【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~封印の神殿~

ハングとエリウッドが皆のもとに戻ると、白髪をたくわえた老人がその輪に加わっていた。

 

「アトス様!」

「いつ、こちらにいらしたんですか?」

「ついさっき転移の魔法でな。お前たちの様子は水晶球で見ておった。ここまでたどり着いたようでなによりじゃ」

「なんだよ、だったら最初から魔法で送ってくれりゃいいのに」

 

ヘクトルが横から乱暴な物言いをしてくる。

だが、アトスが転移魔法でここに来れたのなら、ハング達を直接送り届けることもできたはず。

そう言いたくなる気持ちもわかる気がした。

 

そんなヘクトルにアトスはたしなめるように言った。

 

「それでは意味がない。おまえたちが自分の力で動くことそれが、なによりも大切なのだ」

 

アトスの物言いの意味をハングは少し考える。

 

「それは・・・単に戦闘経験を積むこと・・・だけというわけじゃないんですね?」

「いかにも、ハングの言うとおりじゃ。自分の力で動き、示さねばならなかった。あ奴にの」

「『あ奴』?」

 

アトスがぞんざいな呼び方をする人物。

それが誰を示しているのかはハングにもわからなかった。

エリウッド達も困惑してお互いの顔を見合わせる。

 

「それは・・・いったい」

 

エリウッドが代表するようにアトスに尋ねる。

するとアトスは杖で神殿の上を指した。

 

「さて。では、行くとするか。地下へ・・・あ奴・・・ブラミモンドに会うとしよう」

「ブラミモンド?あのブラミモンドが、ここに?」

「伝説もここまできたら神話だぞ」

 

驚くエリウッドとヘクトル。その隣で相変わらず疑問符を浮かべているリンディスにハングは教えてやる。

 

「ブラミモンド、八神将の一人だよ」

「そうじゃ。八神将で生き残るは、わしと、ブラミモンドの2人のみ」

 

その情報にエリウッド達は少し安堵したように息を吐きだした。

これ以上理を外れる存在が沢山いてたまるかという想いだ。

 

「おまえたちの力だけで、ここを目指させたのは・・・おまえたちが、神将器を手にするに足る器か、力を示す必要があったからじゃ」

 

『神将器』

 

その名を聞き、空気が引き締まる音がした。

 

「神将器・・・ですか?」

 

聞き間違いかと言いたげなエリウッドの質問。

アトスはそれに対して鷹揚に頷いた。

 

「そうじゃ。かつて我ら八神将が、竜を倒すために用いた武器・・・あれならば、ネルガルの【エーギル】、その根本を断つこともできよう」

「ネルガルを倒せる武器・・・」

 

ハングの喉の奥で音が鳴る。ケモノのうなり声のようなその声をハングは飲み込もうとはしなかった。

 

その武器があれば殺せるのか・・・あの男を・・・

 

ハングの脳裏に自分の村を消し飛ばしたあの男の顔が蘇る。

あの日に奴が村に放った炎は今もハングの胸奥の薪に火種を残している。

それが、一気に燃え上がったように身体中に熱量が迸る。全身の筋肉が強張り、息が詰まったように呼吸が浅くなる。

 

何度も経験してきた怨嗟の奔流。

慣れ親しみ、飼いならしてきたはずのそれが、腹の内で暴れまわっていた。

 

「ハング!」

 

声をかけられ、ハッと我に返った。

 

気が付けば、アトスやエリウッドが心配そうにこちらを覗き込んできていた。

 

「あ・・・わり・・・聞いてなかった・・・」

 

ハングがそう言うと、二人は眉間に皺を寄せた。

 

「わりぃ・・・」

 

そんなハングの左手を誰かが握りしめた。

ハングの身体が先程とは別の意味で強張った。

 

竜の腕と称されるこの左腕の怪力が人の肉体を容易に破壊してしまうのはハングが一番知っている。ハングは左手を引き抜こうとしたが、握りしめてきた手は指の隙間に絡みつき、決して離すまいと握りしめていた。

 

そして、握りしめてきた当人は責めるような目でハングを見つめていた。

 

「リン・・・」

「なにやってるのよ」

「え・・・」

 

繋いだ手から鱗を通じて彼女の体温が伝わってくる。

 

「ハング・・・私言ったよね。いつでも傍にいるって」

「あ、ああ・・・」

「でも、バカなこと考えてたでしょ?」

 

反射的に言い返そうとしたハングの口が止まった。

ハングを真っすぐに睨む彼女の瞳に胸を突かれたような気がした。

 

ネルガルを倒したいのはハングだけではない。

 

自分の周りに仲間がいることを忘れてないか?

隣にいるリンを無視しようとしてないか?

 

口よりも雄弁な彼女の目がそう物語っていた。

 

彼女の指にゆっくりと力が込められていく。

 

「はぁ・・・」

 

ハングは胸に溜まっていたものを吐き出すようにため息を吐いた。

そして、ハングは優しくリンの手を握りしめる。

彼女の手が壊れてしまわないように、ゆっくりと力を込めていく。

 

リンディスの手がここにあるうちは自分の怒りに身を任せるわけにはいかないな。

 

ハングはそう思った。

 

もし、憎しみに呑まれて力を入れてしまえば、彼女の利き手はたちまち砕けてしまう。

 

『あなたは一人前の軍師!私は一人前の剣士!!がんばろう!』

 

いつの日か交わした言葉が胸の中に蘇る。

ハングは彼女に利き手を失わせるわけにはいかなかった。

 

「リン」

「なに?」

「・・・ありがと」

「どういたしまして」

 

最近、つくづくリンディスに勝てなくなってきたな。

 

そんなことを思いながらハングは肩の力を抜いたのだった。

 

そんな二人の様子を微笑ましく見ていたアトスは咳払いをして話を戻した。

 

「神将器は、この大陸の各地に封印されている。そして、その封印を解けるのはブラミモンドのみじゃ。さて、力を貸してくれれば良いが・・・」

 

アトスはそう言い、エリウッドを指す。

 

「エリウッド、ヘクトル、リンディス・・・それと・・・ハングも共に来るがよい」

「はい」

「おう」

「ええ」

 

三者三様に返事をするなか、ハングは少し困惑した。

 

「え、俺もですか?」

「この旅の間に最も力を示したのはおぬしじゃ。ブラミモンドの説得には最適じゃろう」

「・・・わかりました」

 

全てを見通していたアトスに何を言っても無駄。

そう思ったハングは素直にそう言った。

 

「よし、それじゃあ向かうか」

 

アトスに続くように祭壇の階段を上った四人。

そして、アトスの魔法に導かれるままに彼らは祭壇の地下へと入って行った。

 

入ると言っても階段を下りたわけではない。アトスの指し示す転移魔法の陣に足を踏み入れただけだ。

転移魔法特有の違和感を経て、たどり着いたの場所には一面暗闇に覆われた場所だった。

 

「暗いな・・・」

 

闇の中からエリウッドの声が聞こえた。

音の反響がないせいか、随分とはっきりと声が聞こえてくる。

 

「薄気味わりいな・・・何も見えねえぜ」

 

ヘクトルの声もした。空気がこもってるのか、その声はどこか重い。

 

「しっ!・・・誰かいるわ」

 

リンディスがそう言った。

わずかに闇に眼が慣れてきたのか、他の皆にも闇の中に佇む目深にフードを被った人影が見えてきた。

 

ただそれを『見える』と称してよいのかは疑問だった。

 

周囲は相変わらずの暗闇で仲間の姿は輪郭ぐらいしかとらえられない。それなのに、そこに佇む人影の姿はなぜか異様は程にはっきりと視認できた。フードの色や、全身を包む服の皺まで見える。それは、あたかもその人物がこの世界から浮かび上がっているかのようであった。

 

「あなたが・・・ブラミモンド・・・」

 

そんな目の前の人物に最初に声をかけたのはエリウッドだった。

 

「・・・ああ、そうとも。僕に何の用かな?地上に生きる者たちよ」

 

暗闇の中でハング達が動揺した。

なぜなら、ブラミモンドの声はエリウッドと瓜二つだったのだ。

 

まさか、ブラミモンドはエリウッドの先祖にあたるか?

だが、エリウッドはリキア貴族だ。そんなことがあり得るのか?

 

いくつもの疑問が浮かび上がるなか、リンディスが口を開いた。

 

「お願いがあります。私たちはネルガルを倒すために・・・」

 

だが、それを遮る声がした

 

「・・・残念だけど、それはかなえてあげられないわ。封印を解くことは人にとって良いことではないの」

 

遮った声もリンディスのものだった。

その声にまたハング達に驚愕するが、その中でヘクトルが怒声をあげた。

 

「はぁ?今は、世界が滅びるかっていう瀬戸際なんだぜ!?」

「はっ!世界だと?だからなんだってんだ?世界がどうなろうが俺の知ったことじゃねーよ!」

 

言い返してきたのもヘクトルの怒声。

 

「な、なんだ!?こいつ、声も、しゃべり方も・・・いったい・・・何人いやがる?」

 

狼狽えたようなヘクトルの声。

それに答えたのはアトスの声だった。

 

「ブラミモンドは己を持たぬ。他者に対してはその者を映す鏡となりみずからの人格決して表に出ることはない。それゆえ、出会う人々の数だけブラミモンドはいるのだ」

 

その言葉にハングは思い当たる節があった。

 

「聞いたことがある。【八神将】ブラミモンドは己の全てを闇に委ねたと。感情も記憶も全て闇に溶かし、そうして竜を倒す力を得た・・・とかな・・・」

「・・・・・」

 

闇からの返答はなかった。

アトスの杖が堅い地面を突く音がした。

 

「・・・ブラミモンドよわしを覚えているか?」

「・・・アトスか。ふむひさしぶりじゃの」

 

最初にそう答えたブラミモンドはアトスの声をしていた。だが、次々とその声が変わっていく。

 

「君が何故、この者たちを連れてきたのか理解に苦しむよ」

 

エリウッドの声で呆れ。

 

「あれが、なぜ封印されたか・・・あなたは忘れてしまったの?」

 

リンディスの声で嘆き。

 

「神将器は、人が持っていい力じゃねーんだぜ」

 

ヘクトルの声で苛立つ。

そんなブラミモンドに応えたのはエリウッドだった。

 

「だけど!このままでは僕たちはネルガルの野望を止めることができない!この世を救うためにあなたの力が必要なんです!」

「・・・・・・」

 

闇が押し黙る。

 

「わしらも、人じゃよブラミモンド」

 

ブラミモンドの意識がアトスに向いたのがわかった。

 

「この者たちは、過ぎた力に心奪われるような者ではない。この者たちは、わしの力を使わずここまでたどり着いた。おぬしも、見ておったのだろう?」

「・・・・・・」

 

その時、ハングは肌が粟立つ感覚を感じた。

 

「・・・・・・っ!!」

 

声のない悲鳴があがる。

 

「ハング?どうかしたのかい」

「・・・・・・いや、なんでもない」

 

耳ざとく聞きつけたエリウッドにそう言って、ハングは呼吸を落ち着ける。

 

今の一瞬、ハングはブラミモンドの気配が間近に迫ったような感覚があったのだ。だが、その気配はすぐさま消え失せてしまい、ハングはこの異様な空間による錯覚だと結論付けた。

 

その間にも話は続いていく。

 

「確かに・・・」

 

エリウッドの声でブラミモンドがそう言った。

そして、再び目まぐるしく口調と声が変わっていく。

 

「他の人間よりはマシなようじゃ」

「だけど、人は弱いわ。その弱さに負けないと・・・」

「誰が保証してくれんだよ!?アトス!」

 

次々と入れ替わる声だが、ハング達はなぜか聞きづらさを感じなかった。ブラミモンドの言葉は鼓膜をすり抜けて脳へと浸透していくように闇の中を響く。

 

「保証は・・・何もありません」

 

控えめながらも、意志を見せるエリウッド。

 

「ただ、僕たちを信じてくださいとしか・・・」

 

エリウッドのその台詞。

 

ありきたりな言葉であったにも関わらず、闇がわずかに震えたような気がした。

そして、闇の奥から、聞きなれない声が放たれた。

 

「・・・かつて君によく似た男を知っていた」

 

それは、エリウッドともヘクトルともとれる声。

ハングはアトスから懐かしむような吐息が聞こえ、理解した。

 

これが、エリウッド達の先祖。勇者ローランの声なのか。

 

「迷いのない、まっすぐに先を見る瞳だ」

 

不意に暗闇が白く染まった。

 

光じゃない。

 

唐突に黒が白に変わったようなそんな感覚だった。

 

その証拠にやはり仲間達の姿は見えず、ブラミモンドの姿だけは視認できていた。

そして、またも突然に白は黒へと戻っていく。

 

「・・・これで封印は解かれた」

 

エリウッドの声はそう言った。

 

「後は、あなたたちの好きにするといいわ」

 

投げやりともとれるリンディスの声。

 

「俺は疲れた少し眠らせてもらうぜ・・・」

 

倦怠感を感じさせるヘクトルの声。

 

それを最後にブラミモンドの姿は暗闇の中に溶けるように消えていった。




長かったようで短かったようなこの連載。
とうとう、ここまで来ました。

ついに!ついに!ここまで書くことができた!!
そして、次回!いよいよクライマックスです!

え?ちょっとタイミングおかしくないかって?

いえ、合ってますよ。間違いなくここからがクライマックスです。

そして、念のために読者の皆さんに一言。
自分、バッドエンドは嫌いなんでそこだけは心配しないでください。
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