【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
「セイン、そっちはどうなってる!?」
「問題なしだ、相棒」
出口の無い部屋に落ちてしまったセインは壁越しにケントに無事を伝える。
セインには怪我もなく、武器もある。
戦闘をするには問題はないが、面倒な事態が起きているのは事実だった。
「フィオーラさん、まだ救援には時間がかあるようです。ですが、心配には及びません!この情熱溢れる騎士、セインがいる限り・・・」
「それ以上近づいたら串刺しにしますよ」
険しい表情で槍先を向けるフィオーラ。
それに対してセインは大袈裟によろめいてみせた。
「ああ、その真剣な瞳も美しい」
「先程は油断しました。あれほどの接近を許すとは・・・」
フィオーラはさっきまでの失態を思い出して身震いした。
あれが戦場であればフィオーラは腕の一本でも持っていかれている。
「いえいえ、騎士たるもの、女性を守るのは当然です」
「むしろ、あなたに襲われかけてましたが」
この部屋に落下してきたフィオーラは意識を半ば失っていた。
周囲の世界に現実味がなく、絵画のように見えてしまう程に朦朧としていたところをセインに介抱されたのだ。
その時にセインが身体の色々な場所を必要以上に調べていたことは辛うじて覚えている。
「いえいえ、そんなことありませんよ!私はフィオーラア様の美しい身体に怪我がないかどうか・・・」
「それで私の尻を何度も撫でていたのですか?」
「え、あ・・・えーと・・・それは・・・不可抗力・・・」
「そんな言い訳が通用すると思いますか?」
セインに目は明らかに泳いでいる。そんな彼を見つめるフィオーラの目線は鋭いままだ。
「やはり・・・あなたとは早く決着をつけておくべきでしたね」
「いやいやいけませんよ!いくらフィオーラ殿が騎士道に則った上で申し込んでこようとも、私にはあなたのような美しいお方と決闘などできません!」
その時、フィオーラの眉がピクリと動いた。
「私は傭兵です」
その声音はやけに硬い。
その台詞にさすがのセインもその笑みを引っ込めた。
騎士とは
『騎士』になりたくても、『傭兵』は決してその地位に手は届かない。
フィオーラの瞳に潜む、嫉妬と羨望。
セインはその冷たい視線を受けとめ、口を閉じた。
だが、それはほんの一時のことでしかなかった。
「何を言ってるんですか!」
セインは突然大声で叫んだ。その声にフィオーラは自分の身が竦んだのを感じた。別にセインの声に驚いたわけではない。セインの顔つきがいつもと変わっていたのだ。
セインの顔にヘラヘラした軽薄な笑顔はない。ましてや、戦闘中の少し殺気立った笑みもない。
彼の顔に浮かんでいたのは、引き締まった騎士としての顔だった。
そのセインの表情には彼の真っ直ぐな感情がそのまま写し出されているようだった。
「確かに、『騎士』という地位はそう簡単には得られません!ですが!」
セインは力強く続ける。
「向上心、誇り、優しさ。それらを併せる『騎士道』を持つことにはなんの壁がありましょうか!?いえ、そんなものはありません!!フィオーラさんは俺が尊敬してやまない程の騎士道を持っています!」
セインの眼はいつになく真剣だった。
その眼にフィオーラは射抜かれたように動けなかった。
そして、不意にセインの顔が緩む。
それは泣き出す直前の少年のような顔であった。
「ですから・・・自分をそんなに苦しめないでください・・・俺が悲しいじゃないですか」
セインはいつだって自分の気持ちに真っ直ぐだ。
それは過剰とも言える程に真っ直ぐだ。
普段、おちゃらけていてもその言葉には決して嘘は無い。
だからこそ、その言葉は本当の意味で人の心に突き刺さる。
「セイン・・・あなたは・・・」
フィオーラは無意識のうちに自分の拳を握りしめていた。
殴る為ではない。
そこにはフィオーラから溢れ出しそうな感情が篭っていた。
「あなたは・・・どうして・・・そんなことが言えるのですか・・・」
戦いを生業としながらも、対局にいるような存在の騎士と傭兵。
周囲からの冷たい視線。
偏見に満ちた態度。
浴びせられてきた罵詈雑言。
氷と雪に閉ざされ、傭兵としか生きられないイリアの人々。
戦いで身体を痛めつけ、雇い主と交渉で神経をすり減らす。
だが、溶けることの無い凍土は容赦無くイリアの人々を苦しめる。
どんなに辛くとも戦い続けるしか無いのがイリアの傭兵だった。
それをセインが本当の意味で理解してると思えない。
なのに、彼の言葉はフィオーラの奥深くまで染み渡っていった。
「ほっとけないんですよね・・・」
「・・・・・え?」
セインは照れ臭そうにそう言った。
「あ、いや・・・フィオーラさんって似てるんですよ。あの堅物に・・・だから、まぁ、なんていうか・・・」
それはフィオーラが初めて見るセインの姿だった。
「やっぱ、幸せになって欲しいというか・・・・いや!もちろん、相棒とフィオーラさんが似てるからって俺が特別なことしてるわけじゃないんですよ!俺はフィオーラさんだからこうして」
「わかってますよ」
そこを取り違えてしまう男ではない事は嫌という程わかっている。
フィオーラは一度深呼吸をしてみる。
砂漠の乾いた空気の中に胸の内が満たされる。
なんだか、自分の中に沈んでいた氷が一つ消えたような気がした。
「ありがとうございます、セイン」
面と向かい、礼を述べるフィオーラ。
セインの顔にはいつもの軽薄な笑みが戻っていた。
「いえいえ、騎士として当然です!そうだ、フィオーラさん!同じ騎士道を持つ俺と熱く語り合いまフガヤヤアアア!!」
半ば飛びかかるように突っ込んできたセインをフィオーラは固めていた拳で迎撃した。
ほんの少し前までは最高にかっこよかったのに、この人は・・・
「う・・・ぅぅ・・・」
少し強く打ちつけすぎたらしく、セインの意識は混濁していた。
その顔はだらしなく、まるで子供のようだった。
「本当に・・・あなたって人は・・・」
呆れたようにそう言ったフィオーラの目は随分と暖かかい。
今度はフィオーラが介抱する番だった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
ヘクトルは参っていた。
壁から伝わる音で遠くで戦闘が行われているのがわかる。
この部屋に一人凄腕の弓兵が湧き出てきた時は本当に焦った。
そのせいで、いらない怪我までこさえてしまった。
おかげで壁を破る程の力が腕に入らない。仲間の救援には行けないし、腕は痛む。
だが、それ以上にヘクトルは参っていた。
ヘクトルが隣に視線をやると、怯えた兎のように小さくなっている女性がいた。
フロリーナだ。
「・・・・・だ、大丈夫・・・大丈夫・・・」
そして、自分に言い聞かせるためか『大丈夫』を繰り返す。
小さなその声がヘクトルまで聞こえるのは二人の距離がさほど離れていないからだ。
フロリーナはヘクトルの怪我を心配して、できるだけ近くにいる。だが、彼女にはヘクトルに近づける距離に限界値がある。そのせいで2人は中途半端な距離を保って座り込んでいた。
ヘクトルは参っていた。
彼女が恐る恐るといったように、ヘクトルに視線を向けた。
当然、彼女を観察していたヘクトルと目が合った。
「っ~~~~~!」
フロリーナに声にならない悲鳴をあげられてしまった。
俺は化け物かよ・・・
さすがに落ち込むヘクトルだ。
ここにはフロリーナの愛馬であるヒューイもおらず、彼女は最初から今まで震えっぱなしだ。ヘクトルの方からも何度か会話を試みたが、フロリーナが昏倒直前までいって諦めた。
それでも、フロリーナは常にヘクトルの方を気にしていた
それはフロリーナがヘクトルの怪我を自分のせいだと思ってることであった。
確かにこの怪我はフロリーナを弓兵から庇ったためにできたものであるが、決して彼女のせいではない。誰が悪いと言えばヘクトルが未熟だったからだ。
間違いなく叩き落とせた矢を判断ミスで怪我につなげてしまったヘクトルの落ち度だ。
だが、フロリーナからすればそう簡単に割り切れる話ではなかった。
ヘクトルは自分の腕に巻かれている包帯を一瞥する。
この怪我の治療でも既に一悶着起こしている。
自分でやると言い張るヘクトルに対して、どもりながらも譲らないフロリーナ。
結局フロリーナが押し切り、手当をしてもらった。
利き腕に穿たれた風穴にあてた布はフロリーナが自分の私物を引き裂いて作ってくれた。
ヘクトルは苛立ちを抑えるようにこめかみを指で押す。
ヘクトルはそのことに対して礼の一つも言いたいのだが、とうの彼女は鷲に捕らわれた子兎のような有様だ。
「なぁ、おい」
「ひゃぁ!!!ごめんなさい!!」
「・・・・・・」
ヘクトルが声をかけるたびにこの有様である。
ヘクトルはこういう面倒な人は苦手だ。
だが、ここで礼を返せないのは別の問題だ。
何が何でも礼を言いたい。そして、受け取ってもらいたい。
言葉で並べると簡単なはずのことなのに、現実は随分とややこしい。
ヘクトルはため息を吐き出そうとして、その直前で止める。
露骨にそんなことをすると、フロリーナが泣きそうになる。
既に二回経験済みだ。
あの目で見られるのは心底きつい。
しかし・・・
ヘクトルは現実逃避も兼ねて自分の手当をしてくれたフロリーナの姿を思い起こす。
『わ、私がやります!こ、ここここだけは・・・ゆずりません!』
震え、涙を溜め、それでも一直線にヘクトルの目を見てフロリーナはそう言っていた。
いつも、あれぐらいならいいのによ・・・ま、無理だろうけどな。
彼女が努力していることはヘクトルも知っている。羽馬相手に会話の練習しているのを何度か目撃している。
だが、人には向き不向きがあるのだ。
こんなことに無理する必要はないとヘクトルは思っていた。
度を越した努力はしんどいだけだ。努力する人間は嫌いではないが、ヘクトルは自分にそれをする価値のある人間とは思っていない。
もっと別のところに努力の方向を向ければいいのによ。
まったく・・・不器用な奴だぜ・・・
ヘクトルは思い出したようにフロリーナの横顔に視線をやった。
今度はフロリーナがこちらを見ていたらしく、目が合った。
「・・・・お、おう」
その時、フロリーナの体が揺らいだ。
「おい!大丈夫か!?」
慌ててヘクトルは彼女を支えた。
そして、その直後にヘクトルの背後の壁が突き破られた。
「ヘクトル!ここに・・・いたのか・・・・・」
ホークアイが壁を破り、エリウッドが入ってきた。
「おう、ちょどいいところに・・・」
そこまで言いかけて、ヘクトルの表情が固まる。
ヘクトルは状況を整理してみる。
ヘクトルは倒れたフロリーナの背と頭に腕を回して支えている。そのフロリーナは目を回している。エリウッドの位置からだとヘクトルがフロリーナに覆いかぶさっているように見える。
そして、フロリーナが男性を苦手としているのはエリウッドは当然知っていた。
エリウッドの表情が次第に呆れたようなものに変化していく。
「ヘクトル・・・・君は・・・」
エリウッドの後ろから顔をのぞかせたニニアンの目線が突然に冷たくなった。
「ヘクトル様・・・」
彼女の声は氷すら生温く感じるぐらいの冷気を帯びていた。
そんな現状を見てホークアイが状況を一言で表した。
「・・・・襲ったのか?」
「ちげぇんだ!!言い訳ぐらいさせてくれ!!」
「ヘクトル・・・さすがに僕も擁護できないよ」
「最低です・・・」
「違うって!話を聞け!!」
ヘクトルの叫びが虚しく響いていた。