今はまだ朝と呼べる時間帯。空気が澄んでいて、かなり涼しく感じられる。
ふと空を見上げる。すると、紅葉した葉がひらひらと舞い落ちてきた。
思わず指で掴み取る。乾燥した葉は脆く、崩れやすい。しかし、その葉はその儚さとは真逆に感じられる、燃えるように情熱的な赤をしていた。
「わぁ、こうようがすごいですね、桐!」
「うん、すごいきれいだね」
俺と文は今、文の屋敷のまわりを散歩している。
文の屋敷がある山には、紅葉する木がたくさんある。だからかもしれないが、朝食を食べているときに文のおばさまが『食後に散歩はどうでしょう?』と言っていたのだ。
赤、橙、黄。ひとつ舞い落ちてくるだけでも美しいのに、色とりどりの葉が見渡す限り並んでいる様は、圧巻のひと言で表せられるだろう。
しかも、空は雲ひとつない快晴で、青い空とのコントラストが、よりその魅力を引き立てている。
「桐、なんではっぱはこうようするんでしょう」
「ん?なんで?……それは考えたことがなかったな」
「……わたし、思うんです。はっぱは、こうようしたら、ちってしまうでしょう?だから、ちってしまうまえに、だれかにじぶんはここにいる、って知ってほしくて、見てもらえるように、少しでも楽しんでもらえるように、きれいにこうようするんだって」
そう言う文の瞳が寂しげに伏せられているのを見て、きっとずっと寂しかったんだろうと思った。
誰かに自分を見つけてほしかったんだろうとも思った。
「…………そうだな。じゃあ、俺達は葉っぱがここにいて、こんなにきれいなことを知ってるから、葉っぱの思いはちゃんと届いたってことだよな」
文の瞳が、驚きに少し見開かれる。本当はどうなのか分からない。けれど、それでも嬉しかったのだろう、次の瞬間にはふわりと唇が笑みを形作っていた。
「っ、はい、そう、ですね。…………わたしたちは、はっぱを見つけられましたから、きっと……はっぱも、よろこんでいますよ」
ひらり、と葉が落ちてくる。その葉は橙色をしていて、文が手に収まった。
「あ……はっぱが」
「……その葉っぱは自分のことを真剣に考えてくれた文に、嬉しいって伝えにきたんじゃないかな」
「そう、なんですか?でも、えだからはなれたら、はっぱが……」
「文。葉っぱは枝から離れてもなくなる訳じゃないんだ」
「なんでですか?だって、はっぱはじめんにおちてしまったら、それでおわりでしょう?」
「ううん、違うんだよ。葉っぱは葉っぱだけで終わる訳じゃないんだ。……葉っぱは地面に落ちるだろう?そうすると、土の中の生き物がその葉っぱを食べる。そして土の中の生き物も他の生き物に食べられて、そうやって葉っぱは続いていくんだよ」
他にも、山に木が、葉があるからこそできていることもある。たとえば、雨水の濾過などもそうだ。
山に降った雨が落葉に濾過され、木や土でせき止められているから、洪水がおさえられる。
「じゃあ、これはかなしいことじゃないんですか?」
「いや、悲しいことだよ。でも、始まりの先には終わりが必ずあるんだ。どんな物にも、終わりは等しく訪れるんだよ。だから、それは悲しいことだけど、当たり前のことで、拒絶したらだめなんだよ。そして、前を向かなきゃいけない」
そう。前を向かなくちゃいけないんだ。終わるのは悲しいことだけど、ずっと終わらないのはもっと悲しいことだと知っているから。
「……少し、むずかしいですね。でも、がんばってみます」
「俺としては、葉っぱについてそこまで考えられる文がすごいと思うよ」
「…………はっぱだって、今を生きていますから」
「うん、そうだね」
自然も、生きているんだよな。
文の考え方が、直視できないほどまぶしく思えた。
文ちゃんの考え方は、あくまでもこの作品の文ちゃんの考え方です。ですので、似ている考え方の絵本があっても、関係していませんし、本当にそうなのかは全く分かりません。この作品独自の考え方だと思ってください。