【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
別れたエルクとウィル、レベッカの三人はさほど歩くこともなく、プリシラを見つけた。
だが・・・
「な、なんだか声をかけにくいですね・・・あれ」
レベッカは頬を染めてヒースとプリシラの後姿を眺めていた。
マシューは少し軽薄な態度でエルクの肩に肘を乗せた。
「どうだ、エルク。護衛の相手があんなことになってる気分は」
「プリシラ様は師匠にとって大事なお方です。自分に友人として接してくれるのは感謝していますが、それだけです」
「にしては声が硬いんじゃないのか、エルク」
エルクはギロリという効果音が聞こえそうな鋭い視線をマシューに向ける。
マシューはそれを受けて肩をすくめ、エルクの肩から腕をどけた。
三人はプリシラを見つけた。
それはいいのだが、その側にはヒースがおり、2人の間にはどうも入りにくい空気が流れていた。
「あ、これ。綺麗な腕輪だね」
「はい、似合うと思いますよ・・・ヒースさんに」
「え、俺がつけるの?」
「違うんですか?」
「残念だけど、俺はこんな腕だからね。さすがに入らないと思うよ」
「わぁ・・・凄い筋肉ですね」
とりあえず、プリシラは自分が迷子になって迷惑をかけていることが本当にわかっているのかと一晩かけてじっくりと教えてやりたいものであった。
一応、プリシラ達は観光しながらも常に周囲を見渡して仲間達を探している様子なので、あまり細かいことは置いておくことにする。
「それで、どうしますか?護衛のエルクさん?」
「・・・・まぁ、とりあえず・・・いいんじゃないでしょうか」
エルクとしてはプリシラに変な虫がつけば容赦なく排除するつもりでいる。
ヒースがその『虫』にあたるかどうかはまだ答えは出ていないが、今のところハングの旧友ということで暫定的な信頼は置いている。
「ですが、少しでも不埒な行動をするようであれば・・・」
「え、エルクさん・・・目が怖いです」
レベッカ達はプリシラ達の後ろから尾行するようにして様子を伺っていた。
「とはいえ、このまま2人で回ってもらっても楽しそうではありますね・・・マシュー、どうします?」
「とにかく切り込むしかないだろ。プリシラさんが『自分が迷子』だって思ってたら、心底楽しめないだろ?」
そして、マシューは音もなく移動し、2人の間にひょいと顔を出した。
「おっす、お二人さん」
「あ、マシュー様」
「プリシラ様・・・俺に『様』なんて付けないでくださいよ」
苦笑いをするマシュー。こうしたところが浮世離れしているプリシラであった。
「君が彼女の連れかい?」
「連れの一部といったところですよ。探しにきたんです。でも、まぁ楽しんでるみたいなんで無理に俺達に合流しなくても・・・と、思ったんですけど」
マシューがそう言うと、2人は思わぬ一言をもらったという感じで表情が固まっていた。
おや?
と、マシューは胸の内でほくそ笑む。
「あれ、デート中じゃなかったんですか?」
マシューのその一言で2人は自分達がどう見えていたのかを自覚したのか、みるみるうちに赤くなっていった。
それを満足そうに見て、マシューは踵を返した。
「それじゃ、皆には探さなくていいって伝えてきます。それでわ~」
そして、言うが早いか、走るが早いかといった具合にあっという間に人混みの中へと消えて行っていまった。
後に残された2人に気まずい空気が流れる。
「・・・じ、じゃあ、これからどうしようか?」
「そそそうですね・・・えと・・・あ、あの・・・すみません・・・さっきの店・・・もうちょっと見てもいいですか?」
「う、うん、構わないよ」
歩き出した二人をやはり物陰から見る三人。
「マシューさん・・・遊んでますね」
レベッカが半目になってマシューを睨む。そのマシューはケラケラと笑っていた。
「ハングさんとリンディス様があんな様子なんで、からかう相手がいなかったんですもん。たまにはいいでしょ?まぁ、それはさておき・・・」
「それで、これからどうする?戻っても俺達は荷物持ちだしな」
「セインさんに全て任せてしまってますから、早く戻った方がいいのでしょうが・・・」
エルクがそう言って眉間に皺を寄せた。
別に荷物持ちぐらいしても良いとは思う。一緒に回る面子もリンには少し神経質にならなくてはならないが苦痛という程ではない。二人が危惧しているのはセーラの暴走だった。巻き込まれたらたまらない。
そんなふうに、今後のことをどうしようかと足を止めた三人。
彼等に声をかけてくる集団がいた。
「・・・お前達どうした?」
「あっ、ドルカスさんとカナスさん」
「どうも、こんなとこで奇遇ですね」
妻帯者の二人組。
その後ろにはレイヴァンとルセアもいた。
こんな町なのでレイヴァンとルセアが夫婦に見えてしまうのが不思議だった。
もちろん、それを言うとルセアが本気で落ち込むので決して誰も口にはしない。
それにしても不思議な組み合わせである。
そのことをレベッカが口にした。
「皆さんは何かお買い物ですか?」
レベッカの問いに答えたのはルセアだった。
「はい。私達はドルカスさんとカナスさんの買い物の付き合いですが」
妻帯者の二人の手には彼等には到底似合わない可愛らしい包装の袋が握られていた。
どうやら、家族へのお土産のようだ。
レベッカ達の視線が気になったのか、ドルカスとカナスは言い訳じみたことを言ってみる。
「・・・こういう物はよくわからん」
「私も恥ずかしながら、研究にしか興味が無かったものですから」
照れる男というのはあまり絵にならないと言われるが、家族の為の買い物をする姿は微笑ましいものだった。
「それで、私に助言を頼むのは間違ってる気もしますが・・・」
ルセアの嘆きは聞き流す。
「それで、ヴァっくんは?」
レベッカが後ろのレイヴァンを覗き見るが、彼の手には何も乗っていなかった。
「ヴァっくんは暇そうだったので、私が連れ出しました」
「なるほど。それでこれから皆さんはどこへ?」
最近は何か変な渾名に抵抗が無くなってしまったレイヴァン。
危険だと思う反面、深く考えないほうが自分の精神衛生上いいような気がする今日この頃だ。
「小腹がすいたので、何かお菓子でも買って宿に戻ろうかと思いまして。皆さんもどうですか?」
その時、マシューの頭にランプの明かりが灯る音が下。
「あっ、そうだ!俺達これからセーラ達と一緒にお菓子の方を見て回るんです!一緒に行きましょうよ!」
「そうなんですか?皆さんさえよろしければ、構いませんけど」
「いいんです!いいんです!ささっ、さっそく行きましょう!」
エルクは満面の笑顔を浮かべるマシューの横顔を呆れたように見つめる。
マシューの顔には荷物持ちの頭数とセーラの抑え役となるルセアを確保した喜びが笑顔となって浮き出ていた
そして、マシューはすぐさま動き出した。
「それじゃ、俺は先にいってリンディス様たちのこと探してきます!では皆さん、また後で!」
そして、マシューはいつの間にか消えていた。
相変わらずいい腕だった。
「ところで、ドルカスさんは何買ったんですか?」
「・・・筆だ・・・ナタリー・・・妻は絵を描くのが好きだからな」
薬代を貯めてるドルカスのお土産は控えめだ。
「カナスさんは?」
「私は耳飾りを買いました。妻も私と同じ研究者なので、少しでも外の気分を味わって欲しかったんですよ」
ニコニコと笑うカナスさんは幸せそうだ。
これが結婚の幸せというやつだろうか。
「いいな・・・」
「フフフ、レベッカさんにも騎士様がいるじゃないですか」
「な、なななな何言ってるんですかルセアさん!!!」
くすぐったそうに笑うルセアを見て周りも笑う。
「も、もう!皆さん、なんで笑ってるんですかぁぁ!」
この部隊の人達はからかうと抜群にいい反応をしてくれるな、とレイヴァンは密かに思ったのだった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
ヘクトルは今日は一人だった。
理由はただ一つ。
この町には闘技場がある。
それだけだった。
「お、なんだあんちゃん。いいガタイしてんな。参加か?」
「ああ、急いでくれ」
そういう間にもヘクトルは周囲を警戒中だ。
この間、オズインと『闘技場には行かない』と約束を交わしたばかりだ。
さすがに今ばれるとかなりまずい。
「だが、この震える血潮が抑えらんねぇんだよ」
「ほう、血潮がですか?」
「おう!だが、オズインと交わした約束がな・・・まぁ、一試合だけなら・・・」
「一試合だけですよ」
「お、まじか!ありがとな・・・・」
ヘクトルは自分の隣を見た。
「ただし、対戦相手は私にしてもらいましょう。可能ですか?」
「ああ、大丈夫だ。んじゃ、カードを調節すっか」
そこにはヘクトルのお目付け役がいた。
「オズイン!!おめっ!」
「どうかいたしましたか、ヘクトル様」
しかも、今さらっと面倒な対戦相手が決まったような気がする。
「それじゃあ。あんたがたの対戦は一刻後だ。準備室に案内する。こっちだ」
「それではヘクトル様。後程」
去っていくオズインの背中がとんでもなく怒っている。
これは本格的にまずい気がしていたヘクトルだった。
「ほうほう、これは面白そうだ」
「って、マシュー、お前もいつからそこにた!?」
「ヘクトル様が大通りをこそこそ歩いてるのを見つけてからずっと」
つまり、こいつが密告犯だ。
対戦相手を今すぐ変更したいヘクトルだった。もちろん相手はマシューで。
「おい、そこのデカい鎧のあんちゃん、さっさと控室に入んな」
「だそうですよ、ヘクトル様。俺、みんな呼んでできますね」
「だっ!あぁ!!くそっ!!」
意味不明な短い叫びを繰り返すヘクトル。
どんどん状況が悪くなる。頭を抱えたい気分だった。
そして、一刻後。
マシューが声をかけた全員が客席の一部を陣取っていた。
リン達女性陣、武器屋で見つけたケント達、エルク達にも声をかけ、マーカス、ロウエン、ウィル、ダーツも噂を聞きつけてやってきていた。
ちなみに、ニルスは入場禁止だったので菓子を大量に持って宿に帰って行った。
「俺はオズイン様に十だな」
マシューがそう言って帽子の中に小銭を放り込んだ。
「じゃあ私はヘクトル様に二十。エルクはどっちに賭けるの?」
マシューとセーラのその一言がきっかけとなり、身内の中で賭けが始まる。
「マーカス様はどちらに賭けられますか?」と、イサドラが隣に座ったマーカスに尋ねた。
「当然、オズイン殿だ。イサドラは?」
「それではヘクトル様にいたしましょう。あ、マーカス様、教えていただいたお店、とてもおいしかったです」
「うむ、それは何より」
その隣ではレベッカが闘技場の中に満ちる独特の空気に酔ってしまったかのように、頬を染めていた。
「私、闘技場って初めてですけど・・・熱気が凄いですね・・・」
パタパタと仰ぐ、レベッカの前に水筒が差し出された。
「あ、ありがとうござい・・・」
そして、レベッカが差し出してくれた人物を見て、さらに頬を赤くした。
「いえ、闘技場では時々倒れる方がいますから。十分お気をつけ・・・あ、あの、どうして私から顔を背けるんですか!?俺何かしました?」
慌てふためくロウエンだったが、レベッカは決してそちらに顔を向けようとしない。
彼女は自分が耳まで赤くなっている自信があった。
そんな初々しい二人を見て、ルセアは口元を隠すようにして笑っていた。
「ルセア・・・お前のせいだろ、あれ」
「ふふふ、何のことでしょうかレイヴァン様」
後ろの方の席に座っていたドルカスは険しい顔をして、目の前に差し出された帽子を隣のカナスへと回した。
「・・・・俺は賭けは好かん」
「ドルカスさんはそうですよね」
彼からすればお金を遊びの道具に使うことはできないだろう。
カナスも無理には勧めず、隣のラスへと帽子を差し出した。
「ラスさんはどうします?」
「・・・・オズインに十」
「意外とお好きなんですね・・・では、私もオズインさんに賭けましょうか」
他の人達も口々に賭けに興じているなか、リンディスは前の方の席でこの町で手に入れたお菓子類をつまんでいた。
「リン、これ食べる?」
「ありがと、フロリーナ。それにしても、凄いお客ね」
リンは闘技場を見渡す。
ふと、その視線が止まった。
その瞬間、呼吸が止まるかと思った。
向かい側の席に、黒いくせ毛の男性が座っていたのだ。
だが、リンはすぐに安堵の息を吐く。似ているのは髪型だけで、雰囲気はまったくの別人だった。
「リンディス様、どうかしましたか?」
その様子を隣で見ていたフィオーラが声をかけた。
「い、いえ。なんでもないの。向かいにハングに似てる人がいただけだから」
リンは無理やりといった笑みを浮かべて、手をぱたぱたと振る。
「あはは・・ハングも・・来れば、よかったのに。ねぇ、フロリーナ?」
「で、でも、ハングさんも仕事があるみたいだししょうがないよ」
「そうよね・・・私・・・何言ってんだろ・・・な、なんか変だな・・・うん、大丈夫!」
この町の雰囲気がなんとか彼女の気持ちを支えている。
そんな状態だった。
「お、出てきた!!」
ウィルの明るい声が皆の視線を闘技場に向ける。
片方の門が開き、ヘクトルが堂々と入場してくる。
「ヘクトル様~~!!」
「がんばれ~!!」
マシューとセーラが無責任な声援を送る。
ヘクトルは遠目からでもはっきりとわかるぐらいに不機嫌な顔をしていた。
それでも、やはり場馴れしているのだろう。ヘクトルは歴戦の戦士を思わせる風格を保っていた。
そもそも、ヘクトルは斧、オズインは槍。武器の相性からヘクトルの方が有利。
せめて圧勝して面子を保っておかないと後の説教が怖いヘクトルだった。
ヘクトルは斧を足元に突き立てて、腕を組んだ。
そして、オズインの登場である。
「なっ!!」
ヘクトルの目が驚きに見開かれる。
使用する武具は闘技場側が用意したものを一つだけ。
なのに・・・
「それではヘクトル様、お手合わせ願います」
「おめぇ!なんで武器が斧なんだよ!!」
観客席でも同様の衝撃が広がっていた。
「こ、これって・・・」
「奇策?でも、オズインさんってそんな人じゃないよな」
「使い慣れない武器でヘクトル様に勝てるわけが・・・」
呟くように意見を口から漏らして考えをまとめようとする皆。
「使い慣れてないというわけでは無いのですよ」
そこに放り投げられた一言が皆の注意を一手に集めた。
皆の視線の先にいたのはマーカスだ。
「オズイン殿は私から斧の扱いを頻繁に習っていました。オズイン殿の斧の手腕は既に一般兵のそれではありません。この勝負、わかりませんぞ」
そして鐘の音が響いた。
試合開始だ。
まずはオズインが先手を取った。
間合いを詰めての斧での一撃。それをヘクトルは最小限で回避する。
命のやり取りをする闘技場。
管理がなっていないので切れ味はなまくら以下だが、まぎれもない本物だ。まともに当たればただでは済まない。
「降参するなら今のうちですよ、ヘクトル様」
「ぬかせ!!」
ヘクトルは斧をオズインの腰めがけて振る。
オズインはそれを受け止めるのではなく、逆に前に出てヘクトルに体当たりをぶちかました。
「ぬおっ!」
ただの体当たりだったが、鍛え上げられたオズインの身体から放たれるその威力は並ではない。重いヘクトルの体が一瞬中に浮いた。
なんとか体勢を崩さないように踏ん張ったヘクトルだが、既にオズインの追撃が迫っていた。
ヘクトルはそれを片手で握った斧で弾き、空いた拳でオズインの顎を突き上げた。
「ぐっ!!」
手応えはあったが、唸ったのはヘクトルだ。
オズインの斧を弾いた腕が痺れていた。
オズインは無理な攻めを嫌い、後退。
ヘクトルも前に出ることはできず、間合いをあけてにらみ合う。
「完全にヘクトルが押されてるわね」
「ええ。武器を使う暇も与えてもらっていませんね」
リンとフィオーラも手に汗を握っていた。
今、この時だけは誰もが色々なことを忘れて二人の対決に胸を高鳴らせていた。
歓声があがる中、ヘクトルが口を開いた。
「オズイン・・・」
「降参ですか?」
「ちげぇよ・・・」
ヘクトルは斧を構え、バカみたいにへらへらと笑った。
「お前の戦い方は騎士の戦いかただ・・・闘技場なら・・・俺の本場だ!!」
そして、ヘクトルが斧を投げた。
「なっ!!」
一つしかない武器をまさか投げると思ってなかったオズインは対応が遅れる。
なんとか、自分の斧で弾き落としたが隙だらけになってしまった。
その横っ面にヘクトルの拳が刺さった。
ヘクトルの全体重の乗った一撃にオズインの目に星が散る。
ヘクトルはそこから連続で拳を叩き込んでいった。
鈍い音が連続して続き、ついにオズインの体が闘技場の砂に投げ出された。
「はぁ・・・はぁ・・・ま、参った」
鐘の音と大歓声が鳴り響く。
「やったぁぁ!ヘクトル様が勝ったぁぁ!」
「セーラ!飛び跳ねないでくれ、危ないだろ!!」
狭い闘技場の観客席で飛びはねるセーラを抑えようとエルクが孤軍奮闘していた。
その周りでは皆がなんだか複雑な顔で拍手していた。
「あれってありなの?」
リンの疑問ももっともだ。
「まぁ・・・規則には従ってますから・・・」
フィオーラも複雑な顔だった。
「唯一の武器を投げるとは、いやはや」
マーカスは明らかに呆れている。
一度手放した武器が戦場で戻ってくるわけがない。
戦場では絶対にやってはいけない方法で勝ったヘクトルに皆、首をひねるばかりだ。
こんな戦い方を学べる場所はただ一つ。
「いったい、どれだけここで戦ってたのかしら?」
リンは頬杖をついてそう言った。
そして、すぐに次の対戦が始まる。
触れ込みでは2対2のタッグマッチだという話だった。
「さぁて、このバアトルと戦う奴はどんな奴だ!!」
「ひひぇぇぇ~~~~なんで私がこんなとこに~~~!」
入場してきたバアトルとマリナス。
歴史に残りそうな異色の対戦が始まりそうだった。