【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
「お~い、ハング!」
「・・・・ん?」
ハングが顔をあげると、城の方から見慣れた顔が走ってきていた。
「どこだ~?ハング~?」
ハングは溜息をつき、手元の本を閉じた。
「ヒース、上だ」
ハングは城壁から身を乗り出すようにして声をかけた。
ハングの背格好は青年と少年の間程にまで成長していた。
ハングに気がついたヒースは城壁の上へと続く階段を駆け上がってきた。
「ハング!聞いたか!?」
「・・・何をだ?」
話すのも面倒だと言わんばかりにハングはぶっきらぼうにそう言った。
「俺たち、いよいよ竜騎士見習いになれるらしいぞ!」
「・・・で?」
「で・・・って、嬉しくないのか?」
「嬉しいさ、当然な」
ハングはそう言ったきり再び読書に取り掛かってしまう。
そんなハングにヒースは肩をすくめて隣に座った。
ハングはそんなヒースを無視して本を読み進める。
ヒースもそんなのはいつものことだと、鋭意制作中の木彫りにとりかかる。
決して楽しくは無いが、心休まる時だった。
「お?なんだ?」
そんな中に現れたのは最近正式な竜騎士になった、バウトだった。
ヒースは露骨に嫌な顔をし、ハングは無関心を決め込む。
「お前ら、明日から訓練生か?はっはっー!いいね、いいね。お前らは俺がみっちり鍛えてやるからな」
バウトは新しい玩具を眺めるようにハング達を見た。
こんなバウトでも先輩であることには違いないので、一応ヒースが反応した。
「バウトさんよりも、ヴァイダさんの訓練の方が自分は恐怖ですけどね」
「ほう?俺は怖くないと?」
その小さな器に反比例して肥大化したプライドを逆なでされ、バウトのこめかみがひくつく。
そこにハングがぼそりと言った。
「・・・少なくともヴァイダさんよりあんたは弱そうだ」
「てめぇ・・・すかしやがって!この売女のガキが!」
その瞬間、ハングの目が剣呑に光り、左腕が振りぬかれた。
ハングが背を預けていた城壁の縁が粉々に粉砕される。
「・・・・え?」
その一撃にバウトの頭はついてこれず、間抜けな声をあげてしまう。
「おい!ハング!」
「・・・・っち!」
ヒースに声をかけられ、殺気だっていたハングは舌打ちをしてから立ち上がる。
その眼は既にバウトの方へとは向いてはおらず、ハングは背を向けてその場から立ち去った。
「・・・なんだ・・・あのガキは」
「目つきの悪い、短気な俺のダチです」
ヒースはバウトにそう言って、ハングのあとを追いかけていった。
その後、夕焼けが西の空に消え失せ、既に真っ暗となった城の訓練場。
城の中からあふれ出る光に照らされて、その場は今も明るかった。
そこに正座させられてるのはハングとヒース。
仁王立ちで怖い顔をしてるのはヴァイダだった。
「で?」
「・・・・ごめんなさい」
「これで何度目だ?」
「・・・・32回目」
「数えてたことには素直に関心するがな。それと、ヒース!お前も傍にいたんだろ!なんで止めなかった」
「こいつを俺が止められると思います?」
「止めろ!諦めるな、バカもんが!」
昼間に破壊した城壁の件でのお説教だった。
「罰として、腕立て!ハングは五十!ヒースは二百だ!今すぐやれ!!終わったら城壁三十週!」
「・・・夜が明けそうだ」
「ハングのせいだぞ」
「ぐずぐずするな!!」
そして、ハングは左の竜の腕を背中にまわし、右腕一本で腕立てを始める。
ヒースはもちろん両腕である。
「まったく!明日から見習いだというのにこの体たらく。私が推薦したというのに」
「・・・疲れた」
「だから、ハングのせいなんだからな!」
「喋るな!!」
翌日。寝不足でふらつくハングとヒースは他の見習いと共に訓練場に整列していた。
ここで、現国王のデズモンドからありがたいお言葉をいただくことになってる。
ハングの視界の隅ではヴァイダもいるが、彼女も寝不足なはずなのに、そんな素振りはまったく見せていない。
退屈そうにはしていたが。
「・・・諸君は・・・つまりだ・・・国のために・・・」
デズモンドの演説がいつの間にか始まっていたがハングの頭にはまったく入ってこない。ハングとしてはさっさと訓練に入りたかった。
一刻でも早く人を殺す術を知りたかった。
ハングはこっそりと昨日城壁の一部を破壊した左腕を握りしめてみる。
この腕で既に何度も人を殺しかけた。
子供同士の喧嘩のつもりでもこの腕はそんなことはおかまいなしだ。
大きく振りかぶった一撃が木々をなぎ倒し、壁を破壊し、大地をえぐる。
そのせいで、一度ハングはヒースを本当に殺しかけた。
実際、もう一歩でヒースは死ぬところだった。
何日も生死を彷徨い、それでも何とか戻ってきたヒース。
それ以来、ヒースの頭部の一部には白髪しかはえてこなくなった。
そんなことがあったのにヒースはいまもハングの友人でいてくれる。
本当に得難い友だと思う。
周囲から拍手が起こり、ハングはようやく自分の世界から戻ってくる。
いつの間にか、ありがたいお言葉は終わっていたらしい。
「それでは、続きまして・・・・」
まだ続くのかとハングは溜息を吐き出した。
結局、昼過ぎまでありがたいお言葉達を頂戴し、ハング達はようやく槍を受け取った。
槍といっても、先端には刃物ではなく砂をつめた袋がつけられた訓練用の槍だ。
「見習いの間に槍の基礎とドラゴンの操舵を叩き込む!騎士に必要な精神論はその後だ!」
と、騎士長からハングにとっては最も「ありがたいお言葉」をもらい、ようやくハングは素振りを行うことになった。
なのだが・・・
「そこ!また、体が流れてるぞ!!最初から数えなおせ!」
周囲から含み笑いをもらい、ハングは素振りを最初から行う。
左腕と右腕の力加減が合わないハングにとってこれは難しい課題だった。
ヴァイダをはじめとする教官の何人かはそのことを知っていたが決して加減はしない。
今後騎士になりたいのなら槍の扱いは必ず習得しなければならない。
しばらく素振りが続き、周りで何人も指定された回数を終えた者がでてくるがハングは未だに数十回素振りをしては一に戻るということを繰り返していた。
そして、全体の大半が終了した時点で教官は全員の動きを一喝で止めた。
本日は初日ということで、全体で訓練の順序を全て教える。
明日からは一つの課題が終わらなければ次には進めない。
汗だくになり、肩で息をするハング。その周りの訓練生達はそんなハングを鼻で笑った。左腕を古ぼけたぼろ布で覆い、体の動かし方が変な奴。
優越感に浸るには十分な存在だった。
そもそも、この訓練生として選ばれた者達のほとんどが上流階級の者だ。
その身に着けている物もどれもこれも見るからに上等だ。明らかに庶民とわかる物を纏った者などほんの数人。このベルンで庶民が騎士の見習いになるためには生半可な努力ではたどり着けない。
そして、そんな庶民の面々はやはりまだ素振りを終えきっていない者ばかりだった。
続いて、城壁の周りを走り、筋力の鍛錬、槍の投擲などを行う。
もう少し槍に慣れれば模擬戦なども行うことになる。
午前中にはドラゴンの生態やベルンの歴史などの座学を行うことを最後に告げて本日の訓練を終了した。
もちろん、それでハングの訓練が終わるというわけではなかった。
「おら!また姿勢が崩れたぞ!!」
ヴァイダはそう言ったが、回数を一回目には戻さなかった。それはせめてもの情けだろう。
日は暮れ、訓練場に残った者はごく少数。当初、ハングがじたばたと槍を振り回す様子を蔑むように見ていた他の見習いも日が沈むと同時に消えている。
訓練所にはハングとヴァイダ、それとハングに最後まで付き合うことを決心し、一心不乱に素振りを繰り返すヒースしかなかった。
「・・・ハァ!・・・ハァ!」
「情けない!もう限界か!」
「・・・・・っ!」
ハングは重い手足を引きずるように槍を突き出した。
ハングの竜騎士見習い初日は散々だった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
見習いとなって一年と三月。
「・・・ハァァッ!!」
「ヤァァ!」
「おらぁ!!」
「そこまで!!」
一年経過した時点で、規則に従い彼らは少人数の集団にわけられた。
今後の行動はその集団で行い、誰かの失敗はその面子での連帯責任をとらされる。
簡単に言うと小隊のようなものだ。
そして、今日はその小隊同士の集団模擬戦。
ハング達の組は当然というか必然というか庶民出身者が集められた。この方が面倒事が少なくてすむという管理側の意向である。
どちらにせよ、この一年で竜騎士見習いは何人か脱落している。庶民の数はたかがしれていた。
「次!第三班対四班!前に!」
騎士長直々の号令にきびきびと騎士見習い達は前に出る。第三班がハング達の班だった。
今日の模擬戦はただの試合ではない。勝ち抜き戦を行う大会のようなものだった。
ここでの優勝すると、竜騎士の騎士長から褒美が出る。それは何にも代えがたい栄誉だった。
ハング達は訓練場に入る前前に全員で槍の柄を一点に集める。
カツンと良い音がする。全員が訓練場内に並ぶ。
「始め!!」
ハング達が動き始める。それは一つの陣形を保っていた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「アハハハハ!かんぱ~い!!」
城壁の上で杯を打ち鳴らすのは第三班。
「ぷっは~!いいね、勝利の美酒ってのは!」
夕刻時。空が赤く染まる時間に彼らは食堂から拝借してきた食事と酒で簡単な宴会を開いていた。
「どれもこれもハングのおかげだぜ~うりうり~」
お調子者のアイザックがハングの脇腹を肘で押す
「・・・やめろ。鬱陶しい」
「アイザック、ハングが照れてる!もっとやれ!」
ノリの良い優男であるラキアスが酒を片手にそう言った。
「ラキアス、煽るのは感心しませんよ」
生真面目そうなべルミナートが腕を組んでそう言った。
「いいだろ、ベルミナート。今日は無礼講だ」
「よっ、ヒース!さすが我らが隊長!話がわかる!」
普段は見張りしかいないのが城壁の上だ。
そして、今日の見張りの担当者は彼らの保護者とも呼ぶべき人だった。
「お前ら、あまり騒ぎすぎるなよ」
ヴァイダが釘を刺し、皆は明るい声で返事する。
理解してるのかどうかは今一つわからなかったが、ヴァイダは溜息を一つ吐き出すだけでそれ以上は何も言わなかった。
ヴァイダとしても、手塩にかけて育てきた彼らの優勝は内心とても嬉しく思っていた。
「でも、ハングはよく頭が回ったよな。もしかして、あれか?槍の腕の才能の代わりに神が与えた贈り物なのか?」
「・・・だまれ、ラキアス・・・これでも、努力してる」
「せめて、ハングさんも槍の投擲並みの腕前が欲しいんですがね。そうすれば、模擬戦で開始早々狙われることも無いでしょう」
「・・・・うるせぇ・・・」
今日の模擬戦では大体最初に死体役になるハングだ。
それでもハングの存在が勝利を導いたというのはこの班の誰もが認めるところだった。
「あいつらの顔ったら無かったな。俺らに負けた理由が全然わかってなかったって感じだし」
「・・・ほとんど奇策の連発だったからな」
今日の勝利は片っ端から試せる奇策を用いての勝利だ。
同じ相手に二度は通じない手ばかり。
ハングは既に自分の手を全て明かしてしまったことに顔をしかめていた。
そんなハングの肩をヴァイダが叩いた。
「なに、実戦なら相手は全員死んだ。それなら同じ手は何度でも使える。あれは悪くない手だったぞ」
全員が一斉にヴァイダの方を向いた。
「な、なんだお前ら」
「・・・いや、ヴァイダさんが褒めるなんて・・・」
「明日は雨ですか?槍ですか?飛竜でも降ってくるんでしょうか?」
「やばい、俺まだ遺書書いてない」
「お前らなぁ!!」
無礼講ということで、教官であるヴァイダすらからかい、皆は笑い合う。
ラキアスがハングの盃に酒を注ぎ込んだ。
「でも、あれだな。ハングは軍師にでもなる気か?まぁ、竜騎士になるよりは仲間の役に立ちそう・・・って、睨むなよ。怖いだろ」
ハングは怯えてくれたラキアスに免じ、眉間に寄せていた皺を戻した。
「でも、最近は休みの時間はずっと書庫に篭ってると聞いたぞ。何してるんだ?」
「・・・ちょいとな」
ハングは干しぶどうを口の中に放り込みながらそう言った。
「禁書の棚に忍び込みかけたとかも聞きましたよ」
「・・・気のせいだ」
「闇魔道士に立会いを挑んだとか」
「・・・そんなこともあった」
「食堂のカインさんに惚れてるって聞いたけど」
「それはない」
なぜか、その否定の声をあげたのはハング以外の仲間達だった。
「・・・お前らな・・・」
「こいつがそんなことにかまけるような奴かよ。そんな暇あったら槍の素振りでもするような奴だぞ」
「そうですよ、ましてやカインさんのような美人。根暗なハングには釣り合いません」
「こいつは昔から女にも男にも興味を持たん。そんな噂は一度も無かった」
ヴァイダさんにもそう言われてしまう。
「お前らなぁ!」
皆のあんまりな物言いにハングのこめかみに青筋が立つ。
「え?怒るってことはハングは好きな人っていたことあるの?」
「・・・・・・」
ハングは押し黙ってしまった。確かにそんなことは気にしたこともなかった。
皆は固まってしまったハングを笑い、ハングもつられるように笑い出した。
夕焼け空が、赤く、とても美しかった。