君の名は。〜after story〜   作:ぽてとDA

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第30話「素晴らしい未来を夢に見て」

ガタガタと揺れる窓に、長閑な田舎の景色が過ぎ去っていく。帰りの新幹線の中、俺と、対面に座る三葉は、ただ、窓の外を眺めていた。

 

「四葉、ぐっすり寝とるね」

 

ふと、三葉が四葉ちゃんに向き直る

 

「あぁ、なんだかんだ疲れが溜まってたんだろ」

 

四葉ちゃんは、新幹線に乗ってしばらくしてから、ぐっすりと、眠りに落ちてしまっていた

 

しばらく、お互いに見つめ合う。その愛する人の目を

 

そして、三葉は優しく微笑んだ後、俺の手を握る

 

 

「私、瀧君と会えてよかった…」

 

「…なんだよ、いきなり」

 

俺は、その手を握り返しながら言う

 

「いきなり言っちゃいかんの?」

 

「いや…そんなことはないけど…」

 

恥ずかしくなって、頭の後ろをかく。

 

「でも、会えてって、いつのことだ?ほら、入れ替わりの時のことか、再会したときのことか?それとも記憶を取り戻してからのこと?俺たちには、たくさん出会いがあるだろ?」

 

その言葉に、三葉は静かに首を振る。

 

「ううん、どれか一つとかじゃないんよ。全部…瀧君と出会えた、その全てに、感謝しとるんよ」

 

「なぁ…ほんとに照れるんだが…」

 

嬉しくて、少し俯く、そんなことは、俺だって思っている。だから、俺も三葉に思いを伝えようとしたとき、三葉は、対面に座っていた席から、俺の隣に移動する。そして、コトンと、その頭を俺の肩に預ける。

 

「ねぇ瀧君…」

 

「ん?」

 

「好きで好きでしょうがない時って、どうしたらええんやろ」

 

「んー、抱きつくとか」

 

「足りんの」

 

「じゃあ、キスする」

 

「まだ足りんの…」

 

そこで、三葉は、今度は俺の目をジッと見つめる。

 

「抱きしめても、キスしても、いくら体を重ねても、好きな気持ちが溢れ出てきて、変になりそうなんよ…瀧君…なんだか、私、どうしちゃったんやろ…」

 

三葉の目は、まるで人の庭に迷い込んだ子猫のように、不安な表現だった

 

「三葉…俺だって、同じ気持ちだよ。三葉を想うと、その全てを手に入れたくなる。好きで好きで、堪らなくなる…」

 

「瀧君…」

 

三葉の柔らかい唇に、優しく口付ける。薪を与えられた焚き火が燃え上がるように、俺達はお互いを求めあった。

 

電車の中だと言うのを忘れて、ひたすらに、愛の口付けを…

 

やがて、どちらかとなく離れる。その表情は、お互いに優しく微笑んでいた

 

「少し、落ち着いたかも…私、瀧君が好きすぎて変になってた…」

 

「俺も、ちょっと変だったかも」

 

そして、そんな自分達がおかしくて、2人で笑う

 

「ふふふっ、好きすぎ病だね。あ、瀧君の場合、三葉病か…」

 

「うわ…自意識過剰だな。それじゃあ三葉は、瀧君病だろ」

 

「先生…瀧君病はどうやったら治りますか?」

 

「うーむ。これは、間違いなく不治の病ですな」

 

「そ、そんな、困ります!私、胸の動機が治らないんです!」

 

「それでは、簡単な治療で病を和らげましょう」

 

そしてまた、三葉の唇を奪う。少し強引に

 

「あっ…ん…」

 

三葉は、嬌声を上げるが、その顔は微笑んでいる

 

唇を離すと、三葉が頰を膨らませてこちらを見ている

 

「先生…セクハラです…」

 

「くくっ、残念だが治療法はこれしかないんだな」

 

「くっ、こんなことになるなんて…」

 

そこで、耐えきれずに2人して吹き出す。

 

「あははっ、もう私達、何やってんやろうね」

 

「くくっ、ほんと、ふざけすぎだわ」

 

「でも、ちょっと楽しかったかも」

 

「俺も、子供のときに戻った気分だよ」

 

そこで、いきなり三葉は俺の胸に顔を埋める。

 

「ほんとに、今日は甘えん坊だな」

 

「むり…好き」

 

「はいはい」

 

言いながら、その頭を撫でる。ただひたすらに、可愛くて、愛おしくて、どうしようかと思う。三葉の可愛さについてだけで、論文が書けそうだ。

 

「なぁ三葉」

 

俺は、頭を撫でながら言う

 

「なに?」

 

 

 

「東京に戻ったら、籍を入れようぜ」

 

 

 

 

何気なく言ったその声で、三葉はガバッと起き上がる。

 

「えっ!!えっ!、え、も、もう、ええの?」

 

その顔は、嬉しいのか、困惑なのか、しかめっ面なのか、よくわからない表情だった。それがおかしくて、俺は思わず笑ってしまう

 

「ちょ!笑ってる場合やないわ!ほんとに、ええの?でも、まだ瀧君のお父さんに挨拶にも行っとらんし、荷物も纏めとらんし…四葉もおるし」

 

早口でまくしたてる三葉は、今度はうんうんと頭を抱えて唸りだした

 

「いや、別に帰ったらすぐとは言ってないぞ。ただ、帰ったら色々準備を始めて、それが整い次第、籍を入れようってことだよ」

 

その言葉で、混乱していた三葉は、ようやく落ち着きを取り戻し始める

 

「そ、そうだよね…でも、色々大変やね」

 

「まぁ、結婚するんだしな」

 

「2人の家も見つけんとね」

 

「そうだな、三葉はどんな家がいい?」

 

「んー、どっちにしろアパートかマンションを借りることになると思うから、駅から近くて、築年数が比較的新しくて、1LDKがいい!」

 

「お、意外と注文が多いんだな」

 

「あ、あとね!カウンターキッチン!ずっと夢だったんよ!それに、バスとトイレは別で、エアコンがついてて、それから、プロパンガスはダメやね、もうほんと、アホみたいに高いんやから!」

 

目をキラキラと輝かせて、三葉は、2人の家について語る。そんな様子が愛らしくて、俺はニヤニヤしながら見ていた

 

「む、なにニヤニヤしとるんよ、瀧君も真剣に考えてよ、2人の生活がかかってるんやから」

 

「あー、はいはい。でも、都心でそんな家探したら、家賃がとんでもないことになるぞ」

 

俺は苦笑しながら言う。

 

「あっそうだよね…んー、でも、別に都心じゃなくても、ちょっと外れたところでも全然ええよ」

 

「それなら、大丈夫かもな。まぁちょっと通勤は長くなるけど、俺もずっと都心住みだったから、ちょっと別のところに行きたい気持ちはあるな」

 

「じゃあ、そうしようよ!それに、いずれは、2人で家を建てたいな。それで、子供達と一緒に暮らすんよ…」

 

目をつぶりながら、天を仰ぐ三葉は、おそらく将来の生活を想像しているのだろう。その顔はフニャッとしてにやけている

 

「子供かぁ、三葉は何人欲しい?」

 

「え!?えっと、えっとぉ…ふ、2人?、いやでも…3人でもええかも…」

 

三葉は顔を赤くして、小声になりながら言う

 

「くくっ、ほんと、三葉のことが好きすぎて、気をつけないと、子沢山家族になりそうだな」

 

「あ!そうやよ!ほんと!この前だって、つけてないのにいきなり…」

 

そこまで言って、赤くなっていた三葉の顔がさらに真っ赤になる。もしこれがアニメの世界なら、確実に湯気が出ていただろう

 

「こ、この変態!」

 

「な、なんだよいきなり」

 

いきなりの罵倒、完全に八つ当たりだ

 

「ほんっとにこの男は、すぐそういう話に持っていこうとするんやから」

 

三葉はフンっとそっぽを向く。

 

「ごめんごめん、三葉さん。俺が悪かったですよ」

 

子供をなだめるように、その頭を撫でる。三葉はムッとした表情でこちらを睨んでくるが、手を払いのけないあたり、心では嬉しがっているのだ

 

「ゆ、許さないんやから…」

 

「別にいいよ、でも、撫でられるの嬉しいんだろ?」

 

俺はニヤッと笑い三葉に言う

 

「うっ、嬉しくなんてない!」

 

「ほんとは?」

 

 

「嬉しくない」

 

 

「ほんとに?」

 

 

「…嬉しい」

 

そこで、たまらずに三葉を抱きしめる。どうしてこんなにも、愛らしいのだろうか。どうやら俺は、三葉病にかかってしまったようだ。

 

「三葉先生、どうやら俺は、三葉病にかかってしまったようです。どうやったら治りますか?」

 

俺は心底困った表情で言う。そして、三葉は、まるで医者が患者に残酷な結果を伝えるときのような神妙な顔で返す

 

「残念ですが…この病とは、一生付き合い続けなければならないでしょう」

 

「そ、そんな!俺は四六時中三葉先生を抱きしめたくなるんです!これじゃ生活できません!」

 

「うーん。では、私が治療法を教えて差し上げま…」

 

突然、三葉が言葉を止める。さっきまで楽しそうに茶番をしていたのに、その顔は、今は真っ青だ。そして、向いている方向は俺の方ではない。

 

三葉が向いてる方に俺も顔を向ける

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

四葉ちゃんと、目があった

 

 

 

 

「あの…」

 

 

 

 

申し訳なさそうに、四葉ちゃんは、口を開く

 

 

 

「ごめんなさい…私…また、眠りますので…どうぞ…続けてください…私は…私は…」

 

 

 

そう言って四葉ちゃんは席を立つと、フラフラとどこかへ行ってしまう。

 

 

数秒遅れて、三葉が必死の形相で立ち上がった

 

 

「ち、違うんよ!!違うんよ!!!四葉!!戻ってきて!!!お姉ちゃんのところに戻ってきてぇぇ!!」

 

 

三葉が走り去って、そこには、唖然とした表情の俺だけが取り残された。

 

 

 

 

 

しばらくして、俺は一つ、大きなため息をつくと、また窓の外を眺める

 

 

 

 

 

先程まで田舎を写していたその景色には、今やところどころ大きな建物を写している。

 

 

そんな景色を見ながら、俺は呟く

 

 

「なんか、楽しいなぁ…」

 

 

 

 

 

そんな呟きは、ただ、窓の外を流れていく景色と一緒に、遠くへと過ぎ去っていった

 

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