【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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23章~生きた伝説(前編)~

キガナの町から峠を1つ越えれば、そこから先は一面が砂に埋れた大地。

半島全てが砂砂漠というナバタ砂漠に彼らは足を踏み入れた。

 

ひと昔前までは『呪われた大地』だの『大賢者が宝を砂で覆った』などと様々な憶測が飛び交っていた不毛の地。

その実態は半島の周囲の海が寒流による冷たい空気が満ちていることにより、上昇気流が起こらず、雲が生じない海岸砂漠である。

 

英知の探求を主とする魔道士達がこの砂漠の現実を暴き出して既にかなりの時が流れていた。

 

だが、いくら噂が過去の歴史の中に埋もれようと、この土地が人が足を踏み入れてはいけない場所であることには変わりがなかった。

雲一つない空から放たれる直射日光は容赦なく肌を焼き、乾燥しきった大地は無尽蔵に水を吸い込んでいく。そして、いざ夜になれば氷点下へと至る極寒が待っている。

血液が沸騰する程の灼熱と全てが凍りつく冷気が人を拒絶するこのナバタ砂漠。

 

そんな場所にハング達は足を踏み入れてようとしていた。

 

砂漠の熱射の下では肌を晒すと火傷してしまうので、皆は露出を極力減らした服装に変えている。また、金属の鎧も異様な発熱をきたすので、厳重に梱包してまとめて馬の背の上に乗せられていた。

 

身軽かつ風通しのよい格好となった一行は広大な(すな)砂漠の目の前で留まっていた。

ここから先に下手に踏み込めば骨だけになるのに7日とかからない。

 

彼等が慎重になるのは当然だった。

 

これからの行動を苦心しているハングのことを知ってか知らずか、ごく何人かは初めて見る砂漠に随分と興奮していた。その中にはリンも含まれており、ハングはそれを見て少し安心していた。

 

元気なのはいいことだ。だが、目が合った途端にあからさまに目を逸らされるのはやはり辛いものがあった。

 

「ハング殿?聞いておられますか?」

「ああ、悪い悪い、あそこに見えてるのがこの山だな」

 

マーカスに注意を受けたハングをこっそりと見ながらリンは胸の鼓動を落ち着けようと深呼吸してみる。

熱気を持った乾いた空気が胸に入り、不思議な気分だった。

 

草原で育った彼女。サカの草原も乾季になれば草木は枯れ果てて似たような光景になるが、砂砂漠に特有の波打つような砂丘の数々を拝むことはできない。

それに加えて、細かな砂に覆われた地面というのもまた新鮮だった。

一歩足を踏み込めば、砂に足を取られて思ったように進めない。砂浜を歩くと時に似ているが、その時以上に足が砂の中に沈み込むような感覚があった。その感触がやはり物珍しく、リンは意味もなくその場で足踏みをしていた。

 

だが、誰しもがそんな元気あるわけではなかった。

 

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ニルスはふらふらと揺れるように立っていた。どこかで休みたいものの見渡す限りで日陰は一切見当たらない。

 

「・・・暑い・・・ぼく・・・もう死んじゃう」

 

生まれは雪の降り積もるイリアだと言っていたニルス。暑いのはどうも苦手であった。

そんなニルスを見かねて、ヘクトルが声をかけた。

 

「おい、辛いならおぶってやろうか?」

 

そう声をかけられ、ニルスは目を見開いた。信じられないことが起きたといった表情だ。

 

「なんだ、その顔は?」

「ヘクトル様が優しくしてるなんて・・・ぼく、変な夢でも見てるのかな?」

「どーゆー意味だよ!!」

「そのまんまの意味でしょ」

 

楽しそうに肩を震わせて、リンがそう言った。

 

「俺はただ、お前がこの前みたいにぶっ倒れないかとだなぁ!」

 

つい先日、ウーゼル様と会った砦でニルスが倒れたのはまだ記憶に新しい。

 

「日頃の態度が雑だから誤解されてるんでしょ?」

「んだとぉ!俺のどの態度が悪いってんだ!?」

「まさしくそういう態度よ」

 

「うっ」と言葉に詰まったヘクトルを無視して、リンはいまだ辛そうなニルスに声をかけた。

 

「ニルス、遠慮しないで甘えちゃなさいよ」

 

リンディス様がそれを言いますか?

 

と、ニルスはとっさに思ってしまったが、あまりの暑さにそれを口にすることはできなかった。

口ごもるニルスを遠慮しているのだと勘違いしたヘクトルはニルスに近づき、その腰に手を差し込んだ

 

「ガキは素直が一番だぜ」

 

そして、ヘクトルはおもむろにニルスを一気に持ち上げた。

 

「うわっ!落ちる!!落ちるってば!!」

 

あわてるニルスを肩車し、ヘクトルは豪快に笑ってみせた。

子供らしい声をあげるニルスを巨体のヘクトルが肩車する様は随分と絵になった。

 

そんな男2人を見て、リンも愉快そうに笑う。

 

そんな彼女を見つめる視線が一つ。

 

「うおっほん!!」

 

視線の主であったハングは盛大な咳払いで我に返り、慌ててマーカスの方へと向き直った。

 

「ハング殿、気になるならそう言ってくださってかまわないですよ」

 

ハングはオズインにもそう言われて、反省する。

さっきから、地図も見ないでリンの笑顔ばかり追っていた。

 

「重症ですね、自分は・・・」

「それが自覚できてるなら、説教はいりませんね。こっちの話に戻しますよ」

「はい・・・確かウーゼル様は西を目指せば迎えが来ると仰ってましたね」

 

ハングが西に目を向ければそこから先は黄土色の砂と真っ青な空という二色に染められた世界が広がっている。そこは人が生きていける環境には到底思えない。この先から迎えが訪れるなどまるで信じられないが、ウーゼル様の言葉を信じる他に方法がないのも事実であった。

 

「もう少し先に行かないといけないのでしょうか?」

 

マーカスがそう言い、ハングが頭をかく。

 

「と、なるとだ・・・やっぱり少し荷物を整理しよう。砂漠で立ち往生だけは避けたいからな」

 

ハングはマーカスとオズインに荷物の整理を任せ、今後の細かい話をエリウッドと詰めていく。

そこに、ニニアンが伝令としてやってきた。

 

「あの・・・ハングさん。ヒースさんが呼んでましたよ?」

「あいつが?まぁ、いいや。エリウッド、ここは任せたからな」

 

ハングが任せたのはヘクトルのリンのことだった。

いくらあの二人でも、こんな砂漠の中に不用意に突撃していくことはないだろうが、万が一のことを考えての監視役だった。

本当はハングが自ら釘を刺しておくべきところだが、今はリンに近づきたくなかった。

 

ヒースのもとへ急ぐハング。その背中に向けてエリウッドは小さくこぼす。

 

「ハングは時々、すごく臆病だよね」

 

それを聞いたニニアンも控えめに笑う。

 

「そんなことを言っては、またハングさんに怒られますよ」

「『狸貴族め・・・』と、また言われてしまうかもね」

 

あまり似ていない声真似だったがそれはそれで面白く、ニニアンはくすぐったそうに笑った。

 

「・・・・」

 

そのニニアンを見ていたエリウッドだが、おもむろに彼女の横に並んで腕を差し出した。

 

「はい」

「え?」

「君もこの暑さが辛そうだ」

 

そして、エリウッドはニニアンに向けて微笑みかける。

確かにニニアンの頬は赤く、足取りも僅かに覚束ない。

 

「僕の腕でよかったらつかまるといい」

「そんな・・・」

 

ニニアンは逡巡してしまう。

 

確かにこの暑さは辛い。砂に足を取られて体力も使う。

 

でも、自分がエリウッド様に寄りかかるなんて・・・

 

嫌ではない。そんなことは決してない。

 

でも・・・

 

「ほら、早く」

 

その優しい声音を受けて、ニニアンは自分より高い位置にあるエリウッドの顔を見つめる。

 

そこには何の含みもない純粋な笑顔があった。

 

そんな顔を前にして、体力的に辛かった彼女はすぐに折れてしまった。

 

「・・・はい、失礼します・・・」

 

彼女はエリウッドの言葉に甘え、寄りかかるようにして腕をつかんだ。

エリウッドの腕は意外と筋肉で強張っていて、頼りがいのある腕だった。

体重を預け、身体の力を抜くと、予想以上に自分が疲れていることに気が付いた。

 

そんなニニアンの視線の先ではニルスがヘクトルの頭上で危なっかしげに揺れていた。

 

「ほら、暴れんな。本当に落っこちるぞ」

「うわ!うわぁぁ!」

 

バランスが取れずに前後に揺れるニルス。

そんなニルスにリンが声をかけた。

 

「ほら、ニルス。私が後ろにいるから安心して」

「あ、じゃあ大丈夫だ」

「お前、下ろすぞ!!」

 

それを見たニニアンは自分の隣にいるエリウッドを視界に収め、またニルス達に視線を戻した。

エリウッドが彼女の顔を見下ろすと、そこには何か疑問を抱いているような表情が浮かんでいた。

 

「どうかしたのかい?」

「・・・・不思議なのです」

「なにが?」

「エリウッドさまたちは、私達姉弟と・・・・普通に接してくださいます」

 

エリウッドは首を傾げた。

ニニアンは続ける。

 

「・・・気味が悪くないのですか?人と違う・・・力や・・・体のこと・・・とか」

 

危険を察する不思議な『力』のことを言っているのかと思い、エリウッドは肩をすくめた。

 

「なんだ、そんなことを気にしてたのか」

 

エリウッドはただの世間話をするように言った。

ニニアンはその台詞に驚いて、エリウッドの顔を見上げた。

 

「いいじゃないか、少しぐらい人と違うところがあったって。ニニアンはニニアンだろ?僕から見た君は心の優しい普通の女の子だよ」

 

エリウッドはただのお人好しではない。鋭い洞察力と確かな選別眼を持ち合わせた人物だ。そして、こんな時に嘘や狂言を交えて人を傷つけるような人でもない。

 

そのことはニニアンもよく知っていた。

 

エリウッドは心の底から彼女らのことを『普通』だと思ってくれている。

それでも、彼女はもう一度尋ねざるをえなかった。

 

「・・・本当・・・ですか?」

 

エリウッドはただ頷いた。

 

迷いない視線が真っすぐにニニアンを見つめていた。エリウッドの瞳には疑いの気持ちなど欠片も入っていない。

エリウッドの澄んだ想いが、ニニアンの胸の深いところへと沁み込んでいく。

 

「・・・エリウッドさま・・・」

 

ニニアンは自分の胸の中に温もりが広がっていくのを感じた。

だが、それは冷えた指先を暖炉で温める時に伴うわずかな痛みと引き換えだった。

エリウッドが溶かしてくれた氷の奥からガラスの棘が現れる。

 

見えない痛みが、ニニアンの心に流血を強いる。

 

だが、きっと、この胸が締め付けられるような想いはきっと偽物ではない。

 

ニニアンは様々な想いを抱え、胸の上を握りしめた。

 

そんなニニアンを知ってか知らずか、エリウッドはニニアンの耳元に口を寄せた。

 

「それに・・・」

 

彼女の耳をエリウッドの呼吸がくすぐる。

 

「ニニアンよりも、化け物じみた軍師がうちにはいるからね」

 

ニニアンはその台詞に驚き、そして自分の口元が緩んでいくのを感じた。

エリウッドの顔にも悪戯好きな子供のように無邪気な笑顔が浮かんでいた。

 

「フフッ・・・怒鳴られますよ」

「それは怖いな、彼の雷は本物よりも音が大きい」

「フフフ・・・」

 

楽しいと純粋に思える時間。

それがこんなにも暖かい。

ニニアンは笑いながらこぼれた涙を自分の指でぬぐったのだった。

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