君の名は。〜after story〜   作:ぽてとDA

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第7話「姉と妹」

私が小学生4年生のとき、生まれ育った糸守町に彗星が落下した。綺麗で、静かで、一年中森の香りがする私の故郷は、一瞬で消え去ってしまった。

 

 

あの町には、もう二度と、戻れない

 

 

中学は岐阜の県立中学に入学したけど、姉は一足先に東京の大学に行ってしまった。

 

 

「ごめんね四葉、おばあちゃんのこと、頼んだよ」

 

「任せとき、お姉ちゃんは早く、探しもの、見つけなよ」

 

「…ありがとう、四葉」

 

 

あの日、星が降った日から、明るくて、真面目で、でもどこか抜けている私の姉は、ずっと暗い表情を残していた。ずっと何かを探しているような、そんな感じだったと思う。

 

そして、ある日突然東京の大学に行きたいと言い出し、お父さんとおばあちゃんを説得して、おばあちゃんを私に託して行ってしまった。

 

姉とは喧嘩もしたけれど、いつも優しくて、私を気にかけてくれる姉が大好きだった。

 

だから、私もお姉ちゃんのところに行きたかった。少しだけ、そう思った

 

 

私が中学3年生のとき、お父さんとおばあちゃんの仲違いがやっと終わりを告げた。お父さんが、おばあちゃんに謝ったのだ。

 

どうやらお父さんは、糸守町町長として、この彗星事件の後始末が終わったらおばあちゃんに今までのことを謝罪しに行こうと思っていたらしい

 

直角に頭を下げたお父さんを、おばあちゃんは優しい目で見て見つめていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん、おばあちゃん、私も、お姉ちゃんのとこに行きたい」

 

 

3人一緒に住みだしてしばらく経ったある日、夜ご飯を食べているとき、私はそう告白した

 

 

「そうか…私は何も言わん、四葉の好きにしなさい。なに、学費やらなんやら、金のことは心配するな」

 

「これもそう言っとる、四葉の好きにしいんさいな。四葉、三葉のこと、頼んだよ」

 

 

そうして、今、私は姉の借りているアパートに転がり込んで、一緒に生活をしている

 

姉の探しものはまだ見つからないみたいだ。まだ時々、暗い表情をして右手を見つめている。あの日から、変わらずに…

 

彼氏でもいれば、姉も少しは明るくなってくれるのだろうか、でも、きっと望み薄だと思う…

 

姉は、正直言ってかなり美人だ、綺麗な黒髪、可愛らしさと美しさを両立したような顔、あれでモテないわけがない。

 

でも、もう25歳になり、そろそろアラサーの域に達しようとしても、姉は頑なに彼氏を作らなかった。

 

どんなに男に誘われても頑として首を縦に振らない姉は、会社では鉄の女なんて言われてるらしい。この前家にきた姉の同僚の夏海さんに聞いた。それを聞いた姉はぷりぷりと怒っていたけれど

 

とにかく、だから姉はいつも、仕事が終わるとすぐに家に帰ってくるし、夏海さんや他の同僚と飲みに行くときも、必ず連絡をしてくれる。男の影なんて姉にはなかった。なかったのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い…」

 

リビングのソファに座って私はそう呟く。時計を見るとすでに11時も中頃を過ぎようとしていた。携帯を開いても、姉からの連絡は一向にない。

 

 

「なにしとるんよ…」

 

 

正直かなり心配だった、遅くなるならいつもは必ず連絡をくれる姉からの連絡がない。LINEを送っても、電話をしても出ないし、何か事件にでも巻き込まれていないといいんだけど…

 

まさか、男ができて、相手の家に泊まっているとか?いや、そんな訳はない、あの姉に彼氏なんてできっこない。きっともうすぐ、何食わぬ顔をして帰ってくるだろう。

 

 

「まったく、今日の夜ご飯当番…サボりよって…」

 

 

あとちょっとだけ、姉を待とう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャリ、扉が、玄関が開く音で目がさめる。意識を急速に覚醒させた私は、すぐに思い出す。お姉ちゃんを待っていたら、ソファでそのまま寝ちゃったんだった…今、何時だろう

 

時計を見た私は思わず目を見開いた、もう、日が昇りかけ、時計は5時を指していた。

 

「5時!もう朝やん!」

 

私はソファから飛び上がってリビングを出る

 

 

 

 

 

 

そこには、顔を赤くした姉がもじもじしながら立っていた。

 

 

 

 

 

「……あの、四葉…連絡するの忘れてて…ごめんね」

 

舌をちろっと出して謝る姉、きっと私が男だったらこれで許してしまったったんだろう。けど、残念ながら私は妹で、男ではない。

 

「お姉ちゃん…LINEも返さないし、電話も返さん…挙げ句の果てに朝帰りとは…しっかり説明してもらうんやからね」

 

まずはリビングで話を聞こう、そう思い踵を返すと、姉はまだもじもじしながら玄関の前に立っていた。

 

 

「なにやっとるん!はよきない!!」

 

「ひぃっ!」

 

お姉ちゃんが情けない声をあげた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、簡単にまとめると、朝ナンパされた男の家に行って、眠くなってそこで一晩過ごしてきたと…」

 

「ナ、ナンパやないもん」

 

「つっこむところはそこなん?」

 

姉は一旦シャワーを浴び、着替えてから私の前にちょこんと座った。時間はすでに6時を過ぎているが、私の登校にも姉の出勤にもまだ2時間以上時間がある、たっぷりお話しができる。

 

「てか、お姉ちゃん…世の中ではそれはナンパって言うんやよ…」

 

「ち、ちがうんよ!なんていうか、お互いを探してたみたいな!運命の人に巡り会えたみたいな!そんな感じなんよ!」

 

お姉ちゃんは、そこまで言って自分の言ったことに恥ずかしくなったのか、顔を赤くして俯く

 

「どっちにしても、その日に知り合った男の人の家で一晩過ごすのは、どうかと思うよ」

 

「うっ、でも…瀧君は悪い人じゃないし、何もされなかったよ?」

 

「されてたらどうするん…そんな無防備なことしてたら、襲われても文句言えへんよ!」

 

「で、でも、瀧君になら別に…」

 

そう言ってニヤニヤと笑い出した姉に呆れながら私は立ち上がる。たぶんこれは、何を言ってもだめだろう

 

「はぁー、もうええよ、とにかく遅くなるときや、泊まるときは連絡を入れること!わかった?」

 

「は、はい…」

 

なんだか、どっちが姉なのか、わからないけど、とりあえず、学校の準備をしに自分の部屋に行こう

 

 

「四葉…」

 

 

「ん?なに?」

 

 

「心配かけてごめんね…ありがとう」

 

 

そう言って、姉は笑った。まるで花が咲くような、美しくて、綺麗な笑顔だった。あの日から、姉のそんな笑顔を見たことは一度もない。

 

きっと、その瀧君とやらが、姉を変えてくれたのだろう。電車でナンパをするような男は信用に値しないけれど、そこだけは、その瀧君に感謝してあげよう

 

 

「もうええって、お姉ちゃんも今日会社やろ、さっさと準備しいんさい」

 

「うん!」

 

「あと、今度その瀧君って人、紹介してね」

 

四葉は、手をヒラヒラと振りながら自分の部屋に戻って行った。四葉には申し訳ないことしちゃったな、きっと心配してたんだろうな

 

でも、あの後、瀧君に揺り起こされて目が覚めたとき、すでに時間は4時半だった、四葉に連絡を入れている余裕なんてなかったのだ

 

 

朝を思い出し、三葉はまた頰を赤くする

 

 

もう完全に、瀧君に恋しちゃったな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三葉…三葉、起きろ三葉!」

 

「ん、うん?」

 

目を開けると、瀧君がいた

 

 

あー、幸せだな

 

 

なんだかとっても幸せな夢を見てた気がする。唇がなんだか熱い

 

 

夢で瀧君とキスでもしてたのかな?

 

 

あっ、でも、瀧君が私の家にいるはずないし、これも夢だよね。リアルな夢だなー、夢なら、キスしてもいいよね?

 

 

「瀧君…ちゅー、しよ?」

 

 

 

「なっ!!お前、三葉、寝ぼけてるだろ!起きろって!」

 

 

顔を真っ赤にした瀧君にガシガシと肩をゆすらされて、私の意識は急速に覚醒した

 

思い出した、瀧君の家で絵を見て、糸守に行く約束をして、それで…それでそのまま眠くなって…

 

「あっ!ご、ごめんね瀧君!、今!今何時!?」

 

跳ね起きた私は慌てて時間を見る。今日も会社がある、流石に2日連続で遅刻はできない

 

「まだ4時半だよ、今から出れば始発で家に帰れるだろ?そうすればシャワーくらい浴びてからでも仕事には間に合うよな?」

 

「う、うん…起こしてくれてありがと…でも瀧君!なんで昨日起こしてくれんかったの!」

 

「…あんな幸せそうな顔して寝てる人を起こせないって…」

 

「うっご、ごめん…」

 

お互いに、顔を赤くして俯く

 

「と、とにかく、駅までは送るから、もう行けるか?」

 

「うん!でも送らなくて大丈夫やよ、瀧君だって今日仕事やろ?」

 

「いいから、三葉寝ぼけてるから心配なんだよ」

 

「あ、歳上のおねーさんになんてこと言うんやさ!」

 

「歳上に見えなくなってきたよ」

 

瀧君はくくくと笑って私を見る。

ほんとに、昨日出会った人とは思えないな、そんな、安心感が、瀧君といると感じられる

 

大急ぎで家を出た瀧君と私は、駅までの道を急ぐ

 

まだ早朝で、人も車も少ない東京の街はなんだか幻想的だった

 

駅に着くまでも、私と瀧君はたわいもない会話で盛り上がった。どうやら瀧君も、なんだか幸せな夢を見てた気がするんだって

 

その夢に、私はいたのかな?

 

 

駅に着き、改札を抜けるとき、瀧君が何か言いたそうな顔をしているのがわかった

 

「どうしたん?」

 

「あ、あのさ、今度の土曜日、暇か?もし暇なら、2人でどっか行かないか?」

 

頭の後ろをかきながら、瀧君は恥ずかしそうにしている

 

これは、デートのお誘いかな?

 

 

「うん!暇やよ!でも、どこ行くの?」

 

「まだ決めてない、詳しいことはまたLINEか、その…電話で、話すよ」

 

つまり、電話もしたいってことやね、瀧君ってイケメンやのに、以外に奥手なんやね

 

そんなことに気づいて、思わず笑みが零れる

 

 

「ふふっ、じゃあ、電話、待っとるよ、瀧君」

 

「あ、あぁ!それじゃ三葉、気をつけて帰れよ」

 

「うん!またね!瀧君!」

 

そうして私たちはお互いの家に向かって歩き出した

 

駅のホームに降りる階段の手前で、振り返る。すると、瀧君も駅の出口でこちらを振り返っていた。

 

私は、嬉しくなって、大きく手を振った

 

 

瀧君は恥ずかしそうにチョコチョコと手を振っていた、それがまた可愛くて、私はもっと、瀧君が好きになっていた。

 

 

 

幸せな気持ちで、ふと、携帯を開くと

 

 

 

四葉からの電話やLINEが携帯の画面を埋め尽くしていた。

 

 

《お姉ちゃん!!こんな時間までなにやっとるん!!!はよ帰ってきない!!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

あー、四葉…ごめんね

 

 

 

 

 

 

 

私は、どうやったら四葉の怒りを鎮められるか考えながら、駅のホームへの階段を降りて行った

 

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