【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

112 / 176
前章~竜騎士(激動編)~

『東の町で反乱が起きた鎮圧に向かえ』

 

巡回中であった俺達の隊に師団長にまで格上げされたバウトから指令が届いた。

 

バウトがヴァイダより先に師団長になったことはハング達にとっては胸くそ悪い話だった。バウトよりもヴァイダほうが腕前も判断力も器も絶対に上のはずだ。バウトが勝ってるとすれば国王への世辞の数だけだろう。

 

だが、上官の命令に逆らうわけもいかない。

 

ハング達はヴァイダ隊長の指示に従い、東の町へと出発した。

 

あいにくの曇天で、空を駆けても爽快感はまるでない。

それどころか、全身にまとわりつくような湿気が鬱陶しい程だ。

 

そんな空を行く彼らの肩には騎士を示す勲章が鈍く光っていた。

 

正式に竜騎士となったハング達。いくつかの任務を経た彼らの顔は随分と引き締まっていた。

 

「なぁ、ハング。あんな辺境の町で反乱なんか起きるのか?」

「・・・どうだかな・・・反乱なんてもんに効率の良さとかそんなん考えねぇだろうし・・・ありえると言えばそうなんだがな・・・」

 

ほんの少し目の鋭さが緩んだハング。

ここで過ごす日々は辛いものではなかったらしい。

 

「・・・・・・・・」

 

ハングはふと、自分たちの前を行く隊長の横顔が少し陰っているような気がした。

 

「ってことは、明確な指導者がいない反乱でしょうか?」

「おいおい、『反乱』に指導者がいたらそいつは『革命』だぞ」

「はははは、確かに」

 

笑い声をあげるハング達。そんな呑気に雑談している面々に対してヴァイダが振り返った。また怒鳴り声が飛んでくるかと思い、ハング達は背筋を伸ばす。

 

だが・・・

 

「おい、お前ら・・・気を引き締めろ」

 

部隊の面々は顔を見合わせた。

 

いつもの隊長と随分と様子が違う。

 

だが、戦場は目の前だ。皆は気を取り直して声を張り上げた。

 

「おっし、ハング。俺の背中は任せるからな。後ろにちゃんといろよ」

「・・・いつもそうしてるだろうが、ヒース」

 

そして、ハング達は山を越える。ハング達の前に反乱を起こしたと言われた町が現れた。その至るところで黒い煙があがっている。

 

それは別に構わない。反乱が起きたというなら、国が統治するために設置した衛兵所や役所が襲われることはままある話だった。

 

だが、最初にベルミナートが異変に気がついた。

 

「あれ・・・あの煙・・・民家からあがってません?」

「え?あ、本当だ。飛び火でもくらったのか?」

「よく見ろ!煙の火元はむしろ住宅街だぞ!!」

 

ハングは前を飛ぶ隊長が唇をかみしめたのを見逃さなかった。

 

「って、え?あの竜騎士部隊・・・民間人を襲ってんぞ!どうなってんだ!?」

 

ハング達は更に町に近づいた。

 

逃げ惑う人、人、人。

 

町を囲う城壁の外に逃げ出そうと人々が通りを走っていた。

 

「・・・なぁ・・・敵は・・・どこにいる?」

 

返事は無い。

 

「みんな・・・ただの市民だぞ・・・戦意なんて・・・」

 

逃げようとする人々の群れに別の竜騎士部隊が襲いかかった。

ろくに武器もなく、逃げるしかない人々など、あっという間に血だまりと化してしまう。

 

「くそったれ!!」

 

隊長が突然悪態を吐き捨てた。

 

「やっぱりこういうことか!住民全てが反旗を翻した?一人も生かしてはならない!?くそったれがぁ!!」

 

隊長がくしゃくしゃに丸めた指令紙を投げ捨てる。

ハング達は一斉に手綱を引いた。ドラゴン達が驚いたように空中に静止した。

 

「・・・隊長?どういうことです?」

 

そんな彼らにヴァイダは鬼のような形相で振り返った。

 

「どうもこうもあるか!見たとおりだ!!奴は手柄を欲していた!将軍に上がる為の足掛かりとしてな!!そして、『反乱をほとんど兵を損ねることなく鎮圧する』という経歴が欲しかったんだろうよ!」

 

隊長はそれ以上は言葉の無駄だとでも言いたげに、視線を町へと向ける。

そこに広がってる光景は『戦闘』ですらない。ただの『虐殺』だ。

 

「つまりこの反乱はバウトのでっちあげってことだ」

 

町から一際大きな悲鳴があがる。竜騎士の本隊が山の向こうから姿を現していた。

 

「お前ら・・・どうする?」

 

その問いはヴァイダから発せられた。ヴァイダはその手に槍を握っている。

 

ヴァイダは虐殺に参加する気なのだろうか?

 

それは無いと、ハングは自分の考えを打ち消した。

 

隊長は冷酷だ。そして好戦的だ。だが、弱いものを無意味にいたぶることは嫌っていた。ならば、戦う相手は決まっている。

 

「あたしは戦うよ」

 

ヴァイダは静かにそう言った。

その槍先が向く先をハングはいち早く察した。

 

ヴァイダが道中驚く程に口数が少なかったのは決意を固めようとしていたのかもしれない。

 

「・・・付き合います」

 

ハングは槍を構えた。

 

「俺もです」

 

ヒースもそれに続く。

 

「んじゃ、俺も」

 

アイザックは手槍を手に取った。

 

「あれ?逃げないの?」

「お前は逃げてもいいんだぞ?」

「冗談だろ」

 

ラキアスは高く槍を掲げた。

 

「皆さんも物好きですよね。まぁ、私も人のことは言えませんが」

 

ベルミナートは静かに手綱を強く握った。

 

「いいのか?お前ら?」

「・・・当然」

「死ぬかもしれんぞ」

「覚悟の上ですよ」

「せっかく竜騎士になれたんだ。参加せずともここで見ているという選択肢もあるぞ」

「無抵抗の何の罪もない人を見殺しなんてお断りです」

 

ハング達は覚悟を決めた。ヴァイダは疲れたように笑った。

 

「・・・いい部下を持ったな・・・」

 

そんなかすかな褒め言葉が何よりも嬉しかった。

 

「これより!我が第三班は命令を無視する!!奴らの虐殺をやめさせろ!!」

「了解!!」

 

これが、最後の作戦かもしれない。

 

ハングは唐突にそう思い、頭を振ってその考えを打ち消す。

これで皆が死ぬと決まったわけではない。

 

ハングは不安を振り払い、阿鼻叫喚となった町に視線を落とした。

悲鳴が掻き消え、命乞いが無視され、犠牲の精神すら踏みつぶされる。

それはハングの幼い記憶と重なっていく。

 

あの日ハングは誰も救えなかった。

 

「今度こそ・・・」

 

リガードの咆哮が放たれた。それに続くように部隊のドラゴンも吠える。

それは戦いの太鼓よりも荒々しい鼓舞の叫びだった。

 

ハング達は町に向けて突撃していった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ついに降り出した雨。燻っていた町の火は、それに次々と消されて行った。

遠くで雷鳴が鳴り響く。徐々に強まる雨足はこのまま豪雨と化すだろう。

 

ハングはそんなことを思いつつ、槍先を向ける。

 

「貴様!なぜ我々を襲う!」

「・・・襲ってんのはどっちだ・・・」

 

ハングは槍の柄を竜騎士の後頭部に強く叩きつけ、意識を刈り取る。

ハングとヒースは町を囲む防壁の出入り口を陣取っていた部隊を任され、彼らを次々とねじ伏せていた。

 

城門にいた連中を叩き潰し、はね扉の鎖を住民達の力を借りて降ろす。雨音の中に劈くような音が聞こえ、城門が開かれた。

 

「森へ逃げ込め!本隊は竜騎士部隊だ!身を隠せば、生き残れるぞ!」

 

ヒースが叫び、人々が門を抜けていく。

少なくともこれで何十人かの命は救えるはずだ。

この雨なら森を焼き討ちされることも無い。

 

「ハング、もう本隊が迫ってるぞ!そろそ俺達も逃げないと」

「・・・そうしたいが・・・新手だぞ!」

「おまえら!一体何をしている!!」

 

ハング達に向けて叫んだのは先行してきた本隊の一部だ。

手柄に目のくらんだど阿呆が既に町に入り乱れようとしていた。

 

ハングは躊躇わずに手槍を投げつける。

左腕による一発はドラゴンの翼の付け根の骨を貫いた。

 

「・・・ごめんな」

 

落ちていくドラゴンに謝る。乗っていた人間のことなど知ったことでは無い。

 

「ハング!ヒース!まずいことになった!」

「アイザック、どうしてここに?」

 

町の中で市民の護衛をしていたアイザックが雨の中を飛んで来ていた。

彼だけでは無い、他の部隊の面々もこの城門に集まって来ていた。

皆、どこかしらに傷を負い、返り血を浴びてる者もいた。

 

そんなハングも血まみれだった。元々は同朋とはいえ手加減していてはこちらが殺されかねなかった。

 

「あらかたの避難経路は確保したんです。これ以上は住人の運次第です」

 

ベルミナートは肩で息をしながらそう言った。

 

「まずいのはあたしらだよ」

 

隊長に視線が集まる。隊長が最も傷を負い、最も返り血を浴びていた。

 

「本隊に行って来た。あたしらに、正式に反逆罪で死刑宣告が出たよ」

 

覚悟はしていたが、やはり隊長の口からそれを聞くと戦慄が走る。

 

「・・・バウトめ・・・」

 

ヒースが口惜しいそうにぼやく。

 

「今更言っても始まらないよ。この町の住民が生き延びた以上、反乱の事実が無かったことはいつか判明する。虐殺を先導した奴らが必要になるんだ」

「それが俺たちか」

「そういう口ぶりだったね」

 

雨が肩を打つ。目に入った雨粒を頭を振って振り払った。

 

「お前らは西に逃げな。出来ればベルンを脱出しろ」

「隊長は!?」

「あたしは囮になる」

「そんな!ダメだ!隊長!!」

「それじゃあ皆で全滅するかい?はっ!それこそ笑えないよ」

 

ヴァイダは笑った。それは、見る人を元気付ける弾けたような笑み。

それを前にしてハングは泣きそうになる。

 

「でも・・・でも・・・」

 

そんなハングの頬にヴァイダは手を添える。

 

「ハング、泣くんじゃないよ。良い男が台無しだ」

「・・・ヴァイダさん・・・やっぱりダメです!そうだ!俺が、俺が囮に」

「ふざけんじゃないよ!!」

 

ヴァイダが怒鳴った。それに呼応するように雷鳴が轟く。

 

「お前はあたしが拾った命だ、それを粗末にしたら許さないからな!!」

「っっ!!」

「・・・それにな・・・」

 

そして、ヴァイダは残忍な笑顔を浮かべた。

 

「獲物が山程いる。そんな戦場を譲りはしないよ」

「・・・そう・・・ですね」

「ハング、お前ら、達者でな。生きてたらとこかで会おう!」

 

ヴァイダはドラゴンに乗り遠ざかっていく。彼女の姿は雨の中に消え、すぐに見えなくなった。

 

「ハング・・・行こう!」

「ああ・・・」

 

雨で冷えた頬に確かに温もりが残っていた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ハングは必死に手綱を打っていた。雲の中に逃げ込もうとするも、何人かが周囲から寄り添うように追従してくる。

 

「クソッタレ!!」

 

ハングはリガードの翼を閉じさせ、自由落下の勢いでなんとか振り切ろうとする。

雲を抜けると、既に仲間達の姿はどこにもない。

 

やはり、逸れてしまった。

 

『背中は任せるからな』

「悪いな・・・ヒース・・・」

 

リガードの翼には数カ所穴があき、ハングの鎧も傷だらけ、右足の脛当ては先程ドラゴンの牙に持っていかれていた。

 

「リガード・・・踏ん張ってくれ、頼む」

「グォォ・・・」

 

その直後、また一本の槍がリガードの翼を貫いた。

 

「リガード!」

「ガルゥゥゥ!!」

 

なんとか、空中で踏ん張るリガード。

ハングが頭上を見上げると三人の竜騎士が次の槍の狙いを定めていた。

 

「・・・・ちきしょう・・・」

 

ハングは手綱を操り、さらに下降して加速する。

 

岩山が続く大地。身を隠せる場所がどこにも無い。

ハングは地面が足に触れる程に低い位置を飛ぶ。

 

その隣に次々と槍が突き刺さる。それでもハングはリガードを一直線に飛ばした。

蛇行なんかしてたら、疲れているリガードはすぐに追いつかれる。ハングは前かがみになって、一直線に飛んだ。

 

とにかく、身を隠せる位置を探さなければならない。

 

このまま岩山を越えれば川が流れている。そこを渡れば森が続いていたはずだ。

 

次の瞬間、ハングの右肩に槍が刺さった。

 

「っぁぁ!!」

 

運の悪いことに鎧の継ぎ目に直撃した。槍が刺さった肩が焼けるように痛んだ。

継ぎ目の鎖帷子が切れ、ハングの鎧が風で剥がれ落ちた。

 

ハングは邪魔な鎧を脱ぎ捨てる。少し軽くなったからか、リガードの速度があがった気がした。

 

大きな傷を負えば、激しい痛みと共に治癒が始まるハングの体だが、先程から身体の血は静かなものだった。今動けなくなれば即刻死ぬことになると身体が理解しているようだった。

 

だが、それももう少しの辛抱だ。もう一つ岩山を越えれば、森に入れる。

 

ハングは手綱を握りなおし、岩山を乗り越えた。

 

「・・・嘘だろ・・・・」

「グルル・・・グルル・・・」

 

森の手前に、竜騎士の二部隊が展開していた。

網を張られていたらしい。

 

「ハング!!引き返せ!!」

 

遥か頭上から声がした。見上げると竜騎士の部隊のさらに先に仲間達がいた。おそらく、雲の中に潜ってやりすごしたのだろう。

 

彼らはドラゴンの頭を巡らし、ハングを助けようと引き返そうとしていた。

 

「・・・バカ・・・逃げろよ」

 

唯一の救いは目の前の竜騎士達が彼らにまだ気づいていないことだろう。

 

「はなてぇぇえ!!」

 

次々と槍が投げられた。回避することも出来ない量だ。

ハングの体に、リガードの体に、槍が次々と吸い込まれていく。

 

「・・・ぐふ・・・」

 

ハングの口から血潮がこぼれる。リガードの背が激しく揺らぐ。

 

不意に重力が消え、落下していることに気がついた。

ハングはリガードの手綱を手繰り、その首に腕を回した。

 

力強い筋肉に覆われた太い首。確かにまだ脈打つ血管を感じる。

 

ふと、ハングの脳裏に青い空が浮かんだ。

 

駆け抜ける風と、遮るものの無い空。ハングとリガードだけの世界。

 

「・・・リガード・・・」

 

頬を当てた鱗はこの冷たい空の中でも確かに暖かかった。

 

「・・・また・・・一緒に・・・飛ぼうな・・・」

 

その瞬間、リガードの目に最期の命の火が燃えあがった。

 

「グォォォォォォァ!!」

 

リガードが地面に叩きつけられる直前に、わずかに羽ばたいた。

リガードが一瞬静止する。そして最後の力を振り絞り、リガードは川に飛び込んでいった。

 

冷たい水の感触を感じながら、ハングは決してリガードの首から手を放すことは無かった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ここはどこだ?俺はどこにいる?

 

潮の匂い、海鳥の鳴き声、風の音。

 

しがみついた硬い鱗の存在は腐臭を放ち出していた。

 

少し目線をあげれば、波に揺られるままになる頭があった。目は半分程に開かれたまま。眼から光は既に無い。開いた口から舌がだらしなく伸びていた。

 

ハングは力無く、鱗の上に頭を置く。顔をあげる力も残っていない。

 

身体を動かす力はない。涙を流す気力もない。

 

それでも、生きる為だけにハングは鼓動を失った相棒の背にしがみつく。

 

流されるままに海を漂うハング。

 

そんなハングのそばを一隻の帆船が差し掛かった。

 

マストの上には海賊旗が掲げられていた。




これにて過去編終了です。
次回からはついにハング達がベルンの地に足を踏み入れます。

そろそろ物語も終わりが見えてくる頃合いですが、残念なことに今月はリアルの都合で更新頻度がかなり落ちると思われます。
今は週3、4話程更新していますが、8月は週1、2程度しか書けないかもしれないです。今後の生活リズムがどうなるかまるで予想できないので、もしかしたら今まで通り投稿できるかもしれませんが、遅くなる可能性の方が高そうなのでよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。