君の名は。〜after story〜   作:ぽてとDA

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第14話「初めまして」

「……」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

時計の針がチクタクと動く音が聞こえる。それ以外、この部屋で音を発するものはなかった。

 

 

その静寂を破るため、私が声を発しようとした瞬間

 

 

今まで微動だにしなかった彼女は声を上げる

 

 

「お初にお目にかかります。わたくし、そこにおります三葉の妹、宮水四葉と申します。この度はこのような場を設けさせていただき感謝しております」

 

「あ…はい」

 

瀧君は困惑した表情で答えた後、こちらを見る。まるで、助けてと言われているようだ

 

「よ、四葉、何ふざけとるん、瀧君困っとるやろ」

 

「お姉ちゃんは黙っといて」

 

キッと睨まれ、思わず口ごもる。その隙をみて、四葉は立ち上がり、何故か正座している瀧君の周りをぐるぐる回り出した

 

何かぶつぶつと呟きながら

 

やがて、うんうんと頷いた後また自分が座っていた場所に戻った

 

「外見は合格やね。まず、結構うらやましいくらいのイケメン。それから、背もわりかし高い、おそらく175センチ。あと、服のセンスもなかなかのもんやね。ちなみにメンズの香水もつけとるね、いい香りがただよってる」

 

「ど、どうも…」

 

四葉は、目をつぶりながら淡々と瀧君の長所を語り出した。瀧君は目を丸くして驚いている

 

「よ、四葉!いい加減に…」

 

「では質問です!瀧さん。お姉ちゃんの好きなところは?」

 

私の言葉を遮り、四葉は瀧君のほうに身を乗り出してそんなことを聞いた

 

私は、怒ろうかと思ったけど、その質問だけはちょっぴり聞きたかった。

 

ちょっぴりやよ?

 

「……うーん」

 

瀧君は、その質問に対して唸りながら考えている

 

また、チクタクと時計が動く音だけが聞こえる

 

私、そんなに悩むほど好きなところないん?

 

ちょっぴり、泣きそうになったところで、瀧君が声を出した

 

「…全部」

 

「ほんとですか?具体的には?実は好きなところが思いつかなかったのでは?」

 

四葉の目がキランと光り、瀧君に質問攻めをする。

 

「…いや、本当に、全部好きなんだよ。恥ずかしいけど」

 

瀧君は、頭の後ろをかきながら、私の方を見る

 

「三葉の声が好きだ。長くてサラサラの髪も好きだ。それに、俺にはもったいないんじゃないかってくらい美人っていうか、可愛いっていうか…いつも元気で、俺を笑わせてくれるところも好きだし。とにかく、あげたらきりがないんだよな…って、恥ずかしいな、なんだこれ…」

 

私は、もうこれ以上赤くなれないんじゃないかってくらい真っ赤になっている…と思う。恥ずかしくて、嬉しくて、瀧君の顔が見れない

 

「あ、ありがとう…瀧君…」

 

俯いたまま、そう言うので精一杯

 

「いや、今まで、どこが好きだとかちゃんと言ったことなかったし…」

 

きっと、瀧君も顔真っ赤なんだろうな。そう思ったところで、四葉がやっと声を出した

 

 

「なんや…お姉ちゃんに相応しいか試そうと思ってたんやけど、馬鹿らしくなってきたわ」

 

「なっ、四葉!さっきから瀧君に失礼やろ!」

 

「いいよ三葉、俺も途中から試されてるってわかったから。で、四葉ちゃん、俺はどう?」

 

「完璧。合格。二重丸です。失礼なことしてすいませんでした」

 

四葉はそう言って素直に頭を下げた。

 

「いいって、だって、どこの誰とも知らない男がお姉さんの彼氏だったら不安だよな」

 

「いえ、瀧さんがお姉ちゃんのことをちゃんと大事にしてくれてるのは、もうわかりましたよ」

 

「なら良かったよ…三葉、合格だってさ」

 

瀧君はどこか安心したような顔で私に向かって微笑む

 

「当たり前やろ!四葉!何勝手なことしとるん!」

 

「いいやろべつに、瀧さん気にしてないし…お姉ちゃんどっか抜けてるから色々心配なんよ」

 

「あっ、抜けてるってのはわかるな、三葉ってたまに変なことするよな」

 

「そうなんですよ!この前なんて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は、私を蚊帳の外において楽しげに話し始めた

 

 

すぐに仲良くなるとは思ってたけど

 

 

ちょっと仲良くなりすぎやない?

 

 

「むぅ…」

 

なんだか、気に入らないかも…

 

「ほら、三葉、おいで」

 

「ひゃっ…」

 

そんなことを思ってると、瀧君が私を抱き寄せて隣に座らせた

 

ほんとに、瀧君って

 

ずるい…

 

「ほぉーうほうほう、瀧さん…すでにお姉ちゃんの扱いをマスターしてますね?」

 

「まぁ、まだ出会ってから1週間くらいだけどな、三葉ってほら、わかりやすいから」

 

「なっ!瀧君に言われたくないわ!」

 

「今だってお姉ちゃん、私と瀧さんが仲良くしてて嫉妬してたやろ?」

 

いたずらっぽく笑みを浮かべる四葉が私の脇腹をつんつんつつく

 

「ちょ!やめなさい!」

 

「顔赤いよお姉ちゃん」

 

「ほんとに怒るよ!」

 

キッと睨みつけても、四葉は未だにニヤニヤしている。ほんとにこの妹は…

 

「まぁ怒るなって三葉、俺には三葉だけだよ」

 

「な、なんで今日はそんなことばっかり」

 

瀧君がふざけて言っているのはわかるけど、わかるけど顔が赤くなってしまう

 

「あっ、お姉ちゃん女の顔になっとる」

 

「も、もう嫌やぁぁ!!」

 

 

 

私は思わず叫んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

台所では、三葉が所狭しと動き回っていて、ほのかないい香りが漂ってくる

 

三葉が料理を振舞ってくれるそうで、今はその最中だ

 

俺は四葉ちゃんとリビングに座って、三葉の料理ができるのを待っている。

 

最初は四葉ちゃんも手伝おうとしていたのだが、初めての手料理は1人で作りたいとのことだ

 

そんなわけで、すぐに仲良くなった四葉ちゃんと、お茶を飲みながらたわいもない話をしてしていた

 

ずっと笑っていた四葉ちゃんが、ふと、真面目な顔に戻った

 

「瀧さん、お姉ちゃんに出会ってくれてありがとうございます」

 

「え?うーん、どういたしまして?でいいのか?」

 

俺はいきなりの言葉に戸惑ってしまい、そんな返答しかできなかった。それがおかしいのか四葉ちゃんはクスクスと笑う

 

「お姉ちゃんは、昔、ある日を境に、心の底から笑わなくなってしまったんです」

 

「それって、もしかして…糸守の?」

 

「…聞いてたんですね。そうです。あの日、星が降った日から、お姉ちゃんはいつも何かを探してるような、どことなく影があるような、そんな風に見えました。それは、東京に出てきてからも変わらずでした」

 

四葉ちゃんは、そこで一旦区切るとお茶を少しだけ飲む

 

「そう、だったのか…」

 

「はい…私や、お姉ちゃんの友達が何をしてもその影は消えませんでした。ですが、ある日、お姉ちゃんからその影が綺麗さっぱり消えてしまったんです」

 

「それって、いつ?」

 

三葉から、影が消えた日か…なんだか気になって、思わず聞いてしまう

 

「…瀧さんって、鈍感なんですね…」

 

「えっ!?なんだよいきなり…」

 

いきなりそんなことを言われても困る。でも、もしかして

 

「もしかして、俺と三葉が出会った日?」

 

「そうです。あの日から、昔のお姉ちゃんが帰ってきました。あの、花が咲くような笑顔、私がどんなに頑張っても引き出せなかった笑顔を、瀧さんは出会っただけで出してしまったんですよ」

 

「そう、だったのか…俺、三葉の昔の話、あんまり聞いてないんだ、その…聞きづらくてさ」

 

正直、地元の話など、してみたいときはあったけど、俺のことは話しても、三葉にそれを聞くことはほとんどなかった

 

彗星が落ちて消えた町

 

そんなこと、気軽に聞けるわけない

 

過去のトラウマだったり、ショックだったり、きっと三葉にもあると思っていた。だから…聞けなかった

 

「…瀧さん、ほんと優しいですね」

 

「いや…普通だろ」

 

「知ってます?優しい人って損するんですよ?」

 

「な、そんなこと言われてもな…」

 

「お姉ちゃんも、優しいんです。昔から、いっつも人のことばっかり気にして、自分の言いたいことは言わなくて、ほんと、馬鹿で、でも、優しいお姉ちゃんなんです」

 

「………」

 

「だから、瀧さん、お姉ちゃんのこと、よろしくお願いします。瀧さんみたいに、優しい人なら、お姉ちゃんのこと、いつも気にかけてくれると思います。お姉ちゃんが、自分の中に溜め込んでしまったら、瀧さんが、少しだけでいいですから、お姉ちゃんの受け皿になってください。お願いします」

 

そう言って、四葉ちゃんは頭を下げた

 

 

この子は、ほんとうに姉が好きで、大事なんだろう。

 

 

三葉…いい妹がいて良かったな

 

「あぁ、任せてくれ。俺が三葉のことを守るよ。三葉に何かあったら、俺が一番に気づいて、どこにいても、何があっても助ける。俺がずっと、三葉のそばにいる。だから俺に三葉を任せてくれるか?」

 

自分でも臭いセリフだなと思いながら、今度は俺が四葉ちゃんに頭を下げる

 

「…瀧さん、なんだか、今のプロポーズみたい」

 

だが、四葉ちゃんはクスクスと笑ってそんなことを言ってきた

 

せっかく真面目に頭を下げたのに

 

「ええ!ちがうって!」

 

「今の、お姉ちゃんに直接言ってあげてください。きっと泣いて喜びますよ」

 

「い、いや、直接はなぁ…」

 

直接はむりだろ…はずいし

 

俺はそんなことを思いながら頭の後ろをかく

 

「…へたれ」

 

「あっ、聞こえたぞ!!」

 

そこに、三葉が料理を持って戻ってきた

 

「あ、お姉ちゃんありが…お姉ちゃん!!!」

 

「三葉!」

 

俺も四葉ちゃんも慌てて三葉のところに駆け寄る

 

それもそのはずだ

 

 

 

 

 

 

料理を置いた三葉の顔は、それはもう

 

 

 

 

 

 

大号泣だった

 

 

 

 

 

「うぅ…うぇ、四葉もぉ…たきくんも…ばかぁ…全部聞こえとるよぉ…うぅ、涙…止まらんよぉ…うぅ」

 

俺と四葉ちゃんは、顔を見合して、微笑んだ

 

 

 

そして、2人で、三葉を抱きしめる

 

「もー、よしよし、馬鹿なお姉ちゃんやなぁ」

 

「ほら、三葉、泣きやめよ、可愛い顔が台無しだぞ」

 

「うぅ…無理やよぉ…」

 

そう言って、三葉は俺たちの胸に顔を埋めて、また泣き出した

 

 

 

 

俺たちはしばらくそんな三葉の頭を撫でながら、三葉が落ち着くまで待っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その…急に泣いてごめんなさい」

 

俺の前には、目を真っ赤にした三葉と、四葉ちゃんが座っている。

 

三葉の料理を食べ終えて、片付けが終わった後、こうしてまた3人でお茶を飲むことにした

 

「なんで謝るんだよ、泣かしたのはむしろ俺たちだし…ごめんな」

 

「ううん…私、嬉しかったんよ、2人が、私のことこんなに真剣に考えてくれてるんやって思ったら、涙が止まらんくて…」

 

そこまで言って、三葉はまた下を向く

 

「あっ、お姉ちゃん!また泣かんといてよね!」

 

四葉ちゃんがつっこむけど、これはもしかしたら、また泣くかもしれない…

 

「だ、大丈夫やよ!」

 

泣くのを我慢しているなって、すぐわかる顔だ

 

まぁ、こういうところが、可愛いんだよな

 

「あっ、瀧君笑っとるやろ!」

 

「さぁね、三葉、料理ありがとな、ほんとに美味かった」

 

「え?あ、うん、ありがとう」

 

三葉の料理は、和風料理って感じで、魚の煮物やら、揚げ出し豆腐やら、とにかくほんとに美味しかった

 

「ほんと、いつもこんな美味しければいいのに、私と2人のときなんて手抜いてていつも…ぐっ」

 

そこまで言った四葉ちゃんのおでこに三葉がチョップを入れる

 

モロに食らった四葉ちゃんはそのまま動かなくなった

 

三葉は、怒らせないようにしよう

 

そう、心に決めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瀧君、そろそろ時間大丈夫?明日仕事やろ?」

 

「あー、そうだな、それじゃあ、そろそろ帰るよ」

 

時計を見ると、すでに9時を過ぎていて、明日のことを考えると、ここら辺で撤退しておく方が良かった

 

「今日はありがとな、三葉に、四葉ちゃんも」

 

「いえ、私も瀧さんに会えて良かったです。またいつでもきてくださいね」

 

いつのまにか復活した四葉ちゃんは、そう言って俺にウィンクしてきた。きっとこの子もモテるんだろうな

 

「じゃあ瀧君、私が駅まで送るよ」

 

「いいって、それじゃあ駅から家まで三葉1人になっちゃうだろ?」

 

俺たちは、三葉の家の玄関で少し言い争いになった

 

「ええって!いつも仕事帰りは1人やし」

 

「いいから!夜の街は危険なの!」

 

「う、うぅ、だって…もう少し…一緒にいたいんやもん」

 

あー、反則だろ

 

そんなこと言われたら、ダメと言えないじゃないか…

 

「うっ、そりゃ、俺だって、一緒にいたいけど…」

 

「あー!お熱いですね2人とも!私がいるのを忘れないでくださいね」

 

そんなやりとりをしてると、四葉ちゃんがパンパンと手を叩いて俺たちの間に割り込んだ

 

「お姉ちゃん、瀧さん困っとるやろ、瀧さんはお姉ちゃんが大事やからそう言っとるん、お姉ちゃんならわかるやろ?」

 

「う、うん…瀧君ごめんね」

 

「あ、あぁ」

 

「よろしい、んじゃお姉ちゃんは瀧さんをアパートの下まで送ってあげて、それじゃ瀧さん!また今度会いましょうね」

 

「あー、またな四葉ちゃん。それと、ありがとな」

 

「いいえ!ほら!お姉ちゃん!さっさと行きなさい!」

 

俺と三葉は、四葉ちゃんに追い出されるように家を出た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四葉ちゃん…いい子だな」

 

俺たちは、三葉のアパートの下で、少しだけ話をしていた

 

「うん、自慢の妹やよ」

 

「そっか、大事にしろよ」

 

そう言って、俺は三葉に笑いかける、三葉も笑顔になり

 

 

 

 

 

俺たちはどちらからともなくキスをした

 

 

 

 

 

「瀧君、今日は来てくれてありがとね」

 

「三葉も、誘ってくれてありがとな」

 

そこで、幸せそうな笑顔の三葉が、ふと、何か思い出したかのような顔に変わる

 

「あっ!そや!すっかり忘れてた…瀧君って、ゴールデンウィーク何か予定ある?」

 

「ゴールデンウィーク?んー、今のところ何もないな」

 

「そっか、よかった。実はね、私と四葉で、ゴールデンウィーク実家に帰るんよ。あっ、実家って言っても、糸守はもうないから、近くの町に住んでるおばあちゃんとお父さんのところね」

 

そこで、三葉は一旦言葉を区切り、少し悩んだ後、こちらを見る

 

「でね、前言ってたやろ?いつか、糸守に2人で行こうって。だからそのタイミングで行けたらなって思ったんよ」

 

「あー、つまり…俺が、三葉のお父さんとおばあちゃんのところに行くってことか?」

 

「あっ、ぜんぜん!泊まるところは別でいいんやけどね!もしよかったら、お父さんにもおばあちゃんにも紹介したいし、四葉と3人で、行けたらなって思って…どうかな?あっでもお父さんはもしかしたら出張でいないかもしれないけど…」

 

なるほど、これが試練か

 

お父さん

 

恋人との仲を深めるための大きな壁であり、超えないといけない壁

 

それがお父さんだ

 

きっとおばあちゃんはなんとかなる気がする

 

だが、三葉のお父さんには、何か、何かわからないけど、会うのがとても気まずいのだ…

 

でも、ここで引いたら、また高木や司、それに四葉ちゃんにもヘタレと言われ続けるだろう

 

覚悟は決めた

 

…お父さん、出張してください…

 

「うん、行くよ、俺も」

 

「ほんと!瀧君来てくれるんや!」

 

三葉は、飛び上がって喜ぶ

 

それを横目に、俺はため息をつく

 

お父さんかぁ…付き合って1ヶ月でお父さんは早いんじゃないか…

 

三葉との旅行は楽しみだけど、憂鬱だ…

 

 

俺は、飛び跳ねる三葉を捕まえて、キスをする

 

 

とりあえず、先のことは考えずに、今を楽しもう

 

 

顔を真っ赤にして逃げ出そうとする三葉に、俺は何度もキスをする

 

 

しばらくして、三葉の顔が蕩けてきたころに、解放してあげると、なにやら三葉が俺に向かって声を上げている

 

 

 

 

 

 

あー、幸せすぎて、聞き取れないな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アパートの二階の廊下の手すりに、肘をついて下を眺める。下では、姉とその彼氏が熱い口づけを交わしている真っ最中だ

 

「あー、私も彼氏作ろうかなぁ〜」

 

 

 

そんな私のつぶやきは、夜の街に溶けて消えていってしまった

 


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