【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
ハングが投げ上げた合図。戦場の中でも響く甲高い笛の音。
それに真っ先に気が付いたのは息を整えるために一時下がっていたリンディスだった。
「エリウッド!今、空にハングの合図が!」
「本当かい!?」
南側で【黒い牙】と応戦しているエリウッド。
できるだけ、街の人々や建物を傷つけたくなかったエリウッド達にとっても広い場所での戦いは望むところだった。
広場の出入り口で一進一退を繰り返す。
だが、湖に面するこの大きな広場は物や出店で溢れかえり、物影が多く、待ち伏せにもってこいの場所だ。
エリウッドは正攻法で攻めきることを躊躇っていた。
「合図の色はなんだ!?」
「『赤』!」
リンディスが叫ぶと同時に部隊の面々に電撃が走ったような衝撃が起きる。
「イサドラ!マーカス!ロウエン!準備を!!」
「ケントとセインも補助にまわって!!」
「オズイン!俺らで前に出る!時間を稼ぐぞ!」
部隊が流れるように動いて行く。
ハングの指示一つで、彼らは自分達のすべきことを完全に把握した。
手遊びになっている者はおらず、全ての者が最大限の仕事をこなしていた。
「行くぞ!!突撃戦だ!!」
エリウッドのその言葉が皮切りとなる。
一旦後方に下がり、十分に助走距離をとった騎馬部隊が一気に戦線へと突撃を仕掛けた。
当然のように激しい迎撃に会うが、勢いにのる騎馬部隊の突撃は戦線を貫通する。
騎馬部隊が広場を一気に駆け抜けた。
その途端、ギィ、レイヴァン、ホークアイをそれぞれ背に乗せたペガサスとドラゴンが広場に上空から飛び込む。
膠着した戦闘から一転して、戦いは一気に白兵戦へと移行する。
しかも、【黒い牙】の増援は顔を見せない。ハングとワレスが的確に通路を塞ぎ、その鼻先を完全に抑え込んでいた。
局所的ではあるが、人数でエリウッド達が圧倒する。
わざと開けた広場西側の出口から【黒い牙】が撤退を始める。
ここまできたら、後は敵将の部隊だけだ。
「ハング!ここにいたのかい!?」
「エリウッド!気づいてくれて助かったぞ!」
広場の北でエリウッドとハングが合流した。
この合図に気がついて貰えなかったら、広場の敵と敵の増援部隊で挟撃されるのはハングとワレスだ。
最悪の場合はヒース達に救出してもらおうとは思っていたが、前線から空中戦力を引き離すのはかなりの痛手であった。
「気づいたのはリンディスだよ。愛の力かな」
「無駄口叩く暇はねぇぞ!!問題はこっからだ!!敵は【狂犬】ライナス!【四牙】の一人だろ!?」
「そこまで知ってるなら話は早いね」
「相手が声高々に名乗ってたからな・・・注意を引き付けたいんだろ」
そう言ったハングの眉間には深い皺が刻まれていた。
【黒い牙】のことを調査していたハングは【狂犬】ライナスの人となりを市井の噂程度には知っていた。
そして、彼らの行動を誰よりも見通せるからこそ、ライナスが何を意図しながら戦っているのかがわかってしまう。広場にある屋台や道端の荷物に至るまで彼等は気を遣っていた。
彼はおそらく、町の人の生活を崩さないように戦っている。
「ワレスさん、もう一踏ん張り頼みますよ!」
「任されよう!」
「ハング、この人は?」
「紹介は後回し!ドルカス!バアトル!ダーツ!戦線を押し上げろ!ただし、ワレスさんより前に出んなよ!命の保証ができなくなる!!」
ハングは更に細かく仲間一人一人に指示を飛ばす。
下手に【四牙】の前に立てば本当に命の保証が出来ない。
「ヘクトル!お膳立てはしてやる!【狂犬】の首を狩りにいけ!!」
「任せろ!」
「エリウッド、リン!俺たちで道を作る!駆け抜けるぞ!!」
「わかった!」
「いつでも行けるわ!」
「行くぞ!!」
ハング達はワレスと斧兵の部隊が維持する戦線の脇を抜けて目の前の敵を一気に斬り伏せた。
一瞬、人垣が切れ、道が開く。
「ヘクトル!」
「わーってるよ!!」
ヘクトルがその隙間を斧を振り回しながら突撃した。ヘクトルが戦線を突破する。
ヘクトルが見ているのはたった1人。
「おい!てめーがこの軍の親玉だな!」
「俺は【黒い牙】首領ブレンダンの息子!ライナス・リーダス!てめーら悪人に、俺が【牙】の裁きを下してやるぜ!」
「このぉぉぉぉ!!」
「うらぁぁぁぁぁ!!」
ヘクトルとライナスの斧が激突。鍔迫り合いの様相を呈する。
「何が悪人だ!?ネルガルの手先になった薄汚ねぇ殺し屋どもが!」
「へぇ・・・おもしれぇ」
ライナスが後方に飛ぶ。ヘクトルも間合いはかりながらじりじりと距離をとった。
「お前、おもしれぇなぁ!!俺たちの【牙】を・・・兄貴と親父を侮辱しやがったか!?」
ライナスが盾を投げ捨て、斧を右手に剣を左手に構えた。
「祈りな、そのくらいの時間はやる!おまえがこれまでやってきた悪事を悔い改めて眠れ!!」
ヘクトルも愛用のヴォルフバイルを持ち出す。
「ふざけんな!祈るのはてめぇだ!!俺は【黒い牙】を絶対に許さねぇ!!」
【狼の斧】を意味する斧を持つヘクトル。
【狂犬】と仇されるライナス
戦いに狂った二匹の獣がほぼ同時に駆け出した。
ヘクトルの斧とライナスの斧が再び激突した。だが、今回はヘクトルは両手持ち。それに対するライナスは片手持ち。ヘクトルが一時的に圧倒する。だが、ライナスはヘクトルの斧を食い止めている間に剣を上段から振り下ろした。
ヘクトルは体を回転させつつ、ヴォルフバイルの柄でその剣を弾いた。
次の瞬間、今度は下段からライナスの斧が再び攻撃をしかけた。ヘクトルは足でその斧の手元を蹴りつけて止める。
ライナスの武器を立て続けに止めたヘクトルは攻勢に移る。
ヘクトルは短く持ったヴォルフバイルでライナスの首を狙いにいった。
武器の動きを止められたライナス、防御は不可能と判断したライナスはあえて武器を構えなおさずにヘクトルに体全体で体当たりをぶちかました。
「ぐぅ!」
衝撃が受け流せず、まともに体当たりを浴びたヘクトル。
だが、その程度でヘクトルの攻撃は止まらない。ヘクトルは構わずに斧を振り切った。
ヴォルフバイルの刃を首に当たることはできなかったが、柄の部分がライナスの僧帽筋に叩きつけられる。
「っつぁぁ!!」
ライナスは堪らず転がるようにして間合いをとった。
追撃を仕掛けたいヘクトルだったが、体当たりが内腑にまで響いていてこちらも動けない。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「やるじゃねぇか、お前」
息も絶え絶えのヘクトルに対し、ライナスはまだ涼しい顔をしてみせる余裕があった。
お互い、有効打は一撃ずつ。
むしろ、ヘクトルの方が急所を捉えた分有利なはずだ。
だが、この体に響く鈍い痛みがヘクトルに相手との実力差を訴えかける。
「さあ!続けようぜ!!」
斧と剣を構えるライナス。
ヘクトルも震えそうになる腕を叱咤し、ヴォルフバイルを構えた。
まともにやっても勝てなさそうだ。
ヘクトルは唇の端で笑った。
少し先の未来が手に取るようにわかった。
ライナスに突っ込み、肉弾戦で圧倒されて殺される。
昔の自分なら間違い無くそうだった。
それがヘクトルの戦い方だった。
ヘクトルは一度深呼吸をする。
脳裏に浮かんだのは利用できる物を全て利用して勝利を奪い取る腹の立つ軍師の顔。
「俺もやきが回ったな・・・」
ヘクトルはヤケになったかのように、その場からヴォルフバイルを投げつけた。
ライナスはそれを横に動いてかわす。
「おいおい、勝負を投げたのか?まぁ、いい!祈りは済ませたか!?死ねぇぇ!!」
ヘクトルはその場から一歩引いた。
「・・・いいね、ヘクトル。よく見てた」
そんな声が後ろから聞こえた。
次の瞬間、ヘクトルの隣を一本の矢が走り抜けた。
「なっ!!」
ヘクトルは戦いながらライナスを誘導していたのだ。そして斧を投げて微調整を加え、ラスの射線が空けたのだ。
ラスの持つ殺傷力を弓の限界まで高めた【キラーボウ】の一発がライナスの肩に突き刺さった。
その隙を逃すヘクトルでは無い。
ヘクトルは普通の手斧を投げつけ、でライナスの武器を吹き飛ばした。
勝負ありだった。
「てめぇ、真剣勝負しようって気概はねぇのかよ?」
「昔の俺ならそうしてただろうさ。そんで、てめぇに殺されてた」
「・・・・・だろうな」
それは揺るがない事実であった。ヘクトルとライナスの間にはそれ程までに大きな実力差があった。
ヘクトルがあのまま再度ライナスと打ち合っていたら、命の保証はなかった。
「そうか・・・なら俺が、似たような手を使っても文句はねぇよな?」
「なに?」
ライナスがニヤリと笑う。
次の瞬間、ハングの怒声が飛んだ。
「ヘクトル!そいつの足を折れ!!」
「はぁ?ハング、おめぇ何を・・・」
「もう遅いんだよ!!」
ライナスがヘクトルの斧を素早く拳で弾き、一気に駆け出した。
肩に刺さった矢などものともせずに突進し、目指す先はエリウッドただ一人。
ハングを蹴り飛ばし、護衛のマーカスの手をかいくぐり、エリウッドを羽交い絞めにして囲まれる前に素早く離脱する。
「俺はこのまま手ぶらで死ぬわけにはいかねーんだ!!死ぬならおまえも道連れだ!!」」
「エリウッド!!」
「エリウッド様!」
周囲が一気に殺気立つ。
ライナスが短刀をエリウッドの首筋に当てた。その目は本気であり、ライナスは自らの命を度外視してでもエリウッドを殺す気だった。
刃とエリウッドの頸動脈までの距離は数センチもない。魔法や矢を含めたどんな手段を用いても、エリウッドを助けるには間に合わない。
エリウッドを救うにはライナスが全く警戒していない手段を用いて、意表を突くしかない。
ハングは左手を地面に突きたてた。
「・・・好きにすればいい」
そんな中で、エリウッドはそう言った。
「っ!?」
「・・・なんだと?」
そのエリウッドの言葉はライナスだけでなく、仲間にすら衝撃を走らせた。
「・・・さっき、君たちと戦っていて気づいた・・・君たちは街の人々を巻き込まないようにしていた」
「・・・当たり前だ。俺らの標的はあくまでもおまえらだ」
周りの仲間は殺気立ち、ライナスはエリウッドの首筋に短刀を向けたまま。
それなのに、エリウッドは淡々としていた。
「僕には、君たち【黒い牙】が悪の組織だとは思えない・・・どうして戦わねばならないんだ」
「それはお前らが悪人・・・・」
ライナスはそこまで言いかけて口を噤んだ。そして舌打ちをする。
ライナスだってエリウッド達が街の人々を巻き込まないように戦っていたことに気が付いていた。
「くそっ!!」
ライナスはエリウッドを突き飛ばすように仲間の方に押しやった。
「エリウッド様!御無事ですか!!」
「あ、ああ。ありがとう、マーカス」
エリウッドの周りに護衛の輪が出来上がる。
だが、その誰もがライナスに攻勢を仕掛けようとはしなかった。
傷を負ってなお、踏み込めないだけの力がライナスにはある。
そのライナスは苛立たし気にナイフを投げ捨てた。
「わけがわかんねーんだよ!!ソーニャがお前を悪人だって言って!親父がそれを認めたからこの指令が来たんじゃねーのか!?」
「ソーニャ・・・」
ハングがその名前を確かめるようにつぶやいた。
ライナスはエリウッド達に背を向けた。
「・・・一度出直す。おまえのことがはっきりしたら、また来るぜ」
走り去る大きな背中。それを追おうとする者はいなかった。
ようやく、辺りが静かになる。
ヘクトルとリンディスは今しがた解放されたばかりのエリウッドに駆け寄った。
「ったく、焦ったぜ」
「すまない、どうしても一度話をしてみたかったんだ」
「いいじゃない。それで、相手のことがわかってきたんだし」
そこに声が割り込んだ。
「いいわけあるか!!」
ハングの低い声が鳴り響いた。三人の身体が一瞬で硬直した。
三人が恐る恐る振り返ると、そこには憤怒の形相をしているハングが佇んでいた。
ハングは三人が気づいたのを見て、一歩一歩を踏みしめるようにエリウッドに向かって歩いてくる。
エリウッドは思わず生唾を飲み込んだ。背筋に冷や汗が滝のように流れ落ちる。
ハングから放たれる圧力が今まで感じてきた比じゃない気がした。
『怒ってる』という程度の言葉で済ませられない程に今のハングは爆発寸前だ。
ヘクトルは反射的に道を開け、リンディスは泣きそうになりながら後退した。
マーカスやイサドラもハングに任せることを決めたのか、静観を選んだ。
今やエリウッドとハングの間には誰もいない。
ハングはエリウッドの目の前に立ち、エリウッドの胸ぐらを掴み上げた。
「いいか!このバカ貴族!!てめぇが【黒い牙】と話がしてぇってのはお前の勝手だ!!だがな!それで自分の命ごと危険に晒すんなんざ許容できるわけがねぇだろ!てめぇの命は、もうてめぇだけのもんじゃねぇんだぞ!!」
「・・・す、すまない・・・」
「すまないだぁ!?おい・・・甘いこと言うのも大概にしろよ!!」
ハングは鬼のような形相でエリウッドをにらみ上げていた。
いつもの人の腹を底冷えさせるような笑顔をすっとばし、いきなり大量の落雷が降り注ぐ。
確かに『構わない』という言葉を放ったのは流石にやりすぎだった。
エリウッドは雷を間近に聞きながら。
ハングの言葉を1つずつ噛み締める。
「おまえが生きてんのは、あの【狂犬】の気まぐれに過ぎねぇんだ!!それをよく自覚しとけ!バカ貴族!!」
ハングは投げ捨てるようにエリウッドの胸ぐらを離し、エリウッドから背を向けた。
「さっさと宿に戻るぞ!!パントさんたちから連絡があるかもしれねぇ!!」
「・・・・うん、そうだね」
「・・・・・」
「ハング・・・」
「なんだよ」
「すまない」
「謝るぐらいなら最初からやるんじゃねぇよ!」
ハングは鼻息を荒く吐き出す。ハングの肺の中から噴気が吐き出され、身体の中から熱量が消えていく。
ハングは何かをこらえるように空を仰ぎ、後方のマーカスに聞こえるように声を張った。
「マーカスさん!事後処理をお願いします」
「はい、任されました」
マーカスのはっきりとした返事を聞き、ハングは浅く呼吸を繰り返す。
その声の硬さからエリウッドはもう一度説教を受けることになることを悟ったのだった
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
裏通りに面したとある民家。その中でジャファルは目を覚ました。
「あ、気がついた?よかった・・・」
見上げた天井に少女の顔が逆さまに映り込む。
「お前・・・確か・・・」
「うん、もう何回か会ってるけど名前とか言ってなかったよね。あたし、ニノ!ソーニャの娘だよ」
ジャファルは横になりながら自分の懐から武器が抜かれていないことを確認した。
「・・・どういうつもりだ?」
「え?」
「【黒い牙】の掟を忘れたのか。共倒れを避けるため、自力で動けぬ者は切り捨てる」
口が重い。血を流し過ぎた。
だが、それでも言わずにはいられなかった。
「俺は、アジト以外の場所で意識を失うヘマをやった。掟に従い、お前は俺の命を奪って、即刻この場を離れなければならん。なのに、なぜだ?」
ジャファルは動かない自分の身体が疎ましい。
そんなジャファルにニノは叱られた子供のように身を縮こまらせた。
「だ、だって・・・仲間が死ぬとこなんて・・・みたくないんだもん」
ジャファルの腹の奥が何かが燃え上った。
「ふざけるなっ!!」
思わず体を起こしてしまった。次の瞬間、わき腹に空いた風穴が激しく痛んだ。
「っつ!!」
「動いちゃダメだよ!ほら、横になって!」
「・・・さわ・・・るな」
拒絶しようとするジャファルであったが、やはり体に力が入らない。
ニノはジャファルの背を支えながらまた彼を横に寝かせる。
ジャファルが動いたことで傷口が開いたのか、腹に巻いた包帯にどす黒い赤が鉄の臭いをまき散らせながら広がっていく。
「血が・・・また出てきちゃった・・・どうしよう・・・止まらない」
ニノはありったけの包帯や綿の布を傷口にあてがった。
だが、どれもが色を赤く変えていくだけで、何の効果も示さない。
「お願い・・・死なないで・・・死んじゃ嫌だよ・・・」
ジャファルは再び薄れゆく意識の中で、ニノのそんな声を聞いた。
それは、空っぽの器に水が満ちるようにジャファルの中に流れ落ちていった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
街の外れに戻ってきた【白狼】ロイド。
その彼を待ち受けていたのは冷たくなった弟、ライナスの遺体だった。
街の近くの森に倒れたライナス。彼の肩には矢を受けた痕があり、戦闘の痕跡も残っていた。
そして、街で昼間に戦闘があったという。
それらを結びつけることはそんなに難しくはなかった。
「このバカ、あれほど言ったのに・・・」
兄のそんな説教にもライナスは当然動きはしない。
未来の無い弟の身体。
持ち帰っても、そこに意味は無い。
もう弟は帰ってこない。
ロイドはライナスをその場に残し、明かりの灯り出した街に背を向けた。
「・・・待ってろ、俺もすぐにいく。あいつらの亡骸を手土産にしてな」
そして、ロイドは夕闇の迫る世界へと消えていった。
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そこはベルン王宮より西に離れた離宮。豪勢な作りと豊かな土地、地の利により絶対の守りを誇るその場所に建てられた離宮。一見すると素晴らしい土地のように思われるが、それは戦略的価値を持たな場所。国に関わりの薄い場所に建てられた離宮はベルンという国から疎外された場所のような印象を人々に与えていた。
そんな離宮に住まうのはベルン王妃ヘレーネ、その息子ベルン第一王子ゼフィール。
成人の儀を十日後に控えたゼフィールに会うために彼の父親が訪れていた。
「王妃様!国王陛下、おなりです」
兵士の声を受け、離宮の謁見の間に国王が入ってくる。
「ゼフィールはおるか!」
「これは陛下・・・なつかしゅうございます」
答えたのはヘレーネ王妃、ゼフィールの姿は無い。
「離宮に足をお運び下さるとは、今日はなんと祝福された日でしょう?」
「・・・嫌味はいい。早くゼフィールを呼ばぬか!」
「あなたの息子は今、鷹狩に出かけておりますわ」
「わしが来ると知って外へ出したか。ふん・・・相変わらず食えぬ女よ」
これが、家族の、ましてや夫婦の会話であろうか。
「まあ、おまえでもよい10日後に予定している、王子の成人儀式について話しておきたいことがある」
「やっと・・・ですわね。成人の儀式を済ませれば、ずっと日陰暮らしであった我が息子が王位継承者として、世間に認められるのです・・・その日を、どんなに待ち焦がれてきたことか」
「聞こえの悪いことを申すな!おまえとゼフィールには、ベルン王妃と世継ぎ王子として何不自由ない生活をさせている!」
「・・・我らをこの離宮に押し込み、ご自身は王宮で、妾妃を傍らに・・・あの女の生んだのが王子ではなく姫で、さぞや落胆されたことでしょうね?」
「ヘレーネ!口がすぎるぞ!!」
愛憎満ち満ちるベルン王室。百鬼夜行の行列もここよりは居心地がいいだろう。
「・・・私に流れる、高貴なエトルリアの血をひく我が子が・・・あと10日で、正当なる後継者として第一王位継承権を得るのです。ホホホ 陛下がどのように溺愛されようと、妾腹のギネヴィアはいつかは陰の者となる運命・・・ベルンを手にするのは、正妃である私の子ゼフィールなのですから!ホホホホホいい気味ですわね」
勝ち誇るヘレーネ。
「・・・言いたいことはそれだけか?」
だが、デズモンドもまた勝ち誇った表情を浮かべていた。
「では、わしからもおまえに聞かせることがある」
「なんでしょう?」
「昨夜、我が王宮より【ファイアーエムブレム】が何者かによって盗み出された」
「まさか・・・オホホホ、これは、陛下も人のお悪い・・・そのような話、誰が信じられましょうか?」
一転して顔に焦りを浮かべるヘレーネ。
「【ファイアーエムブレム】は、『ベルンの至宝』と呼ばれるこの世に2つとない宝珠・・・常に厳重な守りの元に置かれ、盗み出すことなど不可能でしょう?」
「残念ながら本当の話だ」
「まさか・・・!」
「そなたも知っておるだろうが、【ファイアーエムブレム】はベルンの王位を継ぐ者の象徴・・・成人の儀式には欠かせぬ物だ。それがないとなると・・・儀式は中止するしかないな?」
デズモンドの口端が吊り上る。それは嘲笑するような笑みを形作った。
「あ・・・あなたが手引きなさったのですねっ?何ゆえ、それほどまでにゼフィールを憎むのですっ!?あの子も、あなたの血をわけた可愛い息子ではございませんかっ!!」
その言葉で初めてデズモンドの表情が苦悶に変わる。
「・・・ゼフィールは勉学、武術、なにをとっても優秀だと聞く。おまけに、できた性格で皆に好かれておるようだな?」
「ええ!ええ、そうですとも!自慢の王子ですわ」
「わしは・・・勉学、武術、どちらも苦手であった。性格も普通・・・国民からの支持もそれほどでもない・・・・・・わしと、ゼフィールは何もかも正反対のようだ。とても、我が子だとは思えん・・・」
「ゼフィールは陛下のお子ですっ!陛下は、よくご存知ではないですかっ!!」
「・・・たとえ我が子であっても、儀式ができなくば王位継承権は与えぬ・・・おまえも、そのつもりでおれ」
「陛下っ!デズモンド様っ!!どうか、どうかお待ち下さい!」
追い縋ろうとするヘレーネを振り払うようにデズモンドは謁見の間を後にした。
「後生ですからっ!どうか・・・!!」
泣き崩れる妻を残して。
「おお、どうすればいいの・・・ゼフィール・・・」
国王が去って数刻。
日も傾きかけた頃、謁見の間に再び衛兵が姿を見せた。
「失礼致します。王妃様、お客様がお見えですが・・・」
「・・・あいにく、人に会う気分ではない。帰っていただきなさい」
「はっ、しかし・・・」
その時、聞こえてきたのは風を愛でるような美しい声だった。
「いいわ、お下がりください。私からお話しします」
「はい」
王妃にはその声に聞き覚えがあった。
そして、姿を見せた女性はとても懐かしい故郷を思い起こさせる女性だった。
「ヘレーネ様、おなつかしゅうございます。私です、ルイーズです」
「ルイーズ!?まぁ、本当にあなたなの?ああ・・・ルイーズ・・・」
「どうなさったの?目が真っ赤に・・・せっかくの美しいお顔が台無しですわ」
「・・・悩みごとが・・・あって・・・」
「・・・よろしければお話をうかがえませんこと?私の主人も、ともに来ております。なにか、お力になれるかもしれませんわ」
「パント様も来られて・・・そう・・・・・・実は・・・」
そして、宿へと帰ったルイーズは皆にこう言った。
「人助けですわ!」
エリウッド達は図らずもベルン王室の権力争いに巻き込まれていくことになる。
与えられた試練は十日以内に『ベルンの至宝』【ファイアーエムブレム】を見つけ出すこと。
それが、【封印の神殿】へと繋がる道であった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「ネルガル様。【四牙】の一人、ライナスの【エーギル】です」
リムステラと呼ばれるネルガルの僕。彼女はネルガルにそれを差し出した。
【エーギル】を吸い尽くされた人間は死ぬ。
それはライナスとて同じことであった。
「【四牙】が・・・負けたか・・・」
「はい、部隊を分断され各個撃破、ライナスも奇策によって敗北しました」
闇に覆われたどこかの神殿、その中央でネルガルは休んでいた。
あまりの暗さに誰もネルガルの姿をとらえることはできない。
そんな闇の中から、ネルガルのしゃがれた声がした。
「やはり・・・ハングの策か・・・」
「おそらくは・・・」
「ふーむ・・・やはり・・・奴を野放しにしとくのは得策ではないか・・・」
光の無い世界で何者かが動く気配がした。
「リムステラ。ソーニャを呼べ、やってほしいことがある」
「御意・・・」
リムステラが消え、一人残るネルガル。
「さて・・・やってみるか・・・」
ネルガルは神殿の奥へと、更なる闇の中へと溶けていった。
お久しぶりです。
ようやく、リアルの状況が戻ってきました。
今週からまた更新頻度を戻せそうなので今後ともよろしくお願いいたします。