翌日ダンジョン帰りのベルに誘われ、食事に赴くことになった。
その時にことの成り行きを聞くことなる。
ロキ・ファミリアのアイズ・ヴァレンシュタインに助けられ、一目惚れした事を。
ミノタウロスの血にまみれギルドに行ったと聞いた時は本当に腹を抱えて笑ってしまう。でも、ベルはそういう奴だとここ数日生活しただけで分かっている。
一度決めた事は頑なに変えず。馬鹿正直に生きている。そんな少年だと、自分の反対の人間まさに表の少年なのだと。
と、軽く談話しながら歩いていると突然ベルが足を止めて首を捻り始める。
「どうかしたのか?ベル」
「その、確かここら辺だったと思ったんですけど...」
「店の名前はなんなんだ?」
「豊穣の女主人です」
「ならあっちだな」
今は路地裏に来ているのだが、店はここの裏側にありまだ立地に慣れていないベルには難しいようだ。
本来案内するはずだったベルを誘導し『豊穣の女主人』へと辿り着く。正直あまり来たくない店ではあったのだが、ベルの奢りだしいいだろうと店の戸を開く。
周りにも店はあるのだがそこは一際大きく、二階建ての店だ。
既に日は落ち暗くなっているが、中から光が溢れ食器同士がぶつかる音や、ダンジョン帰りの冒険者達の騒がしい声が聞こえてくる。
中に入ればより一層大きくなり、ベルは一瞬耳を両手で覆う程だ。慣れてしまえばどうということはないのだが、ベルにはまだ早いみたいだ。
「いらっしゃいま、あっベルさん来てくれたんですね!それに、誠さんもお久しぶりです」
「はい、来ました」
「リューはいるのか?」
「いますよ。二月ぐらい来てないから、文句言ってましたよ」
「はぁ...まじか」
「はい大マジです、あっ少々お待ちください!そこの席どうぞ」
殆ど満席のためウェイターは忙しなく働いており、至る所で冒険者の大きな声が上がっている。
ベルを招いた張本人であるシルも注文の声が聞こえ、隅の席を指示して他の冒険者の元へ向かっていく。
ベルと見合いひとまず席に付くことを決め座った瞬間、背後に悪寒が走る。
「ようリュー久しぶりだ」
「振り向けば殺ります。喋れば殺ります...いいですね」
「あの、」
突然殺し文句を言いながら首にナイフを当てているエルフは、リューと言い過去に少しやらかしてしまいこうなっている。
それがあり遠ざけていたのだが、居てしまった物は仕方がない。
あまり刺激をしてはいけないのでゆっくりと首を縦に振り、隣にいるベルは驚き過ぎて口をあんぐり開けている。
「すみません、貴方がベル・クラネルですね。体制はこのように悪いですが、いらっしゃいませ」
「は、はい」
「こら、リュー。いい加減にしな!そんな所で油を売るんじゃないよ!さっさと働け!下手な真似したら私が殺るから安心しな」
「...分かりました...では失礼します」
一喝でリューを退けたのはここのマスターであり、元冒険者のミアである。
何故冒険者を辞めたのかなどは不明ではあるが、彼女がいるからこそ冒険者がこの店で無茶をしないまである。
腕はベルの何倍もあり、身体全体の筋肉が大きく膨張している。誠の数倍は体格が大きい。
実は昔殺り合った事などがあったのだが、今は割愛する事になる。なにせ、パスタが来たのだ山盛りの。
「アンタがベルだろ?大食漢なんだってね、シルから聞いてるよ。山盛りにしてやったからたんと食べな」
「え、」
「ベル大食漢だったのか、意外だな」
俺は大食漢と言わないが、最近のじゃが丸くんに飽きていたのでこの熱々のパスタは山であっても食べれる自信はある。
ベルはと言うと拒否する間もなく押し付けられたパスタに、量が量なので顔を青ざめながらも美味しそうな匂いに喉を鳴らす。
「もう無理でふ」
「よく食べたな。俺はもう少しかかるな、ゆっくり食べるのが主義だしな」
ベルは結局山を食べ尽くしお腹も大きく膨れている。ミアとはまた違った服のパツパツさだ。
俺はと言うとゆっくり食べているせいで三分の二程しか食べ終わっておらず、フォークにパスタを巻いて口に放り込む。
「どうでした?お味は」
少し人気が減り空き時間が生まれたようで、こちらにシルが近づいてきた。
「美味しかったです。けど、量が」
「うふふ、それが家の売りなの」
「やっぱり」
「それに、冒険者ならあれぐらいたいらげなきゃ、やっていけませんよ」
「うっそう言われる辛いです」
なんだこのリア充。ここに来ると殺害予告される俺とまるで違う。
ベルの主人公力に驚いていると、冒険者達が大きな声を上げた。
「おっえれぇ上玉だな」
「馬鹿、エンブレムを見ろ」
エンブレムは道化師。それを使うのはただ一神ロキ・ファミリアである。
そこにはもちろんベルが一目惚れしたアイズがおり、憧れの眼差しで見上げていた。
メンツはかなり豪華で、全員が全員一級冒険者。何かしらの遠征の帰りなのは明白だ。
(タイミングがいいのやら、悪いのやら)
せっかく我がファミリアの大黒柱がやる気になってきたのに、ここで変な事があれば引きこもってしまうかもしれない。
ニートが二人などあまり宜しくはない。
それに、微かに嫌な予感はしていた。ここは酒場。酔ってしまえば何をぶちまけるか分かった物ではない。とっとと退散するに限るが、まだパスタが少し残っている。
「そうだ、アイズ!あの話し聞かせてやれよ!」
「あの話?」
綺麗な金の繊維を揺らし疑問符を頭の横に浮かべる。
頬を微かに赤く染め酔っていると思われる、獣人の青年が要求している。
「あれだって!帰る途中で逃げやがったミノタウロス!最後の一匹、お前が5層で始末したろ?その時にいた、トマト野郎だよ!」
最悪だ。悪い予感は的中してしまった。
隣に顔を移せば先程よりも顔を青くしている。トマト野郎とはベルの事なのだろう。
まぁ先程自分も笑ってしまったのでどうこうは言えないが。
「ミノタウロスに追われて壁際で兎のように震えてやがってよォ、間一髪アイズが助けたのはいいが血を全身に浴びてよォくせぇくせぇ、くくくひっ!ひーっ!腹痛てぇ」
「やめ時なベート」
「あれわざとやったんだよな?」
「そんなことないです」
獣人の青年はさぞ面白かったのか机を何回も叩きながら、目元に涙を浮かべ爆笑している。
それに釣られるように近くにいた褐色肌の少女も、最初は我慢してたが限界で笑い始める。
「く...ッ...」
机の上に置いている両手は拳をにぎっていて、皮膚に突き刺さる程爪が深く刺さっている。
「たく、泣くぐらいなら冒険者になるかなるんじゃねぇっての」
「ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。酒の肴にする権利などはない、恥を知れ」
「こら、やめえ。酒が不味くなる」
血が数滴机に垂れ始める。もうそろそろ限界か?
「なぁ、アイズはどう思うよ?あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」
「ベート君酔ってるの?」
「うるせぇ、ほら早く選べよ。どっちの雄に尻尾を振るんだ?」
「そんな事を言うベートさんとだけは、ごめんです」
「無様だな」
「黙れババア。じゃあお前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされて、受け入れのか?いや、ありえねぇ、お前がそれを認めるわけがねぇ。雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」
遂に爆発し、椅子を押し倒して顔を俯かせ走り出ていく。
机は少しだけ軋んでいて、それだけ我慢したのだろう。だがこうなっては意味が無い。
「良いのですか。あの人は貴方と同じファミリアのはずです」
「だったらなんだ?コレはベルが選んだ選択だ、俺が後からどうこう言うことでもないよ」
「やはりそうですか。貴方はそう言う人でしたね」
「だとしてもだ。弟を馬鹿にされ黙っている兄がいると思うか?」
「ミア母さんには私が話して起きます」
「あいよ」
特に怒っている訳ではない。いや、稼ぎ柱がいなくなるかもしれない事に関しては怒っているかもしれない。
だが、まぁ食後の運動には丁度いい。
残っていたパスタを食べ、迷惑代含めた三千ヴァリス入りの袋を机に置き、立ち上がると獣人の青年の近づき
「酔ってるならこれが丁度いいですよ」
コップに入っている氷水を頭から青年にかける。
「あァ?てめぇ何しやがる」
「酔っぱらいは冷やすに限るぜ。文句あるなら...外に出るか?」
「くくくかか!いいぜ、そのだせぇ挑発に乗ってやるよ」
馬鹿みたいに簡単に獣人は釣れ外に出る。
すぐ近くで戦えば周りに迷惑がかかるので、少し歩いた先にある空き地へ向かう。