【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
サカとベルンを分ける山脈を右手に見ながら『リンディス傭兵団』はひたすら西へと進んでいた。その行軍の先頭ではケントとハングが今後について相談を繰り返していた。
「今後の進路はどういたしましょうか?」
「山賊に目をつけられたからな、なるべく最短で国境を越えたい」
「ですが、それだと山脈沿いを歩くことになります。危険では?」
「注意しとくのは奇襲だけでいい。真昼間での白兵戦ならそんなに警戒しとくことは無いはずだ」
ケントとハングは緊急時の行動や、逃走経路について話を詰めていく。
その後ろでは女性2人が談笑にふけっていた。
「それでね、ハングが草原の入口に倒れていたの」
「ハングさんって、行き倒れだったんだね」
「最初に抱えた時、やけに軽くてびっくりするほどよ。でも。最近じゃ私の方が軽いけどね」
「なんでわかるの?」
「打ち合いをしてればなんとなくね」
そして、この一団の更に前方
先行して今夜寝床となりそうな場所を探しているのはセインとウィルであった。
「まったく、ハングも人使いが荒いですよね」
そう、ボヤくのはウィルの口だ。
「何を言うんだ新入り君!俺達が信頼されてる証拠じゃないか!」
やけに張り切るセインの口は止まることを知らず、更に喋り続ける。
「俺達は美しき姫君達が安心して横になれる場所を任された騎士!半端な男では任せられないと我らが軍師が判断したのだ!」
「リンは確かに姫様だけどフロリーナは違いますよ~」
明後日の方向に話を持っていくセインに対してこれまた少しズレた返しをするウィル。
「それに、ハングは目についたから俺らを使いっ走りにしただけですし」
「何を言うか!ハング殿は誰にでもできる指示など出しはしないぞ!」
「そうですか~?」
ウィルはこの仕事を任された時のことを思い出した。
『あ、そうだ。ウィルと・・・セイン。今日の寝床探してきてくれ』
ハングが談笑していたウィルに放った一言である。
どう好意的に解釈してもそんなに深い意味は無さそうだ。
「さぁ、ウィル!今宵、安らかな眠りを得られる場所を探そう!」
「はいはーい」
ウィルとセインは草むらを掻き分けて少し細い道へと入っていった。
その遥か後方では、ハングとケントがちょうど彼ら2人のことについて話をしたところだった。
「しかし、ハング殿。なぜウィルとセインを共に行かせたのですか?」
「ウィルも旅が長いから寝床探しの嗅覚はあるだろうし、弓使い一人じゃ山賊に出くわしたらマズイだろ?」
「なるほど。しかし、それでしたら私でも良かったのでは?」
「いや、それは違う。セインに行かせなきゃならなかった」
ハングは少し後ろを振り返る。
「ん、ハング?どうしたの?」
「何でもねぇよ」
天馬に乗りつつ、地上を行くフロリーナと馬に跨ったリン。
フロリーナと視線が並ぶので最近は馬に自分から乗るリンである。
「あいつがいると、フロリーナの気が休まらん」
「それは・・・申し訳ありません」
「いやいや、俺に・・・というかフロリーナに謝るべき人間はセインだろ?」
これがセインにしかこの仕事ができない理由である
小道を抜けたウィルとセインは廃墟となった大きめの砦を見つけていた。
ひび割れ、崩れかけの石の壁に囲まれた砦。かろうじて屋根はあるものの、夜風までは防げないことが予想できる。それでも森の中に無防備に寝るよりははるかに良いだろう。
「ここでいいんじゃないですか?今夜の寝床!」
ウィルは満足気に自分の発見物を眺めた。
砦の中に有象無象共がたむろしてる気配も無いし、獣が寝床にしている雰囲気もない。
一晩明かすには十分である。
だが、それに引き換えセインは少し不満気味である。
「こんなボロ砦しか寝るところがないなんて・・・あんまりじゃないか?ウィル!我らにはうら若い乙女が二人もいるっていうのに!それなのに!それなのに!こんな隙間風どころか突風すら突き抜けてきそうなボロ砦でしか眠るところがないなんて!ああ・・・神は我らを見放したのかぁぁ!」
「この辺は、山賊団が荒らしつくしてて、旅人をもてなす余裕はないんですよ。ましてやこの人数ですしね。それに普通に野営するよりは全然いいじゃないですか?一部壊れているとはいえ屋根も壁もあるんですから」
セインは演劇じみたことを続けて言おうとしていたが、それはウィルとは別の声に遮られた。
「ウィルの言う通りだ。しかも、ここなら敵襲があった時でも楽に対応できる」
ウィルとセインが振り返るとハングを先頭に『リンディス傭兵団』の面々がやってきていた。
「ハング、気付いてくれたか?」
「ああ、分かりやすかったから助かったぞ」
そう言ってハングが一本の矢を差し出した。
矢羽を黒い斑がある白い羽で統一しているウィルの矢だ。
ウィルはこれを目印のために道に落としてきたのだ。
「ですがハングさん!俺は声を大にして言いたいことがあるんです!」
「やかましいから黙ってくれるか?」
ハングの指示を無視してセインが百万語を語り出そうと口を開こうとした矢先。
「そうよ、ここで充分じゃない」
ハングが振り返ると馬から降りたリンが腰に手をあててそう言った。
「ちゃんとした建物の中より、風を感じられるくらいのほうが私は好きだわ」
さすが、草原での遊牧を生業とするサカの民だ。
その背後からフロリーナが現れて更に言葉を足す。
「私は、リンと一緒ならどこでも平気よ」
女性2人が賛成され、さすがのセインも口を閉ざしかけた。
だが、完全には閉じなかった。
「では、護衛のためこのセインも女性たちの横で・・・」
一歩踏み出したセイン。そのめげない姿勢は街中では評価に値するかもしれないが、今は旅の途中である。
セインの前にケントが立ち塞がった。
「お前は私と交代で寝ずの番をするんだ。まさか、サボる気では無いだろうな?」
「・・・・・・」
もはや、ぐうの音もでないセインであった。
渋面を作りながら身悶えするバカを放置し、ハング達は小さな裏口から砦の中に入っていった。
そこは回廊のような作りの狭い廊下になっていた。
「こういう砦なら中心あたりに大きな部屋があるはずだ。とりあえずそこに荷物を置こう」
先導するハングに続いて砦を進む一向。静かな砦の中に足音と蹄の音が響く。
廊下を曲がり、更に大きな通路に出る。そこには夕焼けが壊れた天井から差し込み、美しい景色を作り出していた。
「ケント、向こうに正面入口があるはずだから、見張りを頼む」
「わかりました」
馬に跨り、廊下を駆けていくケント。
「ずいぶん詳しいのね」
「軍師たるもの、各国の砦の基本的な構造ぐらいは頭に入れとかないとな」
いくつかの小部屋の前を抜けて、彼らは廊下を進む。
その時、不意に声をかけられた。
「あの・・・」
「誰っ!?」
咄嗟に剣に手をかけるリン。だが、抜こうとした剣の柄をハングが掴んで止めた。
「ハング?」
「大丈夫だ」
「え?」
ハング達が向かっていた中央の部屋。そこに続く廊下から一人の女性が姿を見せた。
長い髪を束ねて肩に垂らした小柄な女性だ。服は貧相であるが清潔感があり、盗賊の類ではなさそうである。
「あ、ごめんなさい・・・驚かせてしまって。私、ナタリーっていいます。この近くの村の・・・」
そう言って、ナタリーと名乗った女性が進み出る。その瞬間崩れ落ちるように彼女の体が倒れた。
「きゃ!」
「大丈夫!?」
慌てて駆け寄るリン。一呼吸遅れて皆もナタリーの側に駆け寄った。
リンが丁寧に抱き起こして、ナタリーを壁際の瓦礫に座らせる。
「あなた、足が・・・」
座らせたが為に剥き出しになった足首。
そこは、およそ成人とは思えない程にやせ細り、ほぼ皮と骨だけのように見えた。
彼女自身は多少痩せているものの健康そうに見える。それにも関わらず足だけが極端に痩せ細っているのだ。
「あ、平気です。小さい頃からの病ですから。あまり、遠くまでは行けないんですけど・・・」
大丈夫なはずは無いだろう。
だが、それでも気丈に微笑む彼女からはある種の強さが感じ取れた。
「ウィル、セイン。とりあえず先に奥の部屋に荷物を置いてきてくれ」
「うっす!」
「わかりました!」
「フロリーナも頼む、リンとかの荷物をセインに預けるのは不安だ」
「は、はい!」
生真面目に背筋を伸ばすフロリーナの隣でセインが泣きそうな顔で抗議の声を上げた。
「ハング殿!私はそこまで信用無いんですか!?」
「少なくとも私生活においてお前を信じるってことは無い」
ピシャリと言い放ったハングにウィルが笑い声をあげた。
「アハハハ、確かにそれ言えてるかも」
「ウィル、フロリーナの護衛も任せたからな」
「了解しました!」
「あの・・・よ、よろしくお願いします」
「うん、フロリーナには指一本触れさせないよ」
馬とペガサスを伴って奥に消える三人。
まだセインが何か言っていた気がしたがそれはもうどうでもいい。
それを見届けてから、リンはふとした疑問を口にした。
「ナタリー、あなた一人なの?」
「そうです。私の夫が・・・この近くにいると聞いたんです。夫は私の足を治すためにお金を稼ぐと言って・・・村を出たきり戻りません・・・おひとよしなあの人のこと、なにかやっかいなことに巻き込まれたんじゃないかと・・・心配で・・・」
リンがちらりとハングに視線を送った。それを受け取ったもののハング自身も少し困惑していた。
手助けしたいというリンの気持ちは汲む。だが、できることはあんまりない。
無言の中でそんなやり取りをかわす。
「あの、これ夫の似顔絵です。・・・あまり上手くないですけど」
差し出された少し黄ばんだ羊皮紙には黒炭で体格の良い男性が描かれていた。
無表情で、いかつい顔にも関わらずなぜか優しい印象を受ける。おそらくそれが彼女の知る夫の姿なのだろう。
「夫の名前は、ドルカスっていいます。ご存知ありませんか?」
リンが受け取ったその似顔絵をハングに渡した。
だが、受け取ったハングも首を横に振るだけだった。
「会ったこと無いな」
「そう・・・」
リンが少し気落ちしたまま、似顔絵をナタリーに返した。
「ごめんなさい。会ったことのない人みたい」
「そうですか・・・もし夫に会ったら伝えてください。ナタリーが・・・探していたと・・・」
「わかった、必ず伝えるわ」
「後で、他の仲間にも聞いてみるといい。誰か知ってるかもしれない。それで、ナタリーさんは村に帰るのか?」
「はい、そのつもりです」
「そうか、誰かに送らせたほうがいいかもな。もうすぐ日も暮れるし」
「あ、そんな・・・お気になさらず」
「つってもなぁ・・・だったらここで一緒に一晩過ごすのはどうだ?面白いことしか言わない騎士とか、礼節を知らない侯爵家の御令嬢とかいろんな奴らが・・・リン、目が恐いんだが」
「悪かったわね、どうせ私はガサツですよ」
ハングとリンのやりとりにナタリーがクスリと笑いを漏らした。
「ありがとうございます。お気持ちだけで十分です」
「そう?でも・・・」
まだ、何か言おうとするリン。それをハングの切迫した声が遮った。
「リン!」
一気にあたりが緊張に包まれた。それを包括するかのように、砦の周囲からざわめきが流れ込む。
「これは・・・!」
「ちっ!厄介なことになったな」
全身に殺気をみなぎらせ始めた二人の元にケントが駆け込んでくる。
「リンディス様!砦の外に山賊の一団が迫っています!」
「ええ、そのようね」
そこに通路の奥から、やはり戦闘体制に入った三人が現れた。
「山賊か?くそお、しつこい奴らですね。どうします?でていきますか?」
セインの問いはハングに向けられる。
「本来ならそうしても構わないんだが、今は動けないナタリーがいる。守りに徹するしか無いな」
「ハング殿、ナタリーとはどちらの方ですか?」
「説明は後回しだ。ケント、そこの彼女を奥の部屋に。その後セインと共に正面入口を固めろ!」
「はっ!」
「セインは先に正面入口を確保。フロリーナ、ウィルを連れて入口の上方に飛べ。援護射撃用の窓がいくつかあるはずだ。そこにウィルを置き去りにして戻って来い。その後は周囲を警戒しろ」
「は、はい!」
「って、え?俺は置き去り?」
「戦闘が片付いたら迎えに行かせる。それまで耐えろ」
「ま、いいか」
「リンは俺と一緒に裏口を固める。間違いなくそこからも山賊が来る」
「わかったわ」
「よし、かかれ!」
皆が一つの流れのように動き出す。
「ハング、行きましょう!」
「ああ」
ハングとリンは素早く廊下を駆け出した。
「おらおらおら!ここを通りたけば俺を倒してから行けぇえい!」
後方からのセインの挑発を聞きながら、ハングは「あいつ大丈夫か?」と小さく呟いた。