君の名は。〜after story〜   作:ぽてとDA

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第21話「君は誰?」

目を開けると、世界が揺れていた

 

白く、まるで世界に輪郭がなくなってしまったような

 

 

 

頭が痛い

 

 

俺は何でこんなところに

 

 

何で…

 

 

そうだ…思い出した

 

 

俺は…俺達は…

 

 

 

 

「み…つは」

 

 

 

 

必死に口から出した言葉は、それだった

 

 

行かないと…三葉のところに

 

 

きっと怪我をしてる、あいつを助けてやらないと…

 

 

足を動かそうとすると、動かない。立てない

 

腕を動かそうとすると、動かない。わずかに指だけが地面をえぐる

 

力が入らない

 

 

「く、くそ…」

 

 

早く行かないと…

 

 

すると、突然、白くぼやけた視界の奥から、人のような何かが歩いてくる

 

 

「だれ…だ」

 

 

その人影は、俺の前で止まるとしゃがみこむ

 

 

「あー、お前が来るの遅いからさ、ちょっと様子を見に来たんだけど、こりゃ酷いな…」

 

 

人影は、頭の後ろをかくような動作をしながら言葉を発した。どうやらほんとに人間のようだ。だが、何か、おかしい

 

 

何かが…

 

 

「なぁ…いつまで待たせんだよ。俺だってな、たまには怒るんだぜ?」

 

 

「な、なにを…」

 

こいつは何を言ってる?だめだ、グラグラと揺れる頭じゃなにも考えられない

 

 

「こんなところで止まってていいのか、三葉は先に行ってるぞ、お前が遅れたらまずいんじゃないのか?」

 

 

三葉が先に…

 

わかってる。わかってるけど、力が入らないんだ。足が動かないんだ…

 

 

「ま、こんなときだし、俺も少しは力を貸すよ。でも、出来るだけ早めに来てくれよな。実はもう、あんまり時間ないんだよ。俺…」

 

そう言って苦笑するその影に、俺は気づく

 

 

この笑い方…

 

 

この声…

 

 

どこかで見たことのあるような、そんな既視感…

 

 

そうだ

 

 

これは、こいつは…

 

 

いや…

 

 

「お前は…」

 

 

そこまで言った俺の肩を、影がポンと叩く

 

 

「ここまで迎えに来てくれたお礼ってやつかな…とりあえず、これで貸し借りなしだぞって…自分に言うのもなぁ…」

 

 

何やら影が言っていたが、最後の方は小さくて聞き取れなかった

 

そして、影が触れた肩の部分から、何かが広がる。その広がりは、触れたところから身体中のあらゆる痛みを消し去って行く

 

 

「これは…」

 

 

視界が元に戻って行く。もう少しで見える。あと少しで…

 

 

「それじゃあな、待ってるから、早く来いよ」

 

 

だが、影はそれだけ言うと立ち去って行く

 

 

「待ってくれ…」

 

 

あと少しだったのに、あと少しで

 

 

お前が…

 

 

……

 

………

 

 

 

世界が元に戻った。揺れていた視界も、今は安定している。そして、いつのまにかあれほど降っていた雨は止み、ところどころ雲の間から日が差している。

 

俺は立ち上がり、体を確認した。服も顔も泥だらけだが、どこも折れてないし、どこも怪我はしてない。それどころか、かすり傷1つ負っていない。

 

俺は上を見ると、10メートルは上の方にある崖の一角が崩れている。俺はあそこから転がり落ちてきたのだろう。

 

 

「冗談だろ…」

 

 

思わずそう呟く。それは、あんな高さの崖から落ちたことに対してなのか、あれほどの崖から落ちたのにもかかわらず、かすり傷のないこの状況に対して言ったのかは、自分でもわからなかった

 

「三葉…そうだ!三葉!」

 

俺は思わず叫び、あたりを見回す。俺の叫びがこだまして響くが、三葉から返答が来ることはなかった。

 

きっと、三葉は崖の反対側に落ちたのだろう。しかし、反対側に行くには巨大な岩を乗り越えて行かないといけない。今の装備ではとても行けそうにない…

 

 

どうする…

 

 

「そうだ!携帯!」

 

 

俺は携帯を取り出して三葉に電話をかけようとする。しかし、その電波状況が圏外になっていることに気づく

 

「くそ…肝心なところで!」

 

俺は思わず携帯を地面に投げつけた

 

「三葉…頼む…無事でいてくれ」

 

そう呟いたとき、ふと、あの影が言っていたことを思い出す。

 

 

『三葉は先に行ってるぞ』

 

 

そうだ…あの影は言っていた。三葉が先に行っていると。だったら、俺も早く行かなければ…

 

あの影の言うことは、信じられる。俺の中の何かがそう告げていた。

 

 

きっと三葉は無事だ

 

 

そして、山頂に向かっている。

 

 

間違いない

 

 

わからないけど、わかるんだ

 

 

俺は、山の上を見る。

 

 

山頂まで、あと少し。ここからならそう遠くない。

 

 

「待っててくれ…」

 

 

 

それは、三葉に言ったのか、誰に言ったのか、自分でもわからなかった。

 

 

そして

 

 

俺はその足を前に向けて、進み始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ…」

 

目を覚ますと、世界がぼんやりとしていて、まるで霞の中にいるような感覚だった。落ちたときに、頭を打ったのか、視界が揺れて、よく見えない。

 

「た、き…くん」

 

瀧君は無事だろうか?怪我をしていたら、私が助けに行かないと。だから、こんなところで這いつくばってないで、早く立たないと

 

そう自分に言い聞かせて、腕に力を入れる。少しだけ体を持ち上げることができたが、途中で耐えきれずに潰れてしまう

 

「ど、どうしよ…」

 

体が動かない。足も腕も、全く言うことを聞いてくれない…

 

これじゃあ…瀧君のところに行けない

 

思わず涙が溢れて来る

 

 

 

 

瀧君…

 

 

 

 

光の中から、人影のような何かが、2つ近づいて来る。

 

 

「たき…くん?」

 

その影は私の前で立ち止まると、1つはしゃがみこんで、もう1つは立ったままだった

 

 

「お願い…瀧君を…助けて…」

 

 

私は必死にその影に向かって訴える。私より、瀧君を…

 

それを聞いた影は、苦笑しながら言葉を発した

 

「あー、こんなときでも、自分より瀧君が心配なんやね…ほんと、我ながら瀧君が好きなんやなぁ」

 

 

何を…

 

 

この影は何を言ってるのだろう

 

 

どうして瀧君のことを?

 

 

あなたは…

 

 

「あなたは…だれ?」

 

 

ぼやける視界で、顔は見えない。ただ、女性のようなシルエットが2つ。それだけはわかった

 

 

「ちょっと…そのセリフは私にとってはトラウマなんやから…あんまり言わんでよ」

 

 

影が、腰に手を当ててそっぽを向く。

 

 

怒っている?

 

 

なぜ?

 

 

「それにしても、来るのが遅いから様子見に来たら、こんなところで何やってんやさ」

 

 

何って…私たちは、見つけるために来た

 

 

探しに来たの

 

 

答えを

 

 

「うんうん、わかっとるよ。でも、そうじゃなくて、ここで寝ててもいいの?ってこと。瀧君、きっと先に行っとるよ。そうやよね?」

 

影が振り向いて、もう1つの、立っている方の影に話しかける。

 

その影には、ぼんやりと見える輪郭に、赤い糸が

 

 

いや、あれはきっと

 

 

組紐が、見えた

 

 

「そうね…三葉、瀧君は先に行ってるわよ。あなたがここで止まっていたらダメじゃない」

 

優しい声、懐かしい声

 

 

そんな声が、私に向かって話しかける

 

 

「あ…うそ…あなたは…」

 

 

私は、その影に向かって必死に手を伸ばす

 

 

信じられない

 

 

この声、この優しい雰囲気。間違いない。

 

 

あなたは…

 

 

「頑張りなさい三葉。私はあなたの味方やよ。瀧君は大丈夫。あなたを待ってるわ。だから、もう少しだけ頑張るのよ」

 

 

影が、伸ばした手を優しく包み込む

 

 

すると、優しい感触が手を伝って、全身に広がる。あれほど動かそうとしてもピクリともしなかった体が、自由をとり戻してきた

 

「ほんと、早く迎えにきてね。私もそろそろ、時間なくなってきちゃったんよ…」

 

もう1つの影が苦笑しながら言う

 

 

この声…既視感のあるシルエット

 

 

あなたは…

 

 

あなた達は…

 

 

 

 

「さぁ、行きなさい三葉、瀧君と一緒なら、きっと大丈夫やよ。私はいつも、見守ってるからね」

 

 

光がより一層強まって

 

 

やがて弱まる

 

 

それと同時に影も消えていく

 

 

 

「待って…」

 

 

まだ行かないで…その声を

 

 

 

もう一度だけ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん…」

 

呟くと、ぼんやりと霞みがかっていた世界が、色を取り戻してくる。頭のふらつきもなくなり、視界も安定した

 

私は立ち上がると、あたりを見回す。いつのまにかあれほど降っていた雨は上がり、ところどころ光が雲の間から差し込んでいた。

 

体を見ると、服はぐちゃぐちゃの泥だらけ。でも、体に痛いところや、異常のあるところは一切なかった。

 

上を見れば、10メートルほどの切り立った崖の天辺が崩れている。どうやら私達はあそこから落ちたみたいだ

 

 

私達…

 

 

そうだ…

 

 

「瀧君!!」

 

思わず叫ぶ

 

しかし、その返答はなく、ただ小鳥がさえずる音が聞こえるのみだった。

 

「どうしよ…瀧君がおらん…」

 

私は焦って携帯を取り出す。もし瀧君が大怪我をしてれば大変だ。

 

しかし、無情にも取り出した携帯は画面が割れて使い物にならなくなっていた

 

「嘘やろ…」

 

思わず呟き、涙が出てくる

 

 

そのとき

 

 

あの影が言っていたことを思い出した

 

 

『瀧君は先に行って、待っている』

 

 

そうだった…

 

 

瀧君は、大丈夫

 

 

だって、あの人が言っていたんだから

 

 

私が大好きだった、あの人が

 

 

世界でたった1人の

 

 

私の

 

 

 

 

 

お母さん…

 

 

 

 

 

 

 

私は山頂を見る。あと少しでたどり着く。きっと瀧君もあそこにいる。だから行かなくちゃ。

 

「待ってて…」

 

それは瀧君に向けて言ったのか、別の誰かに向けて言ったのか、自分でもわからない。

 

でも、これだけは確かだった

 

 

答えはきっと、あそこにある

 

 

私は前に、進み始めた

 

 

 

 

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