【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
「よくぞ突破したなエリウッドよ」
「アトス様!」
神殿に向かって歩いてくるアトス。
その背後には敵を突破してきたヴァイダ達もいた。
「さて、さあ、なつかしき対面といこう。エリウッド、下がりなさい」
言われるがまま、エリウッドは祭壇から一歩後ろに下がった。
「・・・我が古き友、小さき勇者ローランよ」
『小さき勇者』ローラン
確かに伝承ではローランは小柄であったと伝えられてはいる。そういう呼称が付けられていることもある。
だが、彼と実際に肩を並べたことのあるアトスがそう呼ぶのはなんとも不思議な光景であった。
「ローラン・・・目覚めて、我の呼びかけに答えよ」
突如、祭壇に光が集まった。命を宿しつつも、存在感が希薄な光。
それは精霊の放つ光によく似ていた。その光はエリウッドの前で次第に一つの形に収束していく。
それは人の形。
そして、形作られたのはエリウッドともヘクトルともリンディスとも似ている姿だった。
彼が勇者ローラン。
その勇者は伝承通り、意外なほどに小柄だった。
「・・・友よ・・・賢き者、全てを見る者アトス・・・」
「久しいな、ローランよ」
ローランと自然に会話するアトス。
旧知の友との再会にローランがかすかに笑ったように見えた。
「長い時が過ぎたように思う。また、会えるとは・・・【竜】たちとの戦い・・・なつかしき仲間たち・・・すべては、記憶のかなたにある・・・」
「千年に近い年月だ・・・だが、今また【竜】の力を狙う者が、世界をおびやかしている」
「・・・【竜】の力をだと・・・?」
驚愕したというよりも、呆れたような声音。
いつの世も変わらない。
自分が救った世界は何も学んでくれなかったというのか。
そんな心情が垣間見えた。
アトスもそれを察したのか、話を変えた。
「ローランよ。この子はそなたの血をひく者だ。どうか、その力を貸してやってほしい」
そして、エリウッドの方を顎で指す。
しばし、彼を見つめたローラン。エリウッドには彼が優しく微笑んだように見えた。
その姿が父の面影と重なった。
「我は・・・この世界にうつし身をもたぬ。だが・・・これを、持ってゆくがよい。この剣に、この地に残る我が精神のすべてを宿らせよう」
ローランの言葉にアトスが目を見開いた。
「・・・そんなことをすればこの世界から【おまえ】という存在の、全てが消えてしまうことになるぞ?」
「よいのだ。わが子らの力となるならばこれ以上のことはない・・・デュルバンの奴も・・・逝ったようだしな」
ふと西の方に目を向けたローラン。彼はアトスにわずかに目を向け、笑った。
「・・・後のことは頼んだぞ、友よ・・・」
「うむ・・・」
光が形を無くし、霧散していく。
その中で、どこか懐かしい面影がエリウッドに目を向けた。
『・・・・・・・』
口が動く。
何かを言わんとしているのか、エリウッドには聞き取ることができなかった。
そして、何事もなかったかのように光は消え古びた祭壇だけが残った。
「アトス様今の方は・・・」
「おまえにも姿は見えたか」
エリウッドがハッとして後ろを見れば。
三人は曖昧な顔をして首を横に振った。
「あれが、おまえの祖先。勇者ローランだ」
「あの人が、ローラン・・・」
その時、エリウッドが祭壇の上にあるものに気が付いた。
「祭壇の上に剣が・・・!」
駆け寄るエリウッド。それをアトスがゆっくりと追う。
祭壇の上にあったのは身の丈に迫らんとする長さの大剣だった。
刀身の幅は広く、柄も長い。
「とりなさい。おまえの剣だ」
アトスの声にエリウッドは恐る恐るその柄に手を伸ばした。
そして、エリウッドが手に触れた瞬間。
何かがエリウッドの体に流れ込んできた。
命の灯。記憶の欠片。
これは・・・ローラン・・・あなたなのか・・・
エリウッドは両の手で剣を持ち上げた。
「・・・不思議な剣だ」
燃えるような熱を持っているかのようで、握る柄は冷たい。
体の奥底の鼓動に共鳴するかのような躍動を手の中から感じる。
剣自体が生きているかのような感覚。
ふと、エリウッドの耳に声が届いた。
『・・・・・・・・』
ローランの声。エリウッドは手元の剣へと視線を落とした。
「デュランダル・・・【烈火の剣】とも呼ばれておる」
「・・・デュランダル・・・【烈火の剣】」
エリウッドは剣を強く握りながら、ローランの台詞を反芻していた。
『竜を切れ。我に任せ、竜を切れ。まだ未熟な我が子孫よ。我に任せよ』
エリウッドは震えそうになる手を抑え、前を向いたのだった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
洞窟の外に出ると、ヘクトルが既に待っていた。
「フロリーナは?」と尋ねると、怪我をしていたので先に帰らせたのこと。その付添の為にマシューも一緒に帰ったそうだ。
「へぇ、これがお前の取ってきた神将器か」
「【烈火の剣】デュランダルだ」
「ふぅん・・・不思議なもんだな、はじめて見るはずなんだか、なつかしい気がする・・・ま、そんなことはいい」
エリウッドとヘクトルは神将器を肩に担ぎ、アトスに向き直った。
アトスは二人に向けてゆっくりと頷く。
二人はもう自分の使命を理解している。
「・・・これでネルガルとも戦える。さあ、【竜の門】へ・・・」
その瞬間だった。
不意にエリウッドの持つデュランダルが光を帯びた。
それは、先程見た命を灯した光だ。
「剣が・・・光を・・・」
そして、デュランダルから流れ込んできたのは警告と戦闘を告げる焦燥感であった。
「気をつけろ。何か来る・・・!」
不意に空から影が落ちてきた。
エリウッド達は反射的に空を見上げる。
「なっ・・・!?」
そこには天を覆わんばかり巨躯があった。
小さな山程もありそうな質量。その身を宙に浮かべる巨大な翼。
ヘクトルとエリウッドはこれを知っていた。
それは以前【竜の門】で垣間見た姿。
【竜】
圧倒的な存在感と絶望的な畏怖をばらまきながら、その獣が大地に足をつける。
「ばかな!?なんでこんな所に・・・!」
「みんな、下がれ!」
エリウッドの耳にローランの声が幻聴のように鳴り響く。
『竜を切れ。竜を切れ!我に任せよ!我が子孫を傷つけさせなどしない!!』
エリウッドは背にした剣を握り、大上段へと振り上げた。
体が動いた。エリウッドはデュランダルを抱えて走り抜け、飛び上がった。【竜】の肩口にデュランダルを突き立て、振り下ろす。手に鱗を砕く感触が走る。肉を裂いた手応えが残る。【竜】の悲鳴が鼓膜を打ち、吹き出た血の臭いが鼻をつく。
エリウッドは【竜】の返り血を浴びながら、【竜】の背後へと着地した
「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
エリウッドの背後で、巨大な体がゆっくりと倒れていく。
「大丈夫か!エリウッド!!」
駆け寄ってくるヘクトル。
エリウッドは今も震える手でデュランダルを握っていた。
「ああ・・・身体が勝手に動いた。まるで、この剣に導かれるみたいに・・・」
導かれたのか、それとも操られたのか。
エリウッドは少し手元の剣が頼もしくも、怖くもあった。
「【烈火の剣】は竜を滅ぼすためのもの・・・その力をもってすれば、不可能なことではない」
そう説明したのはアトス。
そのアトスは今しがた倒した【竜】へ少し不可解な目を向けた。
「しかし、この氷竜・・・まさか・・・」
「どうかなさったのですか?アトスさま」
「いや・・・」
何か悩んでいるようなアトス。いつもはなんでも知っているかのように振る舞うアトスのそんな態度はエリウッドの目には随分と不自然に映った。
アトスにとってなにが疑問なのか?
エリウッドが再度質問しようと口を開いたその時、答えは予想外のところから現れた。
「それは、私が答えてやろう」
「貴様っ!ネルガルっ!」
エリウッドが睨む先。距離の離れたところに黒装束の男、ネルガルがいた。
「何しに来たっ!!」
「ニニアンは使いものにならん。だから、替わりをもらいに来たが・・・ここにはおらんか・・・ふむ、我が『息子』のところか」
エリウッドは強くデュランダルの柄を握りしめた。
「ニニアンが・・・使い物にならない・・・だと・・・」
その意味することは一つ。
「貴様っ!ニニアンに何をした!?」
エリウッドは憤怒に任せて叫んだ。
「彼女に何かがあったなら・・・本当に・・・!!」
胸に秘めた殺意。純然たる炎が燃え上がる。
それをネルガルは羽虫でも払うかのように答えた。
「私ではない。お前がしたことだよ、エリウッド」
「何・・・?」
エリウッドの声が揺れた。
「エリウッド、お前は疑問に思ったことはないか?竜の門を開くために、なぜこの姉弟が必要なのか・・・?なぜ、ニニアンとニルスでなければならないのか・・・?」
エリウッドの顎から汗がしたたり落ちた。
「・・・・・・」
なんだ、なんなんだ?
この身を這うような悪寒は。
「答えは簡単だ。竜の門は、人間が開くことはできないのだよ。門を開く資格を持つのは、人にあらざる者・・・すなわち、竜のみだ」
なんなんだ、この背筋が凍るような感覚は?
泣きたくなるようなこの感情は?
いったいなんだと言うんだ?
「・・・な・・・なにを・・・」
「哀れだな、ニニアンという娘は。私の甘言にのせられ【門】を通ってこちらに・・・もとに戻ることもできず、私に協力することも拒み逃げさまよったあげく・・・」
ふと、エリウッドは自分の握ったデュランダルへと目を落とした。
流れ落ちてきた【竜】の血が柄から雫となって垂れていた。
「・・・愛するものの手にかかって死ぬことになるとは、な」
「何を・・・言っている・・・?」
「またその台詞か?察しが悪いのか?それとも認めたくないのか?」
いつぞや、聞いた台詞。
「いいだろう。教えてやるぞ、エリウッド。そこにいる一匹の氷竜が・・・お前がその手で倒した獣が・・・」
聞きたくない、知りたくない、認めたくない。
だが、耳をふさぐことも、目を瞑ることも、全てを放棄することも許されなかった。
「それがニニアンだ。 お前を愛していた娘だ。 お前が守ると約束した娘だ。そして、お前の手にかかって死にゆく娘だ」
卑しい笑みで笑うネルガル。
そのネルガルが顎でエリウッドの後ろを刺す。
「ほら、見るがいい。最後の力をふりしぼってもう一度だけ、人の姿に戻ろうとしているぞ。今なら別れの言葉でもかけてやれるのではないか?もっとも、もう助からんがな」
その言葉にエリウッドが吠えた。
「ネルガルッ!!貴様ぁっ!!」
「私ではない。お前だよ、エリウッドお前が死なせたのだ。お前がな・・・」
エリウッドの手からデュランダルが転がり落ちた。
その自分の掌にべっとりと付いた赤い血。
自分の身体を見下ろせば、全身を返り血が濡らしていた。
これは・・・誰の血だ?
「う・・・あああああああああああっ!」
悲痛な叫び。それを聞いたヘクトルの顔が蒼白となる。
その声は生きながらに死んでしまった友人の声に酷似していた。
「落ち着けっ!しっかりしろエリウッド!」
「僕は・・・!僕は・・・・・・!」
膝をつくエリウッドの肩をヘクトルがゆする。
「僕は・・・」
「エリウッド!しっかりしろぉ!!」
なんとか、なんとかならねぇのか!
このままじゃ、あいつの二の舞になっちまう!!
ヘクトルは周囲を見渡した。
そして、先程【竜】が倒れていた場所に1人の少女が横たわっているのを目撃した。
その少女は蒼白な唇でなんとか声を紡ぎだす。
「エリ・・・ウッドさま・・・」
「・・・ニニアン!?」
エリウッドはもつれる手足でなんとか駆け寄り、ニニアンの体を抱き上げた。
だが、その身体はあまりにも重い。元々軽かったはずの彼女の身体が今や鉛のように重くなっていた。
それは死神が彼女を地に引きずり降ろそうとしているからだろうか?
「ニニアン!ニニアン!」
「エリウッド・・・さま」
「ニニアン・・・お願いだ・・・死なないでくれ・・・僕は・・・僕はなんてことを・・・」
手が、体が、頭が覚えていた。ニニアンの体を切った感触や光景や臭いが全て焼き付いていた。
涙を流すエリウッド。その頬をニニアンの手がそっと撫でた。
「良かった・・・」
「え・・・?」
「エリウッドさまが無事で・・・良かった・・・」
「ニニアン・・・」
そして、ニニアンは小指をエリウッドに差し出した。
「ごめんなさい・・・約束・・・守れません・・・ね・・・」
『僕達二人の約束だ』
『はい、約束です』
フェレの城で月の下で交わした約束。
エリウッドの喉から嗚咽が漏れる。
「・・・エリウッドさ・・・ま・・・どうか・・・ど・・・うか・・・この・・・大地を・・・まもっ・・・て・・・」
「・・・・・・ニニアン・・・」
「・・・やく・・・そく・・・」
エリウッドは泣きながら、笑った。
震える手で彼女の小指と自分の小指を交わらせる。
「・・・ああ・・・やくそくだ・・・やくそく・・・だ」
腕の中で微笑むニニアン。
そして・・・
「ニニ・・・アン・・・ニニアン?」
彼女の瞳は開かない。
「うそだ・・・返事をしてくれ・・・」
彼女の声は聞こえない。
「・・・まだ言ってないことがあるんだ・・・君に・・・どうしても・・・」
彼女にまだ伝えていないというのに、彼女の耳はもう何も聞いてはくれない。
「ニニアンーーーーっ!!!!」
エリウッドの声が天へと吸い込まれていった。