「たーきくんっ」
「うぇっ!」
突然、視界が真っ暗になる
慌てて振り返ると、そこにはいたずらっぽい笑みを浮かべた三葉が立っていた。白い花柄のワンピースに、カーディガンを羽織り、いつもの赤とオレンジの組紐で髪を結っている。贔屓目に見ても可愛い。
「三葉!びっくりした…何高校生みたいなことしてんだよ…」
「むっ、失礼やね、ちょっと嬉しかったくせに…」
三葉は、頰を膨らませてふんっとそっぽを向く。最近分かったことなのだが、三葉は拗ねるとすぐそっぽを向く。正直、死ぬほど可愛いのだが、これはきっと無意識でやってるんだろうな
天然って怖いな
「う、嬉しくねーし」
「瀧君ってほんま、わかりやすいなぁ」
「てか、いつからいたんだよ…」
「んー、瀧君が、焦りながらここをウロウロしてるときから?」
「最初からじゃねぇか!」
「ふふっ、遅れるほうが悪いんよ。女の子を待たせよって…まったく」
「だから、連絡しただろ、電車が遅延してて…それに、5分くらいしか遅れてねーぞ!」
「瀧君、社会人は15分前行動が基本です」
「なんだよそれ…5分前行動じゃないのかよ…」
前々からデートの約束をしていた土曜、俺と三葉は今、新宿の駅前で待ち合わせている。とにかく、電車が遅延して俺は待ち合わせの10時から5分ほど遅れてしまった。駅について慌てて三葉を探し回り、どこにもいないことに不安になって携帯で電話をかけようとしたその瞬間、目の前が真っ暗になったのだ
「とにかく、もう行こうぜ、ほら」
「うん!それじゃあエスコート頼むね!」
花咲くような笑顔を浮かべる三葉の手を取り、歩き出す。
幸せな2人の一日が始まる
「それにしても、新宿御苑でピクニックかぁ、瀧君にしては、上出来かな」
「…やけに上から目線だな…」
俺たちは、新宿という大都会のど真ん中にあるオアシス、新宿御苑に来ている。
三葉と話しながら少し散歩をした後、原っぱまできて、そこにレジャーシートをひいて、持ってきた弁当やらなんやらを広げた
「だから瀧君、私に弁当を作ってほしいって言ってきたんやね」
「あぁ、三葉の手料理、食べてみたかったし」
「朝から腕によりをかけて作ったんやよ」
「ありがとうな、三葉」
えへんと胸を張る三葉が可愛くて、思わずその頭を撫でてしまう
「あっ…」
「あ!わりい、なんか…三葉が可愛くて」
「…もっと…してくれてもいいんやよ?私、瀧君の彼女なんやから」
そう言って、三葉は俺に擦り寄ってきて、肩にコトンと頭を預ける
ほんと、反則だよなぁ
「じゃあ…お言葉に甘えて」
そんな三葉の頭を撫でると、三葉は気持ちよさそうに目を閉じた。だが、しばらく撫で続けているうちに急に恥ずかしくなって俺は手を離した。三葉を見ると、三葉は俺のことを見つめていて、ほんのりと頰が赤くなっている
三葉の頰に手をあて、撫でる
すべすべで、柔らかい肌が、熱を持ってるかのように熱い
俺も、三葉も、お互いの目から視線を離さずに、見つめあった
どれくらいの時間そうしていたかわからない
ふと三葉が目を閉じる
今、ここでしないと、男じゃないよな
俺は三葉の頭に手を添えて、ゆっくりと顔を近づける
刹那
俺の後頭部に衝撃が走った
「いってぇ!!」
驚いて振り返ると、小さなサッカーボールがコロコロと転がっている
「だ、大丈夫!?瀧君」
三葉が、慌てて俺の頭を見て心配している
「ご、ごめんなさい!」
小さな男の子が、そのサッカーボールを追って走ってきた
どうやらサッカーをしていたようで、蹴り損ねたみたいだ…
…神様がいるなら、ぶん殴ってやる
「あ、あぁ、大丈夫だよ、ほれ」
ボールを蹴って、男の子に返す。
「あ、ありがとうございます…」
男の子は、頭を下げると友達の方へと走っていった
「…」
「……」
俺も三葉も、なんだか呆然としながら見つめ合う、やがて、どちからともなく笑いあう
「ふっふふ、瀧君、タイミング悪すぎるんよ、ふふっ」
「くくっ、俺だって、好きでボールくらったわけじゃないって」
「もう、瀧君って、そんなんばっかやね」
「何がだよ!こんなことはじめっ…ん」
三葉が、キスをしてきた
そのことに気づくまで、数秒かかった
頭が、脳が、理解できなかったんだ
「ぷはっ、み、み、三葉…」
「っん…わ、私の方が歳上やし、その、リードしないとって思って…」
三葉は、顔どころか、首まで真っ赤にして俯く
なぁ…神様、もう、いいよな
俯く三葉の顎を手であげて、無理矢理こっちに向ける
そして、三葉の唇に口づける
「はぁ…たき、くん」
「三葉…」
「…お兄ちゃんとお姉ちゃん、仲良いね」
「「はぇ!?」」
突然俺たちの世界に入ってきた言葉に、思わず変な声を出してしまった
さっきの男の子と同じくらいの女の子が、サッカーボールを持って俺たちをみていた
「あう、えっとこれは…」
三葉は完全に真っ赤に茹で上がっている
そうだ、忘れてた…ここは、他にもピクニックをしてる家族やカップルなんかが、たくさんいるんだった…
「ご、ごめんなさーーい!!」
すると、その女の子の親だろうか、茶髪のショートカットの女性がすごいスピードで走ってきた
そして、女の子を抱いて戻ろうとしたとき、目を見開いて三葉を見る
「三葉!?」
「な、夏海!?」
「はじめまして、立花さん。三葉の同僚の、篠原夏海です」
「ど、どうも…」
「もう、夏海…こんなとこで会うなんて、びっくりしたよ!」
「私だってびっくりよ!ずーっとイチャイチャイチャイチャしてたカップルが、まさか三葉だったとはねぇ」
「うっ、そんなに、イチャついては…」
「あんたねぇ、あんなに見せつけるようにキスしててよく言うわ。あっ!立花さんは気にしないでくださいね!」
「えっ、えぇ…」
なんだか、ついていけない、女子の会話ってこう、勢いがあるよなぁ
「じゃあ、私はお邪魔みたいだし、そろそろ失礼するね。立花さん、三葉をよろしくお願いしますね」
そう言って篠原さんは笑った。三葉、お前にも、いい同僚がいるんだな
「えぇ、任せてください」
「明里ちゃんも、またね」
三葉が篠原さんの娘さんに声をかける、今5歳の娘さんらしくて、さっきから黙ってこちらを見ていた
「…またね」
篠原さんの足に隠れた明里ちゃんは恥ずかしそうにそう言った
「ふふっ、じゃあいくよ明里、またね三葉!お幸せに!立花さんも」
篠原さんは明里ちゃんの手を引きながら、家族の元に戻っていった
「いい人だな、篠原さん」
「うん、夏海とは去年知り合って、今では色々相談とかもできるくらい仲良しになったんよ」
「そっか、篠原さんなら、三葉を任せられるかな」
「あっ、ちょっとなんよそれ!」
「ほれ、三葉の弁当、食べたいからさ、早く出してくれよ」
「あっ、ごまかした!」
ふくれ顔で弁当を取り出す三葉を横目に見ながら、思う。
家族か、なんか、いいな
ふと、そんなことを思った
「明里!ここはボール遊び禁止だって言ったでしょ!」
「でも、遠野君が…」
「じゃあ遠野君にも言ってきなさい!」
「う、うん…」
とある2人の子供が、お互いに駆け寄る
風に煽られて、花びらが落ちる。
この子供達も、いずれ、運命的な恋をする。
でもそれは、また別のお話
「三葉…お前の弁当、めっちゃ美味いよ」
「ほ、ほんと?」
俺たちは、レジャーシートの上に広げた三葉の弁当を食べはじめていた
「あぁ、サンドイッチも、このコロッケも!」
「あっそうだ!」
ふと、三葉が何か思い出したように俺の手から弁当を奪い取る
「あ、おい」
「これを、こうして、はい!卵コロッケサンド!」
三葉が満面の笑みで差し出してきたのは、サンドイッチにコロッケを挟んだだけのものだった
「お、おう…」
「私、これ、大好きなんよ…いつからだったから忘れちゃったんやけど、いっときこれにはまってて。すごい食べてたなぁ」
懐かしそうに三葉は呟く
「そうなのか…まぁ、たしかに美味そう…」
そう言って、俺は卵コロッケサンドに、かぶりついた
あの後、俺たちは新宿で色んな店を回ってショッピングを楽しんだ。
三葉に似合う服を探してルミネを何周も回ったのは、疲れたけどいい思い出だ、
んで、そのあと、今度は三葉が俺に似合う服を探し回った
そして、お互いクタクタになりながら、夜ご飯を食べに店へ向かった
選んだのは、洋風で、完全個室のお洒落な居酒屋だ。新宿の居酒屋をネットで調べまくった俺に不覚はない
「わぁー、居酒屋なのに、お洒落な店やね」
「な、いい感じだろ。ところで三葉、酒はどのくらい飲める?」
「んー、まぁまぁ飲めるかな?」
なんだか、三葉が目を合わせないけど、こいつほんとに飲めるのか?
まぁ、答えは、すぐにわかった
「たきくぅーん、ねぇ、ちゅー、して」
結構飲める俺に合わせて飲んでいた三葉は、7杯目のカシスオレンジを飲み干したあと、甘える乙女と化した
「お、落ち着け三葉」
「落ち着いとるよぉ、瀧君がぁ、私をエッチな目で見るからぁ」
「いや、見てねーし…」
対面に座ったはずなんだが、いつから三葉は横に座っていた…
そして、横を見ると、その本人は幸せそうに眠り出していた
「はぁ、ほんと、世話がかかる歳上だなぁ」
でも、やっぱりそんなところが可愛くて
俺も中々、重症だよな
「よっと…」
眠る三葉を、そっとベッドの上に寝かす
ここは俺の部屋で、あのあと眠った三葉をタクシーに乗せ、おぶって家まで帰ってきた
幸い父さんは今日も出張中だ
父さん、ナイス
「たき…くん…」
また、俺の夢でも見てんのかな
そう思って頭を撫でると、三葉はふふふっと笑い出して寝返りをうった
可愛いな、ほんと
「とりあえず、シャワーでも浴びて、俺も一眠りするか」
眠ってる三葉に何かするなんて、考えもつかなかった
ただ、愛おしくて
シャワーから上がった俺は、三葉と同じベッドに横になって、三葉を抱きしめる
三葉の柔らかさや、匂いが、俺の本能をくすぐる
あー、やばいかも
何が、考えもつかなかった、だよ
「はぁ、こいつは気楽でいいよな」
こちらに寝返りをうった三葉の顔からは、幸せが溢れ出ていた
おやすみ、三葉。
夢の中で、会えたりしねーかな
ふと、そんなことを思ってみた
実は、君の名はで一番好きなセリフは
高木「卵コロッケサンドにしようぜ」
だったりします笑
尚、この話に出てくる秒速の2人は、あの世界の2人とは全く違う名前だけ一緒のキャラクターになります。秒速が好きなので、ちょっとだけゲスト出演してもらいました。