【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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5章~国境を越えて(後編)~

炎に包まれ、炭化した山賊を斜に見やりながら、エルクは自分の護衛対象を振り返った。

 

「セーラ!まだ森に山賊がいるかもしれない!だから・・・」

「エルク!前!」

 

エルクはその場から飛びのいた。

背中にわずかな痛みが走ったのを感じながら再び魔道書を手の中で開く。振り向きざまに手のひらから炎を放った。

山賊は斧を盾のように構えて炎を阻む。逸れた一撃は山賊の服を少し焦がして消えていった。

 

「エルク!しっかりしなさいよ!ほら!次!撃ちなさい!!」

 

簡単に言うな!

 

と、言いたかったが先に目の前の敵に集中する。

山賊はこっちが魔道師であることを察して、すぐさま間合いを詰めてきた。

 

「くっ・・・」

 

接近戦は苦手だ。身をかわしながら、護身用の短剣へと手を伸ばした。

 

「へっへへ・・・その女と金目の物を置いていけ!」

 

この女で良ければ喜んで差し出したいところだ。

エルクは魔導書を閉じる。この距離で詠唱に入るのは自殺行為だ。

 

格闘戦は苦手なんだけどな・・・

 

次の瞬間だった。突如、その山賊の胸元から剣の先が突き出た。

 

「ぐっ、な・・・んだ・・・」

 

剣が引き抜かれる。傷口から血を吹き出しながら山賊の巨体が倒れていった。

 

「・・・・・・・」

 

唖然とするエルク。視線の先には一人の女性が剣の血を払っているところだった。

 

「あなたたち、大丈夫?」

「え、ええ・・・大丈夫です」

 

エルクは短剣をしまう。よく見れば、先程騎士達の指揮をとっていた女性である。

 

「あの・・・それで、どうして、あなた達は山賊と戦ってるの?」

「・・・なりゆきです」

 

エルクが律儀に、そして曖昧に答える。

だが、そこにセーラが食って掛かった。

 

「違うじゃないっ!私たち、あなたたちの仲間だと誤解されたのよ!!もう、いい迷惑!なんとかしてちょうだい!!」

「なんとかって・・・」

 

リンは対応に困ってしまった。こういうときにハングがいないのが痛い。こんな相手には彼の方が強そうだ。

泳ぐリンの視線を見かねて、エルクが口を挟んだ。

 

「君がヤジ馬根性を出さなければ巻き込まれてないだろ?・・・すみません、僕らのことはおかまいなく」

 

頭を下げるエルクにリンも少し落ち着いて考えをまとめ、話しだした。

 

「・・・でも、せっかく戦うんだったら手を組まない?その方が早く済むでしょ?」

「それもそうね。うん!それがいいわ。エルク、彼女たちと組むわよ!」

 

ほぼ間髪入れない発言にエルクが圧倒される。

 

「え・・・」

「よかった。私は、リン。とりあえず、私たちに合わせて動いてもらっていい?」

「ええ、まかせて。私はセーラ。彼は護衛のエルクよ。さ、エルク、ちゃんと戦うのよ!」

 

自分が関わらないところで進んでしまった会話。溜息もそろそろ尽き果てた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

 

「ハング!まだか!?」

「まだだ!もう少し耐えろ!」

 

飛んできた手斧を左手で受け止めて投げ返す。

エルクとドルカスを連れての防衛戦。それもそろそろ限界になってきていた。ハングの手足にはいくつもの傷がつき、ドルカスは肩から血を流していた。

 

「・・・遅いぞ・・・リン!!」

 

文句を垂れ流しながら、ハングが振り返る。そこで、フロリーナが赤い布地を槍に付けて振っていた。

 

「きたか」

 

ハングはウィルに目配せを送る。それと同時に林に背を向けて走り出した。

 

「もう、無理だぁ!お前ら逃げるぞ!」

 

それに続くようにウィルとドルカスも後を追って駆け出した。

林からは動揺するような気配が伝わってくる。追ってこないならそれでよし、追ってくるなら・・・

 

「ハング、向こうの森には伏兵がいるんじゃなかったのか?」

 

ウィルが走りながらハングにそう尋ねた。

 

「ああ、それはもういいんだよ。リンが伏兵を始末した。意外と遅かったがな。それよりも・・・」

 

ハングはその場で立ち止まった。それに続いて隣のドルカスも立ち止まる。

林から山賊が釣りだされてきていた。

 

「林から出てきやがったか。しょうがないな・・・この位置で少し粘る。そう時間はかからない」

「勝利を確信してる顔だな」

「ははは、いい顔だろ?」

「悪人面だ」

 

少しヘコむハングに山賊は少し間を空けて停止した。

堂々と戦場に立つ二人にさすがに罠の可能性を探ったのだろう。

これだから中途半端に頭がいい奴は罠に嵌めやすい。

 

「まったく、お前らもしつこいねぇ」

 

ついでなので少しお喋りといこう。時間を稼ぐ意味もある。

 

「いい加減、諦めてくれねぇか?」

「うるせぇ!おまえらを逃がしたとあっちゃガヌロン山賊団の名折れなんだよ!」

「・・・おまえらの顔が潰れようが俺たちには関係ないんだよ。もっとも、既に潰れたような顔だけどな」

 

小さく笑ったのは隣のドルカスだった。一応、目の前の敵は10人程いる。本来ならこの戦力差なら笑う余裕など無いはずである。それでもドルカスが笑えたのはひとえにハングが余裕でいるからだ。

 

「俺たちは結構急ぎの旅でね。できるだけ不安はないにこしたことはない。お前らが国境を越えてくるとは思ってはいないが、万が一ってこともある。ここでお前らが全滅すりゃ、がろ・・・えー・・・がる・・・えと・・・・こいつらの名前何だっけか?」

「俺も忘れた」

 

二人して首を捻るハングとドルカスに怒りの声があがる

 

「ガヌロンだ!バカにしてんのか?」

「ああそうだ。で、お前らが全滅すれば他の山賊団にも恐怖を与えられるからな。俺たちは何の心配も無くリキアに入れるってことだ」

 

怒声など無かったかのように受け流して、ハングは更に続ける。

 

「お前らが半端に策を巡らしてくれて大助かりだったぞ」

「な、何言ってやがる!お前は・・・」

 

ハングの大きな溜息が山賊の言葉を遮った。

 

「お前らねぇ・・・わざわざこっちが天馬騎士なんつう目立つ凧を揚げてんのに真っすぐ追ってきやがって、少しは罠の可能性を疑えよ。しかも、俺たちの場所がわかってるからって余裕ぶっこいて部隊を二つに分けて伏兵なんて用意すっから各個撃破されるという最悪の状況に陥ってるしさ。ついでだから指摘しとくけど、俺らが逃走を見せるなんてわかりきった挑発に乗って林から飛び出してくるなんざ愚の骨頂だからな。本気で伏兵に頼るんならここまで追撃する必要なんかねぇ、せいぜい追うふり程度でいい。出てくるなら、伏兵に襲われたのを見計らって攻勢を仕掛けるのが上策だ。誰がたてた作戦かは知らないがお粗末にも程がある」

 

 

一気にまくしたてるハング。圧倒される山賊を目の前にして、ドルカスすら口を半開きにしていた。ウィルに至っては今の内容を理解することを諦めた顔をしていた。

 

「ハング、お前はいつからこうなることを予測してたんだ?」

「さてな・・・まぁ、リキア国境手前のこの平原地点での戦闘は予定通りだ」

 

あの古砦を出発した段階で、この位置での戦闘を予測してたということか。

ドルカスは驚きを隠せなかったが、無表情を装って斧を構え直す。

 

「お前が味方でよかったよ」

「褒め言葉は素直にありがたいがな。他にも言いたいことがありそうな顔だぞ」

「それはリンの役目だ」

「ハハハハ、違いない!」

 

ドルカスに続いて武器を構えるハング。だが、本当はもう自分が戦う必要が無いことがわかっていた。

 

「てめぇ!バカにすんのも・・・」

「ああ、一つ言い忘れてた」

 

ハングが剣をおろし、もう一度講義の時間に入る。

 

「この辺りはな、周囲を低い丘に囲まれてんだよ。遠くまで見通せる気がするかもしれないが、実は一定の距離に死角がある。そこを通ればあっつう間に・・・」

 

馬の嘶きが戦場に割ってはいる。次の瞬間、左右の空間に突如として赤と緑の騎兵が現れた。

 

「奇襲の完成ってわけだ」

 

授業をその言葉で締めくくったハングは浮き足だった山賊の一団に特攻を仕掛けた。

ほぼ同時に、左右の騎士も駆け込んでくる。

 

一人、二人、三人

 

確実に山賊を薙ぎ倒しながら、縦横無尽に駆け回る四人。そこにウィルの援護射撃が正確に刺さる。

 

「逃げろ!こいつらにはかなわねぇ!」

 

最後の生き残りである数人がもときた道を駆け戻り、林に逃げ込もうと走り出した。

 

「ハング殿!追っかけましょうか?」

「少し待ってな、セイン。あいつらは林までたどり着けはしないからな」

 

目の前の最後の一人を切り倒したケントもハングのもとに近づいてくる。

 

「ケント、リンは?」

「行く場所があると言って別れましたが・・・」

「なら上出来だ」

 

ハングが小さく唇を歪めたのと同時に山賊の悲鳴があがった。

 

「ギャァァーー」

 

三人の山賊は林から飛び出してきた剣士とペガサスナイトに切り伏せられていった。

 

「よしよし、毎晩の成果はしっかり出てるらしいな」

 

ハングは林の方から手を振るリンに右手を上げた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

杖の先端の水晶の輝きと共に傷口がみるみる塞がっていく。

まさに時を遡ったかのような目の前の現象はさながら神の奇跡といったところだ。

 

「はい、おしまい!あなたの雇い主である『ご主人さま』の私がわざわざ治してあげたんだからね。しっかり感謝しなさいょ」

 

エルクの背中をあらん限りの力で叩いた音が周囲に響いた。

 

「それにしても・・・」

 

セーラは後ろで様子を見ていたリン達を振り返った。

 

「驚いたわ。リン、あなたって強いのね!」

「あなたこそ、不思議な杖を使うのね。回復できるなんて、すごいわ」

「神に仕える者にだけ許されるのよ」

 

セーラは鼻高々にそう言った。

その隣ではハングがエルクのマントを広げていた。

 

「うわぁ・・・こいつは修繕は難しいかもな」

「そうみたいだね・・・」

 

マントは斧で盛大に切られ、大きな穴があいていた。

切れ味の鋭い得物なら綺麗な切れ目になるのだが、鈍い物だと繊維が破壊されて大きな穴になる。

山賊が丁寧に斧を研いでくれてなかったのが原因である。

 

『なりゆき』でリンに手を貸してくれた魔道師とシスター。彼らからハング達は詳しい話を聞いていた。

 

「エルク、だったか?代えのマント持ってるのか?なんなら予備を貸してもいいぞ、俺達の戦いに巻き込んじまったみたいだし」

「いや、そんなに気を遣ってくれなくてもいいよ。この程度の穴ならなんとか着られるしね」

「大事なものだったのか?」

「・・・まぁね・・・」

 

その時、セーラの声が高らかに響いた。

 

「まぁ、この私にかかれば、この程度の困難なんて軽々と蹴散らせるのよ。心配ご無用なんだから!」

「へ、へぇ・・・」

 

隣でリンが曖昧な苦笑いをしている。

 

「ハァ・・・」

 

エルクの口から大きなため息がこぼれた。

 

「大変そうだな」

「まぁ・・・ね」

 

視線だけでハングがセーラを示した。

エルクは何も言葉を返さなかったが顔に答えが書いてあった。

 

「ずいぶん苦労してるみたいだ」

「それは君たちも一緒じゃないのかい?山賊に追いかけ回されてるぐらいだし」

「山賊だけなら楽な話なんだけどな」

「訳ありかい?」

「そっちと同じだよ『なりゆき』ってやつだ」

 

エルクが控えめに笑う。ハングは片手を差し出して握手を求めた。

 

「エルク、旅の無事を祈ってる」

「ありがとう、僕も君たちの無事を祈っておくよ」

 

その隣でもやはりリンとセーラが別れの挨拶を交わしていた。

 

「それじゃあ私たち、もういくわね」

「こちらこそ。じゃあね、リン。」

 

セーラとエルクは西に向かい、リンとハングは近くで待っていた仲間と合流して南へと足を向けた。

そしてすぐさまケントが話を切り出した。

 

「ハング殿は今回の戦闘を予測していたと聞きました」

 

そこには僅かながら非難の色が含まれていた。ケントとしては大事な君主が危険に晒される戦闘は避けたかったのが本音なのだろう。

 

「そう言うなよ、奴らは国境を越える前に一掃しておきたかったんだ。いくら国境をまたぐっつてもこっから先も背後に怯えるのはいやだろ?」

「でしたら、一言ぐらいいただきたかったです」

「奴らが『凧』に気づいて追ってくれるかどうか確信が無かったんだ。不安要素を話して悪戯に脅したくなかったんだよ」

 

ケントとハングの会話を聞きつけたリンも話に参加してくる。

 

「『凧』って?」

「ああ・・・それは・・・」

 

ハングとしては一番リンに聞かれたくなかった話題である。

 

「フロリーナのことだよな?彼女を目印に山賊が追ってきやすいようにしたんだろ?」

「ウィル!余計なことを・・・リン、目が怖いぞ?」

「フロリーナを囮にしたの?」

「だから、そう剣呑な声を出すんじゃない。戦闘はもう終わってんだぞ?」

「答えなさい」

 

今、リンは馬に乗っている。鋭い目つきで見下ろされるというのはなかなか迫力がある。

ここで、軽い冗談の一つでも言えるのはせいぜいセインぐらいだ。

 

「囮にしました」

「嘘をつこうとも、はぐらかそうともしなかったことは立派ね」

 

ハングはリンから視線を逸らして前を向いた。

 

「しょうがないだろ、街道通って待ち伏せを警戒し続けるよりも森の中を追っかけさせたほうが向こうの動きを予想しやすい」

「だったら一言言えばいいじゃない!」

「だから、悪戯に脅したくなかったんだよ!フロリーナをな!」

 

リンの口が閉じた。フロリーナが狙われていることを知っていれば彼女が恐怖に晒されながらの移動を余儀なくされていたことは自明の理。ハングが誰にも策を話さなかった理由は主にこれである。

 

「でも、私には言えたんじゃないの?」

「言ったら、言ったで反対しただろうが。お前が親友を危険な目にあわせることに目を瞑れる奴じゃないことくらいわかってる」

 

返す言葉のないリンにハングは小さく溜息を吐き出した。

 

「悪かったとは思ってる。けど『敵を欺くにはまず味方から』っつってな、山賊をここまで誘い出すには出来るだけ気取られたく無かったんだ」

 

声音にも反省の色が見える。いつもながら謝る時だけはしおらしくなるのがハングという人だ。

 

「あ、あの・・・」

 

そんなハングにためらいがちにフロリーナが声をかけた。

 

「ど、どうして・・・そこまでして、ここで迎え討つ必要があったんですか?」

 

ハングは歩を速めて、先頭に立ち、後ろ向きに歩きながら全員の姿を見た。

 

「一つはさっきも言ったように、背後の恐怖を減らしておきたかった。奴らが国境をこえてくるとは思わないが、万が一がある。一部隊を潰せば、確実に追ってこなくなるだろうって判断だ」

 

ハングは全員の顔色から皆が納得したことを読み取った。

 

「で、ここは多少凹凸はあるが平原だ。狭い街道でぶつかるより騎馬の動きが制限されにくい。それが二つ目の理由。んで、三つ目の理由がリンだ」

「え?私?」

 

ハングの視線を受けてリンの目が大きく見開かれた。

 

「そう、おまえが実戦でどこまで俺の授業を活かせるかがわからなかったからな。お前に指揮を任せていいがどうかを決めたかったのが三つ目だ」

 

早い話がテストである。リンに毎晩教え込んだことがどこまで身についているかを、ハングは知りたかった。

特に国境を越える前にそれを知っておく必要があった。

 

「まぁ、山賊が伏兵使ってくるってのは驚いたが。おかげで楽に壊滅できたしな。で?他に質問は?」

 

誰からも声があがらない。しばらくの間は各々の脚が草を踏みしめる音のみがハングの耳に届いていた。

 

「よし、じゃあこの話は終わりでいいな?」

「ハング!」

 

前を向きかけたハングがリンの声で踏みとどまる。

 

「ん?」

「それで・・・私は・・・どうなの?」

 

ハングは口元に笑みを浮かべて前を向いた。

 

「ハング?」

 

不安そうな声を背中に浴びて、ハングは笑い出した。

 

「ハハハ、安心しろ。今日のお前の指揮は合格だ。こっから先、指揮を任せることもあるかもしれないからな。覚悟しとけよ?」

「う、うん!!」

 

後ろからの気持ちのよい返事を聞きながら、ハングは少し別のことに思いを馳せる。

ここから先はリキア。多分、本当に厄介なのはこれからなんだろうな。

 

リキアの勢力図を頭に浮かべながら、ハングは少し眉をひそめる。

一番先頭を行くハングのその顔を見れる者はいない

 

内心で考えていることをおくびにも出さず、ハングは別のことを口にした。

 

「そういや、さっきからセインがいねぇけど。誰か聞いてないのか?」

「え!?」

「あれ?」

「なっ!」

 

後ろから聞こえる驚きの声。後で説教かな、などと思ったハングの元にそのセインの声が届いた。

振り返れば、意気揚々としたセインがやけに楽しそうなセーラとさっきの八割増しの疲れた顔になっているエルクを連れてこちらに向かってきていた。

もはや、結末が見えたハングは旅の道連れが増えたことと、セインに単独行動の危険性について説教をしなければならないことを確信した。

 

その晩、フロリーナの中で怒らせてはいけない人の頂点にハングが据え置かれたという。

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