君の名は。〜after story〜   作:ぽてとDA

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しばらくは新婚生活編が続いていきます


第33話「めくるめく日々の中で」

「おはようございます!!!」

 

自分の部署の扉を思い切り開けて、挨拶をする。自分の声が部屋中に響いた気がするけど、別に気にならない。そのまま鼻歌まじりに自分の席に着くと、仕事の準備に取り掛かる。

 

だが、ふと自分の肩を叩かれて、隣を見ると、同僚の夏海が怪訝な表情をしてこちらを見ていた。

 

「な、なに?夏海」

 

不思議そうに聞く私に、夏海は大きくため息をつく

 

「なに?じゃないでしょ…ずっと言おうと思ってたけど、あんた、結婚してからキャラ変わりすぎよ…」

 

「え?そうかな?別にいつも通りだけど」

 

「よく言うわよ、あんな新入社員みたいな挨拶して入ってきて、仕事中もずっと笑顔だし…あんた知ってるの?あんたの笑顔に堕ちた男どもが、いつのまにか三葉ファンクラブ作ってんのよ?」

 

 

「な、なんよそれ!聞いてないよ!」

 

「なまってるわよ。とにかく三葉、嬉しいのは分かるけど、少し落ち着きなさいよ」

 

「えぇ…そんな事言われても…」

 

本当に、そんな事言われてもである。私はいつもどおりに会社に出勤して、いつもどおり仕事をしているだけなのだから。結婚してから変わったことと言えば、瀧君と一緒に出勤しているから、会社の最寄りまで瀧君と一緒だということだけだ。

 

 

 

そういえば…今日は電車を降りるとき他の人に隠れるように瀧君にちゅーされて…

 

 

「ふへへ…」

 

 

「み、三葉…」

 

そんな事を思い出して、つい出てしまった笑いに、明らかに夏海はドン引いている。

 

「まったく…こりゃダメね。ほんと、お幸せねぇ」

 

「あ、ちょっと…夏海!」

 

結局夏海は呆れながらどこかへ行ってしまう。そんな夏海の背中を見ながらぼうっとしていると、ポケットがブルルっと震える。携帯が何かを受信したようだ。

 

取り出して画面を開くと、ポップアップされたLINEのトークが表示される

 

 

《今日も一日頑張ろうな!三葉!》

 

 

 

 

私は、旦那様からのLINEを見て、次第に顔がにやけていくのが自分でもわかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにニヤついてんだよ、瀧」

 

会社の屋上で、昼飯の卵サンドにかぶりつきながら、吉田は俺を怪訝な目で見る

 

「え?ニヤついてねーよ」

 

「いや、めちゃめちゃニヤけてるからな…」

 

 

 

俺は、朝に三葉から届いた返信のLINEを見返していただけで、別段ニヤついてなどいないはずだ

 

 

 

《瀧君も頑張れ!今日も大好きやよ…笑》

 

 

 

最初にそのLINEを見たとき、なんだか無性に体をかきむしりたくなった。嬉しいとか、恥ずかしいとか、そんな気持ちが混ざっていた。

 

頭をデスクに打ち付けてニヤける俺を、吉田が冷たい目で見ていたのは言わずとも分かるだろう

 

 

 

 

「ところで瀧、結婚式はいつやるんだ?俺はまだ招待状もらってねーぞ」

 

今度はミックスサンドを口に入れながら吉田は話を変える。食べながらじゃないと喋れないのかこいつは…

 

「それがなぁ…多分半年以上先か、下手したら一年後とかになるよ。とりあえず新婚旅行が控えてるからな。新社会人の経済力には限界があるぜ…」

 

俺は吉田の言葉に難しい表情をする。とにかく、結婚というのは意外とお金がかかる。よく漫画やアニメの中だと、キャラクターが結婚してすぐ結婚式、新婚旅行なんて流れになるけど、実際問題そうはいかない。たとえば、2人の引っ越しにもお金がかかるし、結婚指輪もそうだ。結婚式の費用だって、招待する人数いかんによってはとんでもないことになってしまう。新社会人で、今まで貯金なんて大してしてこなかった自分には大きな問題だった

 

 

「まぁ、先に新婚旅行が妥当だな。なるべく早く結婚休暇申請しとけよ。籍を入れてから3ヶ月以内が期限だったよな?」

 

 

「そうだな。それはもう課長と相談してるから大丈夫だよ」

 

俺の会社では、結婚すると、新婚旅行のために5日間の結婚休暇がもらえる。少ないと思うかもしれないが、土日を挟むと計9日間の休みになる。まぁ大体の人はそこに有給を加えて10連休とかにするのだが

 

「んで、どこ行くんだよ、新婚旅行」

 

「嫁はハワイって言ってるけど、せっかくだしアメリカとか、ヨーロッパもいいかなって思ってさ」

 

海外旅行の定番と言えばハワイやグアムだろう。実際、新婚旅行でハワイやグアムに行く夫婦の割合はかなり高いようだ

 

ただ、こんな言い方をするのはどうかと思うが、ハワイやグアムは定番すぎると思っている。ツアーやプランも豊富で、飛行機の時間もそこまで長くない。特にグアムなどあっという間に着いてしまう。つまるところ、結構簡単に行けてしまうのだ。だから、普通の旅行でハワイやグアムに行って、せっかくの特別なハネムーンは、普段行けないようなアメリカやヨーロッパに行ってみたかった

 

「アメリカはいいなぁ、グランドキャニオンとか見れるのか?」

 

「まぁ、プランにもよるけど、グランドキャニオンを入れるなら、見に行くのでアメリカ内をかなり移動しなきゃならないな」

 

「楽しそうだけど…大変そうだな…」

 

「海外旅行なんてそんなもんだろ」

 

本当に、海外旅行は楽しいけど、お金と手間は国内旅行に比べて段違いに高いものだ

 

「俺は結婚したら沖縄とかでいいかなー」

 

「まぁ、それもありっちゃアリだぞ」

 

「だよな…なんか、結婚はいいけど、色々大変だな」

 

吉田はサンドイッチのゴミをゴミ箱に放り投げながら言う。

 

「ほんとなぁ…思ったより家計はきついし、俺より嫁の方が給料高いしなぁ」

 

俺はそんな小さい愚痴を吐きながら、空を仰ぐ。はるか遠くに、小さな鳥が羽ばたいている。その鳥は風に煽られて、前に進んでいない。だがはたして、俺はあの鳥と違って前に進めているのだろうか?

 

「って言いながら、お前毎日楽しそうだぞ?」

 

吉田も、空を見上げながら、そう言う

 

「そりゃ…嫁が美人で可愛いし…家事もしっかりできるし…完璧だからな…」

 

「…お前そりゃ自慢かよ」

 

「あ?事実だよ」

 

吉田は一つため息をつくと立ち上がる。腕時計を見ると、もうすぐ昼休みは終わってしまうころだった。

 

「ま、結婚式するなら呼べよ。行ってやるからさ」

 

俺は、そんな吉田に苦笑する。なんだか、コイツと話していると悩みが馬鹿らしくなってくる

 

「やたら上からだな…もうちょっと待っててくれよ、多分呼ぶからさ」

 

俺はそう言って、吉田より先に歩き出す。

 

 

「あ、おい!多分ってなんだよ!おい!」

 

そんな吉田の叫びを無視して、俺はまた空を見上げる。

 

 

その綺麗な青空は、まるで自分の心を表しているみたいだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トントントン、と小気味よく包丁がまな板を叩く。それに合わせて、玉ねぎが綺麗に切れていく。定時に仕事を終わることができた私は、瀧君より一足早く家に帰って、こうして夕飯の準備をしている。

 

「瀧君まだかな…」

 

私はそんなことを呟きながら時計を見る。もうすぐ時刻は7時になるところだった。つい30分くらい前に仕事が終わったという連絡が来たので、もうそろそろ帰って来るころだろう

 

とにかく、今は瀧君のために美味しい料理を作らなきゃ

 

 

あ、ちなみに、今日の夕飯は肉じゃがです

 

 

そして、出来上がった料理をテーブルに並べていく。瀧君が帰ってきたらすぐ食べれるように。きっと瀧君はお腹を減らして帰って来るんだから

 

その時、玄関の方でドアの鍵が開く音が聞こえる

 

私はすぐにリビングを出て瀧君を迎えにいく

 

 

「わり、遅くなった」

 

 

片手を上げてはにかみながら謝る瀧君に抱きつきたい気持ちをぐっと抑える。

 

「もう!待ってたんやよ!」

 

だから、ぷりぷりと怒ったフリをする

 

「ごめんって、それより、すげえいい匂いするな…今日のご飯何?」

 

「んー、当てたら食べさせてあげる」

 

そう言うと、瀧君はうーんと額に手を当てて考え出す。肉じゃがって一発で当てたらキスしてあげよう…そんなことを思いながら、私は瀧君を見つめる

 

「わかった!煮物!」

 

瀧君は指をパチンと鳴らして答える。でも、残念…

 

「あー、不正解やね、残念…瀧君は夕飯なし!」

 

「うそだろ!絶対そうだと思ったのに…」

 

瀧君は笑いながら靴を脱いで家に上がる。本当に、こんな毎日が楽しい。ただ、ただ、そう思う

 

「じゃあ、夕飯無しなら、代わりに三葉のこと食べてやる」

 

瀧君はニヤッとして私を見る

 

「はぇ?」

 

突然の発言に私の頭はフリーズしてしまう。すると、瀧君が近づいてきて、私は後ろに下がるけど、廊下の壁に阻まれてこれ以上下がれなくなった。そんな私の頭の横に瀧君は手をつく。

 

 

あ…これ

 

 

テレビとか漫画でよく見るやつや…

 

 

 

私はそんなことを考えながら、瀧君に唇を奪われる

 

 

 

 

どれくらいキスをしただろうか、この時間は、幸せすぎて、どれ程の時間が経っているのかいつも曖昧になる

 

 

 

……

 

 

 

 

「瀧君…壁ドンなんて、どこで覚えてきたん…」

 

 

私は、やっと唇を離してくれた瀧君をジーッと睨む。そんな瀧君は未だに余裕そうに笑っている

 

 

「さぁね、こんな可愛い奥さんがいるからな、多少は男らしいことしないとさ」

 

「なんやそれ…」

 

 

ほんと、この男は一日に何度私に恋をさせるのだろうか。これでは私の心は持たない

 

 

「このままベッドに連れてってもいいんだぞ?」

 

ジト目で睨む私に、瀧君は爆弾発言をする。ほんと、心臓に悪い

 

「な、な!何言ってんの!!?」

 

「嫌か?」

 

「え!嫌じゃ…嫌じゃないけど!ほら!…あ、ご飯まだやろ!?せっかく作ったのに冷めちゃうから!一緒に食べよ?」

 

とにかく、この窮地から脱するために、私は必死だった。このままでは本当にベッドに連れていかれて、瀧君の虜になってしまう

 

「あー、そうだった。じゃあとりあえず飯食べるか」

 

「うん!うん!ほら、いこ!」

 

私の言葉で瀧君はご飯のことを思い出したのか、手を離してわたしを解放してくれた。そして、一緒にリビングに向かう

 

 

 

瀧君がテーブルにつくと、私は炊飯器からお茶碗にご飯を盛る。ピカピカのお米は、湯気を立てて本当に美味しそうだった

 

「食べ過ぎかな…」

 

瀧君と同じくらい盛ったお茶碗を見ながら私は呟く。

 

「ま、いっか」

 

たしか、女の子はよく食べる方がいい。誰かがそう言っていた。誰かは知らないけど…

 

 

「「いただきます!」」

 

2人で手を合わせて、食事を始める。こんな風に、瀧君と一緒に夫婦として夕飯を食べることが、本当に嬉しい。何気ない一挙手一投足が、私達にとっては幸せなこと

 

 

かけがいのない幸せな2人の時間だった

 

 

「やっぱ三葉の料理は美味いな…」

 

瀧君は、空になったお皿を前にして言う。ビックリするくらいの速さでご飯を食べ終わった瀧君は、すぐにお代わりをしていた。やっぱり仕事でお腹を減らしていたのだろう

 

「瀧君やって、料理美味いやん」

 

「俺のはダメだ、味だけなんだよな。三葉の料理は、なんていうか…家庭的?実家の味?とか、そういう感じなんだよな」

 

「なんよそれ…」

 

「まぁ端的に言うと美味いってこと」

 

そんな風に言ってくれる瀧君は苦笑する。私も、それに返すように微笑む

 

 

「ありがとね…瀧君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕飯を食べ終え、風呂に入った俺は、パジャマに着替えてリビングでテレビを見ている。三葉は今、俺の後にシャワーを浴びている。先に入っていいと言ったのだが、俺の方が疲れてるからとお風呂を譲ってくれたのだ。ほんと、なんていい奥さんなのだろうか…

 

 

やがて、シャワーの音が止み、ドライヤーで髪を乾かす音が聞こえる。

 

しばらくすると、リビングの扉が少しだけ開いた。そして、ちょこんと三葉が顔だけをこちらに出している

 

「何してんの?」

 

気になってそう聞くと、三葉はほんのりと顔を赤くする

 

「…そこに干してある、下着取って」

 

三葉は、相変わらず顔だけを出して、指で洗濯物の下着を指す

 

どうやら、変えの下着を持って行くのを忘れたようだ。ほんの少し前なら、俺が三葉の下着を触るだけでぷりぷりと怒っていたのだが、今では気軽に下着を持って行ける仲になったようだ。

 

「あぁ、ちょっと持ってろ」

 

俺は室内用の物干しから三葉の白い下着を取ると、ドアから顔だけ出している三葉に手渡そうとする。

 

 

 

 

 

ちょっと待て…

 

 

 

 

 

三葉は今、何も着てないのか…

 

 

 

 

 

 

俺の中に、悪い思考が渦巻く

 

 

 

 

 

「瀧君?早く頂戴よ…」

 

手を伸ばして困り顔をする三葉は、死ぬほど可愛い。

 

そんな三葉を隠している扉を勢いよく引く。そこには、タオル一枚に身を包み、湯気と熱気で顔をほんのりと赤くしている三葉が立っていた

 

 

「ちょ!何しとんの!?」

 

 

三葉は顔を真っ赤にして手で体を隠そうとする。しかし、その割と豊満なバストは手で隠しきれるものではない。

 

 

「ひゃぁ!!!」

 

 

俺はそんな三葉をお姫様抱っこすると、そのまま寝室に連れて行く

 

 

「ちょ!!瀧君!いきなり何よ!!」

 

 

「ほら、暴れんなって、落っこちるぞ?」

 

 

三葉は顔を真っ赤にしてジタバタするけれど、俺はそんな簡単には離さない

 

 

 

 

そして、寝室のダブルベッドに優しく三葉を寝かせ、俺はその上に覆い被さるように手をつく。

 

「ぁ…瀧君…こんなの、急すぎやよ…」

 

「嫌か?」

 

「やじゃない…やじゃないけど…」

 

「けど?」

 

顔を真っ赤にして俺の視線から逃げようとする三葉の顎に手を添える。逃げられないように

 

俺は知っている。三葉はこれが意外と好きだ。

 

「ぁ…」

 

逃げられなくなった三葉は、俺の視線に吸い込まれるように目を合わせる

 

「瀧君…」

 

「なに?」

 

 

「ちゅー…して?」

 

 

 

なぁ、世の中の男に聞くけど、これで我慢できるやつがいるか?いないだろ?

 

誰に聞いたかわからないけど、俺はそのまま三葉に唇を重ねる

 

「はぁ…ん…」

 

三葉の口から嬌声が漏れる

 

そして、どれほどの時間そうしていただろうか

 

お互いに離れ、見つめ合う

 

 

 

 

「瀧君…」

 

 

 

 

「三葉…」

 

 

 

 

「「愛してる…」」

 

 

 

 

ただ、一言、それで十分だった

 

 

 

 

そして俺達は、ひたすらに愛し合った

 

 

 

 

 

もう二度と、君を失くさないように

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