『おばさま』は台所にいるようだ。包丁の音が廊下まで響いている。
2人しかいなくて、周りに隠されている、ということは、家事などは自分達でしなければならないということでもある。そして、文が何かしている様子はないから、家事は『おばさま』が全てやっているのだと思う。……手伝いくらいはしたことあると思うけど。
…………何はともあれ、俺はどうして文が隠されているのかを知りたいんだ。たとえそれがどんな理由であろうと、知りたい。
俺が近付いて行くと『おばさま』がこちらをちらりと見た。
「こんなところに何の用ですか?紅葉山様」
「えっと、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「…………何でしょう。答えられる範囲で答えますよ」
「じゃあ、単刀直入に言うよ。……何で文は隠されているんだ?」
「えっと、それはですね…………大変申し上げにくいのですが……」
「どんなことでもいいから、教えてくれ」
「……どんなことでも、ですか?…………いえ、特に守秘義務がある訳ではありませんし…………分かりました。言わせていただきます。」
「ああ、たのむ」
「文様が生まれたときのことなのですが……私の姉夫婦、文様の両親がですね、ものすごい親バカでして。『こんなに可愛い娘をこんな所で育てたくない、誰の目にも映らないところで育てたい!』とか言いまして……文様が可愛らしいのは本当のことですが……なまじ権力というか、色々な力を持っているために、本当にこんな山奥に屋敷を建てちゃったんですよ。その屋敷というのはここのことなんですが……そのくせして、仕事が忙しすぎて自分達はこの屋敷に住めなかったんですよ!それで仕事もなくて暇で独身の私に文様のお世話を任せてるんです!」
つまり親バカの結果がこれということか。…………なんかすごいスケールだな。文は可愛いけど。うん。…………というか、段々愚痴になってきてないか!?
「そうです!私の癒しは文様しかないんです!本当に文様は可愛くて……この間なんてひなたぼっこしてたら小鳥がやってきて、文様の肩にとまっていたんですよ……最早天使ですよね!?」
俺は何故文が隠されているのかを知りたかっただけなんだけど、何時の間にどれだけ文が可愛いかになったんだろう……文は可愛いけど、『おばさま』も相当親バカだ。親じゃないけど。
「文が可愛いのは心の底から同意する。何というか、ちょっとした仕草が可愛いんだよな」
「ですよね!文様は本当に……」
「私がどうかしたんですか?おばさま」
どうやら文の着替えは終わったようだ。少し明るめの橙色の着物が活発なイメージになっている。うん、可愛い。
俺と『おばさま』が話している間も『おばさま』は手を動かし続け、丁度調理が終わったようだ。
「あ、文様!何でもありませんよ。さあ、朝食の準備が終わってあとは運ぶだけなので、食堂へ先に行ってください」
「できてるんですか?なら、お手つだいしますよ!私もはこびます!」
「じゃあ、俺も手伝うよ」
俺は、できる限り文と一緒にいたい。
「そ、そんなっ、食事の準備は私の役目ですので、文様達は……」
「私がやりたいんです!…………だめ、ですか?」
「……っ、いいえ、よろしくお願いします」
「はい!もちろんです!えっと、まずはどれからはこべばいいですか?」
「では、これをお願いしますね。私はこちらを運びます」
文と文の『おばさま』は姿がとても似ている。文の『おばさま』は文の母親の妹だから、きっと文は母親似なのだろう。…………文の口調が敬語なのは、『おばさま』に影響を受けているからだと思う。
「桐!桐はこっちをはこんでください!」
「うん、分かった」
ずっとこんな日が続くといいんだけどな…………少なくとも俺はそういう訳にもいかないんだ。きっとここにいたら、幸せに気を取られて何もできないから。
ここが、幸せが悪い訳ではない。でも、俺はここにはいられない。いたくない。束縛された中の自由を、幸せだと思えないんだ。
だから、俺は…………いつか、家を出ようと思う。
そんなに大したことじゃない、ちょっとした反抗心。普通に言えば、家出したいというきっと前から存在していた気持ち。でも、それが俺にとっては、文と出会ったことによって初めて感じられた、気付いたとても大切で、大きな気持ちのように思えた。
本当に遅くなってすみません……約半年ぶりですね。
突然ですが、今話から毎週更新を始めたいと思います!
更新時刻は毎週月曜日の午後7時です!ぜひ見に来てください。