うぬぼれ竜士 ~地球防衛軍英雄譚~   作:オリーブドラブ

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第3話 超人になろうとした人間

 ――それから、数日が過ぎた。

 

「……」

 

 普段通り、空中から市街地のパトロールに赴いているフィリダは――どこかばつが悪そうに、歩道を巡回する陸戦兵やエアレイド達を見下ろしていた。

 純粋に手を振り、自分を応援してくれる市民達の姿も伺えるが――やはり、こちらを見上げる仲間達の眼差しには、皮肉の色がある。

 

(やっぱり、私は……ん?)

 

 それを目にした彼女は、自責の念に苛まれ――る、というところで。

 見慣れない光景を目の当たりにする。

 

「陸戦兵……? いえ、だけど……」

 

 単独で巡回している陸戦兵の1人が、道端で子供達と戯れているようだった。それだけなら、大しておかしいことではない。EDFに憧れる子供が身近なパトロール隊員に懐く、なんてよくある話だ。

 

 ――だが、それは他所の部隊であれば、の話である。

 

 こうしたパトロールに就いている隊員の多くは最下級の者であり、この辺りを受け持つ最下級の隊員といえば――自分の活躍によって早期に正式配属させられた新隊員しかいない。

 そう、アーマンドのように荒んでしまった新隊員しか。

 

 彼らの胸中はすでに態度として大きく現れており、陸戦兵やエアレイドに信頼を置けない市民が増えるのは、必然だった。

 ゆえに今では、彼らの横暴を恐れて関わりを避けたがる市民の方が多いのだ。無垢な子供達ですら、彼らには近づこうとしないほどに。

 

 ――その陸戦兵のパトロールに、子供が集まっている。それは、ここ最近のイギリス支部ロンドン基地では決して見られない光景だったのだ。

 

(あの陸戦兵は……?)

 

 その実態を確かめるべく、フィリダは身体を捻り、下方へと滑るように降下していく。彼女の姿を目にした子供達は揃って笑顔を浮かべると、陸戦兵に肩車されている少女を除く全員がそこへ駆け寄って行った。

 

「フィリダ! フィリダだ、わぁい!」

「すごーい! わたしもあんな風に飛びた〜い!」

「ふふ、みんなこんにちは」

 

 自身に懐く無邪気な子供達に、フィリダは華やかな笑顔を送る。そうして、彼らに揉みくちゃにされながら――彼女は、肩車されている子供と遊び続けている陸戦兵の背後に近付いた。

 

「あなた。所属部隊と、名前は?」

 

 そして、問い詰めるように口を開く瞬間。

 

「……んが?」

 

 陸戦兵は、ゆったりとした動作で振り返るのだった。両頬を、肩車している少女に引っ張られながら。その間抜けな絵面に、フィリダは思わず脱力してしまう。

 

「……」

 

 体格はEDF隊員の平均程度であり、アーマンドより一回りほど低い。黒髪黒目、という外見から察するに、人種は恐らく日系。面持ちから判断して、年は恐らくアーマンドやフィリダ達と同年代。

 顔立ちは整っているが……頬を左右に引っ張られているせいで、なんとも間抜けな面相に見える。

 歴戦の古傷を思わせる右目の切創痕も、本人の顔がこれではいまいち威厳に欠けてしまう。それが、フィリダが感じたこの陸戦兵への印象であった。

 

「ひふへいひはひは。わらひは……」

「……アリッサ。離してあげなさい」

「はーい」

「んぷぅ。……えー、失礼しました。私は本日付でロンドン基地に配属になりました、リュウジ・アスカ隊員です。以前は、極東支部に勤務しておりました」

「極東支部……」

 

 道理で見ない顔だ、とフィリダは納得したように頷く。同時に、極東支部の名が出たことに感嘆もしていた。

 

 極東支部と言えば、前大戦でインベーダーのマザーシップを撃墜した「伝説の男」を輩出した支部だ。しかも、インベーダーの攻撃が沈静化しつつあるこのロンドンとは違い、今なお激戦が絶え間無く続いている東京の守りに当たっている支部でもある。

 言うなれば、EDF屈指の猛者が集う、修羅の世界。そこから来たというのだから、聞き捨てならない。

 一見とぼけているようにも見えるが――それが演技だとするなら。あの右目の傷にも、説得力が生まれてくる。見た目からして、自分達と同じくらいの若さだというのに。

 

(――でも。なぜ極東支部に居た経歴があるほどの隊員なのに、今になってイギリス支部に来たのだろう。日本では、今もインベーダーの猛攻が続いているというのに)

 

 そんなフィリダの疑問を他所に、リュウジと名乗る陸戦兵は穏やかな笑みを浮かべ、子供達とのお喋りに興じていた。

 ――フィリダはふと、極東支部に纏わる噂話を思い出す。

 

 あまりに過酷な戦況が続くあまり、精神を病んだ隊員が次々と、外国の支部へ逃げるように転属している、と。

 

 彼がそれに当てはまるか否かは、定かではない。だが、仮にそうだとするなら。自分は、彼を許せるのだろうか。

 我が身可愛さに故郷も仲間も見捨てた、EDF隊員を。

 

(……何を生意気なこと考えてるの、私は! そんな口が利けるほど実績を立ててるわけでもないのに! だいたい、彼がそんな人だと決まったわけでもないのに……!)

 

 ふと過った考えを振り切るように、フィリダは頭を左右に振る。優しげな青年の横顔を見遣る度、彼女の良心はずきりと痛みを感じていた。

 彼の柔らかい雰囲気があるからこそ、子供達は恐怖の象徴だったはずの陸戦兵に懐くことができているというのに。

 

「――そう。私はロンドン基地ペイルウイング隊所属、フィリダ・エイリング。……アスカ隊員。本日付ということは、ここのパトロールも今日が初めてなのでしょう? 初日から寄り道ばかりだと、正規ルートを見誤ってしまうわ。早々に、パトロールに復帰することを薦めます」

「あはは……確かに、そうですね。了解しました。アスカ隊員、パトロールに戻ります。……じゃ、みなさん。またお会いしましょうね」

「えー、アスカもう行くのかよー」

「ふふ、また休日に遊びに来ますよ。みなさん、帰り道には気をつけてくださいね。お父さんやお母さんの言うことも、ちゃんと聞くのですよ?」

「はーい!」

 

 名残惜しむ子供達の頭を撫でながら、青年は穏やかな笑みを浮かべるとヘルメットを被り、踵を返す。

 

(子供の感性は、意外と鋭い。良い大人と悪い大人を、私達よりも正確に見分ける時もある。……この子達皆から、好かれている彼はきっと……)

 

 会って間もないはずの彼との別れを名残惜しむ子供達を見遣り、フィリダは改めてリュウジという青年の人柄を垣間見るのだった。

 

(そういえば。「伝説の男」も「うぬぼれ銃士」も、極東支部の出身だったとコリーンが言っていたけど……まさか、ね。とてもじゃないけど、そんな人には見えないし……)

 

 フィリダは、その背を見送ってから、パトロールに戻ろうとするが――突如、その足を止めてしまった。

 

「よぉ、フィリダ。この街の英雄ともあろうお方が、こんなところで道草かい?」

「アーマンド……!」

 

 仲間を引き連れてパトロールに当たっていたアーマンド達が、通りがかってきたためだ。

 

「あ、あいつら……」

 

 子供達は彼らを前に、各々の反応を示す。怯える少女もいれば、敵意を剥き出しにする少年もいた。

 

「け、世知辛いもんだ。被害者は俺達だってのによ」

「全くだぜ。別に俺達はァ、レディファーストの紳士じゃ……ねーってのッ!」

 

 そんな子供達の反応を見遣り、アーマンドの連れの1人が、苛立ちをぶつけるようにゴミ箱を蹴り倒す。エアレイドの横暴を前に、子供達や道に居合わせた市民の何人かが短く悲鳴を上げた。

 

「ちょっと……あなた達!」

 

 さすがに、それを見過ごすわけにはいかない。そう言わんばかりに、フィリダは眉を吊り上げて彼らに詰め寄ろうとした。

 その時。

 

「あー、もう。ダメですよ、こんなにゴミを散らかしちゃあ」

「あ、あなた!?」

 

 立ち去ろうとしていたはずのリュウジが、戻ってきてゴミを拾い始めていた。その行動に、フィリダは思わず目を丸くする。

 そんな彼に、アーマンド達も一瞬だけ戸惑ったような表情を浮かべたが――程なくして、嫌らしく口元を吊り上げた。

 

「なんだ、新入りも一緒なんじゃねえか。なぁ、極東支部から逃げ出してきた『うぬぼれ銃士』さんよ」

「えっ……『うぬぼれ銃士』!?」

「どうせ、あんたもトーキョー戦線が怖くて尻尾巻いたクチなんだろ。昔がどうだったかなんて知らねぇが、それで『伝説の男』を気取ろうってんだから、正真正銘の『うぬぼれ』野郎だよなぁ。えぇ?」

 

 アーマンドの嘲るような言葉に対し、リュウジはただ苦笑いを浮かべるだけであり――言い返す気配もなく、ゴミを拾い続けている。

 

(「うぬぼれ銃士」……この人が……!? いえ、それよりも……!)

 

 そんな彼の姿にフィリダは一瞬だけ、自分が思い描いてしまった仮説を浮かべ――それを振り払うように、アーマンド達を睨み付ける。

 

「――あなた達、いい加減にしなさい! はるばる極東支部から来た仲間に向かって!」

「こういう腰抜けを、仲間に数えたくはねぇなぁ、俺は」

「どの口がッ……!」

 

 これ以上の暴言は、負い目があろうと我慢ならない。フィリダはアーマンドに掴みかかろうと一歩踏み出すが――彼の胸ぐらに伸ばそうとした手を、寸前のところで掴まれてしまった。

 彼らに罵声を浴びせられているはずの、リュウジ本人に。

 

「はは……どうも、すいません。返す言葉もありませんよ」

「アスカ隊員、あなた!」

「はっ、正直じゃねぇか。それとも、日本人お得意のケンソンってやつか? なんにせよ、足だけは引っ張って欲しくねえもんだな。――ただでさえ俺達は、疫病神を抱えてんだからよ」

 

 そう吐き捨てると、アーマンドはじろりとフィリダを一瞥する。そんな彼に向け、フィリダも険しい眼差しを向けた。

 謂れのある自分だけでなく、リュウジにまで罵声を浴びせるアーマンド達を見過ごせなくなっていたのだ。今までは疫病神と言われれば、その通りだと口を閉ざさざるを得なかったが――こればかりは、譲るわけにはいかない、と。

 

「……んだよ。文句あんのか」

 

 そんな先日とは違う彼女の反応に、アーマンド達も眉を顰める。――その時だった。

 

『緊急事態発生! ロンドン近郊に巨大生物を確認! 付近の隊員は現場に急行し、独自の判断で巨大生物と交戦せよ! 繰り返す! ロンドン近郊に――!』

 

 突如、町中に警報が響き渡り――EDF隊員である彼ら全員が、目の色を変えた。

 

「ち……あばよ疫病神に腰抜け!」

 

 アーマンドは仲間達を引き連れ、素早く踵を返して基地の方向へ走り出して行く。エアバイクSDL2を取りにいくのだろう。

 

「くっ……とにかく、私達も急がないと!」

「そうですね……。私はE551ギガンテスを取りに向かいます。エイリング隊員は現場に先行してください」

「あの戦車を? 現場に急ぐならSDL2の方が――」

「――ロンドン近郊は庭園が多く、遮蔽物が少ない。SDL2だけで集まっても、酸の集中砲火には耐えられません」

「……!」

 

 リュウジの言及に、フィリダは思わず目を剥いて言葉を失ってしまう。勤務初日であるにも拘わらず、ホームグラウンドではないこのロンドンの地理を正確に把握しているばかりか、アーマンド達がSDL2で現場に急行しようとしていることや、その行動に伴う危険性まで見抜いている。

 自分達と同世代の隊員に出来るような、芸当ではない。

 

(この人は……本当に「逃げて」ここへ来るような人なの……!?)

 

 基地に向かい、猛烈な勢いで駆け出して行くリュウジの背を見送り――僅かに逡巡した後。フィリダは彼の言葉に従うように、ロンドン近郊に向けて飛び立つのだった。

 




 もう時代はフォーリナーを通り越してプライマーですが、それでも私はインベーダー次元のEDF小説を書かせて頂いております。やっぱりこの時代が1番愛着があると言いますか、こういうB級特撮感が特に好きでしたので(´ω`)
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