君の名は。〜after story〜   作:ぽてとDA

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第16話「ここでないどこかを夢に見た」

星が綺麗に光っている

 

 

そして、まるで空を2つに分かつように、彗星が尾を引いて流れている。それは、まるで夢の景色のように、美しい眺めだ

 

 

眼下には、広大な糸守湖が広がり、その周辺にポツポツと家が見える。和洋折衷のデザインで作られている家々は、星々を反射する糸守湖と絶妙にマッチして、これもまた美しさに拍車をかけている

 

 

後ろを振り返れば、山の頂上が窪地のようになっており、その真ん中に岩でできた洞窟がある。その中に、宮水神社の御神体が祀られているのだ

 

 

俺は、あのとき、三葉と、出会った場所に立っている。

 

 

あの瞬間、俺達は、運命だとか未来とか、そんな言葉がいくら手を伸ばそうとも届かない、そんな場所で恋をした

 

「三葉…」

 

不意に口にしてしまう言葉は、いつもこうだ。忘れない、もう忘れることはない。なのに、無性に心配になる。

 

手の届かないところに、どこかに、行ってしまいそうで。

 

その瞬間

 

誰かが後ろから抱きついてきた。背中の低いところに、何か柔らかいものが2つ当たるのがわかる

 

「大丈夫、私はどこにもいかんよ」

 

そして、優しく、そう告げられる

 

「あぁ、あの日、あのときから、俺達はずっと一緒だ」

 

ふと、彗星に手を伸ばす。届かないけれど、もし届いたら、何をしようか。きっと、壊してしまうかもしれない

 

「あの彗星のせいで、俺達はこんな思いをしてるんだよな…」

 

「でも…彗星がなかったら、私たちは出会ってなかったんやよ?」

 

そこで、振り向く。あの日のように髪をショートにした三葉が、そこにはいた

 

「…今日はショートなんだな」

 

「…文句あるん?」

 

「いや、ないです。可愛いよ三葉」

 

三葉はフンっとそっぽを向くけど、可愛いって言葉に反応して機嫌がよくなる。扱いやすいなぁ…

 

「…彗星がなくたって、俺達は出会ってたよ、それこそ、この世界がなくなろうと、俺はお前を探し始めてたよ」

 

「ほんと?」

 

「あぁ」

 

そこで、三葉を抱きしめる。三葉も、俺の背中に手を回して、力を込める。三葉のシャンプーの香りが鼻をくすぐる。髪を撫でながら、その髪に顔を埋める。いい匂いで、あったかくて、幸せだった。

 

 

 

 

 

「あっ、匂いかがないでや!」

 

瀧君が私の髪に顔を埋めて、スーハーし始めたので、思わず体を離してしまう。

 

「なんでだよ…せっかくいい匂いだったのに」

 

瀧君は、頭の後ろをかきながら、少しだけ拗ねた顔をする。ほんとにこの男は、乙女心がわかっとらん

 

「瀧君…そんなことだからモテへんのやよ」

 

「なっ!関係ないだろ」

 

「あります〜。瀧君は乙女心が全くわかっておりません」

 

「く、こいつ!ていうか!三葉だって全然モテてなかっただろうが!」

 

「私はラブレターもらってるからええんよ!」

 

「あれは俺がお前になってるときだろ!」

 

「でも体は私やね!」

 

「なるほど、つまり三葉は性格がモテないってことか。お前やっぱり俺に人生預けた方がモテんじゃね?」

 

ニヤッと、瀧君は私を挑発してくる

 

「はぁー、自惚れんといてよね!瀧君やって私が入っとったほうが今の100倍モテるわ!奥寺先輩とデートの約束までこぎつけたのは誰やと思ってるんですか?」

 

今度は私も挑発し返す、すると、瀧君は何か思い出したようにこちらを指差す

 

「あっ!そういえばお前!あのとき奥寺先輩と仲良くしすぎたせいで、先輩からめちゃめちゃなじられたんだからな!俺の人間関係勝手に変えやがって!」

 

「別にええやろ、嬉しかったくせに…」

 

私は、フンっとそっぽを向く。ほんとこの男は…

 

その瞬間、抱きしめられた

 

顔中に瀧君の服の匂いがする。体全体が瀧君に包まれて、底知れない安心感と幸福感が、体の中を駆け巡り始める

 

「…抱きしめても許してあげんよ」

 

「えっ、まじ?」

 

顔を上げると、瀧君が困った顔をしている。ほんとにこれだけで私の機嫌が直ると思っていたのだろうか。私はそんなに扱いやすくはない

 

「ちゅー、してくれたら、許してやってもええよ…」

 

ふいに、そんな言葉を口走ってしまい、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。思わず俯いてしまう。

 

スッと、瀧君の手が私の顎に添えられて、無理矢理上を向かされる。いつもの、私が逃げられないように、逃がさないようなキス、私はこれが、実は好きだ

 

「んっ…」

 

唇を奪われて、思わず嬌声が出てしまう。でも、瀧君のキスはとても上手い。まるで脳みそが溶けてしまいそうになるくらい

 

そっと、唇を離す

 

「これで、許してくれるか?」

 

「んー、しょうがないから、許してあげましょう」

 

恥ずかしくて、思わずそんな言葉つかいになる。瀧君を見るとクスクスと笑っていた。私もつられて笑ってしまう

 

2人で笑いあって、抱きしめ合う。とても幸せで、でも…

 

とても悲しい時間

 

私たちは、朧げで、いつ消えてもおかしくない、そんな存在。夢のような、記憶のような、曖昧な存在だ。今この瞬間、ここで瀧君と2人でいれることがすでに奇跡だ

 

「瀧君…私たち、まだ、大丈夫だよね?」

 

「当たり前だろ、それに、もうすぐ、来てくれるって、三葉も聞いてたろ」

 

「うん、でも、ちょっと心配で…」

 

「大丈夫、俺と三葉を、信じよう。きっと、来てくれる」

 

瀧君は、そう言って私を強く抱きしめる

私も、強く抱きしめ返す。

 

ふと、瀧君が空を見上げる

 

「今日は、ここなんだな、てっきり、俺の部屋か三葉の部屋かと思ってた」

 

「うん、でも、私たちがいるのは、あの日からずっとここやよ。糸守も、瀧君の学校も、ただ、私たちの夢」

 

「…わかってる。ただ、夢の中でくらい、どこか別の場所を夢見てもいいんじゃないかなって、そう思ったんだ」

 

瀧君はそう言って、また空を見上げる

 

日が落ちるとき、昼でも夜でもない瞬間が少しだけある。人はそれを、黄昏時とか彼は誰時などと呼んだ。でも私の故郷の糸守では、こう呼ぶ

 

「かたわれ時…」

 

この世界は、この夢は、いつもかたわれ時だ

 

まるであの日から全てが止まったように、動かない。空を落ちる彗星は、落ちているように見えても、一向にその場を動かない。

 

私たちは、あの日から止まってしまった

 

でも、ここには瀧君がいる。瀧君がいれば、たとえ世界がなくなっても、この体が散り散りになろうとも、何も心配ない。瀧君は必ず私を見つけてくれる。この宇宙をゼロから始めることになったとしても

 

きっと来てくれる

 

そう信じている

 

だから、もう心配はいらない

 

 

 

「瀧君…もし会えたら、なんて言う?」

 

 

 

「あー、何年待たせるんだバカ野郎、とか?」

 

 

 

「ふふっ、瀧君らしいね」

 

 

 

「じゃあ三葉は?」

 

 

 

 

「んー」

 

 

 

 

私は少しだけ悩む

 

 

 

 

でも、答えは決まっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけてくれて、ありがとう。かな」

 

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