【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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第31章~勇者ローラン(前編)~

オスティア郊外の山中にある洞窟。そこに、封印を解かれた神将器は眠っている。

だが、それを手にするには試練を乗り越えねばならない。神将器へ至るのは一本の長く険しい道のり。そこかしこで火柱があがり、地下を流れる溶岩が道行くものを阻む。

そんな洞窟にエリウッドは踏み込もうとしていた。

 

「この洞窟の奥にははるか昔・・・リキアが一つの国としてあった頃、祭壇が作られた」

 

エリウッドはアトスの言葉を聞き、耳を疑う。

 

「こんなところに?」

「・・・邪まな心を持つ者から守るべき物があるからな」

「それが、デュランダルですか?」

「そうだ。かつて、我らが使った武器はとてつもない力を持っていた。あの竜どもを、薙ぎ払うほどの恐ろしい力・・・今残っている物には昔ほどの威力はないが、それでも、悪用されぬようそれぞれが守ってきたのだ」

「その封印の大本がブラミモンド様というわけですか」

「さようじゃ」

 

アトスはエリウッドより少し前に出て、杖で奥を照らす。

 

「ここには、ローランの死後誰も足を踏み入れていないはずだ。この洞窟は、今も彼の気で満ちている。ここに巣食うのは、剣を守るかつての兵士たち・・・おまえの試練だ、エリウッド。わずかな仲間の助けを借り一人で祭壇を目指すのだ。デュランダルを手にするにふさわしい力を見せるがいい!」

 

ふと、後ろを振り返るエリウッド。

 

「左右の敵は・・・よろしく頼む」

「なぁに、シケた面してんだい。シャキッとそなよシャキッと!」

 

背中に張り手を受けたエリウッド。

叩いたのは槍を担いだヴァイダだ。

 

振り返るとハングに似た不敵な笑みを浮かべたヴァイダがいた。

 

「だいたい、なんだい!惚れた女が攫われたら奮起すんのが男ってもんだろ!これがハングのバカならとうに叱り飛ばしてたよ!」

 

ああ、ハングの雷ってのはこの人から受け継いだんだな。

エリウッドは苦笑いを浮かべながら、そんなことを思った。

 

「・・・ハングにも叱られそうです」

「ならシャキッとしな!」

「・・・はい」

 

その後ろを見るとヒースが苦笑いを浮かべていた。

 

「こうやってハングは鍛えられたんだね」

「・・・ハングはもっと厳しくされてました」

 

微かに笑い、エリウッドは自分の胸に手を当てた。

思い出すのはこれまでの旅路である。

戦って戦って戦って。

その中で、ほんの隙間にあった日常は輝くような光を持っている。

 

ヘクトルをからかって、リンディスと一緒に笑った。

苦しくて、悩み抜いて、ハングに叱られて、ハングを叱った。

 

『嫉妬は見苦しいよ。ハング』

『エリウッドぉぉぉぉお!!!お前、わかってやってやがったな!!』

 

キガナの街でからかったこともあった。

 

『『恋と誇りは・・・』

『聞こえてるっての!こっちは反応に困ってんだバカ!!』

 

フェレの城でけしかけたこともあった。

 

『特に、ハングとヘクトルは騒ぎを起こさないように』

『っておい!俺もヘクトルと同列はねぇだろ!』

 

不貞腐れてる彼とリンディスの仲を取り持ったこともある。

 

そんな楽しくも懐かしい日々。

そして、そんな日々の間に常に彼女が隣にいたのだ。

 

「ニニアン・・・すぐに助けに行くから・・・」

 

ネルガルはエリウッドから父を奪っただけで飽き足らず、大事な友と大切な女性をも奪い去ろうとしている。

 

エリウッドは決意を胸に真正面を見据えた。

 

「もう、何も奪わせはしない・・・」

 

エリウッドは大きく深呼吸をした。

 

「エリウッド様、槍をお持ちしました」

「ありがとう、マーカス」

 

マーカスが槍を差し出す後ろでは、ロウエンが一頭の馬を連れてきていた。

エリウッドは槍を手に取り、感触を確かめる。

 

目の前にある一本道。溶岩が噴き出すこの地に長居することはできない。

一秒でもこの場を素早く突破するには馬を用いるのが一番だった。

長いことマーカスの指導の下で訓練を続けてたが、もう苦手などと言っている場合ではない。

 

エリウッドは素早く馬に跨った。

 

背筋を伸ばし、槍を携え、気負いを晴らした表情で前を見つめるエリウッド。

エリウッドを見上げたマーカスはその姿にエルバートの面影が重なったように見えた。

 

「エリウッド様・・・この旅を通して、さらに成長なさいましたな」

「そうかい?自分では・・・よくわからないが」

「いえ。戦いに赴くその凛々しいお姿、お父上にも劣らぬ風格が漂っておりますぞ」

「そ、そうだろうか?」

「はい。このマーカス、不覚にも目頭があつく・・・」

 

そう言って目元を抑えるマーカスにエリウッドは苦笑気味であった。

 

「大げさだなマーカスは」

 

エリウッドはそう言って、槍を持ち直した。

 

「マーカス・・・また、力を貸してくれるかい?」

「はい、もちろんでございます!我が槍はエリウッド様の為にあります!!」

 

マーカスが素早く騎乗するのを横目にエリウッドは腹の底から声を張り、指示を飛ばした。

 

「ヴァイダさんとロウエンは右の通路を。マーカスとヒースは左側をお願いします!」

 

各々からの返事を聞き、エリウッドの握る槍に力がこもる。

 

そして、エリウッドは一呼吸を置き、馬の腹を蹴った。

 

「行くぞ!!」

 

エリウッドが通路へと足を踏み入れたのを合図に左右の部隊も突撃していった。

ヴァイダやマーカスが入っていったのはエリウッドの道を見下ろすように作られた通路だ。そこからエリウッドを狙う遠距離攻撃の部隊の制圧が彼等の役割だった。

 

「どきなどきな!!あたしわね、今さいっっこうに虫の居所が悪いんだ!容赦しないよ!!」

 

右手の方から今まで聞いたことのないような破砕音が聞こえてくる。

 

「なにが人形だい!!なにができそこないだい!!ふざけんじゃないよ!!あいつはね・・・あいつはね、あたしの自慢の息子だぁぁぁぁ!!」

 

ヴァイダの声が響いていた。

きっと、彼女は本人には一度もそんなことを言ったことがないだろう。

それをぶちまけてしまう程に鬱憤が溜まっていたのだろう。

 

「まだ暴れたらないんだよ!!お前ら片っ端から出てきやがれ!!」

 

そんなヴァイダにロウエンはついていくだけで必死のようだった。

それに対し、反対側はより堅実な連携の上で動いていた。マーカスが突っ込んで敵をしっかり引きつけながらも攻撃を捌き、ヒースがその頭上から一撃離脱で仕留めていく。二人は数で押されようが、周囲を囲まれようが危なげなく突破してく。それはマーカスの動きが熟練されているというのもあるが、ヒースの連携が的確だった。長年ユバンズ傭兵団で騎馬隊の援護をしてきたヒースの経験が生きていた。

 

「次は誰だ!エリウッド様の妨げになるものはこのマーカス!容赦せんぞ!!」

 

エリウッドは頭上からの攻撃を気にすることをやめ、目の前に立ちふさがろうとする敵に集中していく。

馬を駆けさせながらの戦闘は主に二通りのものがある。

一つは馬の足を止め、高い位置から攻撃を仕掛けるもの。

もう一つは馬の突進力を活かして敵を踏みつぶしていく方法だった。

狭い道であれば後者の戦い方の方が有効なのだろうが、生憎なことに敵はそう生易しい相手ではなかった。

 

敵は終わりが見えない程に次々と現れていく。そのおかげで十分な加速をつけることができない。槍の初撃に多少の貫通力を与えることはできるが、それだけで仕留められないことも多く、足を止めての打ち合いを余儀なくされていた。

 

だが、一対一での決闘方式の戦い方はエリウッドの十八番である。

迫り来る武器を時にいなし、時にかわし、堅実な戦いでエリウッドは一歩一歩進んでいく。

 

そんなエリウッドを壁際から狙う矢尻が一つ。

狙いを定めた矢がゆっくりとエリウッドを追いかける。

それを放つ直前、弓そのものが横に蹴り出された。

 

「そいつは俺の親友の親友でね。手出し無用で頼むよ」

 

そして、ヒースの槍が守護霊の頭蓋を貫いた。

崩れ去る鎧を一瞥しヒースはドラゴンの腹を蹴る。

彼もヴァイダ程ではないが、親友を弄ばれたことが腹の内で煮えくり返っていた。

槍に乗る殺意も増すというものだった。

 

守護霊を打ち倒しながら道を進んでいたエリウッド。エリウッドはふと通路の奥から清い風が吹いてくるのを感じた。

 

そして、エリウッドはついに細い通路を抜けた。

 

「これが、アトス様がおっしゃっていた神殿か・・・」

 

通路の奥に広い空間が広がり、そこに大きな祭壇があった。それは【封印の神殿】のような山を削ったようなものではない。

そこは均等な大きさの石が敷き詰められた平地であった。

周囲には規則正しく並んだ柱や飾りの少ない燭台が置かれ、それらには見覚えのある装飾がなされていた。

 

そこは、リキア同盟の城で一般的な玉座の間に似通っていた。

 

「・・・ここが、源流だということなのか」

 

自分の血の源流。はるか昔の祖先が作り上げた雛形。

エリウッドは身の危険があることを承知でその場に対し礼の形を取った。

 

そして、玉座と思しき場所に置かれた祭壇。

その前には一人の男が、祭壇の番兵のごとく佇んでいた。

 

「・・・ワレコソハローランサマノ・・・イチノセンシ・・・ゲオルク・・・フウインヲ・・・オカセシモノコノテニヨリ・・・サバク・・・」

「僕の名前はエリウッド!神将器が必要なんだ!そこをどいてくれ!」

「・・・サバク」

「ならば・・・押し通る!!」

 

エリウッドは槍を構え、馬を一気に駆け出させた。

足場が整った場所での騎馬の突進。だが、その一撃はゲオルグの持つ斧により弾かれた。

エリウッドは態勢を崩すことなく、その場を走り抜け、素早く反転。

そこにゲオルグが接近した。エリウッドは槍を回して敵の攻撃を確実に防いでいく。

一合、二合と火花が散り、あっという間に十合を越える打ち合いとなる。

 

「はぁぁ!」

 

気合の裂帛と共に打ち込んだ一撃がゲオルグの迎撃を凌駕した。ゲオルグの肩当てを吹き飛ばし、肩の骨をえぐる。だが、ゲオルグは怯むことなく斧を振り切った。

 

「くっ!!」

 

槍を引き戻し柄で受ける。

鉄心を仕込んであった槍が、激しい音を立てた。

まともに受けた為にエリウッドの腕が痺れる。

たまらず後退したエリウッド。だが、ゲオルグは追撃してこなかった。

 

「・・・・・・」

 

エリウッドが震える手を押しとどめて槍を構えると、ベオルグは斧の構えを変えた。

追撃をしてこなかったのは、エリウッドが咄嗟に反撃の姿勢を見せたからだ。

だが、実のところエリウッドの腕は痺れが抜けておらず、反撃できる状態ではなかった。

目の前の守護霊はエリウッドのハッタリに騙されたのだ。

 

「守護霊といえども。人間というわけか・・・」

 

彼は全てを見通してる訳でも、こちらの動きを感知しているわけでもない。

摩訶不思議な力は無く、彼らは単なる兵士。

 

「ただし、竜と渡り合った兵達だけどね」

 

しかも目の前にいるのはかの八神将の側近。

エリウッドは呼吸を保ったまま、心の中だけでため息をついた。

 

彼は百戦錬磨の兵士だ。

おそらく、この槍がもう使い物にならないこともわかっているはずだ。

それでも万全を期して警戒を怠らない。

護るべき物があり、なさねばならないことがある。

彼にとっては戦うことよりも生き残ることが重要なのだろう。

 

一時でも、一瞬でもここがここであるために。

 

だが、エリウッドはここを乗り越えなければならないのだ。

エリウッドは素早く身をひるがえし、馬から飛び降りた。

付け焼き刃で勝てる相手ではないことを悟ったエリウッドは槍を地面に放り投げ、自分が最も信頼している武器を手に取った。

 

「小細工をしかけても意味は無し・・・」

 

エリウッドはレイピアを眼前に構える。

それに合わせて、ゲオルグの構えも変わる。

 

静かに呼吸を整え、エリウッドは刺突の型を取った。

 

「・・・ふぅ・・・」

 

深く息を吐き出し、呼吸法を変える。

 

「・・・・・・・・」

 

静かに、小さく。

相手に隙を悟らせない呼吸法。

 

「・・・・・・・・」

 

両者の距離は三歩半。エリウッドのレイピアなら間合いの範囲だ。

対するゲオルグの武器では間合いの外。

 

緊張の一瞬。

 

エリウッドが地を蹴った。

 

ゲオルグの斧が動く。

 

突進する切っ先。迎撃する刃。両者が交差する。

甲高い音がした。

駆け抜けたエリウッド。振り切られた剣先が僅かに震えていた。

 

「・・・・・・ふぅ・・・」

 

エリウッドの吐息。エリウッドはレイピアを振り、納刀。

その背後でゲオルグが膝をついた。

 

「・・・・・・?・・・ナンダ・・・オマエ・・・・・・ナツカシイ・・・?・・・オマエハ・・・ナニモノ・・・ダ?・・・ローランサマト・・・オナジ・・・」

 

エリウッドはゲオルグの前にまわり、膝をついて視線を合わせた。

彼の虚ろな眼窩の底にはまだ、微かに生きる者の温もりが残されていた。

 

「・・・ずっと、守っていてくれたんだな。すまない・・・」

「・・・・ローラン・・・サマ・・・・」

 

崩れゆくゲオルグの体。散らばった鎧兜は腐敗して砕けてゆく。

その欠片をエリウッドは拾い上げた。

 

「・・・・ありがとう・・・」

 

そんな言葉が彼の口からこぼれていった。

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