君の名は。〜after story〜   作:ぽてとDA

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第34話「最後のピース」

「うーん…」

 

「どうしたんだ?」

 

私は今、リビングのソファーで、瀧君に抱かれながらテレビを見ている。けれど、画面の中の番組には一切集中せずに、私は考え事に耽っていた

 

「…いやね、なんか、足りないような気がして…」

 

「足りない?」

 

私の言葉に、瀧君はキョトンと首を傾げる

 

「うん…なんか、パズルのピースの、最後の1つが、まだ埋まってないみたいな?」

 

「…あー、それ、俺が三葉を探してる時にずっと思ってたな…でも、三葉と出会ってからは、そんなことないぞ?」

 

「なんやろ…なんでなのか、私も分からんのよ」

 

相変わらず瀧君の胸に抱からながらも、私は考える。最近家にいる時は、1人でいるよりも瀧君にくっついている時間の方が長い。けど、それが幸せなのだからしょうがない

 

「…まだ、何か思い出してないことがあるとか?」

 

瀧君も真剣に考えてくれてるのか、目を細める

 

「ううん、全部覚えとるよ。瀧君が口噛み酒飲んだこととか、胸触ってたこととか、私の体でマイケル踊ってたこととかね」

 

私はジトッとした目で瀧君を見る

 

「げっ…だ、だから、なんでそういうことばっかり覚えてるんだよ…」

 

「忘れるわけないやろ!後輩の女子に、マイケル踊ってください!って頼まれたときの私の気持ちがわかる!?」

 

「最高じゃんか」

 

そんな瀧君のほっぺたを、私は軽くつねる。瀧君は痛がって逃げようとするから、私は瀧君に覆い被さって逃げれないようにする

 

いつも私は瀧君の下だけど、今日は上になる。下からこちらを見つめる瀧君を見て、私は1人優越感に浸る

 

「ふふ、私が上やね」

 

「あぁ、で、どうするんだ?」

 

私が優位なはずなのに、瀧君は不敵に微笑む。余裕綽々と言ったところだ

 

「む、どうしようかな…」

 

瀧君に何をしてやろうか、私は考える

最初に浮かんだのはキス。この体勢なら、いつも蕩けさせられてしまう私も、瀧君を虜にすることができるかも?

 

次にくすぐり、いつもからかわれているお返しに、やってやろうかな?

 

けど、そんなことを考えているうちに、瀧君の腕が、私の後頭部と腰を優しく掴む

 

「えっ…」

 

言葉を発したときには、すでに口付けられていた

 

 

「……!!」

 

 

私は声にならない悲鳴をあげて、瀧君から離れようとする。けれども、瀧君の腕は私を離してくれない

 

あぁ…もうだめかも…

 

結局、いつもの通り、瀧君に堕とされてしまう

 

私は、幸せでとろとろになった頭で、そんなことを考えていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…ばか!瀧君のばか!」

 

「いや、何もしてないだろ…」

 

苦笑する瀧君に、私は八つ当たりをする。ほんとにこの男は…

 

「んで、最後のパズルのピースは、埋まりそうか?」

 

瀧君は、思い出したように話し出す

 

「ううん、まだ…なんやけど、やっぱりなんだかわからない」

 

「おかしいな…俺はそんな感じないんだけどな…」

 

「んー、私だけ、まだ何かやってないことがあるのかな?」

 

考えても、わからない。瀧君にはないらしいこの感覚。一体なんなのだろうか?

 

「誰かを探してるような、そんな感覚か?」

 

「ううん、違うんよ。探してるっていうより、会いたい?って感じ?わかる?」

 

「会いたいか…でも、誰に?俺以上に会いたい人がいるのか?」

 

瀧君はニヤッと笑う。どうやらからかわれているようだ

 

「自意識過剰男やね…そんなんやとモテへんよ」

 

「ふっ、モテる必要がなくなったからな…」

 

キメ顔をする瀧君を無視して、私はもう一度考える。

 

私が会いたい人

 

 

瀧君にはないこの感覚から、瀧君はすでに会っている人

 

 

私が会ってなくて、瀧君は会っている人

 

 

 

 

 

ふと

 

 

 

 

私の頭の中に、とある人が浮かんでくる

 

 

整った顔立ちにに、サラサラの綺麗な髪、そして、モデルかと疑わんばかりのスタイルのいい身体

 

 

「あっ…」

 

私は、目を見開いて瀧君を見る

 

「ん?なんか分かったのか?」

 

「瀧君…なんで私すぐ思いつかんかったんやろ…藤井君とは何回も会ってるのに…」

 

「司?なんで……あっ」

 

瀧君も、目を見開いて、パチンと手を叩く

 

 

そう、私たち2人共がお世話になったあの人は

 

 

「「奥寺先輩!!!」」

 

 

そんな2人の声が、部屋に響き渡った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新宿のとあるカフェの席に、俺と三葉は座っている。そのお洒落カフェは、俺と司と高木でカフェ巡りをしていた時に見つけた場所だ。ちなみに、俺達の知っているカフェランキングではこのカフェは第2位に位置している。

 

「ね、ねぇ瀧君…私なんか変やない?」

 

三葉はもじもじと体をくねらせ、髪やら服やらをいじっている。俺達はこのカフェで奥寺先輩と待ち合わせている。だから、三葉も緊張しているのだろう

 

「んー、どこも変じゃないぞ。いつも通り可愛いよ」

 

俺はとりあえずそう言う。実際、三葉はいつも通り可愛いくて綺麗だった。艶のある長い黒髪に、可愛さと綺麗さを両立させている顔立ち。文句なしの美人だ。正直、三葉を連れて歩いてるときは優越感すらあるほどだ

 

「瀧君の言うことは信用できへん…」

 

だが、三葉は俺の方をジトッとした目で睨む

 

「な、なんでだよ…」

 

「初めて会ったとき、私の髪型似合っとらんのに、似合っとるって嘘ついたやん」

 

「げっ、またそんな昔のことを…てかあれは!ほんとに似合ってたって!ただ、俺の好みが黒髪ロングなだけなの!」

 

「ふーん…」

 

「あ、お前信じてないだろ!」

 

「日頃の行いのせいやね」

 

「くっ…まぁとにかく、三葉はどんな髪型だろうと、どんな服だろうと可愛いよ」

 

そう言うと、三葉の顔がみるみる赤くなる。ほんとに、感情豊かで、それがすぐ顔に出るから面白いなぁ…

 

「ば、ばか…そんなこと言うても、許さんからね!」

 

顔を真っ赤にして、三葉がフンっとそっぽを向く。そんな三葉を見て、俺はクスクスと笑う。結婚しても相変わらず、三葉のこのクセは直らない

 

だが、そっぽを向いたまま、三葉が固まっているのに気づく

 

俺も気になって、三葉が向いている方向に目を向ける。

 

そこには

 

 

「あら、久しぶりね、瀧君」

 

 

おそらく、俺の初恋だったかもしれない人が立っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…初めまして、立花三葉です…」

 

三葉は、そう自己紹介して、おずおずと頭を下げる。そんな三葉を見て、奥寺先輩はふふっと笑うと、俺と目を合わせる

 

「瀧君ったら、こんな可愛いお嫁さんを見つけたのね」

 

「ええ、自慢の嫁ですよ」

 

俺も、そんな奥寺先輩に微笑む

 

「ふふっ、自己紹介が遅れたわね、私は藤井ミキ。司とは何回か会ってるんでしょ?三葉ちゃんの話は彼から何度も聞いてるわ。話通り、可愛い子ね」

 

不敵に笑う奥寺先輩は、昔と変わらずやっぱり美人だ、というか、歳をとってむしろ大人の魅力が増したように見える。これで三葉と同い年とは、信じられない…

 

「可愛いなんてそんな…おくで…えっと、ミキさんの方がずっと素敵です!」

 

「あら、ありがとう」

 

微笑む奥寺先輩を、三葉はキラキラした目で見る。なんというか、三葉にとっては奥寺先輩が憧れの人のようだ

 

「あ、そうだ、三葉ちゃん私と同い年でしょ?いつまで敬語のつもり?」

 

「え!いや、なんか、年上の感じがして…」

 

「じゃあ今からタメ口で話すこと」

 

そう言って、奥寺先輩はウィンクをする。パチンと音がしそうな、そのウィンクで、三葉の顔に笑顔が広がる

 

「うん!じゃあ、ミキちゃんでええかな?」

 

「ええ!もちろん!…」

 

しかし、そんな三葉を見て、奥寺先輩は突然目を細める。そして、俺を見て、三葉を見て、を交互に繰り返す。

 

 

「ミキちゃん?」

 

 

「ど、どうしたんすか?」

 

 

俺も、気になって思わず聞いてしまうが、奥寺先輩はうーんと唸ると、やがて、うんうんと一人で頷き、俺の目を見つめる

 

 

 

「ねぇ、瀧君…探しもの、見つかったのね…」

 

 

 

そして、奥寺先輩は優しく微笑む

 

 

その言葉に、俺も三葉も驚いた。

 

 

俺にとっての探しもの、つまりは三葉のことだが、それを知っているのは、この世界で俺と三葉だけだ。だが、奥寺先輩は、明らかに三葉が探しものだと知っていたかのような言葉を使った

 

 

「え!あ、あの…奥寺先…いや、藤井先輩?ミキさん?えっと…」

 

しどろもどろになる俺を見て、奥寺先輩はクスクスと笑う

 

「名前で呼びにくいなら、奥寺先輩、でいいわよ?なんだか瀧君に名前で呼ばれるとムズムズするし」

 

「あっ、じゃあお言葉に甘えて…でも、奥寺先輩、どうして、その…探しもののこと…」

 

焦りからか、うまく喋れない。三葉を見ても、驚きで声が出ないといった感じだ

 

「うーん、なんていうかな…女の…勘?」

 

だが、俺と三葉の耳に入ってきたのは、思ってもない言葉だった

 

 

「か、勘?」

 

「そ、勘よ、勘。あなた達を見てるとね、すっごく落ち着くのよ。まるで、元々は1つの存在だったかのように、2人には違和感がないの。だから、きっと瀧君が探してたのは、三葉ちゃんなんだなって、そう思っただけよ」

 

奥寺先輩の話を聞いて、俺の心臓の鼓動は落ち着いてくる。どうやら、俺と三葉の関係がバレたわけではないらしい

 

「それは…ありがとうございます…」

 

俺は、気恥ずかしくて、頭の後ろをかきながら言う

 

 

「ふふっ、なんだか、昔の岐阜旅行、思い出すわね…」

 

奥寺先輩は少しだけ目を瞑る。昔のことを思い出してるのだろうか

 

「あー、あのときは…なんか色々、すいませんした…」

 

俺は、1人で勝手に行ってしまったことを思い出して、頭を下げる。今考えると、せっかくついてきてもらったのに、書き置きだけ残して1人で出て行くなんて、失礼にも程がある

 

「もういいのよ。それに、瀧君今幸せそうじゃない。去年会ったときとは大違いね」

 

「そう…ですかね?」

 

「うん、全然違うわよ。就活が上手くいってなかったからなのか、スーツが似合わなすぎたからなのかわからないけどね」

 

奥寺先輩はいたずらっぽく笑う。この人の笑顔をもまた、昔から変わらない

 

「うっ、それは禁句ですよ…」

 

「でも瀧君、別にスーツが似合わないわけじゃないもんね」

 

そう言う三葉に、気になったのか、奥寺先輩が体を乗り出す

 

「ん?それってどうゆうこと?」

 

「あー!三葉!言わなくていいからな!」

 

「瀧君に拒否権はないんよ。実は瀧君って、スーツが似合わないんじゃなくて、スーツを選ぶセンスが絶望的にないんよね」

 

三葉は、クスクスと笑いながら話す。三葉と四葉ちゃんでスーツを選んだときのことを思い出しているのだろう

 

「あー!なるほどね!確かに…瀧君のルックスでスーツが似合わないのは、少し変だなって思ってたのよ」

 

「そうなんよ!瀧君ったらイケメンやのに、スーツだけはセンスがないんやよね」

 

「あ、あんたら…」

 

俺は繰り出される罵詈雑言の応酬に、苦笑いを浮かべるしかなかった

 

「うーん…私が選ぶとしたら、縦ストラプの入った紺のスーツかな?」

 

「ミキちゃんさすが!私が選んだのもそんな感じのやつやよ!」

 

「あら、やっぱり気が合うわね」

 

楽しそうに笑う2人を見て、やっぱり今日奥寺先輩と会ったのは正解だったと思う。同い年の2人は、まるで昔からの友達のように笑いあっている

 

「わり、俺ちょっとトイレ…」

 

「あ、瀧君が逃げた」

 

「逃げてねぇよ!」

 

「ふふっ、行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

瀧君に向かって、楽しそうにちょこちょこと手を振るミキちゃんを見つめて、私は微笑む。今日、ミキちゃんと会えて良かった…

 

そこで、私の目線にミキちゃんも気づく

 

ずっと手をつけていなかったミルクティーを一口すすると、ミキちゃんは言葉を発する

 

「三葉ちゃんと会えて、よかったわ」

 

微笑むミキちゃんは、本当に綺麗だった。あの頃と変わらずに

 

「私もやよ、なんだか、話してるだけで、とっても楽しいんよ」

 

「そうそう!三葉ちゃんとは自然に話が弾むのよ、なんだか昔からの知り合いみたいな感じだわ…」

 

「あー、でも、今日が初めましてやし…きっと私達も相性が良いんやね」

 

思わず私は苦笑する。もう、入れ替わりのときに会ってたほとんどの人に、この台詞を言われてしまった。私達はお互いにどれほどボロを出していたのだろうか?正直、今まで気づかれなかったのは運が良かった

 

「ふふっ、たぶんそうね」

 

ミキちゃんはコロコロと笑う。隣のテーブルの男子高校生3人組がさっきからこっちをチラチラと見ているけど、私は気づかないフリをしていた。おそらく、ミキちゃんの美貌にあてられたのだろう

 

ミキちゃんは、彼らの方をチラッと見ると、ウィンクをする

 

そのせいで、2人がテーブルに突っ伏して、もう1人は鼻血を出した

 

「ちょ…ミキちゃん…」

 

「あら、初々しいわね…」

 

そんなことを言うミキちゃんに、私は吹き出す。なんだか懐かしい…入れ替わっていたとき、一番仲が良かったのは間違いなくミキちゃんだった。あのときは、東京のお姉さんに憧れていたのもあったけど、今は、とても仲の良い友達になれた感じだ

 

だから、1人でこっそりと計画していたこの話をしてみることにした

 

「ねぇねぇ、ミキちゃん、実はね、来月瀧君の誕生日なんよ」

 

「あー、そういえば、そうね…昔、バイト先のみんなで祝ったことがあったわ」

 

ミキちゃんはまた、昔を懐かしむような顔をする

 

「それでね…まだ誰にも話しとらんのだけど、こんなこと考えとるんよ…」

 

私は、ミキちゃんに近づいて、耳打ちする

 

すると、ミキちゃんの顔がパッとほころぶ

 

「それ!いいわね!私も協力するわよ!」

 

「ほんと!?ミキちゃんありがとう!」

 

私はつい、ミキちゃんに抱きつく。シャンプーだか香水だかわからないけど、とてつもないいい香りでクラクラしそうだ

 

そんなミキちゃんは、私が憧れていた、綺麗な笑顔で言う

 

 

「三葉ちゃん、瀧君を、よろしくね」

 

 

だから、私も笑顔で答える

 

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

最後のパズルのピースが、今埋まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ2人とも、仲良くするのよ」

 

「今日はありがとうございました」

 

「ミキちゃん!またね!」

 

私が手を振ると、瀧君は恥ずかしそうに頭を下げて、三葉ちゃんはぶんぶんと大きく手を振る。ほんと、どっちも可愛いわね…

 

別れの言葉とともに、2人は手を繋いで歩いていく。後ろ姿だけでも、2人が愛し合っているのがよくわかる。私は、携帯を取り出すと、連絡先の一番上に出ている名前にかける

 

 

『もしもし、ミキ?どうしたんだ?』

 

 

「司?今、瀧君と三葉ちゃんに会ってたのよ」

 

 

『あー、なるほど…で、どうだった?』

 

 

「あなたの言ってたこと、本当だったわ…」

 

 

『だから言ったろ?三葉ちゃんってさ…まるで…』

 

 

 

 

 

私の脳裏に、とある昔の記憶が浮かぶ。

 

 

バイト帰りに2人でカフェに行って、帰るとき

 

 

瀧君は、まるで女の子のようにぶんぶんと大きく手を振る

 

 

 

『奥寺先輩!また明日!』

 

 

 

 

 

 

私は、そんな記憶を思い出して、思わず微笑む

 

 

「まるで、瀧君みたいよね…」

 

 

 

 

遠くを歩く2人は、楽しそうに笑いあっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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