか。
きっと、変われる。だって俺は、変わりたいと思っているのだから。
「桐、なにか用いした方がいいでしょうか?」
こころなしかわくわくしているように見えるのは、何故なのだろう。文も、ここが嫌だったのだろうか。
「うーん、食べ物はあった方がいいと思うけど、大低のものは自分で獲れるし、特に何もないかな」
「そうですか。では、いつぐらいに家を出ますか?ちなみに、おばさまがねむるのは、10時くらいです」
「……そうか、それじゃあ…………明日の午前2時くらいにしよう。それまで仮眠すれば大丈夫だ」
「はい、分かりました。…………おこしてくださいね?」
「もちろんだよ、ちゃんと起こす」
……何故文がおばさまの就寝時間を知っているのか気になるところだが、それは詮索しないでおこう。
今の時間は午後3時ぐらい。眠るのが8畤で、夕食や入浴なども考えると、自由時間は4時間くらいだ。
準備はほぼないから、特にすることもない。さて、どうしようか。
「文、今から何をする?」
「ええと……おさんぽしたいです。家出したら、ここに来ることもあまりなくなると思いますし」
「うん、おさんぽしよう」
そうか、そうだよな。俺はあまり実家に執着していないから感じなかったが、普通は離れ難く思うものだよな。
おばさまに声をかけて、外へ出る。出会ったころは紅く染まっていた木々も、今は葉を芽吹かせ、淡く色づく花を咲かせていた。この山に来ると、自然によって四季が美しく現れ、時間の流れがゆっくりと感じられる。
「もう、さくらのきせつですね。はじめて会ったときは、こうようのきせつでしたよね」
「うん。ここは、本当にきれいな場所だよな。自然が活き活きとしていて、何だか嬉しい気分になる」
「はい。私、ここが大すきなんです。せかいでいちばん、ここがすてきだってむねをはって言えます!」
「……文、本当に、家出していいのか?」
「はい。だって私はあなたといたいですから」
ふわりと微笑む姿を見て、まるで桜のようだと思う。
桜で、紅葉で、風で。
ここの美しい物で溢れたこの娘は、本当に。
自然そのもののような、存在だった。
なんだか、消えてしまいそうだと思って伸ばした手は、しっかりとこの娘に触れていて。
距離が少し近くなった笑みは、妖精のように無垢で純粋で。
この娘を形容するのにふさわしい言葉は、『妖精のよう』だと、心の底で思った。
妖精は、自然を具現化した存在です。