【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
砦の廊下をひた走るハングとリン。周囲からは戦闘音が既に聞こえ始めていた。
2人が廊下を曲がる。その先は裏口まで一直線だ。そこには山賊らしき男が既に入り込んでいた。
それを見つけた2人は立ち止まることなく剣を抜き放った。
「へへへへ、いい女がいるってのは本当だな」
それを目に留めた山賊は下品な笑顔を浮かべて斧を片手に突っ込んできた。
リンとハングは一瞬目配せを交わす。次の瞬間にハングが一気に加速した。
間合いを詰め、大上段から剣を振り下ろした。
「そんな剣が当たるかよ!」
山賊は身を開いてかわした。態勢が崩れ、流れるハングの体。
「死ねぇい!」
ハングに斧が迫る。刹那、ハングの後ろから人影が飛び出した。夕焼けを照らす刀身が一筋の軌跡を生む。
目の前で山賊の首から上が吹き飛んだ。
リンは身体だけになって血を吹く山賊には目もくれず、裏口に向けて駆け出す。
だが、その腕をハングが掴んだ。
「戻れ!」
腕を引っ張られ、強制的に引き返させられたリン。
ハングに抱き止められるのとほぼ同時に隣の壁に斧が突き刺さった。
石礫が飛び散り、散乱する。
「リン、大丈夫か?」
耳元から聞こえるハングの声
「うん、平気。ありがとう」
ハングから離れたリンの視線の先、裏口付近に体格の良い男が立っていた。
「あいつの投げた投擲用の手斧だ。一撃でも喰らえばただじゃすまないぞ」
「ええ、そうみたいね」
刺さった斧は壁にめり込んで簡単には取れそうにも無い。
剣を構える二人の先でその男も新たな手斧を取り出していた。
迂闊に近づけない二人。それに対して山賊も無理に前に出てくる様子はなかった。
裏口の出入り口を確保して、後続を安全に砦内に入れるつもりなのだろう。
ハングは舌打ちをしたいのをこらえた。
山賊にしては随分と腰の座った戦い方をするじゃねぇか。
しかし・・・
睨み合ったままの時間が流れる。
その間にリンはわずかな違和感を覚えていた。
「ねぇ、ハング。私、あの人に会ったことある気がするんだけど」
「ん?あぁ・・・俺もなんか初対面って感じがしなくてな。旅の途中でどっかで会った・・・か?」
ハングは人の顔を覚えるのは得意な方だと自負してはいるが、今まであった人間を全て覚えていられる訳ではない。
だが、それにしても目の前の人物に見覚えがあるような気がしてならない。
ハングは喉に引っかかりを覚えるような、違和感を感じていた。
そして、その違和感の正体にリンが気がついた。
「ナタリーさんの似顔絵に似てるんじゃない?」
「あ!そうか・・・だが、本物か?」
「聞いてみればいいじゃない」
ハングはわずかに間を置いて答えた。
「まぁ、そうだな」
本当はリンに色々と言いたいことがあった。
相手が本当のことを話す保証がない状況下、しかもここは戦場だ。その場で何を質問して、どう答えさせるのが正しいのかという作業は本来はかなり危険な綱渡りなのだ。そういった戦場における交渉術の諸々について事細かに説教してやりたかった。
だが、ハングはリンに任せることにした。
理由の一つはそれを語ってやるだけの余裕がないこと。そしてもう一つは目の前の男性に悪意を感じられないことがあげられた。
この男から攻撃を受けたにも関わらず、そう思わせる何かがあった。
それは悲しそうな瞳だとか、纏う悲壮的な空気だとかを引っ括めた彼の第一印象がそうさせるのだろう。
リンはわずかに息を吸って彼に話しかけた。
「ねぇ・・・あなたドルカスさん?」
それで十分だった。男の顔にありありと驚きが浮かぶ。
「・・・なぜ、俺の名を?」
ほんの少しだけハングとリンが目を合わせた。
「・・・ナタリーから聞いたの」
ナタリーの名前を出した途端に男は悲しそうに顔を伏せた。
「どうして山賊団に加わってるの?」
「・・・金の為だ」
「だからって!山賊なんてっ!」
「このあたりで稼ぐには・・・これしかない。汚い仕事でも・・・俺には金がいる」
リンが青眼に構えていた剣をおろし、更に声を張った。
「お金のためなら、奥さんを傷つけてもいいって言うの?ナタリーは今、砦の中で震えているのに!!」
今度こそドルカスの表情がはっきりと変わった
「なんだと・・・!?あいつが・・・ナタリーがここに・・・!?」
斧を取り落とす程の衝撃を受けたドルカス。
ハングはそれを見ながら自分の位置を微妙に変えた。近くの覗き窓から砦の外を確認する。
今、ここに新手が来たらまずいことになる。
意識を裏口に集中するハングを他所にまだ会話は続いていく。
「ナタリーはあなたが心配で、あの足でここまで来たのよ。こんなことをして、ナタリーが喜ぶと思うの!?」
リン言葉にドルカスは押し黙る。少しの間、聞こえる音が遠くで聞こえる騎士と山賊の声だけとなる。
ドルカスはおもむろに顔を上げ、差し込む夕焼けに目を細めた。まるで、始めて今が夕暮れに気付いたかのように・・・
「・・・あんたの言うとおりだ」
「だったら!」
「・・・わかってる。今、この時を境に山賊団からは抜ける」
「本当!?」
リンの少し上ずった声は喜びに溢れていた。
「・・・ああ。それから、ナタリーが世話になった分、おまえたちを助けよう。俺も仲間に加えてくれ」
「よろこんで!」
剣を鞘にしまい、リンはドルカスに駆け寄った。片手を差し出すリン。その手を大きな手が握り返した。
「ハングさん!」
その時、上空からフロリーナの声がした。
見上げた先には天井の隙間から降りて来る天馬の姿があった。
「どうした?」
「あ、あの・・・に、西側に、人が・・・」
西側に出入り口はない。それでも敵が集まってるってことは強引に出入り口を作ろうとしているからに他ならない。今侵入を許せば、ケントの背中が危ない。
ハングが激しく眉をしかめた。その形相にフロリーナが縮み上がった。
「ごご、ごめんなさい!」
「え?」
突然謝られたハングは困惑するしかない。
「なんで、謝るんだ?」
本気でわかってなさそうなハングにリンが呆れた顔で言った。
「あなたの顔が怖いからでしょ、それよりハング。西側に人が集まってるらしいわよ。どうするの?」
だが、ハングに後半の話は聞こえていなかった。
「ドルカスさん、俺って人相悪いですか?」
「・・・悪いとは言わんが、良くはないな」
少し沈んだハング。ハングはため息一つで気持ちを切り替え、リンとフロリーナに指示を出した。
「お前ら二人にここを任す。ドルカスさんは一緒に来てくれ。できれば侵入させたくない」
了解の返事を受け取って、ハングは廊下をドルカスと共に戻って行った。
「もぅ、ハングは人相を気にしすぎよ」
「でも、時々すごい怖いよね?」
「まぁ、なんていうか。表情が無くなる時とかはそうかもね。それより!」
「うん!」
その時、リンの頭をよぎったのはハングの声。
『敵の数がこっちより多いなら本来は逃げるのが定石だ。だが、敵を隘路に誘い込めれば数の有利不利は幾分か軽減される。最高なのはこっちが隘路の出口に陣取ることだ。局所的に見れば数の差すら逆転できる』
この裏口は人が1人2人通れる程度。裏口から入ってきた相手を1人ずつ相手取ればフロリーナとリンの2人で止めれない相手はそういない。
「フロリーナ、私から離れないでね!」
「うん!」
リンは鞘にしまった剣を再び引き抜いた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
斧を握りなおすドルカスに続いてハングは元来た道を駆け戻っていた。
正面口で戦うセインとケントの後ろを横切って、さらに西側へと走る。
そして、彼らが廊下を曲がるのと、岩が崩落するかのような破砕音が響くのはほぼ同時だった。
「間に合わなかったか・・・」
ハングはそうぼやく。
「軍師!どうする!?」
「どうもこうもありませんよ。一人たりとも後ろに通さない・・・」
皆殺しだ。
そう言いかけたハングは少し考えるような顔をした。
「ドルカスさん。あんた、あそこに顔見知りとかいるんじゃないのか?」
「・・・気にするな・・・所詮、悪党共だ。情けをかける程の奴はいない。あいつらも・・・俺も」
ハングはそれ以上はもう何も言わなかった。
「来るぞ!!」
風を裂く音がして矢が足元に突き刺さる。
ハングとドルカスはすぐさま近くの瓦礫に身を隠してやりすごした。だが、そうやって廊下の壁にくぎ付けにされている間に山賊がわらわらと侵入してくる。
「ったく、後でリンにどやされるかもな」
「軍師・・・ハングと言ったか?」
「ああ、んじゃ。おっぱじめようか?」
ドルカスは小さく頷いた。
「牽制してくれ。弓兵が最優先目標」
「任された」
2人は矢が途切れた瞬間を狙って、駆け出した。
ドルカスの手斧が飛んでいく。弓兵を狙った手斧は剣を持った男に叩き落とされる。
だが、そのおかげで弓兵の射線が潰れた。
ドルカスとハングは敵の集団へと躍りかかった。
ドルカスは手斧を防御した男に飛びかかり、その丸太のような太い腕で相手の手を捻じりあげた。そのまま、相手を強引に引き寄せて防御を崩し、斧で確実に頭を叩き割った。飛んでくる矢を男の死体を盾にして防ぎ、次の男に襲いかかる。
その隣で、ハングは刀身の長い剣で次々と敵の体を刻んでいた。
毎晩のようにサカの剣士と打ち合いをしているハングだ。今更、山賊程度に遅れはとらなかった。
だが、三人目の首を切り落とした時にハングの左腕の肩口に矢が二本吸い込まれた。
「ぐっ!」
そこは左腕の繋ぎ目、強靭な鱗がない。焼けるような痛みと骨に響く衝撃。鏃の一つが鎖骨を直撃したらしい。膝をつきこそしなかったが、痛みで反応が鈍る。
「おらぁぁぁ!」
左側から横殴りに繰り出された斧。痛みを堪え左腕を曲げて盾のように備える。
だが、強靭な腕とはいえ大男の全力の斧を防ぎきるのは無理だ。ハングは咄嗟に体を小さくして、ぶつかってきた斧に呼吸を合わせた。力に逆らわずに斧の力に腕を乗せるようにして自分から横に飛ぶ。衝撃を殺しきることはできたが、瓦礫に全身を打ち付ける羽目になった。
「しぶとい野郎だな!死んでろ!!」
追撃の斧が迫る。
「ハング!」
ドルカスがそんなハングの盾になろうと寄ろうとするが、ハングはすぐさま動き出した。
瓦礫の下から剣を突き出す。男の喉元めがけた突きはものの見事にその男を貫いた。
「がっ・・・がはっ・・・・」
滴り落ちる血の生暖かさを感じながら、ハングはその男の身体に足をかけて一気に剣を引き抜いた。
「俺はいい!それより、あの弓兵をなんとかしてくれ!」
「・・・わかった」
ドルカスが再び前進を始める。その背後を狙う男をハングは切り捨てる。
ドルカスが最後の一人を片付けるまで、ハングは肩に矢を生やしたままで戦っていた。
そして、夕焼けの赤い空が黒い碧に変わりゆくころ、ようやく敵の気配が無くなっていった。
「はぁ・・・はぁ・・・終わった・・・のか?」
ドルカスが息を切らしながらそう言った。彼の手にしている斧は血を吸って赤黒く光っていた。
「わからないと、言いたいが・・・正直今日はもう戦えないかもな」
ハングはマントと上着を脱ぎ捨てて手近な瓦礫に腰を下ろした。肩に刺さった矢の具合を確かめる。
「ああ、くそっ・・・骨に食い込んでないのが幸いかな」
「大丈夫なのか?」
「ああ、多分。この位置なら平気だろう」
ハングは鏃の返しが引っかからないように矢が刺さった場所の周囲を剣で切り開く。
「ドルカスさん、抜いてくれ。真っすぐ力をかけるような感じで、矢を折らないように頼みます。肉を開いて鏃を取り出すのは勘弁ですからね」
「ああ、わかった」
ドルカスさんは矢に手をかける。ハングはこれからくる痛みを想像し、歯を食いしばった。
肉が裂けるような音がして、矢が引き抜かれる。
「っつ!!」
矢が刺さった瞬間よりも痛かった。
ドルカスは続けてもう一本も引き抜く。
「ってぇ・・・やっぱ痛いな・・・」
傷口から黒い血が流れてハングの肌に筋を残す。夕闇が迫り、青く染まりだしたこの世界では色を確かめることはできない。
ハングは自分の傷薬を取り出し、軟膏を傷口に塗り付けて覆った。
その上から手際よく包帯を巻き、ハングは上着を着る。
「さて、そろそろ戻りましょう。奴らも本当に撤退したようだ」
治療を行いながらも周囲の様子を気にしていたハングは辺りが完全に静けさを取り戻していることを確認した。
ハングは剣の血を拭って鞘にしまいその場を後にした。
ハングが座っていた場所には肩からわずかに垂れた血が点々と床に落ちていた。
古びた石畳に染みこみ、黒く塗りつぶされていく。その血の色が何色だったのかを確かめる術はもうない。
ハングは一度だけその血痕を振り返り、すぐに視線を逸らした。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「ナタリー!」
「あ、あなた!?」
再開を果たした2人。ハング達が見ている前で、ドルカスは恥ずかしげもなくナタリーを抱きしめた。ドルカスのその巨体にナタリーはすっぽりと隠れてしまう。そんな姿がなんだか微笑ましく見えるのは、ナタリーもドルカスも幸せそうな顔をしているからだろう。
「ナタリー!大丈夫だったか!?こんな所までなんて無茶を・・・」
「あなたが心配だったんです。私の足のことなんてもういいから・・・危ない仕事は止めて。お願い・・・!」
「・・・すまん!俺はどうかしていたようだ。あの、リンとかいう娘に言われて・・・目が覚めた」
積もる話もあるだろうと思い、ハング達はその場に2人を残して席を外すことにした。
廊下を歩きながらフロリーナがリンに声をかけた。
「あの人達が再会できてよかったね・・・リン」
「そうね・・・でも、夫婦か。仲睦まじそうでいいわね」
リンはどこか遠くを見るような目をしてそう言った。遠い過去を見つめる先に何があるのかを親友であるフロリーナは知っている。フロリーナはリンが戻ってくるのを待つかのように、一緒に遠くを見つめていた。
「夫婦・・・か・・・」
それに対してハングは苦笑いをするばかりだった。ハングは自分の左肩をさする。鱗と皮膚の継ぎ目を引っかくようにハングは爪を立てていた。
「お前たち・・・」
そんな時、すぐ後ろからドルカスに声をかけられハング達は驚いて振り返った。
感動の再会はもういいのだろうか。
ドルカスの背後では、腰かけたナタリーが小さく会釈をしていた。どうやら、あの程度でもナタリーにとっては十分らしい。
「・・・村はこの近くだ。ナタリーを送って、明日の朝、戻ってくる」
ドルカスにそう言われ、リンは驚いたような顔をした
「え?お別れなら別に今でも・・・」
「・・・いや、そうじゃない・・・」
ドルカスがハングに視線を送る。それを受けたハングは意味ありげに頷いた。
「ハングに事情は聞いた。あんた、俺を傭兵として雇ってくれないか?」
「でも私たちはリキアに行くのよ?ナタリーさんを一人残してそんな遠くまで・・・」
「まともに金を稼ぐには・・・どうせ遠出しなきゃならん。あんたらが助けを必要としていて、おれが役にたつなら・・・雇ってくれ・・・妻を助けてくれた、礼がしたい」
「ドルカスさん・・・」
「前金が払えないこともわかっている。金を保証できないこともハングから聞いている・・・それでも・・・おれはおまえらの助けになりたい・・・頼む」
ドルカスはそう言って頭を下げた。
そこまで事情がわかっていながら、ドルカスは力を貸してくれようとしている。
リンにはその気持ちが一番嬉しかった。
だが、やはり足の悪いナタリーを残して良いものか。
山賊の横行するこんな世の中だ。
家族はなるべく一緒にいて欲しいというのが、リンの気持ちでもあった。
そんなリンにナタリーも頭を下げた。
「リンさん、私からもお願いします。夫を・・・ドルカスをよろしくお願いします」
2人に頭を下げられ、リンは自分の専属の軍師に意見を求める。
「お前が決めろ。ここは『リンディス傭兵団』団長はお前だ」
ハングはそう言った。リンの決断を待つ構えだった。
リンは一呼吸置き、小さく笑顔を作った。
「わかったわ。これからよろしくお願いするわね。ドルカスさん」
「・・・ああ」
その時、ハングとリンはドルカスの笑った顔を初めて見たのだった。
というわけで、4章終了でございます。
思った以上に多くの方から感想をいただき、『烈火の剣』は人気だったんだなぁと思う今日この頃です。
さて、今回のお話で原作プレイヤーは会話が少し足りないことに気が付かれたかと思います。その辺りは次回の『間章』でやらせていただきます。原作にはない章と章の間の話。自分の妄想が炸裂している箇所です。
では、また次回。