【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
ベルン
ハング故郷にして、アトスに示された国。
古くからリキアとは友好関係を保っているが、現国王のデズモンドは武力を背景に度々リキアに高圧的な姿勢を見せていた。
リキアの公子として入国すれば行動が極端に制限されるのは目に見えている。
エリウッド達は身分を隠し、旅人を装ってベルンへと潜入した。
「この先に待ち合わせの町がある。ベルンの玄関の一つだ」
ハングが地図も見ずにそう言った。
山に挟まれた間道を通り、国境を越えた一行。だが、その人数は随分と少ない。ここにいるのはエリウッド、ヘクトル、マーカス、ハングの四人だけだ。
「しかし、ヘクトル」
「なんだよ?」
「お前、ボロを纏うと本当に山賊にしか見えないな」
「喧嘩売ってんのかテメェ!だいたいテメェだって盗賊と大差ねぇじゃねぇか!!」
大人数で国境を越えるのは目立ちすぎる。顔を知られてる可能性の高い面々は分散させるに越したことは無かった。そして、一番に顔を探されてるであろうエリウッドとヘクトルは最も目立たないこの間道を進むことになった。
全員の集合地点はこの先の町である。
「しかし、意外でしたな。ハング殿もこちらに来るとは」
「そうですか?」
「私はてっきりリンディス様とご同行されたがるかと」
「・・・公私混同は控える努力をしてますから」
「はっはっはっ、それは大事ですな」
ハングはこうやってマーカスと軽口を叩けることが少し嬉しい。
最初にフェレを出た頃は警戒心剥き出しだったことを思えば随分と変わったものだ。
あれから、少しは成長できたのであろうか?
それこそ、この国で暮らしていた頃から自分は変わったのだろうか?
ハングの胸中を様々なことが巡る。
その背中を軽く叩かれた。振り返るとエリウッドがいた。
「ハングはベルンは久々なのかい?」
「いや、そうでもない」
軍師として旅立つことを決めてベルンは度々訪れている。一年前はリンディス傭兵団と共にベルンの端を通過した。
「この国は山賊やらなんやらが横行してるからな、仕事を得るにはちょうどいいんだ」
「行き倒れたことはないと?」
ハングは答えない。答えてやる必要も無い。
「しっかし、軍事大国の治安が悪いってどうなんだ?」
「軍事力が高いのと治安が良いのは必ずしも両立するわけじゃない。武器の扱い方がわかってても、そいつが善人とは限らないのと一緒だ」
その例えにヘクトルは納得したようだったが、エリウッドが反論した。
「でも、軍というのは国を守るためのものじゃないのかい?」
「軍事力が高ければそのまま国が良くなるわけじゃない」
「でも山賊が横行してれば、手柄欲しさに軍部は仕事するだろ?」
「エリウッド、それを俺に言うか?」
手柄を求めた上官のせいで、ハングはかつての居場所を破壊された。
ハングは「まぁ、間違ってはいない」と言って続けた。
「山賊は軍が出張ってくる程の大掛かりな悪事はしないもんさ。奴らだって死にたくないからな。それで小さい被害が続出して、全体で治安が悪くなってる。山賊の中には分け前の何割かを渡して、見逃してもらえるように取り計らってる奴らもいるぐらいだ。山賊を相手に命をかける奴なんてそういねぇよ」
「じゃあ、町の人達は泣き寝入りかよ。ひでぇ国だな」
「だから【黒い牙】なんてもんが出てくるんだろ」
ハングはふと前を向いた。
「見えて来た、あの町だ」
山の隙間から視界が急激に広がる。彼らの眼下には湖の畔に造られた町があった。小さいながらも賑わっているのがここからでもわかる。
「ここまでくれば、あと少しだ。さ、行こうぜ」
四人は少し軽くなった足取りで山を下り始めた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
その頃、その町では・・・
町の北に位置する街並みの一画で、一般市民と雰囲気を異にする連中の姿があった。
立ち込める空気は重く、放たれる風は独特の臭い。暗殺者特有の身のこなしをする彼ら。
【黒い牙】
その中でも特に強烈な存在感を持つ者が二人。
【白狼】ロイド
【狂犬】ライナス
【黒い牙】筆頭の実力者の二人がそこにいた。
そんな彼らの視界の隅を一人の少女が走っていった。
途端、彼らの纏う空気が霧散した。
「よ、ニノじゃねぇか」
朗らかに声をかけたのはライナスだ。それは【狂犬】などという二つ名を持っているとは思えない程に楽しげな笑顔だ。
「あ、ロイドにいちゃん!ライナスにいちゃん!」
ちょこちょこと走り寄って来た少女はそこらにいる年頃の少女達となんら雰囲気は変わらない。そんな彼女を前に、【黒い牙】の面々も随分と『普通』の気配になっていた。
「こんなとこでどうしたの?お仕事?」
「まぁな」
ロイドがそう答えて、ニノの頭をくしゃりと撫でる。手触りのよい短い髪は、ロイドの表情を緩ませた。
「で、お前の方は?そんな慌ててどこいくんだよ?」
「あたしもこれからお仕事なんだ。連絡係、母さんに言われてるから頑張らなくちゃ」
「そうかそうか」
ライナスもロイドと代わるようにニノの頭を撫でようと手を伸ばした。
だが、ニノはひらりとその腕をかわす。
「おっ・・・」
「へへ、お仕事失敗だよライナスにいちゃん」
「はははは、お前の負けだなライナス」
「ちくしょう、この!」
ニノはライナスから飛び退くように離れ、そこから走り出した。
「じゃあね!お仕事終わったらまた遊んでね」
「あ、おい!・・・ったく、勝ち逃げしやがって」
悔しそうに言いながらもライナスの顔は緩みきっている。
「相変わらず、いい子だな」
ロイドがそう言った。
ライナスは頬を叩いて自分を引き締め直してから、それに答える。
「ああ、あの女の娘とは思えねーな」
ライナスとロイドは仲間達に手で指示を出し、町の奥へと消える。
それは、忽然と闇に溶けたようで彼らがどこに去ったのかがわかる者はいなかった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
町に辿り着いたハング達は指定した宿屋へと向かう。
「っと、ここを曲がって・・・あった、あれだ」
指差した先には酒瓶とフォークがクロスした看板を掲げた宿屋があった。
ハングが率先して戸を開ける。
「あら、ハングさん」
「随分、早かったね」
そこにいたのはパント夫妻。宿の暖炉の前でお茶の時間を過ごしていた。
「あれ?エルクは一緒じゃないんですか?」
「私達に遠慮したのかな。今は上の部屋でシスターのお嬢さんと一緒にいるはずだよ」
「シスター?トルバートじゃなくて?」
「ん?確か、セーラというお嬢さんだったと思うよ」
「それは・・・」
休むうちには入んないだろうな、というのがハングの意見だ。
「それで、他の皆は?」
「ここへの到着は君達で最後だ。談話室を借りておいたよ」
「ありがとうございます」
随分と気の回る貴族だ。
「どういたしまして、と、言いたいんだが。手配したのは彼女でね」
パントの隣で丁寧にお辞儀をするルイーズ。
随分と良い奥方だな、とハングは心の中で訂正しておいた。
「皆さんお待ちかねですよ」
「ったく、いつ来るかわからねぇ俺達をよく待ってたな」
「談話室は寝室より過ごしやすいのでね」
「なるほど」
「では、わたくしが荷物の処理を」
「マーカスさん、お願いします」
そして、ハングはパント達と共に談話室へと向かった。
そこではリンディスとラガルトが何やら談笑していた。
「・・・だから・・・ここのお店を・・・」
「そうそう、で隣が・・・っと、ようやく到着したらしいな」
「え?あ、みんな。もう着いたんだ」
皆と挨拶を交わし、それぞれがテーブルの周りに腰かけた。
部屋の隅にはいつからいたのか、既にホークアイが佇んでいる。
談話室は大きな窓から日が差し込み、外の温もりを部屋の中に伝えている。
壁際には暖炉もあるが、それが必要になる時間はもっと遅い時間だろう。
ルイーズが気をきかせて窓を開けると爽やかな風と共に町の活気が流れ込んできた。
「町はにぎやかだな・・・」
ハングがぼそりとそう言った。
ここに来る途中で見た街中の賑わいは普通とは言い難かった。街の全てが浮足立っており、子供達よりも大人達の方が元気なぐらいだった。
「街の人達は『ゼフィール王子成人の儀式が10日後に迫ってる』って」
リンディスの台詞を聞いてハングは「あぁ、そうか・・・」と言った。
昔のことを思い出し、もうそんなに時間が経ったのかと感慨に浸る。
「裏で何が起こってるかしらねぇで。呑気なもんだぜ」
ヘクトルがそう言い、ハングは皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「裏は裏だよ。表にしないために俺が動いてんだ。ぼやくなよヘクトル」
「わかってるよ」
ハングは視線をヘクトルからエリウッドに移す。
「さて、これからどうするか・・・だが」
「【封印の神殿】・・・だったね」
そして、二人の視線はホークアイへと移動する。
「ホークアイ殿はご存じありませんか?」
皆の視線もホークアイに移る。彼は眉一つ動かさずに話し出した。
「・・・ベルン王都から北の方角にあるとは聞いている。だが、その存在自体が秘密とされるもの。王家の者でもないと場所は知らぬだろう・・・」
ホークアイがハングと目を合わせた。
「お前も知らんだろ?」
「まぁな、というか初耳だったよ。そんなもんがあるなんてな」
ベルン出身のハングだが、そんな話は聞いたこともなかった。
そもそも、ベルンにいた頃は訓練にしか眼中に無かったハングだ。
噂話をかき集めてる暇はなかった。
「つまり、神殿に行き着くためには王族に接触しないとダメなのね?」
リンがそう言った。ヘクトルが渋い顔をする。
「身分も理由も明かせないのにか?どうにか場所だけでもわかんねえかなぁ」
「それがわかれば苦労は無いだろう」
部屋に沈痛な空気が立ち込めた。それを破ったのはパントの声だった。
「・・・だいたいの場所ならわかるのだけどね」
「パント様?」
「私も、エトルリアで最高軍事を司る者。【封印の神殿】の存在を知った時に何度か手の者をやって調べてみた・・・だが、一人も帰ってこなかった。ベルンは絶対に、そこへの侵入を許さない」
「神殿に着いたら、その場でベルンの捕虜ってわけか」と、ヘクトル
「もしくはその場で処刑・・・ってとこか」ハングがそう言った。
パントもそれに同意する。
「そうだ。それに、君たちの正体が知れればベルンはリキアに攻め込むいい口実にするだろうな」
「・・・それだけは絶対に避けなくては・・・」
エリウッドが深い声でそう言った。
「・・・そこで、私たちの出番だ」
「え?」
皆の視線が一斉にパントに集まった。
「本当は、儀式が終わった後の祝典にさえ出席すれば、役目は果たせるんだけどね。その前に、王妃に会って非公式に挨拶をしてこよう」
「そんなことができるのですか?」
ハングは思わず身を乗り出した。
いくらエトルリアの魔道将軍といえども、そこまで顔が利くものなのだろうか。
その疑問に答えたのはルイーズだった。
「ベルン王妃のヘレーネ様は、エトルリアから嫁いだ方で私たちとは、遠縁にあたりますの」
「なるほど・・・なのか?」
「挨拶のついでに、なんとか【封印の神殿】について聞きだしてみる・・・簡単には教えてくれないだろうが、なにもしないよりマシだろう?」
『簡単には教えてくれない』
ハングはその言い回しにひっかかりを覚えた。ハングは言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「戦闘になるかも・・・と、思ってます?」
ハングのその台詞に周囲の目の色が変わった。
「ちょっと待て!なんでそうなる?」
「国の最高機密を尋ねられたら当然の反応だろうが、ヘクトル」
「そりゃ・・・そうだけどよ・・・」
心配する皆をよそに本人達は気楽に笑っていた。
「安心してくれ、失敗したとしても君たちのことは決して話さないから」
「パント様、そういう問題では!」
エリウッドが追い縋ろうとしたが、パントは軽く手を振って立ち上がってしまった。
「もし、明日になっても私たちが戻らなかった場合、君たちは、一度リキアに戻って別の策を考えるんだ。幸い、良い軍師もいるんだから。いいね?」
そして、手早くマントを身にまとい、旅立つ支度を整えてしまう。
「・・・失敗した時・・・パント様たちは、どうなさるのですか?」
ハングの問いにもパントの笑顔は揺らがない
「なんとかなるさ。身分を捨て、ルイーズと2人で逃亡する生活も悪くない」
ルイーズも朗らかに微笑んでいる。
「パント様と一緒でしたら私、どうなっても構いませんわ」
仲睦まじいのは良いことだ。
だが、それがこの場の空気を変えてくれはしなかった。
ハング達は2人を見送るために宿の外へと移動する。
「・・・成功を祈ってます」
「頼むよ。軍師君」
ハングは差し出された右手を握り返す。
「無事、戻ってきてくださいね。私たち、ここで待ってますから」
「リンディスさん、ありがとうございます。あなたも頑張るんですよ。大事な人を・・・守ってあげて」
「はい!」
そして、二人は宿から通りへと歩き出した。
「・・・パント少し待て」
それをホークアイが引きとめた。
ホークアイとパント夫妻は少しやり取りをしていた。
細かい会話は聞こえなかったが、三人が別れの挨拶をしているのはわかった。
考えてみればホークアイとパント夫妻の過ごした時間はハング達よりも長い。
何か伝えたいことでもあったのだろう。
ホークアイと別れたパント夫妻は街の人ごみに紛れていく。
ハング達は二人の背中が見えなくなった後も、その場でしばらく二人の姿を探していた。
「・・・待っている時間が惜しい。僕らにも、できることがないかな?」
パント夫妻を見送った後、談話室に戻ってきたエリウッドがそう言った。
「つってもなぁ。目立つこたぁできないし・・・」
ヘクトルがぼやく。ハングもヘクトルに同意するように頷いた。
そこに、どこからともなく声が降ってきた。
「なら、【黒い牙】について聞き込みってのはどうだい?」
「ラガルト、お前いつからいた?」
「最初からずっといたぞ」
最初からって・・・
確かにリンと談笑してたのは知ってるが、そこから先は談話室のどこにもいなかったはずだ。
ラガルトが談話室から出た姿を見てないのも事実ではあったが
「で、聞き込みだったか?」
神出鬼没の盗賊に何を言っても無駄。ハングはラガルトの意見を聞くことにした。
「そう。ここベルンには【黒い牙】の本部がある。といっても、オレも場所までは教えられてないんだが・・・本当だぞ?」
【四牙】に続く実力者であり、古参の人間でありながら、本拠地を知らないなんてことがあるのかどうか疑問は尽きない。だが、ハングはとりあえず先を促した。
「昔と様変わりしちまった今の【黒い牙】の情報を仕入れるのも有益だと思うから提案したんだけど、どんなもんかねぇ?」
「・・・それはいい考えだな。ありがとう、ラガルト」
ハングがどうこう言う前にエリウッドが採用を決めた。
「なぁに、おやすいごようだ」
そして、ラガルトはいつの間にか消えている。
目の前にいたはずなのに、なんの不自然さも感じさせずに消え失せる。さすが、暗殺者ってところだ。
「それじゃあ、手分けして調べよう。人数は・・・」
「目立ちたくない・・・かといって単独で動くのはまずい。何人か選んで二人一組がいいだろう。人選はエリウッドに任すよ」
そして、ハングはおもむろに立ち上がった。
「リン、一緒に行くか?」
「・・・・へ?」
素っ頓狂な声をあげたリンディス。そのせいで、周囲の注目が集まった。
さりげなく誘ったというのに、これじゃあ逆効果だ。
「いや、だから・・・」
ハングに集まるのは好奇の視線。
「もういい!」
ハングはそれに耐えることはできなかった。
「ヘクトル行くぞ!!」
「いや、俺は遠慮しとく」
「なっ!・・・ちっ!クソ!!」
ハングはにやにやするヘクトルに背を向けて談話室を出た。
「あっ!待ってよ!!ハング!」
それを慌ててリンが追う。
ヘクトルもなんだか楽しそうにそれを追いかけていった。
「まったく・・・」
「ふっ・・・」
「ホークアイ殿」
「・・・よい仲間だな」
「はい、自慢の友ですから」
エリウッドは少しだけ私情を挟んでもいいかとも思いつつ、誰を選別するかを決めていった。