【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
主にあのドラゴンナイトさんです。
既にかなり性格改変されてる気もしますが、今回で更に改変されております。
夜も更け、月は無い。静かな世界に漫然とたたずむベルン離宮。
戦術的価値の皆無のこの地の警備などたかが知れている。外の警備などは始末する必要もない程に薄い。今まで数々の暗殺を成功してきたジャファルはもちろん、初仕事のニノですらなんの抵抗も受けずに城の中枢にたどり着いた。
二人が向かったのはとある一室。
他の部屋と比べると多少の装飾がなされた扉。ただ、ベルン王宮と比べると驚くほどに質素だ。
その扉を廊下の端から確認しながらニノは小さな声で呟いた。
「王子の部屋は・・・あ、あの扉かな」
唇さえ動かさない程の小さな声だが、この静かな城にはその声さえ隣のジャファルに届いた。
「いつも王子を守ってるマードックって将軍は、国王の命令で今、ここにはいないはずだし・・・」
本人には言葉を発してる自覚はないのだろう。緊張感と仕事の重圧に自分の体が小刻みに震えていることすらわかっていないはずだ。
「衛兵も・・・いない。かんたんな仕事、だよね?あたし、絶対にうまくやってみせる!」
誰に尋ねるまでもなく、自分に問い、自分で答えるニノ。
「そりゃ、は、初めての仕事だから・・・ちょっとばかし、キンチョウとかしてる・・・けど。絶対、絶対っ失敗するわけにはいかないから・・・」
自分の初仕事の時はいつだったか。
ジャファルはガラにもなくそんなことを思い出そうとし、すぐさま諦めた。
そもそも初仕事をしたのは物心がつく前だった。それ以降の記憶も全てが血塗られた過去。わざわざ呼び起こす価値すらない。
「ジャファル、準備はいい?」
顔を強張らせてジャファルに声をかけたニノ。そんな表情で仕事を成功させてきた人間をジャファルは知らない。その顔はむしろ、殺される側がよく見せる表情だった。
「・・・俺は、おまえのヘマに付き合う気はない・・・失敗した時は、迷わず標的ごと、おまえを始末する・・・仲間だとか、助けてもらえるとか甘い考えはもつな・・・覚えておけ」
今夜のジャファルは妙に饒舌であった。
この程度の会話が饒舌なのかどうかは人によるが、一年のほとんどを口を閉ざすジャファルにとっては随分と長く喋ったことになる。
どうしてこんなにも口から言葉が出てくるのか?
それはジャファル自身にもわからない。感情が欠落してるという自覚のあるジャファルは自分を客観的に見つめることが上手くできないのだ。
「や、やだな・・・そんなの、わかってるよ。あたしだって【黒い牙】の一員だもん・・・はははは」
彼女は笑えてるつもりなのだろうか。
顔は引き釣り、頬は強張り、笑っているというよりも泣き出す直前のように見える。
ジャファルは思わず、その顔から目を背けた。
そして、背けた自分に驚いた。
対象から目を離すなど、暗殺者失格も良いところだ。ジャファルはそんな自分の失態を隠すように廊下を音もなく歩き出した。その後ろをニノが続く。
「・・・負けない。だって、あたし一人前になるんだから・・・母さんに自慢してもらえるようなそんな娘に、なるんだから・・・」
普段より研ぎ澄まされているジャファルの耳にニノの声が届いてきた。
ニノも廊下を歩き、部屋の前にたどり着く。
「・・・見張りもいない。約束どおりだけどなんか・・・へんな感じ」
相手は成人の儀を数日後に控える王子だ。国の重要人物の部屋だというのに、これは逆に異様ともとれるだろう。
部屋の中に耳をそばだててるニノ。
その耳に謳うような声が聞こえてきた。
「部屋の中から聞こえる!」
ニノの声を聞き、ジャファルも耳をすました。
「・・・祈りの声だ」
「本当だ・・・王子の声・・・だよね?なにを祈ってるんだろう?」
二人して部屋の扉に耳をつける。
「・・・神様、明日は私の成人の儀式です。これまで、ベルン王子として父上の恥にならぬようふるまってきたつもりです・・・ですが、まだまだ父上の期待には、そえていません。努力が足りないのでしょう・・・もっと頑張るようにします」
ジャファルは横目にニノの顔色を窺った。
「・・・・・・神様・・・明日からは大人になる愚かな子供の、最後の願いとして毎晩お聞かせしているこの願いを叶えて下さい・・・どうか父上と母上が仲良くなりますように。私と、妹のギネヴィアそして妹の母も・・・ みんなみんな仲良く王宮で暮らせる日がいつか来ますように・・・」
無表情になっていたニノ。
最初から無表情のジャファル。
ジャファルは無性に今この場にいることがとてつもなく嫌になった。
身の内側から沸き起こるのは焦燥。これ以上、この王子の言葉を聞きたくなかった。
聞かせたくなかった。
「・・・行くぞ・・・」
「あ!ジャファッ・・・!」
慌てたようなニノの声を背に受けて、ジャファルは部屋に飛び込んだ。
「な、くせもの・・・!!」
正面から入ったジャファル。気づかれて当然の動きだった。
足音を殺すこともせず、気配を断つこともせず、ただの押し込み強盗のような雑な侵入だった。
そのことにジャファルは内心で唇をかみしめる。それは自分が焦っていたのを理解した瞬間だった。
だが、相手はただの王子。
一騎当千の猛者共に比べたら十分にくみしやすい。
ジャファルは素早く王子の背後に回り込み、首を締め上げて意識を一気に刈り取った。
ニノが部屋に入った時には既に床に王子が倒れていた。
「・・・これで当分、眠っている・・・ここからはおまえの仕事だ・・・」
ジャファルの声に体を強く震わせたニノ。
初めての仕事。
初めての暗殺。
覚悟は決めていたはずだった。
「・・・早くしろ」
「・・・う、うん」
なのに、どうしても体が動かない。
それは単なる恐怖とは違う。命を奪う恐怖とは別種の感情がニノの中に芽生えていた。ニノは震える瞼を隠すように俯いてしまう。
「できない・・・よ」
「なんだと?」
「できない」
あの祈りを聞いてしまった今となっては、ニノは動くことができなかった。
「・・・この人、あたしといっしょだもん」
ジャファルの眉が揺れた。
「親に・・・愛してもらいたいって・・・ただ認めてもらいたいってそれだけなのに・・・」
ニノの声にジャファルの腹の底が揺れる。
「でも・・・どんなに努力しても、母さんは、いつも汚い物でも見るように・・・がっかりした目であたしを見るんだ・・・ただの一度も・・・抱きしめてもらえない・・・」
「ふざけるな!」
思った以上に大きな声が出た。
自分の口からこんな声が出るとは思わなかった。
ジャファルは息を飲み込むようにして腹の底を落ち着け、声量を落とす。
「・・・言ったはずだ、おまえのヘマに付き合う気はないと」
「わかってる・・・」
なにをわかっているんだ!!
怒鳴りだしたくなる自分を抑え込むジャファル。
彼の前でニノは静かに目を閉じて、体の力を抜いた。
「ジャファルの好きにすれば、いいよ。あたし、抵抗しないからラクにやれるよ」
ジャファルは思わず足を引いてしまった。
どんな相手をも一瞬で葬り去ってきた【死神】が尻込みしたのだ
「でも・・・この人だけは助けてくれないかな・・・お願い・・・だから」
まるで戦う気のないニノ。その瞳に映っているのは死を享受した諦めの色だ。
ジャファルの暗殺相手にもこのような目をする奴らはいた。
そんな相手を前にしてもジャファルは躊躇ったことなど一度もなかった。
なのに、今は手ににじみ出る汗をぬぐうことすらできない。
「・・・・・・さ、いいよ?」
ニノが目を閉じる。
殺せ
自分の中で殺意が鎌首を持ち上げた。
どうせ、最初からこの二人を殺す予定だった。順序と計画が少しズレただけだ。
殺せ
殺せ
殺せ
だが、その殺意は疼くような体の痛みに打ち消された。
それは未だ痛む治療の痕。拙い手で施されたが為にどうも治りが悪かった傷の痕だった。
とっくに傷は癒えたはずなのに、そこに鉄の枷でもつけられたかのように鈍い痛みが残り続ける。
だが、これは本当に『痛み』なのだろうか?
ジャファルは自分の体から力が抜けていくのを自覚した。
ジャファルは溜息を吐き出した。それは、彼の生まれて初めての溜息だった。
「・・・来い」
「え・・・?」
ニノの手をとり、ジャファルはその部屋の外へと飛び出した。
「ここから脱出する。急げ」
「ジャファル・・・?」
「・・・こっちだ、早く来い」
「で、でもこんなことしたら・・・ジャファルまで・・・」
「いいから、早くしろ」
ニノは何が起きてるかわからないといった表情だった。
そんな彼女を引きずるようにジャファルは本来の脱出口とは別の方向に走り出す。
そのジャファルの前を一騎の騎馬が遮った。
ジャファルは咄嗟に自分の背後にニノを押し込む。
「あら、ジャファル。もう終わったの?さすがは【死神】といったところかしら、見事な手際だわ。ソーニャ様から、あなたの動向がおかしいと聞いたのだけど余計な心配だったわね」
ウルスラ。
ロイド、ライナス、ジャファルと並ぶ【四牙】の一人。
【四牙】の実力はほぼ互角。裏を返すと【四牙】を単騎で殺害できるのは【四牙】だけだ。
「ごめんなさい!ジャファルは悪くないのっ!!あたしがあたしが王子を・・・」
「ニノ!」
ウルスラがジャファルに対して死の制裁を下すと思ったのか、ニノがジャファルの前に出てしまう。
ジャファルはそれを無理に背後に押し込むが、それでウルスラの視線までも防ぐことはできなかった。
「・・・どういうことかしら?どうして、その子がまだ生きているの?」
ジャファルは袖に隠し持った短刀を引き抜いた。
「え・・・」
「ソーニャ様に命令を受けているでしょう?その役立たずはここで始末するよう・・・」
背後から息を飲む音が聞こえ、ジャファルは殺気を漲らせた。
「だまれ。それ以上、その口を動かすな」
「・・・・・・そう、そういうこと」
それだけで何かを察したらしいウルスラ。
その頭の回転の速さはさすがと言っていいだろう。
「ジャファル、あなたネルガル様を裏切るつもりね?」
「ニノは・・・死なせない。邪魔をするなら、消す」
既に戦闘態勢に入ったジャファルを前に、ウルスラは余裕の笑みを浮かべた。
「フフ・・・あなたにも人間らしい感情あったのね。あの気味の悪い【モルフ】どもと変わりなかったのに。その様子じゃ、王子もやってないんでしょ?」
まだ戦闘する気のないウルスラを前にジャファルは一旦背を向け、ニノを連れて離宮の奥へと走りだした
「・・・・・・マクシム!」
「はいっ! ここに」
ウルスラの操る魔法は距離の概念を軽く飛び越える。だが、ウルスラはすぐさま魔法を叩き込むことはしない。
どうせ、出口は抑えた。奴はここからは逃げられない。ならば確実性を取るべきだ。
ただでさえ奴の名は【死神】現実にすら存在せず、闇の中からすべてを引きずり込む暗殺者。
下手をすればこちらが狩られる側にまわりかねない。
しかも、おかしなことに引き離したはずの警備兵がなぜか離宮に戻ってきていた。しかも、やけに竜騎士が多いのも気にかかる。不安要素の増えてきた戦場で不用意な行動はできない。
計算高いウルスラだからこそ、万全の局面を作り上げることに拘った。
「連れてきた部下どもを使って明かりをすべて消し、外へ出る通路をふさがせなさい。標的は、王子ゼフィールと裏切り者二名。警備の者に気取られる前に終わらせます。かかれ!!」
一瞬で離宮に音のない殺意に溢れかえる。
ジャファルはその離宮の一角で外へと続く廊下に押し込む。
「・・・早く行け!俺が時間をかせぐ」
「や、やだよ!ジャファルも一緒に・・・」
「ニノ・・・」
一瞬、ジャファルの脳裏に穏やかな風景が浮かび上がった。
暖かな木漏れ日と、静かな風の音で笑う人達。
そこにニノの姿があった。だが、自分はいない。いてはならない。
ジャファルはその景色が明確な形を持つ前に思考から追い出した。
「お前は、生きろ。お前には、その資格がある」
この周りにいるのは【四牙】には劣るものの、次点を争う手練れだらけだ。
余計なことを考えることは命取りになる。
ジャファルは無理やりニノが握る袖を振り払い、闇の中へと駆け出した。
「やだ!待って!!行かないで、ジャファル!!」
後ろ髪を引かれるというのもジャファルにとっては初めての経験だった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「ここが、ベルン離宮だ!」
離宮の前。裏の城門は既に全開であり、離宮の手前に来るのに何の抵抗も妨害も無かった。
「明かりがついていないわ。それに、戦いの音。なにが起きているの?」
リンディスの言うとおり、中では金属と金属がぶつかり合う音が響いている。
「わかんねーけど、戦いが起こってんならまだ希望ありそうじゃねーか!急ごうぜエリウッド!!」
「中へ入ろうっ!王子を守るんだっ!!」
問題はどう侵入するかだ。相手が暗殺者集団なら出入り口は確実に固めてくる。
そこに真正面からぶつかっていくのは愚策でしかない。
策を巡らせるハング。その頭上から声が降り注いだ。
「遅かったじゃないか、ハング」
見上げると、一騎のドラゴンナイトが頭上から着地しようとしていた。
騎乗しているのは好戦的な瞳を持つ、短髪の女性。
「露払いはすませておいた。いつでも突入できるぞ」
槍を肩に担ぎ、頼もしい姿を見せる彼女。唐突に訪れたその人物に周囲が一気に色めき立つ。
その反応も当然のもの。彼女とは一度殺し合いを演じた仲だった。
その中で一人。ハングだけは別の意味で色めき立っていた。
それは、懐かしくもあり、嬉しくもあり、何より本当にこうやって会話ができることが感極まりそうになる。
ハングは周りの視線などお構いなしに、彼女に話しかけた。
「・・・ははは・・・やべ、泣きそう」
「私はお前をそんな軟弱に育てた覚えはないぞ」
「・・・ですよね・・・隊長」
ふん、と鼻を鳴らすのはヴァイダその人であった。
ハングの育ての親にして部隊の隊長。
「気付いてくれたんですね」
「当たり前だ。貴様のことならケツのほくろの位置まで知っている」
「た、隊長!?」
突如放たれた発言にハングは思わず声を震わせた。
「その他にも言われたくないことは多いだろう?暴露されたくなければ、その『隊長』というのはやめろ。お前はこの部隊の軍師で、私はただの元竜騎士だ」
「・・・ヴァイダさん・・・」
「それでいい」
ニカッと笑うヴァイダ。
その一連を見ていた周りの人達は驚いたようにヴァイダの表情を見ていた。
ベルン城付近で一度槍を交えたヴァイダだったが、その時は常に冷酷な笑みを浮かべていた。その竜騎士が、弾けるような笑みを見せたのだ。そして、その笑顔はハングがよく見せるものと非常に似通っていた。
「ん?なんだ?どうして、周りの連中は私を見てるんだ?」
「・・・俺は気持ちがわかる気はしますが。今は他にすることがありますよ」
「当然だ。ゼフィール王子を暗殺など冗談じゃない。本当ならさっさと蹴散らしてやりたいのだが単騎ではどうしようもない。子飼いの部下達もまだまだ実力が足りなくてな。出入口の確保で精一杯だった」
「戦力なら任せてください」
ハングは呆けたような顔のまま突っ立っている仲間達を振り返る。
「言いたいこともあるだろう。聞きたいこともあるだろう」
ハングの過去を知りうるのはエリウッド達数名だ。
いきなり敵将がハングの傍にいることに驚いている人達も多い。
「だが後回しにしてくれ!その時は俺のことは煮るなり焼くなり好きにしろ。こっから先は迅速さが全て。今は俺の指示を信じろ。暗殺を何が何でも阻止する。いいな!!」
マーカスをはじめとした騎士達はヴァイダにあからさまな警戒心を抱いていたものの、静かな返事があった。
ハングの言うとおり今は時間がないというのもある。だが、それ以上に『ハングが信じるなら』という気持ちがあるのも確かだった。
最初の頃ならこんなことは絶対無かったな。
自分も軍師として認められてきたってわけだ。
そんなことを思ってハングは満足するように頷いた。
ハングは気を取り直し配置を矢継ぎ早に指示していく。
名指しされた面々が次々と駆け出していくのを確認し、ハングはヴァイダを振り返った。
「ヴァイダさん、ヒースと一緒に上の窓から突破してくれ。背に一人ずつ、ヒースにはレイヴァンをヴァイダには・・・」
「私が乗るわ」
間髪いれずに声があがる。名乗り出た人にハングは少なからず驚きの声をあげた。
「リン?」
「問題ないはずよ」
「え・・・あ、まぁ・・・かまわんが」
「そう」
リンは見ている方が怖くなる程に強張った顔でヴァイダへと歩み寄った。
「よろしくお願いします」
「わかった。さっさと乗れ。足手まといになるようなら振り落すからな」
「御心配なく」
リンディスの声がやけに固い。
「ハング」
「ど、どうした?」
「後で煮るなり焼くなり好きにしていいのよね?」
「・・・・・・え?」
ハングの背中に嫌な汗が流れ落ちた。
「行くぞ、小娘」
「リンです」
「そうか、小娘。私はヴァイダだ」
「どうも」
ヴァイダとリンディスが飛び立っていく。
「ヒース!私に続け!!」
上空から声にヒースはほぼ反射的に従う。
ヒースはドラゴンに乗るためにハングとすれ違う時、彼の肩を軽く叩く。
ついでにレイヴァンもハングの肩を殴ってきた。
二人の言いたいことはなんとなくわかった。
『がんばれ』
なぜだ・・・なぜこうなった。
リンディスに何をされるのかは考えないようにして、ハングは指示を出す。
別のことで頭を埋め尽くすことによる現実逃避である。
全員に指示を送り、ハングはラスの馬の後ろに飛び乗る。
「足は任せるぞ」
「・・・背は任せた」
「期待すんなよ」
ラスは馬を操り、離宮の中へと駆け込んでいった。
夜明け前の攻防が始まる。