東方文桐録   作:あぽろ

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そうだ、家出しよう
第12話 脱出


 文と一緒に屋敷へ戻る道で、考える。

 

 にこにこと微笑む姿はやっぱり可愛らしい。……本当にこの娘と出会えて良かった。たとえそれが必然だとしても。

 

 

 木々の間から、よく晴れた空が見える。

 思えば、文と会うときは大低天気が良い。雨が降ったときなんて、あの日だけだったと思う。

 でも、雨が降っても文の笑顔は明るいんだろう。そういう娘なのだから。

 

 

「ねえ、桐。私は、うれしいんです」

 

 唐突に話しかけられ、文の方へ意識をもどす。

 文の視線は前を向いたままだ。

 

 嬉しい?一体何がなのだろう。

 

「あなたと出会えたこともですけれど、それよりも」

 

 それ以上のことがあるのだろうか。

 俺は文に会えたから、今ここにいられるのに。

 

 それ以上のことが、あるのだろうか。

 

 

「あなたに『私』をみとめてもらえたことがうれしいんです」

 

 

「私は、自分でなにかをきめたことがありませんでした。ここにいたのだって、私がそうしたいとおもったからではありません」

 

 

 

「でも、あなたといたいとおもったのは、私のいしなんです。だから私は」

 

 

 

 

「あなたに、桐に、私を『私』とみとめてくれたあなたに、どこまででもついていきます。あなたがゆるしてくれるかぎり、ずっと」

 

 にこり、と微笑むその瞳は真剣だ。

 

 

 …………そうか。

 

「ありがとう、文」

 

 俺が文を拒絶するなんてことは絶対にないだろう。

 何か文の恐ろしい腎さと大人びたところを知ってしまった気がするけれど、それもまた、文自身だ。無垢で純粋なだけでは生きていけない。

 

「いえ、あたりまえのことです。それでなくても、私と桐はおともだちですから!おともだちとは、そういうものでしょう?」

 

 文の中の友達の定義が限りなく狭くなっているが、気にしたら負けだ。

 

 

「あ、そろそろつきますよ!たぶんもう、おばさまが夕ごはんを作っているとおもうので、お手つだいしましょう!」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕ごはんを食べ終わった今、文のおばさまは片付けの最中。つまり、作戦会議にぴったりだ。

 

「文、作戦なんだけど」

 

「はい、どうしましょう?」

 

「まず、目的地はここから少し離れたところに、それなりに栄えてる街があるから、そこにしようと思う。人の通りが多い方が、俺達のこともバレにくいからね。人が突然増えても、あまり気にされないと思うし。方法だけど……バレないように家を出る。多分、それが一番簡単。この屋敷には文のおばさま以外の人がいないから、ここから出るのはそこまで難しくないと思う。でも、問題はその後なんだよ」

 

「その後、ですか?」

 

「うん。多分歩いて行った方がいいと思うんだけど、それだと真っ直ぐ行っても3日くらいかかるんだ。今回は目立たないようにしないといけないから、真っ直ぐ行くことはできない。かなり遠回りすると思うから、少なくても5日以上かかる」

 

「それくらいなら、だいじょうぶですよ!私だって天狗ですから、たいりょくはあります!」

 

 恐らく、通ることができるのはほぼ山道になると思う。でも、天狗が住むのは山だ。山道は天狗にとって、普通の道と変わらない。問題は……敵の存在だ。

 

「出発は深夜。つまり、妖怪逹の活動時間だ。他の妖怪に出会わないなんてことはないと思っていい。その時は、自分達でどうにかしなくてはならないんだ。…………できるか?」

 

「…………できますよ。やらなければいけないことなら、私はやります。だって、ついていくって、きめたのは私です。自分のことなら、自分でやります」

 

「うん、俺もできる限りのことはするから。あ……そろそろおばさまが来る。絶対に成功させよう」

 

「はい!」

 

 

 

 色々しているうちに、気付いたら寝る時間になっていた。

 

 きっと文のおばさまは家出の計画に気付いていないから、何も問題はない。

 

 分かっているけれど、なんだか緊張して寝られない。遠足の前の日の子どもの気分だ。

 

 まずは、寝ないと…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………いつの間にか寝ていたみたいだ。

 俺の特技として、起きたい時間に起きられる、というとても地味なものがあるから、時間はぴったり深夜2時。

 

「文ー。起きて…………」

 

 できるだけ小声で呼ぶ。

 

「……ん、桐、おはようございます……」

 

「うん」

 

 文は耳が良いな……小声だったから起きないかもしれないと思ってしまった自分がまぬけに感じられる。

 

「まずは第一関門。できるだけ音を立てないで行こう」

 

「はい」

 

 身支度を終わらせ、部屋を出る。

 持っていくものは衣類だけだ。

 

 ゆっくりと足音を忍ばせて最短距離で進んでいく。飛ぶよりもこの方が音が小さく済む。

 

 よし、庭についた。

 文と目を合わせ、合図する。

 門を開けると音がするから、庭から飛んで、塀を越えたら降りることにした。

 

 

 ふわりと体を持ち上げ、ゆっくりと上昇、下降させる。

 

 ふう、脱出は成功した。

 でも、これはまだ本番ではない。

 本番は……これから始まるのだから。

 




 休みが続き、申し訳ありませんでした。
 できるだけ時間通りを目指しますが、これからもこういうことはあるかもしれませんので、ご了承ください。
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