君の名は。〜after story〜   作:ぽてとDA

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第3話「立花瀧」

あの日から、ふと右手を見る癖がついた。

 

 

あれは、いつからだったか…

 

 

 

 

 

俺は、東京で生まれ、東京で育った。父さんと母さんは俺が幼い頃に離婚したから、今は父さんと2人で都内のマンションに住んでいる。父さんは公務員だ。霞ヶ関で働いていて、俺が金で困らないように、頑張って働いてくれている。最近はあんまり話さないけど、仲は良い方だと思うし、実はかなり感謝もしている。

 

それなりにいい高校にも入れて、大学も問題なく受かった。

 

それに俺、結構、モテたんだ…

恋人は作ったことないけど…

 

作れないんじゃなくて作らないんだ

 

どんな女性に告白されても、なんだか違うような、しっくりこない、そんな感覚があって、いつもすぐに終わってしまう。

 

いつの日からだったか、なんだか悲しい気持ちになることがよくある

 

何をしても、何か足りない、大事なものが抜け落ちてしまったような

 

そんな感覚に襲われている

 

それは、今もで、探しているのは、誰なのか、何なのか、わからなかった。

 

そして今、4月から入社した建築関係の会社で新人研修を受けている。建築関係とは言っても、実際に工事をする現場の人間ではなく、建物の外観や内装、それに付随する様々なデザインなどを考えるのが仕事だ。

 

昔から勉強は割とできた、中学ではバスケ部に入っていたおかげか、運動神経も悪くなかった

 

就活はかなり苦戦したが、今の会社は東京都心に本社を構える結構な大手だ

 

そう、俺は昔から色々と卒なつこなしてきた。勉強も運動も人間関係も、大体上手くやってきた。だから、きっと、仕事でも上手くやっていけると思っていた。思っていたのだが…

 

 

 

 

 

 

 

「瀧君、それはこっちに頼むよ」

「瀧君!だからそれはそっちの棚に頼むって!」

「おい!瀧!!何度言えば分かるんだ!」

「瀧!!そこは違うと言っただろ!」

「どうしてこれをシュレッダーにかけるんだ!!!」

「違う瀧!こっちの書類だ!」

「瀧!!おい!」

「なんだそのニヤケ顔は!馬鹿にしてるのか!?」

「おい!瀧!」

「瀧ぃぃーー!!」

「瀧ぃぃいいいい!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ…こんな日もあるさ…」

 

 

会社の屋上のベンチで、昼飯のサンドイッチを食べながら、吉田は俺を憐れみの目で見てくる。

 

「なぁ、その目はやめてくれ、惨めな気分になる」

 

「わりぃわりぃ、でもよかったな、あのだらけきった顔もやっと締まりが出てきたじゃねーか」

 

午前いっぱいで一生分くらい怒られた俺の顔は、さすがに朝のニヤニヤ顔から真っ青なしょぼくれ顔に変化していた。宮水さんのことが頭から離れずに、仕事に全く集中できない俺は、上司からの怒声を浴び続けていた。

 

「それにしても、運命の出会いねぇ…」

 

吉田はいつものニヤニヤ顔に戻り俺を揶揄う。こいつに宮水さんとのことを話したのは失敗だった。たぶん。いや、絶対。

 

「運命って言葉以外に、なんかあるかよ…恥ずかしいけど、それ以外言葉が思いつかねーよ」

 

「まぁたしかに、2人して電車降りてまで会おうとするなんて、普通じゃないもんな…んで、返信はきたのか?」

 

「いや、まだ…だけど…」

 

「瀧君よ、男はいつも待つもんなんだぜ…」

 

「なんだよそれ…」

 

俺は事の顛末を話した後、吉田に促されてすぐに宮水さんにLINEを送った。

 

《朝会った立花です。今日はいきなり声をかけてごめんなさい!遅刻大丈夫でしたか?俺のせいでもあるんで…もしよかったら、今日の夜お詫びに何か奢らせてください!良いカフェを知ってますので、そこでどうでしょうか?》

 

お詫びという口実で、貴方と会いたいからご飯に行きたいです。という気持ちを隠してるように見えるけど、きっと女性から見たらバレバレなんだろうな。でも、きっと宮水さんも会いたいと思ってる、そんな確信がある。自惚れではないけど、何故かそう思うんだ。

 

「男は黙って待つ、そういうことだよ。そろそろ携帯から顔を離せや、午後もあんな感じだったらほんとに瀧の評価が下がっちまうぞ?」

 

「あぁ、すまん。そうだよな…」

 

「…元気ねーなー」

 

吉田はため息をつき、残っていたサンドイッチを頰に詰めると立ち上がった

 

「んじゃ行くか、もう昼休みも終わるぞ、シャキッとしろや瀧」

 

「あぁ…」

 

そのとき、ポケットにしまった携帯がブルルっと震える。これは、何かを受信したときの振動だ。俺は急いで携帯を取り出し画面を開く。

 

《宮水です!私の方こそ立花君を遅刻させてしまってごめんなさい…やっぱり怒られちゃいました?むしろこちらが奢らせてください!でも、良いカフェっていうのはちょっと気になるので、連れて行ってくださいね…笑 待ち合わせは何時にどこにしましょう?私は職場から出れるのが6時半くらいです!》

 

 

 

 

 

 

「なぁ瀧…お前、その顔で仕事戻ったらまたどやされるぞ…」

 

「はっ!吉田!一発殴ってくれ!!」

 

「よしきた!!この幸せやろうがっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

俺と吉田は、その場面を先輩に見られてこっぴどく叱られた。殴り合いの喧嘩をしてると思ったそうだ。

 

 

 

 

 

 

《遅刻以外のことで怒られました…笑 先に声をかけたのは俺ですから!俺が奢りますよ!もちろんです!お洒落なカフェなんで、きっと気にいってくれると思います。待ち合わせは7時半に四ツ谷駅前でどうでしょうか?》

 

《え?なんかやらかしてしまったんですか?笑 いえ!私が奢るんです!笑 カフェ楽しみにしてますね!7時半で大丈夫ですよ!一応仕事が終わったら連絡しますね。立花君も残りの仕事頑張ってくださいね(^^)》

 

《後で話しますよ…笑 俺が奢ります!!って、これじゃあ終わらないですね笑 では!7時半に四ツ谷で!宮水さんも頑張ってください!俺も仕事が終わったら連絡します!》

 

恋っていうのは、こんなに甘酸っぱいものなんだろうか。どうしてだろうか、送る言葉の全部にエクステンションマークが付いてしまうんだ…宮水さんのLINEを見るたびに、全身が熱くなって火照り出す。次になんて返事をしようか、そんなことで頭がいっぱいになる。でも、今は仕事に集中しないと、宮水さんにも怒られてしまう。だから、今は頑張って、楽しみは後にとっておこう。俺は携帯をデスクの中にしまって、仕事に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

吉田に殴られた左の頬が、ズキッと痛んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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