【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
『ライナス、お前また一人で暴れただろ』
『だってしょうがねぇじゃねぇか。血が滾っちまったんだよ』
『はぁ・・・まぁ、成功したんならいいが。気をつけろよ』
『へぇへぇ、兄貴は真面目だよな』
弟とのそんな日々。
『・・・・お前らはいつも騒々しいな』
『ん?ちょっと待て、今『お前ら』と言ったか。俺とライナスの両方が騒々しいとそう言ったか?』
『・・・ライナスがいるとロイドはよく喋るからな』
『ははは、よかったじゃねぇか兄貴』
『ウハイ、少し膝を付き合わせて話したいことがあるんだが』
『断る』
志を同じくする仲間もいた。
『そう言うなってのロイド』
『ラガルト、お前も同意するっていうのか?』
『さてな、俺にはわかりかねる。それよりライナス、お前は本当に失敗なんかするなよ。お前の後始末なんてごめんだからな』
『わーってる、わーってる!皆してうるせぇぞ!』
『本当にわかってるのかね』
笑顔が絶えない日々だった。
『あ、ロイド兄ちゃん。お父さんが呼んでたよ』
『よぅ、ニノ』
『ライナス兄ちゃん、お帰りなさい。お仕事どうだった?』
『あれぐらい楽勝だっての』
『・・・楽勝・・・か』
『ウハイ!言いてえことがあるならはっきり言いやがれ!!』
『あぁ!喧嘩しちゃダメだよ!ラガルトおじさんも止めてよ』
『さて、俺は仕事に行くかな』
『もう、逃げないでよ!!』
陽だまりのような暖かな場所。
ロイドは目を開けた。瞼の縁からこぼれ落ちた雫。
悲しいわけでも、苦しいわけでもない。
なのに、涙がこぼれ落ちた。
その理由がわからない程、ロイドは愚かではない。
ただ、今となってはどうにもならないことというだけだ。
後悔は当然ある。他に選択肢もあった。
だが、やはりそれも今となってはどうにもならないことなのだ。
そんな自分を静かに受け入れたロイドは涙を拭い、祭壇の下を見た。
広い草原でのぶつかり合い。
今もなお自分に付き従ってくれる同志達とエリウッドの部隊の衝突。
それがここからはよく見渡せた。
圧倒的だった。
圧倒的な差で負けていた。
もともとは野戦や連携などまったくやっていない暗殺者集団。
対して、相手はここ連日で幾つもの戦場をくぐり抜けてきた部隊。
こうなることは自明の理だった。
「ロイド様。我々も行ってきます」
ついに足下まで後退させられた戦場を見て、側近達もそう言った。
「今から逃げてもいいんだぞ」
そう言うと、側近はニヤリと笑った。
「我らは、リーダス兄弟の【牙】死など恐れはしません。みな、同じ気持ちです。ロイド様、どうか最後までお供させてください」
ロイドはそんな彼らを小さく笑った。
まだ、俺の前にはちゃんと同志がいる。
それがなんだかとても嬉しかった。
「・・・わかった」
「それでは、先にいきます」
「ああ・・・」
俺もすぐにいく。
そんな思いを込めてロイドは仲間の背中を見送った。
戦塵は目の前まで迫り、怒声は既に周囲の音をかき消すかのように周囲を侵食している。
そして、仲間が下に降りて行ってから、然程時が経たたないうちに誰かが祭壇を登ってきた。
「ロイドにいちゃん!」
「・・・ニノか」
ニノだけではない。
その隣にはジャファルが並び、ラガルトが後列にいる。
「あたしの話を聞いて!きっと誤解が・・・」
「何も言うな。今は敵同士・・・手加減はなしだ」
剣に手を伸ばそうと動かした手は柄で止まる。
躊躇ったのではない。
抜刀からの最速の剣こそが、ロイドの本領だ。
それを知っているニノはわずかに戦慄を覚えたが、それで尻込みしはしなかった。
なぜなら、目の前にいるのは紛れもない「ロイド兄ちゃん」なのだ。
「エリウッドさまは悪い人じゃないんだよ!?それでも、戦うの!?」
「・・・奴らはライナスの仇・・・理由は、それだけで充分だ」
「・・・ライナスをやったのはオレたちじゃない。と言っても?」
横から口を挟んだのはラガルトだった。
「よう・・・久しぶりだな」
「【疾風】か・・・おまえが【牙】をぬけた話は聞いたが奴らについたとは・・・」
「意外か?そうでもないぜ。ネルガルってたちの悪い悪霊にとりつかれた時点で、【牙】の終わりは見えてたからな。まあ、ニノに出会えたことには感謝してるけど」
ロイドは口をつぐんだ。その沈黙を肯定と受け取ったラガルト。
ラガルトはいつもの飄々とした口ぶりを変えずに話し続けた。
「・・・で?それがわからないおまえさんじゃないよな?ロイド、どうしてこんなことになってる?」
「さぁな・・・だが、弟はやられた」
「さっきも言ったろ、それは俺達じゃない」
「・・・俺がそれを信じるとでも?」
ロイドの茶色い瞳がラガルトの瞳とかち合う。
ラガルトは目を伏せるようにして、その視線を避けた。
「・・・・・・いいや。わかってるさ、今さらどうにもなんないってな」
溜息を吐き、自嘲するように笑うラガルト。
「・・・わかってても試さずにいられないのが、オレの悪いくせでね」
ラガルトはわずかに腰を落として、短剣を構えた。
それに合わせるようにジャファルも戦闘態勢へと入る。
明らかな戦いの雰囲気。
自分の見知った人達の殺し合いを前に、ニノの目から涙が零れ落ちた。
その優しい涙を前にして、ロイドの表情がわずかに緩む。
「泣くな、ニノ。おまえは前を向いて生きろ・・・俺を倒して前に進むんだ」
それはあまりにも優しい声だった。【黒い牙】の暗殺者ではなく、一人の兄貴としてのロイド。
「・・・やだ!やだよ!ロイド兄ちゃんっっ!!!!」
ニノが叫ぶ。
次の瞬間、その全てを断ち切るかのようにロイドが動いた。
腰に携えていたのは禍々しい闇魔法を携えた『ルーンソード』
ロイドの抜刀と同時に剣速の乗った魔法がラガルトとジャファルに襲いかかった。
ラガルトとジャファルは左右へと分かれてそれをかわし、ロイドを挟むように仕掛ける
対するロイドはジャファルの剣をルーンソードで受け止め、ラガルトの剣を体を開いてかわす。空を切ったラガルトは返す刀で更に追撃を仕掛けようとした。だが、ロイドはそこに蹴りを合わせた。敵の刃を避けつつ腕に蹴りを叩き込むという高等技術。寸分でもタイミングが狂えば足を切り落とされるような綱渡りをロイドはあっさりとやってのけた。
そして、そのまま身体の勢いに任せて体を反転。流れるような動きで、遠心力を乗せた蹴りをジャファルの腹に叩き込んだ。
足技をくらい、二人の足が止まる。その瞬間にはロイドは後方に飛んで剣の間合いをあけていた。
しかも剣は既に納刀されており、いつでも抜刀できる構えだ。
全ての動きが格段に速く、そして正確。それこそがロイドの真骨頂であった。
「相変わらず、化け物だな」
ラガルトが皮肉げな笑みを浮かべてそう言った。
「・・・さらばだ、ラガルト。かつての友よ」
ロイドの台詞だけを聞けば、これから死ぬのはラガルトのように思えるだろう。
だが、ラガルトにはロイドが生き残ろうとしてるようにはどうしても思えなかった。
「また会おうぜ、ロイド。ライナスとウハイと・・・たとえ、この世でなくてもな」
彼は燃え尽きるために燃えている線香花火だ。
ラガルトは剣を逆手に持ち変える。
そして、ロイドが再び動いた。
ロイドが抜刀と同時に放った魔法。それをジャファルとラガルトは避け、そのまま攻勢へと移る。
二人の剣に迷いはない。だが、ニノが魔法の標的にならないことが、どうもラガルトを泣きたい気分にさせていた。
一進一退の攻防が続く。神殿の周囲にいる敵を片付けたエリウッドとヘクトルがハングを連れて祭壇を登った時、彼らの戦いはまだ続いていた。
ラガルトとジャファルの攻撃をいなし続けるロイド。
その傍らで涙を流しつつも、決して目をそらさないニノ。
「おや、増援ですか」
ラガルトがロイドの蹴りで吹き飛ばされ、ハング達の足元に転がりながらそう尋ねてきた。
「もうちょっと、遅くてもよかったですよ」
「馬鹿野郎が・・・」
ジャファルも額に汗を流しつつ、ハング達のもとへと下がる。
対するロイドはいまだ呼吸一つ乱してはいない。
そんな彼は今しがた現れたエリウッド達を見て笑った。
「やっと会えたな、エリウッド」
「待ってくれ!話し合おう。僕たちは・・・!!」
何か言わんとしたエリウッド。
それを遮ったのは他でもないハングだった。
「やめとけ、エリウッド。その程度の言葉で止まるなら、ラガルト達がとっくに止めてる」
「だがっ!」
「やるしか・・・ないんだろ?」
ハングの言葉をロイドは鼻で笑い、剣を鞘に戻した。
「【黒い牙】首領ブレンダンの息子ロイド・リーダス・・・行くぜ」
そこから爆発的に加速したロイド。その剣戟からハングとエリウッドを庇うようにヘクトルが前に出た。
武器と武器がぶつかり合う。
「おらぁぁぁあああ!!」
体格差もあり、ヘクトルの一撃がロイドを後退させた。
「・・・おまえ、誰だ?」
「オスティア候弟ヘクトル!」
「・・・おまえ、俺の弟に似てるぜ。雰囲気とか、なにかがな」
「なんの話だ?」
「おまえたちにやられた弟、ライナスの話さ・・・おまえには、関係のない話だ・・・・・・」
ヘクトルの眉が寄る。険しい顔なのに、なぜかそこには同情するような感情が浮かんでいた。
「・・・俺にも兄がいる。兄上がやられたら、俺だって相手を絶対許さねぇ・・・」
「・・・・・・いい顔だ・・・兄貴を悲しませたくないなら全力でかかってこい」
「望むところだぁぁ!」
ヘクトルが切りかかる。
片手に剣、片手に斧を携えた変則二刀流。
つい最近、ようやくまともに扱えるようになってきた戦闘法。
それは、ライナスが使っていた技だった。
「つくづく・・・」
苦笑を止められないロイド。
数回、数十回と刻まれる剣撃を重ね、二人は再び間合いをとった。
その隙を埋めるように今度はラガルトとジャファルが参戦する。
連続した攻撃に、ロイドの足が止まる。
そこに正面から突っ込んでいくヘクトル。
複数からの攻撃。捌ききれないと判断したロイドはルーンソードの魔力を解放した。棘のように突き刺さる闇魔法。その魔力にラガルトとジャファルが吹き飛ばされた。ヘクトルは武器で受け止めることができたが、それでも足を止めざるおえなかった。
そのヘクトルの足元にロイドが滑り込む。
ロイドはいつの間にか剣を鞘に納めていた。この間合いから放たれる抜刀術に防御は間に合わない。
ヘクトルは刃を食いしばり、痛みに耐える姿勢を見せた。
そこに矢のような勢いでハングが突進した。
ハングはロイドを吹き飛ばしたわけでも、二人の間に飛び込んだわけでもなかった。
ハングは『ヘクトル』を吹き飛ばした。
「なっ!!」
「ぐえっ!!」
間合いが狂い、抜刀の機会を逸したロイド。ハングは『ヘクトル』を強引にロイドに叩きつけ、そのまま盾にしてロイドを一気に壁まで押し込んだ。
「ぐっ!!」
「ぐほっ!!」
壁にひびが入る程の衝撃。さすがのロイドも肺の空気を絞り出された。ヘクトルはそれ以上にダメージを負っていた気がしたが、死んでないなら問題ない。ハングは衝撃で目を回しかけているヘクトルの襟をつかんで後方に飛ぶ。
「ごほっ!ごほっ!」
むせ返るロイド。そこに迫る赤い影。
エリウッドがレイピアを構えて走りこんだ。
ロイドは一撃目はなんとか回避し、二撃目も抜刀と同時に弾き飛ばす。
ただ、三撃目をいなせる程に体が回復していなかった。
レイピアの切っ先が肩口をえぐった。さらに連続の突きが腕と足に風穴を開けた。
ロイドの膝が崩れ、剣が零れ落ちる。それでも、倒れまいとロイドは後ろの壁にもたれた。
ロイドには迫りくるエリウッドの剣を防ぐ手段はもう残されていなかった。
「あぁ・・・ほんと・・・待たせたな・・・」
そして、最後の一撃が、ロイドの胸の中心を貫いた。
「今・・・・やっと・・・」
心臓を貫いた切っ先。エリウッドがレイピアを引き抜くと同時に鮮血が溢れだした。
むせ返る血の臭いを浴びながら、エリウッドは崩れゆくロイドを最期までみつめていた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
戦いは終わった。【黒い牙】の主戦力はこれで全て削り落とした。
ハング達はロイド達の遺体を封印の神殿から少し離れたところに埋葬してやることにした。全ての相手を丁寧に、尊厳をもって弔った。
広く地面を掘り起こして、一人ずつ遺体を並べて埋葬する。
数が多く、大変な作業だったが文句が出ることはなかった。
「【黒い牙】首領の息子・・・強者に敬意をこめ・・・どうか・・・やすらかに」
墓の前で祈るエリウッド。
ハングもまたその隣でベルン式の葬式をあげていた。
「ハング・・・ロイドは兄弟の仇討ちだと言っていた」
「そうだな・・・」
「復讐とは・・・なんなのだろうな・・・」
「俺にそれを聞くかよ・・・」
ハングは苦笑いを浮かべたい気分だったが、どうにも上手く笑えなかった。
エリウッドとハングは再度黙祷をささげて、墓の前から離れていった。
「ハング・・・彼とは別の出会い方をしてたら・・・」
「言うな・・・どうにもなんないことなんか、この世に溢れかえってる」
エリウッドは少し前まで戦場だった草原をみつめて、立ち止まった。
「人が戦えば敵味方に別れるのは当然だ・・・でも僕は・・・・・・慣れることができない」
エリウッドの表情はハングには見えない。
だが、彼の背中からはこの世の理不尽に対する悲しみと怒りがにじみ出ていた。
ハングはエリウッドの隣に並んでみる。
目の前には草原が広がり、遠くに山が見える。結局、エリウッドが何を見つめていたのかはわからなかった。
「お前は慣れなくていいさ。自分の行動の正の面しか見ない奴は道を踏み外しやすい。悩んでいい。エリウッド、それがおまえの生き方だろ」
「・・・僕の生き方・・・か・・・」
「ま、俺がどうこう言える立場じゃないけどな」
ハングはそう言って空を仰ぐ。雪は既にやみ、分厚い雲が覆った空は灰色のキャンバスとなってハングの頭上にのしかかってくる。
「ハングも復讐・・・なんだね」
「そうだな。今はリンも傍にいる。それだけが生き方じゃないのはわかるんだが・・・どうにもな・・・」
彼女が心のよりどころで逃げ道であることは確かだ。
だが、彼女は『待つ』と言ってくれたのだ。
だからこそハングは納得するまで自分の道を歩こうと決めていた。
憎しみも、恨みも、後悔も、全てがまだこの胸の内にあるうちは止まることなどできなかった。
「リンディスには感謝しなよ」
「わかってるって」
つくづく、自分にはもったいない女性だと思う。
「本当にわかってるかい?」
「ああ。お前こそニニアンから目を離すなよ。いつネルガルが本格的に仕掛けてくるのかわかったもんじゃねぇんだからな」
「うん・・・もちろんさ」
そう言ったエリウッドの声にハングは苦笑する。
彼がここまで気負った声を出しているのをハングは初めて聞いた。
ハングにネルガルを殺さなければならない理由があるように、エリウッドにもまたネルガルと戦う理由が育っているようだった。
いつの世も人を戦いに踏み切らせる感情は愛憎なんだなとハングは思った。
そして、ハングはエリウッドの背中に左腕を叩きつけた。
「ぐあっ!!!」
全力ではなかったものの、竜の腕の張り手だ。それは投石でも身に受けたような衝撃だった。
あまりに唐突な一撃にエリウッドが数歩よろめく。だが、数歩たたらを踏んだ程度で大きく体勢を崩しはしなかった。
「おっ、転ばなかったか」
「ハング!何するんだい!!」
「お前が固まってたからな。ほぐしてやったんだよ」
痛みに背中を曲げるエリウッドが恨みがましい目で見上げてくる。
その視線を受け、ハングは肩をすくめた。
「そうやって思考を凝り固まらせて身体まで強張らせるのはお前の悪い癖だぞ。たまには身体から先に動かしてみろっての」
「それは、軍師の秘訣かい?」
「まぁな・・・」
ハングはエリウッドに手を貸して起き上がらせ、聳え立つ神殿を見上げた。
「ここにネルガルを止める手段がある」
「ああ、その為にここまで来たんだ」
二人の間に身震いが走り抜けた。
遠くに稲光が落ちる。落雷の轟きが重低音となって二人の身体を揺らしていた。