君の名は。〜after story〜   作:ぽてとDA

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夢の中で、2人は再会する…


第6話「まどろみの中に」

大きな湖が太陽の光を反射して、その光で生い茂る草木が輝いているように見える。建物もどことなく古風な感じを残していて、まるで故郷に帰ってきたような、そんな懐かしい気分になる。

 

 

いい町だな、糸守は

 

 

俺は今、何故か高校生の時の制服を着て糸守の道を歩いている

 

 

しばらく歩くと、俺とてっしーが作った糸守オープンカフェ(仮名)があった。場違いなパラソルが風に揺れてゆらゆらとはためいている

 

静寂に包まれている糸森で、自販機がガシャンっと大きな音を立てる

 

 

俺がブラックコーヒーを自販機から取り出そうとすると、後ろで木々がざわめく音がした

 

 

「来るのが遅いぞ、三葉」

 

 

俺はゆっくりと振り向く。そこには、髪をショートカットに切りそろえた高校生姿の三葉が立っていた

 

 

「瀧君の方こそ、遅すぎるんよ。私は8年も待ったんやからね!」

 

 

「あー、そりゃ仕方ないだろ…」

 

 

俺は頭の後ろをかきながら答える

 

 

そして、ふんっとそっぽを向く三葉に向けて、俺は新しく買ったミルクティーを放り投げた

 

 

「あ、ありがとう」

 

 

「まぁ座れって」

 

 

ベンチに座った俺は横をポンポンと叩いて三葉を誘う

 

 

三葉が俺の横に座ると、2人で飲み物を飲む。飲み物が喉を通る音以外、何も聞こえない。ただ、木々がざわめく音が、森の音が聴こえる、ただそれだけだ。

 

 

「待たせて、悪かったな」

 

 

「ん、いいんよ。さっき瀧君が言ったやろ?仕方ないって」

 

 

「でも、8年は長かったろ?」

 

 

「瀧君だって、5年待ったんやし、平気やよ、それよりも、私を見つけてくれてありがとう」

 

 

三葉は、花咲くような笑顔で俺を見る。俺が好きになった笑顔だ。

 

 

「お前に、言いたかった言葉があるんだ」

 

 

「お前が世界のどこにいても、必ずもう一度、会いに行くって」

 

 

「…なんやそれ、臭いセリフやな」

 

 

「じゃあ、なんで泣いてるんだ?」

 

 

「しらんよ…ばか」

 

 

優しく、三葉を抱きしめる

 

 

「瀧君…瀧君…」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「ううん、なんでもない。ただ、名前を呼びたかっただけやよ」

 

 

「そっか」

 

 

抱きしめる力を強める。三葉の心臓の鼓動が聴こえる。こんなにも愛しい人が、こんなにも近くにいるんだ

 

 

「三葉…好きだ」

 

 

「私も好き…でも瀧君、ちゃんと好きって言えるようになったんやね、あんなの、手に書くなんて、反則やよ」

 

 

「あれは…しょうがないだろ…」

 

 

「しょうがないってなんよ!あれじゃあ…名前…わかんないよ…ばか」

 

 

「すまん、でも、気持ち、伝えたくてさ」

 

 

「…しょうがないから、許す」

 

 

今度は、三葉が俺のことを強く抱きしめてきた。でも、何かを思い出したように、顔を赤くしてこちらを見る

 

 

「あっ、でも、胸を触ったことはまだ許さへんからね!」

 

 

「げっ!お前まだそんなこと覚えてんのか…だから、一回だけだって!」

 

 

「一回でも何回でも同じ!、瀧君のエッ…んっ」

 

 

ぷりぷりと怒り出した三葉の言葉を遮って、その唇を奪う

 

 

まるで世界の時が止まったように、永遠に感じるように、幸せな瞬間だった

 

 

そして、2人は離れる

 

 

「キスして…誤魔化そうとするなんて…瀧君のバカ…エッチ…変態…」

 

 

顔を真っ赤にした三葉は、どうやらまだ怒っているようだ

 

 

「おいおい、そこまでいうかよ。でもな、三葉お前…俺の体で風呂入ったろ?お風呂禁止って言ってたくせに」

 

 

「な、何言うてんの!入っとらんよ!」

 

 

「嘘だな、朝起きたらシャンプーの香りがしてたからな」

 

 

「……瀧君は、乙女心がわかっとらん…」

 

 

「まぁおあいこってことだな」

 

 

「うぅ、なんだかうまく丸め込まれた気がする…瀧君はもっと歳上を敬いんさい」

 

 

「入れ替わってたときは同い年だろうが」

 

 

「でも、実際は3歳も年上やんね」

 

 

「まぁ、俺が中学生の時に会いにきたもんな」

 

 

「ショックやったよ…好きな人に、誰お前って言われた私の気持ちがわかる?」

 

 

三葉はまたぷくーっと頰を膨らませて俺を睨んでくる

 

 

「知り合う前に会いに来てんだから、しょうがないって…、まさか三葉、そのショックで髪切ったのか?」

 

 

「似合ってないって言いたいんやろ…」

 

 

「だから…悪くは無いって」

 

 

「嘘やね!すぐわかるんやから!」

 

 

そう言って、三葉は俺の目を手で隠した

 

 

「何してんだ?」

 

 

「いいから、目瞑って」

 

 

言われた通りに、目を瞑る

 

 

「ええよ、開けて」

 

 

目を開けると、いつもの、ロングヘアーを組紐で留めた三葉がいた

 

 

「ほら、これで文句ないやろ」

 

 

「あー、俺は…そっちの方が好き、かな」

 

 

「っとに、この男は…」

 

 

幸せな時間、いつまでも、こうして一緒にいたかった

 

 

燦々と照りつけていた太陽は、いつのまにか地平線にその姿を消そうとしていた。もうそろそろかな。

 

 

「もう、日が落ちるな」

 

 

「そうだね…瀧君、私たち、大丈夫かな、上手く、やっていけるかな?」

 

 

「当たり前だろ?だって、こんなにも、お前のことが好きなんだから」

 

 

また三葉を抱きしめる

 

 

暖かい、そして、三葉のシャンプーの香りが、俺の鼻をくすぐる

 

 

「私も、大好きだよ…瀧君」

 

 

日が落ち、昼でも、夜でもない時間

 

 

 

 

 

 

 

 

「かたわれ時だ」

 

 

 

 

 

 

三葉が、そう呟く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はもう一度、その唇に深い、深いキスをした。

 

 

 

 

 


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