尚、番外編は本編とはあまり関係ありませんので、読まなくてもストーリー的には問題ありません。これからちょくちょく番外編もやっていきます
「あぁ…お腹減ったなぁ」
私は今、東京の都心のど真ん中で、途方にくれていた
事の発端は今日の朝から
私はいつも、少し早めに起きて簡単なお弁当を作ってから家を出る
少しでも節約をしたいのと、栄養バランスを考えて、出来るだけ自分で作るようにしているからだ
だが、今日の朝は珍しく寝坊をしてしまった。きっと夜遅くまで瀧君と電話をしていたからだろう
もちろんお弁当を作っている時間なんてなく、最小限の身だしなみを整えて急いで家を出た
始業時刻にはギリギリ間に合ったのだが、私は一つ、重大な失態を犯した
財布を、家に、忘れたのだ
昼休みに、しょうがないからコンビニでお弁当でも買おうと思いカバンの中を漁った私は、財布がないことに気がつく
一瞬で思考回路を働かせて思い出すと、昨日は仕事終わりに瀧君とデートがあるから、いつもと違うお洒落なコートで出勤した。そしておそらく、そのコートの右ポケットに私の財布は眠っている
最悪や…
お弁当も、財布もない
右の席、つまり同僚の夏海の席を見ると、コピー用紙に可愛らしい文字でこう書いてあった。
【三葉へ、溜まってた有給がやっと取れました♡私のデスクの一番上に、資料が入ってるから、仕事に使うなら勝手に取ってね♡】
私は、ため息をつく
もしお金がなくても、夏海なら気後れせずにお金を借りることができるし、おそらく自分のお弁当を分けてくれたりするだろう。彼女は何だかんだとってもいい子なのだから
だが、頼みの綱の夏海までいないこの状況で、どうすればいいのか
他の同僚にお金を借りるのは、正直気が進まない。夏海のように気軽に話せる人は、実を言うとあんまりいないのだ
しょうがない…スイカの中にチャージしたお金がいくらか入ってることを願おう…
私は、スイカはパスケースに入れて財布とは別に持ち歩いている。財布を忘れたことに気づかなかったことの理由の一つだ。
改札を通るときに、チャージ金額は表示されるけど、遅刻しそうだった私はそんなもの一片も見ていなかった。だから、チャージ金額にかけるしかない。せめて、100円でもあれば…
神さま…お願いします…
「嘘…やろ」
コンビニの端末には、28円の文字が表示されている。
28円、小学生だってそんな金額を見たら鼻で笑うだろう
28円じゃ、駄菓子しか買えない
神さまなんて、信じない。巫女だったけど、私はそう決めた。今決めた。
コンビニの店員は、苦笑している
「お腹減ったなぁ」
私は、コンビニを出て会社まで戻る道のベンチに腰掛け、途方にくれていた
今日は、遅刻のせいで朝ご飯も食べれなかった。お腹がぐーぐー鳴いている。
「しょうがない…戻っていっぱいお茶でも飲もうかな」
私は、深くため息をつくと立ち上がる
その時、ふと、聞いたことのある声がした
振り向くと、見覚えのある2人がこちらに歩いてくる
「んでさぁ、また怒鳴ってばっかで、何言ってるかよく分かんないんだよな、あの先輩」
「あぁ、それは確かに酷いな、ん?もしかして、三葉さんですか?」
スーツにシャツの出で立ちをした高木君と藤井君が、私に気づいて声をかけてくれた。仕事中かな?
「高木君に!藤井君!こんなところで奇遇だね!」
「あぁ俺たち、会社が近いんですよ、だからこうして、たまに昼飯一緒に食うんです」
「ま、そんなに時間がないんで、コンビニ弁当ばっかりですけどね」
「そうだったんだね!私もこの近くの会社だから、もしかしたらよく会うかもね」
「あぁ、そういえば、アパレル企業って言ってましたよね?ってことは、あそこの…」
「そうそう!すぐ近くの…」
そこまで言った瞬間、私のお腹は盛大な音をかき鳴らした
「…あー、ごめんね」
恥ずかしくて、思わず目を伏せる
「いや、いいんですけど、昼飯、食べてないんですか?」
心配したのか高木君が声をかけてくれる
「あー、それが…」
こんなこと、人に話せるようなことじゃないけど、なんだか高木君と藤井君には素直に話せた。初めて顔を合わせたときも、この2人には初めて会った気がそんなにしなかった。
こんな感覚は、瀧君と出会ったとき以来だったから、実はちょっと驚いていたりする。
そんなこんなで、私は2人に事の顛末を話した
「あー、それは…災難でしたね」
高木君は目をつぶってうんうんと頷く
「そういう運の無い日、ありますよね…高木、なんかあるか?」
そう言うと藤井君は自分の持っていたサンドイッチの袋を開けて、一枚取り出す
「卵コロッケサンドにしようぜ」
高木君は、自分のお弁当の中からコロッケを2つ取り出して、サンドイッチに挟む
「はい、どうぞ」
高木君は、にひひと笑って私に卵コロッケサンドを差し出した
「あ、ありがとう…」
「どういたしまして!それじゃ三葉さん、せっかくなんで3人でランチでも…って三葉さん!?」
高木君が、慌てた表情で私の顔を覗き込む
藤井君も、なんだか驚いている
「どうしたの?」
「どうしたの?って、三葉さん…なんで泣いてるんですか?もしかして、嫌でした?」
言われて、自分の目に手を当てると、確かに涙が流れている
高木君は、オロオロとし始め、藤井君は眼鏡のズレを直しはじめた
そんな様子が面白くて、思わず笑ってしまう
「ふふっ、ごめんね、なんだか、嬉しくて泣いちゃった。2人とも、ありがとね」
その言葉を聞いて、2人はやっと落ち着いてくれた
「な、なんだ、よかったぁ…三葉さんを泣かしたら、瀧にどやされるところでしたよ」
「いや、泣かしたには泣かしただろ」
「嬉し泣きはノーカウントだ」
高木君はにひひと笑い、藤井君もつられて笑う
「実は私、卵コロッケサンド、昔からよく自分で作って食べてたの、ほんと、美味しいよね」
「え?そうなんすか?卵コロッケサンドって、結構珍しくないですか?」
「高木、具材のセンスが良かったな」
「お、おう」
「ふふっ、それじゃあ、一緒にランチ、お願いしてもいい?」
2人は顔を見合わせて、微笑む
「「もちろんです!」」
久しぶりに食べた卵コロッケサンドは、とっても懐かしい味がした