君の名は。〜after story〜   作:ぽてとDA

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第29話「あの日見た景色を」

「…瀧君」

 

夜、俺の手を枕にして添い寝する三葉が、優しく呼びかてくる

 

「ん?」

 

俺はその声に、手放しかけていた意識を目覚めさせて答える

 

「…私ね、今、幸せやよ」

 

微笑んだ三葉の体は、布団にくるまってはいるが、その下はなにも着ていない。結婚を許してもらえた喜びで、今日は中々に盛り上がってしまった。

 

「俺だって、幸せだよ」

 

俺は、そんな三葉の頭を優しく撫でながら答える。俺は本当に、幸せだった。これ以上ないってくらい。今この瞬間が、泣きたくなるくらいに嬉しくて、愛おしかった

 

「私達…こんなに幸せで、いいのかな…」

 

しかし、ふと、三葉の表情が曇る

 

「高校生のときにね、学校で国語の先生が言ってたんよ。人生っていうのは、幸せとか、苦しみとか、困難とか、そういうのがバランスよく訪れるんだって。ほら、人生谷あり山ありってよく言うやろ?」

 

そこで三葉は、言葉を区切って俺を見つめる

 

「だからね、怖いんよ…この幸せの代償に、瀧君がまたいなくなってしまうんやないかって…そんなこと、考えちゃうんよ…」

 

さっきまで幸せそうに微笑んでいた三葉の顔は、今は泣きそうになっている。

 

俺は、そんな三葉のほっぺたをつねる

 

「ひゃっ!な、なにすんの瀧君!」

 

「くくっ、三葉が泣きそうだったからさ」

 

俺はそう言うと、三葉の目を見つめて、言葉を紡ぐ

 

「三葉の言うことが本当なら、俺たちはこれから先ずっと幸せに生きていけると思うな」

 

「な、なんで?」

 

俺の言葉を聞いた三葉は、困惑からか首を少し傾げる

 

「だって考えてみろよ。俺達は、今まで何してきた?頑張って糸守の人達を救ったのに、好きになった人の記憶を消されて、何年も記憶のないままお互いを探し続けて、やっと再会したと思ったら、今度は崖から落ちて死にかけるわ、結構散々じゃないか?」

 

三葉は、目を丸くして俺の話を聞いている

 

「考えてみたら、三葉に出会えた事は、俺の人生で一番最高な出来事だったけどさ、それ以外は、俺達めちゃくちゃ困難とか苦難を味わってるじゃないか。それで、それを乗り越えてきたからこそ、今俺はこうして三葉を抱きしめられてるんだ」

 

俺はそこで言葉を区切ると、微笑みながら三葉の頭を撫でる

 

「だからさ、もし、本当にバランスが取れてるなら、俺達にはこれから幸せな事しか起こらないって、だって…もう一生分の苦難は乗り越えたんだから」

 

そこまで言うと、三葉は、撫でられながら俯いてしまう。やがて、ポタポタと音がして、布団に水滴が落ちる

 

「…ほら、泣くなって」

 

ぎゅっと、三葉を抱きしめる。胸の中で、静かに嗚咽を漏らす三葉が、愛おしくて。

 

「…瀧君…ありがとう…」

 

細く、消え入るような声で、三葉が言う。でも、その声はしっかりと俺の耳に、心に届く。

 

「ばーか、お礼を言いたいのはむしろこっちのほうだよ…」

 

その声に、三葉はゆっくりと顔を上げる。その顔は、涙で濡れていて、目は真っ赤だが、優しく微笑んでいる。

 

「俺を、見つけてくれてありがとうな、三葉」

 

微笑む俺に、三葉も笑い返す

 

「瀧君も、私を見つけてくれてありがとう」

 

そして、2人で、抱きしめ合う。心を君で、満たすために

 

 

 

 

「私ね…今とっても幸せなんよ」

 

 

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

 

 

「ふふっ、似た者同士やからね」

 

 

 

「俺は三葉ほど単純じゃないぞ」

 

 

 

「うるさい…私は純粋なんや」

 

 

 

「自分で言ったらおしまいだな」

 

 

 

「…瀧君好き」

 

 

 

「おいおい、会話になってないって…」

 

 

 

「だって…好きなんやもん」

 

 

 

「…まぁ、俺はもっと好きだけどな」

 

 

 

「じゃあ、その10倍好き」

 

 

 

「じゃあその100倍…ってこれ、終わらないやつだよな」

 

 

 

「私には敵わんよ、瀧君」

 

 

 

「あー、なんか尻に轢かれそうだな」

 

 

 

「そうそう、私の方が歳上やからね」

 

 

 

「精神年齢は俺の方が上だけどな」

 

 

 

「そんなことない、瀧君意外と子供やし」

 

 

 

「…そうか?」

 

 

 

「そうそう、思ったことすぐ口に出るとことか」

 

 

 

「…入れ替わってる時の話か?」

 

 

 

「さぁ…自分の胸に聞いてみんさい」

 

 

 

「三葉さんお願い。教えてくれ」

 

 

 

「じゃあ…教えてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、優しいキスが俺の唇を奪う

 

 

 

微笑んだ三葉は、そのまま俺の胸に顔を埋める

 

 

 

「愛してる…瀧君」

 

 

 

人間って、この上ないくらい幸せになると、涙が出てくるんだ

 

 

 

もう、俺の想いを三葉に伝える言葉は、たった一言で十分だった

 

 

 

「…愛してるよ、三葉」

 

 

 

 

俺達は、その日、抱き合いながら眠った

 

 

 

 

 

 

 

ただその温もりを、離さないように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、また来んさいね。今度は、ひ孫が見れるとええのう」

 

おばあちゃんは笑いながら言うが、俺と三葉は顔が真っ赤になる。

 

「あっ、てことは、私まだ10代なのに、おばさんになるやん…」

 

そんな思いはつゆ知らず、四葉ちゃんは勝手にショックを受けている

 

「ちょ、ちょっと!まだ子供とか!全然考えてないんやから!」

 

三葉が叫ぶが、おばあちゃんはニコニコしているし、四葉ちゃんは眉をひそめる。

 

「何言うてんの…あんだけしてるんやに、絶対すぐできるわ…」

 

「な!っ…はっ!?」

 

四葉ちゃんの言葉に、三葉は声にならない叫びをあげる

 

「まさか…お姉ちゃん聞こえとらんと思っとったの?私隣の部屋なんやから、もうちょっと声抑え…「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

四葉ちゃんの声に被せるように、三葉は叫び出して、車に走る。その顔は、赤を通り越して黒くなりかけている。三葉は、車に勢いよく乗り込むと、後部座席で泣き始めた。

 

「……」

 

俺は、ジトッとした目で四葉ちゃんを見る

 

 

「…あー、その、しょうがないやん…」

 

その目を見て、少し、申し訳なさそうに、四葉ちゃんは目をそらす

 

「はぁー…」

 

俺は久々に大きなため息をつく。たしかに、四葉ちゃんの部屋は隣だったのに、まったく気にしてなかったな…それに、他の人のことは知らないけど、たぶん、三葉は…その…かなり…あー…声が大きいほう…だと思う。

 

結局、泣き出した三葉をなだめるのに30分以上かかった。最初の方は、

 

「もうお嫁に行けん…」

 

「妹に…妹に…ぁぁ」

 

ってずっと嘆いていたが

 

「大丈夫、お前はもう俺の嫁みたいなもんだから、心配すんなって」

 

となだめ続けたら、次第に落ち着いてきた。泣いてはいたが…

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあねー!!おばあちゃん!また来るね!!」

 

「ありがとうございました!また今度お邪魔させていただきます!」

 

「ほらお姉ちゃん!いつまでもいじけてないで、おばあちゃんにさよならしんさいよ…」

 

「うぅ…おばあちゃん、また来るね…」

 

 

おばあちゃんは、窓の外でフリフリと手を振っている。その顔はとても優しい笑顔だった。

 

俺はもう一度会釈すると、そのまま車を出した。

 

 

今日は東京に帰る日なのだが、俺達は復興中の糸守に立ち寄っていくことにした。俺が五年前に見た、あの荒れ果てた糸守が、どれほどまで復興されたのか、気になったからだ。

 

ただ、五年前まで立ち入り禁止になっていたので、行っても大丈夫なのか悩んでいたところ、昨日三葉がお父さんに確認を取ってくれたのだ。結果、来ても大丈夫と言うことで、このまま車で向かうことになっている。

 

 

 

「……」

 

「………」

 

「…………」

 

 

車の中は、何故か無言だった。おそらく三葉が拗ねているからだろうか、四葉ちゃんも気まずそうにしている。きっと今回の旅行で三葉にとって車に思い出はないだろうな…そんなことを思いながら、のどかな岐阜の道をひた走る。

 

あの日見た、糸守を目指して

 

 

 

 

 

 

 

 

大通りから外れ、山道を抜けると、一際大きな建物がその姿を現わす

 

糸守高校、俺が三葉に入っていたときに通った、ある意味馴染みのある高校だ。糸守から人がいなくなったことで廃校になってしまったが、今では糸守復興のための本部として使われているそうだ

 

高校の敷地内に入ると、多くの人々が動き回っている。そして、待っていたのか、その中から俊樹さんが俺達の車の方に歩いてくる

 

「あ、お父さんや!」

 

車の中から手を振る四葉ちゃんに軽く手を挙げた俊樹さんは、運転席の俺に話しかける

 

「なんだ、遅かったじゃないか。三葉が寝坊でもしたのか?」

 

俊樹さんは、後部座席で、いつの間に寝ている三葉を見ながら言う。おそらく、泣き疲れたのだろう。

 

「あー…はは…まぁ、そんなところですかね…」

 

乾いた笑いしか出ないが、俺は俊樹さんをごまかすためにその場を取り繕う

 

「まぁ、あの子は小さい頃から朝が弱い。仕方ないだろう。車は向こうに止めてくれ」

 

「はい、わかりました」

 

その指示に従って、俺は校庭の一角に作られている、簡易的な駐車場に車を止める。止まっている車は、そのほとんどが作業車だった。ミニバンやハイエース。クレーン車にトラックなど、様々な車が止まっているが、俺は、その車の多くに、とある文字が書いてあるのが目に入った

 

 

勅使河原建設

 

 

「テッシー…」

 

俺の口から、ふと、ある人の名前が出る。

 

話したのは、三葉としてだけだったが、あいつはとても良いやつだ。もし、機会があるならもう一度、今度は俺として会ってみたいな

 

そんなことを思いながら、俺は車のエンジンを止め、後ろを振り返った。四葉ちゃんと目が合ったが、彼女は眠ってる三葉を見て、肩をすくめた。

 

「ほら、三葉、もう着いたぞ」

 

そう言って三葉の肩を軽く揺すると、三葉はゆっくりとまぶたを開ける。その顔は未だに眠そうだ。

 

「瀧君?私、寝ちゃったん?」

 

「あぁ、ぐっすりな」

 

「ほんと、気づいたら寝とったよお姉ちゃん」

 

俺に続いて四葉ちゃんも答える

 

「それより、着いたからさっさとお父さんのところに行くぞ」

 

その言葉で、三葉はあたりを見回した

 

「あ…ほんとや、ごめんね…」

 

そう言って、自分の鞄を持つと車の扉を開ける。俺もそれを見てから外に出た。

 

外は、これ以上ないってくらいの快晴で、雲もなく、風がとても気持ちよかった。大きく深呼吸すると、心地よい空気が肺を満たすような気がした。

 

 

どこか懐かしい、糸守の空気だ

 

 

「瀧さん、何しとるん?」

 

「ん?ちょっと深呼吸だよ。ここは空気がいいな」

 

「んー、確かに、東京に比べるといい感じかな?」

 

首を傾げながら、四葉ちゃんは言う。その仕草に、俺は不覚にもちょっとドキッとしてしまった。

 

「むぅー…」

 

俺はハッとして後ろを振り返ると、三葉がジト目でこちらを見ている

 

「な、なんだよ…」

 

「…別に」

 

そして、フンっとそっぽを向く。

 

いつも思うんだが、どうしてこう、女って生き物は鋭いのだろうか。いい意味でも、悪い意味でも…

 

 

校庭を歩いて、事務所らしきテントに向かう。歩く途中に周りを見たが、ここには、糸守町役場の職員だった人達や、ボランティア、建設関係の人達などが、忙しなく動き回っている。

 

事務所らしきテントの下では、パソコンなら何やらが設置されていて、どうやら臨時の本部になっているようだ。

 

俺は、その中にいる俊樹さんに話しかける。

 

「宮水さん、今日はお忙しいのに、本当にすいません…」

 

「いや、いいんだ。君が糸守に興味を持ってくれて嬉しいよ。だが、基本的にこの校庭より下はまだ立ち入り禁止なんだ。もう8年も経っていると言うのに、まだ政府の許可が降りん。そもそも、復興のためにこうして動き始めることができたのですら、去年のことだ」

 

「去年…そんなに、どうしてそんなに遅れてしまったんですか?」

 

俺は素直に、気になって尋ねる。俺がここに来たのは五年前だから、隕石が落ちてから少なくとも3年間は復興が始まっていなかったということになるが、そのすぐ後にでも復興に着手して、今はかなり進んでいるものだと思っていたのだ

 

「政府の連中だ。隕石の調査、町を再建するために地盤に影響が出ていないか、その他様々な諸事情、によって、私達は復興を始めることができなかった」

 

俊樹さんはそこでため息をつくと、話を続ける

 

「まぁ、復興と言っても、実際にそのための金を出すのは国だ。だから、ここまで復興を始めるのを渋ったのだ。しかも、ここは人口の少ない田舎町、ほとんど森と山だ。その上、この町で被害に遭った人は幸いなことに誰もいない。だから政府は、町の住人を移住させるための費用さえ出せばいいと、タカをくくっていたのだろう」

 

「それは…」

 

その話を聞いて、俺は言葉に詰まる。何といえばいいかわからない。確かに、復興には莫大なお金がかかるというのは分かるが、今でも糸守に戻りたいと思っている人はたくさんいるはずなのに…

 

「俺…知りませんでした…」

 

「…まぁ、地震や台風の多いこの国ではよくある話だよ。君にこんな愚痴のようなことを言ってもしょうがなかったね。この校庭と、学校から少し降りたところ以外は工事中で立ち入り禁止だから、入らないようにしてくれ。では、私はそろそろ仕事でここを離れる。三葉も四葉も、気をつけて帰りなさい」

 

「…うん、お父さんも気をつけてね」

 

「じゃあね、お父さん」

 

三葉と四葉ちゃんに軽く頷くと、俊樹さんは部下を引き連れてテントから出て行った。

 

 

「…糸守、大変なんだな…」

 

俊樹さんの話を聞いて、町を一つ復興するのがどれだけ大変か、ほんの少しだけどわかった気がする。

 

「うん…私も、あの後すぐ東京に出て来たから、こんな話聞いたのは初めてやったよ」

 

三葉も、俺と同じ気持ちなのだろう。どこか、その表情は暗い

 

「私は…お父さんが色んな町とか他の県に行ったりして、復興の支援をお願いしてたのは知っとったけど…思った以上に大変なんやね…」

 

「でも…きっとこの町はすぐに復興できるさ。これだけの人達が力を合わせてるんだから」

 

俺は、今も忙しなく動き回っている人達を見ながら言う。

 

「なぁ、ちょっと糸守を見に行ってもいいか?」

 

だから、見ておきたいんだ、もう一度、この町の姿を

 

「あ、私も行くよ。四葉もおいで」

 

 

俺達はテントを出ると、五年前に、俺が糸守を見下ろした校庭の端に向かった。

 

 

 

 

あの日見た景色を、もう一度見るために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私…糸守に住んでたのに、この景色をちゃんと見るの初めてかも…」

 

眼下に広がる糸守を見下ろしながら、三葉は呟く。

 

五年前に来たときとなんら変わらない。糸守の姿がそこにはあった。彗星の落下によって2つに増えた糸守湖と、その衝撃と爆風によってなぎ倒された家々が、今も広がっている。ただ前と違うのは。ところどころの道に、瓦礫の撤去のためか、ダンプカーやクレーン車が走っていることだ。

 

 

「そうなのか?避難してたときはしばらくここに居たんじゃないのか?」

 

「そうなんやけど、避難したお年寄りの世話とか、若い人達は色々なことを手伝わされて、じっくりこの光景を見る暇なんてなかったんよ…」

 

まだ、糸守から目をそらさずに三葉は言う。その目には、ただ、悲しみがこもっている

 

「私ね、ここに住んでたときは、こんな町嫌やとか、早く都会に出たいとか、そんなことばっかり考えとった。けど、こうやって見ると、やっぱり思うんよ…」

 

そこで、三葉は初めて俺の方を見る

 

 

「やっぱりここが、私の故郷なんだって…」

 

 

そう言って、三葉は悲しそうに笑う

 

 

「お姉ちゃん…」

 

 

そう呟く四葉ちゃんも、その目には悲しみがこもっているように見えた

 

俺は三葉を優しく抱き寄せる

 

 

「三葉…この町が、復興することができたら、たくさん遊びに来よう。もし、三葉が望むなら、こっちに引っ越したっていい」

 

「そんな、ええって…仕事とかもあるし…」

 

「仕事なんて、こっちで見つければいいさ。仕事はたくさんあるけれど、故郷は一個しかないだろ?それに、お父さんにも言っちゃったしな、お前を幸せにするって。俺にとっては、お前が俺の一番で、全てなんだよ。だから、三葉が望むことなら、なんでも叶えてやりたいんだ」

 

そう言って、微笑みかける。三葉の目には、いつのまにか涙が溜まっている。そんな三葉を撫でながら、糸守の方を見る

 

「だから、今この景色を、目に焼き付けておこう。そして、いつかまた、ここから見下ろすんだ。あの、綺麗な糸守を…」

 

 

三葉も、俺に合わせて、糸守に向き直る

 

 

「うん…いつか…また見たい…私達の糸守を…」

 

 

頰をつたる涙は、太陽の光を反射して、キラキラと輝いている。そんな三葉を見て、俺はまた微笑んだ

 

 

「それじゃ、帰ろうか、東京に」

 

「うん!」

 

 

頷く三葉を見て、その手を引く、そして振り返る。

 

が、

 

 

「よ、四葉!?」

 

三葉の叫び声で、俺は立ち止まる。振り返ると、三葉が驚きの表情で四葉ちゃんを見ている。

 

「ど、どうした?」

 

俺も四葉ちゃんに近づいて、その顔を覗き込む。

 

すると、三葉が叫んだ理由がわかった。

 

 

四葉ちゃんは、それはもう

 

 

号泣していたのだ

 

 

「もぅ…お姉ちゃんも…瀧さんも…感動させんといてよぉ…うぅ」

 

 

泣きじゃくる四葉ちゃんを見て、俺達は顔を見合す。そして、笑い合う。

 

「よしよし、四葉…お姉ちゃんと一緒に帰ろうね」

 

「意外と子供なんだな、四葉ちゃんも」

 

俺達は、四葉ちゃんを優しく抱き寄せながら、慰める

 

そんな俺達に、糸守の太陽が優しく光を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、忘れて!!」

 

「無理やなぁ」

 

「俺もむり」

 

顔を真っ赤にして唸る四葉ちゃんの前を、ニヤニヤしながら俺と三葉で歩く。

 

「くっ、このバカップルめ…」

 

「四葉、それは褒め言葉にしかならんよ」

 

「あ、でももうすぐ夫婦だな」

 

「じゃあバカ夫婦で」

 

「それじゃただ頭が悪そうな夫婦になっちゃうじゃんか…」

 

そんなくだらないことを話しながら、俺達は車に戻る。これから、東京に戻らなければならない。明日から、また仕事が待っている。それに、仕事の他にも、色々とやらなきゃいけないことがある…

 

俺達が車の近くまでくると、その横に止まっている車の前で、2人の男女が話している。1人は高身長の男で、少し伸びた坊主に無精髭を生やしている。もう1人は、髪をショートカットに切り揃えた女性だ。

 

その姿を見て、俺と三葉は同時に叫ぶ

 

「「テッシー!!サヤちん!!」」

 

その声で、2人がこちらに振り向く

 

「あ、やべっ」

 

思わず叫んでしまったが、俺は、俺として2人に会うのは初めてだった。だから、バレたらまずい…三葉の叫びと被っていたのが幸いだった。

 

三葉がバカという顔をしながらこちらを睨んでいる。

 

しょうがないだろ…

 

「三葉?三葉!三葉やないか!!」

 

「ほんとだ!!三葉や!こんなところで何してるん!?」

 

2人はこちらに走ってくると、三葉を取り囲む

 

「ゴールデンウィークやから、たまには帰省しようと思って、あと…家族に紹介したい人もおったから…」

 

三葉はそう言ってこちらを見る。それに合わせて、2人もこちらを向く。

 

「あっ…もしかして、この前三葉がLINEで言ってた彼氏って…この人?」

 

そう言うサヤちんに、三葉は恥ずかしそうに頷く

 

「はぁー、ほんまに、あの三葉に彼氏ができたんやな…っと、紹介が遅れてたわ、俺は勅使河原克彦、三葉とは昔からの馴染みなんや。俺たちも、帰省でこっちに戻ってきとる」

 

テッシーがニッと笑い、俺に簡単な自己紹介をする。

 

「私は名取早耶香、克彦と同じで、三葉とは幼馴染やよ」

 

サヤちんもテッシーにならって自己紹介をする。2人とも、俺はすでに知ってるんだけどな…

 

とにかく、向こうは俺のことを知っているはずもないので、改めて自己紹介をする

 

「俺は立花瀧です。東京で三葉と知り合って、今は付き合っています。よろしくお願いします」

 

なんだか、違和感しかないが、かしこまって挨拶をする。

 

下げた頭をあげると、テッシーが渋い顔でこちらを観ている。

 

「…立花君、でええか?あんた、ちょっとタメ口で話してくれんか?」

 

「え?あ、一応俺三葉より3歳年下なんで…」

 

「かまへんって、いいからちょっと話してくれんか?」

 

「わ、わかり…わかったよ、これでいいか?」

 

どうしてもと言うので、俺は笑いながらそう言ってみせた。すると、テッシーは目を丸くして、今度は何かを考え始めた。そして、今度はさやちんの方を向く

 

「早耶香…わかるか?この感じ」

 

「うん…言いたいことはわかるよ」

 

「ちょっと…2人ともなに言っとんの?」

 

そうつっこむ三葉を無視して、2人は俺にぐいと顔を近づけると、同時に言葉を発した

 

「「どっかで、会ったことある?」」

 

俺の頭は一瞬思考停止する。俊樹さんにもすぐに疑われたし、テッシーとサヤちんにもか…

 

「い、いや、ないよ、ない。初めましてだよ…」

 

俺は焦って、言葉が変になっているが、とにかくこの場を取り繕わなければ…

 

「っかしーな、絶対どっかで会ったことあると思ったんやけどなぁ…」

 

テッシーはなおも首をひねりながら言う

 

「私も、最初に声聞いたときから思っとったわ」

 

助けを求めるために三葉の方を向くと、彼女は苦笑いしながらこちらを見ている。なんとかしてくれ…

 

「ま、まぁいいじゃんか!とりあえず、2人の話は三葉からよく聞いてたから、今日は会えてよかったよ」

 

なんだかんだ言って、俺も敬語で話すよりはこっちの方がしっくりくる

 

「んー、まぁそうやな、俺も、三葉の彼氏ってのがどんな奴か気になっとったし、俺も会えてよかったわ」

 

テッシーはそう言って微笑む。こいつは、ほんといい奴なんだ

 

「私も!ずっと気になってたんよ!三葉、イケメン彼氏見つけられてよかったね」

 

いたずらっぽく微笑むサヤちんに、三葉もいたずらっぽい笑みを返す

 

「ふふん、自慢の彼氏やよ」

 

「イケメンやなくて悪かったな…」

 

何故か勝手に落ち込んでるテッシーは、サヤちんを睨む

 

「あー、私には克彦が一番やって」

 

「ほんとに思っとるんかいそれ!!」

 

そんなことを言い合う2人を見て、三葉は優しく微笑んでいる。旧友に会えて、三葉もかなり嬉しいのだろう。

 

「あっ、そうや!そんなことより、俺達な、実は結婚するんや。んで、今年中には式をやろうと思っとる。もちろん三葉には出席してもらうけど、瀧がええなら、お前も出席してくれんか?」

 

「え、いいのか?」

 

「当たり前や!もう友達やろ?」

 

テッシーは、親指を立ててニッと笑う

 

俺も、それに返すように、親指を立てる。何回も言うけど、こいつは本当、いい奴だな…

 

「早耶香もええやろ?」

 

「もちろん、私も、立花君には是非来て欲しいよ!」

 

サヤちんも、笑顔でそう言う。

 

「…だったら、私達の結婚式にも、2人は呼ばんとね」

 

ふと、三葉がそんなことを呟く。その発言に、2人は目を丸くする

 

「な、なんや!もう結婚するのか!?」

 

「嘘やろ!?彼氏ができたって言ってからまだ1ヶ月経っとらんやん!」

 

2人は今度は三葉に詰め寄る。俺は苦笑することしかできない。三葉が助けてと目線を送ってくるが、目を逸らす。さっきのお返しだ、三葉

 

「ま、まぁ色々あって結婚することになったんよ…ただ、私達は本当に大丈夫やよ」

 

「色々…まさか、三葉、あんたできたの?」

 

「できた?」

 

できたという言葉に、三葉は一瞬考えるように首を傾げたが、すぐに意味を理解したのか、今度は顔を真っ赤にして叫ぶ

 

「ちゃ、ちゃうわ!!あほ!」

 

「な、なんだ…俺もてっきり…」

 

「テッシーもサヤちんもばかや!」

 

そんな光景を見ながら、俺は黙って苦笑いをしていた。

 

 

 

そのとき、ふと、俺の視界の隅に、誰かがいた。振り向くと、四葉ちゃんと目が合う。

 

 

「あっ…」

 

 

四葉ちゃんのこと、すっかり忘れてた…

 

テッシーとサヤちんもそんな四葉を見て冷や汗を垂らす

 

「あ…四葉ちゃん…ひ、久しぶりやな?」

 

「忘れてたわけでは、ないんよ?」

 

 

四葉ちゃんの頰を、ぷくぅーーっと、膨れ上がっていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんって!四葉!」

 

「ふんっ、どうせ私はお邪魔ですよ」

 

必死に言い訳をしながら四葉ちゃんを追いかける三葉を見ながら、俺はまた苦笑していた。

 

「それじゃ、俺はこの辺で」

 

「おう、またな、瀧」

 

「ばいばい立花君!」

 

俺は、手を振る2人に返すように、振り返りながら手をあげる

 

 

 

 

 

「またな!!テッシー!サヤちん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ」

 

走っていく瀧の姿を見て、俺の脳裏に、とある昔の日の記憶が蘇る

 

制服を着た三葉が、振り返りながら、手をあげて、自分の家の方に走っていく

 

『まったねー!!テッシー!サヤちん!』

 

 

 

俺は、早耶香の方を向いて、驚きを隠せないまま言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…思い出したわ…狐憑きや…」

 

 

そんな言葉が消えていった空には、ただ、太陽が照りつけるばかりだった

 




更新が遅れてしまい申し訳無いです
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