君の名は。〜after story〜   作:ぽてとDA

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そろそろクライマックスに近づいてきました。


第19話「嵐の中に」

「瀧君!」

 

「瀧さん!」

 

目を覚ますと、三葉の顔が目の前にあった。

俺はどうやら三葉に膝枕されながら寝ていたようだ。辺りを見回すとまだ電車で、車掌が間も無く名古屋に到着するということを車内アナウンスしている最中だった

 

「三葉、俺、寝ちゃったのか」

 

「うん、いきなり眠っちゃうからびっくりしたんよ」

 

「そうそう、永遠に起きなくなるかと思いましたよ」

 

「なんだそりゃ…縁起悪い」

 

「でも、ほんとに心配やったんからね?」

 

そう言う三葉をよく見ると、その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。本当に心配してくれたのだろう。横を見ると、四葉ちゃんもホッとした様子で俺のことを見ている。

 

「2人とも、ごめんな。なんだろうな、昨日遅くまで残業してたせいかな…」

 

2人に申し訳なくて、俺は素直に謝った。だが、2人ともなんだか驚いた顔をして俺の方を見つめている

 

「瀧さん…涙が」

 

目を触ると、たしかに俺は泣いていた。

 

「また、夢を見たん?」

 

そう言われると、何かが引っかかった

 

そうだ、俺は夢を見ていた。そこで、何かに、誰かに会った…誰に?何を言われた?いや、だめだ…思い出せない

 

「あぁ、たぶん…けど、思い出せないんだ…なんで、大事な…忘れちゃいけない夢だったと思うのに…」

 

俺は頭を抱えて悩んだ。今回ばかりは、どうしても思い出したい。俺の中の何かが、思い出せないといけないと言っている気がする。そんなとき

 

ふと、三葉が俺に抱きついてくる

 

「そっか、私もよく夢を見るんよ。でも、何も思い出せない。瀧君前に言っとったやろ?夢よりも、今を大事にしようって…私は今、こうやって瀧君といることが一番大事やよ」

 

そう言って笑う三葉を見て、俺も抱きしめ返す。そうだった、俺の隣には三葉がいる。愛する人がいるんだ。だったら、何を悩む必要がある。夢は夢、ただの夢だ。

 

「ごめん三葉。俺、なんだか混乱してて、大事なものを見失ってた、思い出せない夢よりも、目の前の三葉が一番だ」

 

その言葉で、三葉は嬉しそうに微笑む。そして、その黒髪を結う組紐が、さらりと揺れた。

 

 

組紐が…

 

 

あれ?

 

 

一瞬、三葉に似た誰かが、微笑んでいた気がした。しかし、その誰かは、ぼんやりとして、霞の中にいるような感覚だった

 

「瀧君?」

 

「あ、わりぃ。なんだかまだぼーっとしててさ」

 

慌てて取り繕うけれど、動揺は隠せなかった。それを見た三葉がまた心配そうな顔をして、何か言葉を発しようと口を開いた瞬間、電車が減速し始めた

 

「お姉ちゃん!瀧さん!もう駅に着くよ!はよ荷物準備して!」

 

「あっ!うん!」

 

四葉ちゃんに、促され、俺はとりあえず散らばったトランプを集め出した。最後に残った裏返ったカードを拾おうとして、一瞬腕を止める。

 

三葉にはあんな風に言ったけれど、やっぱり気になる。俺はなんの夢を見た?

 

今まで何度も夢を見たが、こんなに気になったのは初めてだった。今回の夢だけは忘れちゃいけないはずなのに…

 

 

 

 

カードを裏返すと、不気味な悪魔が俺に向けて微笑んでいる

 

 

 

 

 

最後のカードは、ジョーカーだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん!瀧さん!こっちやよ!早く早く!」

 

先を行く四葉ちゃんに呼ばれ、俺は三葉の手をとって走り出す。ホームでは電車が間も無く出発することを示す音楽が流れている。名古屋駅からJR東海道本線新快速に乗れば、岐阜まではほんの二駅だ。そこからは、レンタカーを借りるから、電車の時間を気にすることもなくなる。

 

「はぁ…はぁ、間に合った」

 

「もう!お姉ちゃんこんなときにトイレ行きたいなんて言い出すから」

 

「うぅ…2人ともごめんなさい…」

 

「いやいや、しょうがないって」

 

乗り換えのために駅を歩いていると、突然三葉が腹痛を訴え出し、俺と四葉ちゃんは慌ててトイレを探すことになった。新宿駅や東京駅なんかに比べればそこまで複雑じゃない名古屋駅だけど、慣れない俺たちからすると、トイレを探すのにも一苦労だ

 

岐阜に着いた俺たちは、旅行前に事前予約済みのレンタカー屋を探す。駅から徒歩3分とネットに書いてあったが、なんだか迷ってしまって、結局10分くらい歩いた気がする…

 

 

 

 

「よし、んじゃ行くか!」

 

「……」

 

 

「………」

 

3人で車に乗り、張り切って声を上げて2人を振り返ると、2人ともなんだか微妙そうな目でこちらを見ている。

 

「なんだ!どうした!」

 

「えぇと…」

 

三葉は何か言いたげな顔をしたが、俯いてしまう

 

「瀧さん…車運転したことあるん?」

 

「は、ははは!当たり前だろ!何言ってんだ妹!」

 

「いや…瀧さんそんなキャラじゃないでしょう?それに、背筋張りすぎだし、肘伸びすぎやから、それじゃハンドル切れないですよ…」

 

「あぁ!すまん!すまん!久しぶりだからな!緊張しちまって!」

 

「久しぶりって、瀧君、前に運転したのいつなん?」

 

三葉が、苦虫を噛み潰したような顔で俺に問う

 

「あー、免許を取ったのが18になってすぐで、そこから運転してないから、だいたい5年ぶりかな。ははは…」

 

男ならとりあえず免許は取れ、そう言う父の言葉に従い18になってすぐに免許を取った。しかし、都心に住んでいる人なら分かると思うが、都内の移動ならだいたい電車でカタがつく。車に乗る必要があんまりないのだ。友達との旅行のときなんかも、ほとんどバスやら新幹線を利用していたせいで、俺が最後に車のハンドルを握ったのは、教習所の卒業検定だった

 

「いややぁぁ!お姉ちゃん!私まだ死にたくない!」

 

俺の言葉を聞いた四葉ちゃんが叫び出す。でも、叫びたいのは俺も同じだった

 

「お、落ち着いて四葉!」

 

一瞬にして、車の中は阿鼻叫喚の地獄絵図になった

 

「わ、わかった!瀧君!私が運転するから!無理しなくてええから!」

 

「いいのか?でも、俺男だし…」

 

「今さらカッコつけへんでもええって!もう遅いよ!十分カッコ悪いから!」

 

俺は少し泣いた

 

 

 

その後、俺と三葉は席を交代した。運転席に座る三葉は、キリッとしていて、なんだか少しカッコよかった。車はレンタカー屋を出るために少しバックして、そのまま後ろから電柱に衝突した。

 

 

 

 

 

電柱に衝突した

 

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

 

 

「三葉…」

 

「お姉ちゃん…」

 

俺達の声に反応した三葉はゆっくりと振り向く

 

「なぁ三葉…お前、最後に運転したのはいつだ?」

 

「えっとね…7年…8年ぶりくらい…かな」

 

 

 

 

そう言って微笑んだ三葉は、泣いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアバンパーを少し凹ませた白いミニバンが、岐阜の道をトロトロと走っている。中には3人の男女が乗っていて、運転手は慣れない運転に緊張して無口。助手席の女性は窓の外を見ながら泣いている。後部座席に座っている女子高生はその2人を哀れみの視線で見ていた。

 

「よかったね、お姉ちゃん。瀧さんがちゃんとレンタカー保険入ってて」

 

「そうね…」

 

少しだけ窓を開けて、風にたなびく黒髪はとても美しく、三葉の綺麗さにより一層の拍車をかけていた。ただ、彼女は泣いていた。

 

あの後、三葉はレンタカー屋に土下座した。

通常レンタカーで事故をした場合、事故そのものについては保険が効くので問題ないが、それとは別にノン・オペレーションチャージ料というのが取られる。まぁいわゆる迷惑料みたいなものだ。

 

しかし、泣きながら土下座をする三葉を見て、レンタカー屋のおっさんは通常のチャージ料の半分でいいと言ってくれた。本当にありがたい。

 

「私、こんなにお姉ちゃんに幻滅したのは、お姉ちゃんが朝起きて泣きながら胸揉んでたとき以来やさ」

 

「そ、それどうゆう状況だよ」

 

三葉にもそんな時期があったんだなぁと思うけど、正直ちょっと引くな…

 

「な!ち、違うからね瀧君!私そんな事した覚えないんよ!四葉!変なこと言わんといて!」

 

さっきまで泣いていた三葉は顔を真っ赤にして言い訳をまくし立てる

 

「ほんとやってお姉ちゃん、あの日はほんとやばかったんやから」

 

「まぁまぁ四葉ちゃん、三葉にも、そういう時期があったってことだよ」

 

「な、なんやろ…瀧君にだけは言われたくない気がする…なんでかわからんけど」

 

三葉は猫みたいに俺のことをウーッと睨む。さっきまで意気消沈していたのだが、どうやら復活したようだ

 

「それにしても、瀧さんもお姉ちゃんも、本当にこのまま家に来なくてええの?」

 

「あぁ、ちょっと寄るところがあるからな、多分そっちに着くのは夜になると思う」

 

「四葉はおばあちゃんに伝えておいてくれる?」

 

「ええけど、2人ともどこ行くん?」

 

「あー、ちょっとな…」

 

思わず、三葉と目を合わせて、2人で苦笑する。別に言ってもいいんだが、なんだか言いにくいというか何というか…

 

「怪しい…」

 

四葉ちゃんは俺と三葉を交互に睨み始めた

 

そんな時、視界の端にある建物が見えた。

 

あそこは…

 

俺は車についている時計を見ると、時刻は12時の中頃といったところだった。よし、丁度いい時間だな

 

俺は、車を駐車場に滑り込ませた

 

 

 

 

 

 

 

「高山ラーメン1つと」

 

「高山ラーメン1つ」

 

「あ、じゃあ俺も…」

 

「はい、高山ラーメン3つね」

 

こんなやりとり、前もしなかったか?そんなことを思っていると、ラーメン屋のおばちゃんが話しかけてくる

 

「それにしてもびっくりしたわ〜、五年前のあの子がまた来てくれるなんて」

 

「あ、あのときはどうも」

 

今来ているのは、五年前、司と奥寺先輩と立ち寄ったラーメン屋だ。ここの親父さんに車を出してもらって、俺は糸守に行ったんだ

 

「しかも、こんな可愛い子達を連れてくるなんて…」

 

嬉しそうに話していたおばちゃんが、三葉と四葉を見て目を細める

 

「あら…もしかして、貴方達、宮水さんのとこの三葉ちゃんと四葉ちゃん?」

 

「あー、どうも、ご無沙汰しております」

 

三葉が軽く頭をさげ、それに合わせて四葉ちゃんも頭を下げる

 

「まー、珍しいこともあるもんやね、ちょっと!あなた!宮水さんのところの三葉ちゃんと四葉ちゃんが来てるわよ!」

 

おばちゃんが呼んだちょっと後に、親父さんがラーメン3つを乗せたお盆を持って歩いてきた

 

「おう坊主、彼女が2人もできたのか」

 

「ち、違いますよ!彼女はこっち!こっちは妹!」

 

「知っとるわ」

 

そんなことを言いながら親父さんはラーメンを置く。この人こんなキャラだったっけ…

 

「あの…以前は、本当にありがとうございました」

 

「いや、いい。お前の絵。ありゃ良かった。懐かしいものを見せてくれた礼だ」

 

「それでも、本当に助かりましたから…あ、そうだ」

 

俺はゴソゴソとリュックを漁ると、中からスケッチブックを取り出す。そして、目的の絵を見つける

 

「これ、親父さんに差し上げようと思いまして」

 

俺が昔書いた、糸守の絵だ。三葉ですら懐かしいと言っていたくらいだから、本当に上手く描けているのだろう

 

「そりゃ…お前の大切なものだろう、もらうわけにはいかん」

 

「いや、もういいんです。もう俺は大丈夫ですから」

 

そう言って俺はなおも親父さんに向けて絵を差し出す

 

しばし見つめ合い、親父さんが絵を受け取る

 

「わかった、前も言ったが、こりゃいい絵だ、うちに飾らしてもらうぞ」

 

「そんな、そこまでしてもらわなくても…」

 

「あなた、それいいわね。うちには糸守出身の客も多くくるから、きっと喜ぶわよ」

 

おばちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

 

「それじゃあラーメンを早く食べな、伸びちまうだろう」

 

「あっ、そうですね」

 

「宮水さんとこの嬢ちゃん達も、大したものじゃないが、食ってくれや」

 

「いえ!とても美味しそうです。お言葉に甘えて、頂きます」

 

ずっと蚊帳の外だった三葉は突然話しかけられてびっくりしていたが、いただきますと言ってからラーメンをすすり出した

 

 

 

5年ぶりの高山ラーメンは、懐かしい味がした

 

 

 

 

 

 

「いや、本当に、払いますから…」

 

「いいのいいの!絵をもらったお礼よ!あなたも、いいでしょう?」

 

親父さんはコクリと頷く

 

「あー、わかりました、ありがとうございます。でも、また来ますから、そのときは払わせてくださいね」

 

「いつでもいらっしゃい!三葉ちゃんと四葉ちゃんも!またいらっしゃいね」

 

三葉と四葉はその言葉に軽く頭を下げて返す

 

奥から、親父さんが軽く手をあげる。俺もそれに手をあげて返した

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーメン屋を出た俺達は、また先ほどの道を走り始めた

 

「三葉と四葉ちゃん、あのラーメン屋さんと知り合いだったんだな」

 

俺は、ずっと思ってたことを口にする。すると、三葉と四葉ちゃんは目を合わせて苦笑した。

 

「えっとね…実は私達、あの人達が誰だかわからなかったんよ。糸守では宮水の名前は有名やから、向こうは私達のことを知っとっても、私達が知らない人は沢山いたんよ」

 

少し、悲しそうに三葉は答える

 

「お姉ちゃんは特に有名やったからね、糸守にいたときからいろんな人に声かけられてたもんね」

 

「そうだったのか…」

 

人口の少ない糸守で、一番大きな神社の跡取り娘となると、やはり有名にもなるものなのか、まぁ、その神社ももうなくなってはしまったが

 

そうこう話しているうちに、三葉と四葉ちゃんの実家が見えてきた

 

もうすぐ、俺達の目的の場所に行ける

 

そう思うと、少しだけ胸が高鳴った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ2人とも、気をつけてね」

 

「うん、四葉も、おばあちゃんによろしくね、夜には帰るから」

 

手を振る四葉ちゃんに、三葉が言葉を返す

 

三葉と四葉の実家の前で、四葉ちゃん1人を下ろして俺達は御神体に向けて出発しようとしていた。四葉ちゃんにむけて軽く手をあげて、俺はアクセルを踏み込む。

 

さっきまで快晴だった空は、いつのまにか雲を増やし、暗くなってきていた。

 

「雨、降るかな?」

 

「わからない、けど、雨具も持ってきてるだろ?」

 

「うん…でも、ちょっと不安かも」

 

車を運転する俺に、三葉が心配そうに話しかけてくる。俺達は、最初から、山を登るための格好と装備を整えてからここに来ていた

 

もちろん、雨が降った時のために雨具も持っている

 

「ここだ、ここから山道に入るんだ」

 

五年前の記憶と、スマホのナビを頼りに、俺達は御神体を目指す。ハンドルを切って、舗装された公道から、山道へと入っていく。

 

突然、雨が降り出す

 

小雨、なんてものじゃない、まるでゲリラ豪雨のように

 

「うわ、すげぇな」

 

「なんだろう…まるで、私達が山に入るのを拒んでるみたいやね…」

 

三葉がそう呟く。

たしかに、これではまるで、世界が、俺達に御神体まで行って欲しくないと、そう言っているような突然の雨だった

 

「関係ないさ、行かなくちゃいけないんだ、俺達がずっと探してた答えがあそこにあるかもしれないんだから」

 

「うん、私も、答えを見つけたい。それに、瀧君がいれば、嵐だって何だって、それこそ、星が降ったって乗り越えられるよ」

 

「はは、大袈裟だな…っと、これは…」

 

思わず、言葉に詰まる。

 

さっきまで進んでいた山道の真ん中に、巨木が倒れている。これでは、この先には車で進めそうにない。雨の中の行軍になるのだから、できるだけ車で進んでおきたい気持ちがあった。これはかなり厳しい…でも、こんなところで止まってはいられない

 

「ど、どうしよう瀧君…」

 

「…行こう三葉、今じゃないと、ここで諦めたらダメだって、そう…何かが言ってる気がするんだ」

 

心配そうな三葉の目を見てそう言う。俺の目を見て、三葉も覚悟を決めたのか、先ほどと打って変わった顔で頷いた

 

「わかった、行こう瀧君、私達の答えを、見つけに」

 

「あぁ」

 

俺は雨具を装着すると、運転席から出て、助手席のドアを開ける。

 

そして三葉の手をとる

 

「行こう三葉」

 

その手を取って、三葉も頷く

 

 

降りしきる豪雨の中、歩く俺達の背に、大きな雨粒がひっきりなしに打ちつけてくる

 

その中を俺達は進む

 

 

 

 

 

見つけるために

 

 

 

 

 

会うために

 

 

 

 

 

君にもう一度、会うために

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