ニートがダンジョンにいてもいいのだろうか?   作:暁紅

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天童式戦闘術はやっぱり強い

 

 

豊穣の女主人から少し離れ、一通りが少なく人っ気のない噴水広場へと向かう。

 

「今謝れば許してやってもいいぜ?」

「えっ、何を謝るんですか?」

「いい度胸だなァさっさと殺してやるよ」

「待てベート。この決闘を取り仕切るのは僕の仕事だ」

 

180近くは背の高い二人以外に、一際小さいながら支持している少年がいる。

 

彼は見た目通り若いのではなく、小人族(パルゥム)と呼ばれる亜人(デミ・ヒューマン)であり、実年齢はかなり老けている。

 

それだけでなく、彼はロキ・ファミリアの団長フィン・ディムナである。Lv.6のオラリアでもトップクラスの強さであり、付いている二つ名が【勇者(ブレイバー)】となっており、小人族(パルゥム)最強の冒険者である。

 

そんなフィンは、自分のファミリアの団員であるベートが他の冒険者と戦う事になったのに、頭を痛めており何かあった際に咄嗟に出れるようにと付いてきた。

 

「それじゃあ、始める前に言うよ。制限時間は十分で、戦闘前に所属ファミリアと自身の名前、Lvを宣言する事。これを守れなければ強制的に僕が終わらせる、いいね」

「あぁ、それでいいからさっさとやらせろ」

「おけ」

 

二人の反応を確認し了承した事で戦場から一歩離れ、両手を身体の前で組み観戦の体制に入る。

 

それを見た二人は互いに笑みを浮かべ宣言する。

 

「ロキ・ファミリア所属のベート・ローガ、Lv.5だ。で、お前はどんだけ高いんだ?俺にふっかけたんだ自信があるんだろ?」

 

両手を広げ挑発的に言い放つ。その事はフィンも気になっていた。

 

Lvが高ければそれだけ名と顔が知られているはずなのだ。ベートもかなり有名であり、喧嘩をふっかけるならばそれも知っていて然るべきだ。

 

となると、Lv5相当の実力を持っているはずだ。だが、今目の前にいるヒューマンの名と顔は知らない。

 

誠は右の拳の上に手を置き音を鳴らしながら、首を軽く回転させ準備運動を終わらせる。

 

「ヘスティア・ファミリア所属、テンドウ・誠Lv1」

「は?Lv.1ぃ?ふざけるのも大概にしろ!それで俺に勝つ気か?」

 

ベートは一瞬で機嫌を悪くし、獣耳を逆立てる。

 

それもそのはずである。このオラリアにてステータスを授けられるとLvが付き、そのLvにより強さが大きく違う。

 

ほぼ、格上のLv相手に勝つことは不可能である。中には、一つ二つLvが上の相手を倒す者がいるが、そんな者極僅かである。

 

さらに、ベートと誠のLv差は4。まず勝てない。例えどんな秘策があっても怪我すら負えないはずだ。

 

それなのに、()は勝負を仕掛けてきた。Lv差を覆す何かがあるのかもしれない。

 

(彼の言っている事はほぼほぼホントだ。これは困ったな、ベートが手加減をしても怪我を負わせてしまう。止めるべきか?いや、止められるなら最初から止めているか)

 

フィンは一人心の中で自問自答し結論を出すと、手を二回叩いて音を鳴らし注目を一身に集める。

 

「それじゃあ始めよう。このコインを上に放る。地面に付いたら開始だ」

「けっ、後悔させてやるよ雑魚がァ」

「食後にいい運動をお願いするだけだな」

 

親指に弾かれたコインは宙を回転しながら浮かび、二秒上がった後に降り始める。

 

空気が張り付き、うぶ毛が逆立つ。そして、コインが地面に落下した。

 

瞬間ベートの姿が消える。いや、消えたのではない。とてつもなく早い速度で加速したのだ。その証拠にベートのいた場所には地面が砕けた跡がある。

 

無論フィンには見えているが、Lv.1の彼では見えているはずもない。

 

「食べた物全て出させてやるよォ!オラァ!」

 

ベート渾身の右回し蹴りが腹部目掛け繰り出され、誠ははるか後方に吹き飛ばされ道端にある木のタルに激突する。

 

一撃KO。今のを目で追えていない者や、蹴っていない者はそう思ってしまう。

 

だが、結論は大きく違う。

 

(なんだ今のは...俺は何を(・・)蹴った)

 

冒険者となれば喧嘩をふっかけられる事など多くある。その度蹴り技一つで撃退してきた。

 

蹴った感覚などは忘れるはずもなく、いつも当たった瞬間に肋を折る程度に手加減をする。

 

だが、今はまるで綿や紙を蹴ったような謎の軽さがあった。自分が本当にヒューマンを蹴ったのか理解が出来ない。

 

それを見ていたフィンは驚愕し目を見張る。

 

(親指が疼いた...それに今の動き。ベートは勝てない)

 

フィンには感に近い確信できる第六感もどきがある。それが、親指の疼きだ。

 

過去にダンジョンにて何かあった際には確実に疼いている。

 

戦闘開始と同時に親指は疼き、その疑問はすぐに解消された。

 

瞬速の蹴りを誠は自ら後に飛ぶ事で威力を減少...受け流したのである。

 

武術家などが良くやる事であり、フィンも戦闘においては使う事は多々ある。

 

70%減少出来ればいい方であり、悪くて30%だろう。もし、自分が彼と同じ立場に立ち完全に受け流せるかと聞かれれば無理としか言えない。

 

出来るとすれば、オラリア最強のオッタルぐらいだろう。

 

「痛てて、まじ強すぎ」

「はっ、そんかギャグかましておいて、痛いわけがあるかよ。てめぇが何をしたのかなんて聞かねぇ、ただ足がダメなら手を使えばいいだけだ!」

 

まとも一気に加速し、誠の懐に入ると拳の連打を放つ。

 

高いステータスにものを言わせた無茶苦茶な物だが、それだけでもLv.1には一撃当たっただけで倒せる威力はある。それが、Lv差である。

 

見えるはずがない。どう頑張ってもLv.1では無理なはずの事を、誠は拳全てを躱していた。

 

「クソがァ!」

「ほらほらどうした?ワンちゃん手の鳴る方へってなぁ!」

 

当たらない拳に次第に苛立ちがたまり悪態をついた。そのタイミングを待っていた誠の拳がベートの右肘に当たるのだが、ベートは首を捻る。

 

「おいおい、なんかしたのか?痒いだけだなァ」

 

殴られた箇所には打撲の跡も何もなく、そよ風がなぞったようにしか思えなかった。

 

これが、大きなLvの差になると勝てない容易である、耐久力の高さである。

 

例えるならば巨大な木をステータス無しの素手で殴るような物。折ることなど到底不可能であり、逆に自身がダメージを負うことになる。

 

「固っ!手が腫れるわ」

「知ったことかよ」

 

左手を激しく振りながら距離を放つ。ベートは距離を離すのを傍観しているだけだ。今ので確実勝てると確信したからだ。

 

(うーーんやるしかないか)

 

肩幅に足を開き少し腰を落とし、拳を握る力を強める。これが天童式戦闘術の基本的な構え【百載無窮の構え】である。

 

攻防一体に適した構えで、武術を修めていないベートにですら隙が無いのが良くわかる。

 

(だから、なんだ。所詮あいつは雑魚に変わりねぇ!)

 

右手を振り上げながら距離を詰める。

 

(まずい、アレは全力の拳。止めなければ)

 

フィンが見て気づいたのはベートが全力を出してしまった事だ。急いで止めようとするが、気づくのがいささか遅すぎた。

 

既に拳は誠の顔に近づき

 

「天童式戦闘術二の型十六番、隠禅・黒天風ッッ!」

 

身体の力を一切逃がさずに拳を躱して回し蹴りを右肘に当てる。

 

ダメージが無いはずなのだが、ベートは後に体制を仰け反ってしまう。防御の姿勢も取っていないそれは、格好の的である。

 

「焔火扇ッッ!轆轤鹿伏兎ッ!」

 

渾身の左ストレートからの、手首の捻りを加えた右ストレートをまたも右肘に当てる。

 

仰け反っていた影響か殴られると今度はベートが少し後に飛ぶ。地面を数回転がって止まると、右肘を押さえるその場で蹲る。

 

「がぁあはぁあ」

「何が...」

「関節を折っただけだから、エリクサーをつかえば治るはずだ」

「折った?君がか」

 

先程も言った通りステータス的にダメージを通す事はまず不可能だ。それなのに、折るなど馬鹿な話だ。

 

それに、フィンから見ても何ら特殊な事をしていない。ただの拳をぶつけただけのように見えた。

 

肘などの関節は柔らかく出来ていて、骨ほど頑丈ではない。そのおかげである一定の領域までは曲げる事が出来る。

 

そこを誠は利用した。

 

天童式戦闘術は相手を力で倒す武術である。他にもある抜刀術や神槍術のように獲物を使うのではなく、素手や足を使う。

 

そのせいで、皮膚が硬いモンスターや鎧を着ているヒューマンなどにはダメージが通りにくい傾向にある。

 

そこが明確な弱点であり、それを克服するため特殊な捻りを加え相手を内側から殺すことに特化させたのだ。

 

傍から見ればただ殴っているように見えるせいで気づいてはいないが、段々負荷がまし最終的に耐久を越えベートの肘は砕かれたのだ。

 

だが、その事を知る由もないフィンは誠の目を見つめる。

 

「守秘義務はダメ?」

「君が言いたくないなら仕方ない。それには何かしらあるのだろうと思っておくよ」

「うんじゃあ、いい運動になったって伝えておいてよ」

「了解した。今度また改めて謝罪に行かせてもらう」

「おけ」

 

ベートに背を向け、右手を軽く振ってその場を後にする。

 

 

彼が居なくなってから数分後、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる。

 

「団長ー!!」

「嘘っ!ベートやられてる!」

「遅かったようだね」

「ミア母さんにこっぴどく叱られたわ!ベートにその鬱憤晴らそうとしたのに、こんな事になっとるなんてな」

 

赤髪を掻き毟っている貧に...細身の女性はロキ・ファミリアの主神ロキだ。

 

叱られたのは確かなようで少しだけ窶れている。他の団員達も同じで、特に【ママ】と裏で呼ばれている純血のエルフであるリヴェリアは、ロキ以上に窶れている。

 

「で、あいつのLvはいくつやったんや?ベート倒したっちゅう事は6か?」

「いや、彼は1出そうだよ。嘘を付いている気配なかった。多分本当だろうね」

「かっかか!凄まじいな。Lv.1で倒したか」

「彼は要注意するべきだね」

「ほんで、所属ファミリアは?謝罪に行くんやろ?」

「ヘスティア・ファミリアと言っていたよ」

 

この言葉を聞きロキが倒れたのは自然の摂理だった。

 

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