【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
「・・・ハング、降ろすわよ」
「・・・・・・・」
「オスティアについたわ。できるだけ風通しのいい部屋にしてもらったの」
「・・・・・・・」
「本当に・・・気持ちい風ね・・・」
「・・・・・・・」
「・・・ハング・・・ニニアンが・・・死んだわ・・・」
「・・・・・・・」
「ハング・・・こんな時に・・・こんなこと言うのは間違ってるとは思うんだけど・・・」
「・・・・・・・」
「・・・帰ってきてよ・・・ハング・・・」
「・・・・・・・」
「あなたがいないと・・・みんな・・・」
「・・・・・・・」
リンディスは返事のないハングの胸に顔を埋め、涙を流していた。
『・・・うっ・・・うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
彼女の耳にはニルスの悲痛な叫びが今も残っていた。
ここはオスティア。
リキアで最も堅牢な守りを誇る城塞都市であり。各国の歴史を振り返ってもこの地が落とされたという記録はどこにも存在しない。いかなる敵も容易には手を出せぬ場所。
ネルガルがニルスを狙っている。それに加えてみんなの心も体も限界だった。
ヘクトルの提案で彼らはオスティアへと移動していた。
「・・・リンディス・・・入っていいか?」
外から聞こえたヘクトルの声にリンディスは我に返る。
彼女は慌ててハングの服で涙をぬぐい、気丈な顔を装った。
「・・・いいわよ」
一瞬、外で躊躇うような気配が伝わってくる。
「・・・入っていいわよ」
リンディスが再度促すと、ようやくヘクトルは中へと入ってきた。
「・・・あ・・・」
その後ろからは疲れた表情のアトスが付いてきていた。
「アトス様・・・」
「さぁ、じーさん・・・あんたなんか知ってんだろ?」
ヘクトルは中に入るなりそう切り出した。
「ヘクトル?」
「・・・こいつにも、聞かせなきゃなんねぇだろ」
そう言って、親指でベットの上を指すヘクトル。
彼はハングの為にここまで足を運んできたのだ。
ヘクトルはもう一度アトスに切り出す。
「教えてくれよ!俺たちは、どうすりゃいいんだっ!」
「そうじゃな・・・・・・おまえたちには知る権利があるだろうな・・・・・・」
リンディスが椅子を勧め、アトスが腰かける。
ヘクトルは床に胡坐をかき、リンディスはベットの端に座った。
ふと、アトスは目線をドアに向ける。
そして今度はどこか遠くを、遥か彼方を見つめるかのように空を仰いだ。
「・・・ネルガル、奴と出会ったのは五〇〇年も昔、ナバタ砂漠でだ」
吹き付ける熱砂、灼熱の太陽。だが、それに覆い隠された古代の知識はアトスのような探究者にとってはおおいに興味をそそられるものだった。
「奴も、わしと同じくこの世の真理に魅せられた者だった。自分と同等の力、知識を持つわしらは、すぐに意気投合した。二人でかかれば、この世の謎すべてを解き明かせると・・・・・・そう思った」
「若かったんじゃよ」そう言ってアトスは自嘲するように笑った。
五百年前のアトスが『若い』なら齢をいくつ重ねても自分たちは最後まで赤子同然だろうとヘクトルとリンディスは思ったが、口には出さなかった。
「それが、どうして?」
「究極といえる高みでの、思想の不一致だよ。わしらは、ナバタ砂漠を散策するうち、一つの不思議な村を見つけた・・・」
アトスは瞼を閉じる。
「信じられんことに、そこでは、人と竜が・・・手を取り合い、共に暮らしていた」
「人と竜が?いっしょに暮らしたり・・・できるものなのか?」
「わしらも、最初は目を疑ったよ。だが、それは本当に存在した」
リンディスは【魔の島】で見た絵画のことを思い出した。
暖かい視線を交わす竜と人の絵。
「それは・・・・・・すごいわ」
「目の当たりにする竜の姿・・・それは、かつてわしが神将の一人として戦ったものとは、似ても似つかないものだった・・・」
その時、ドアがきしむ音がした。
皆が目を向けると、そこにはやや憔悴したような顔をしたエリウッドが立っていた。
「・・・!エリウッド・・・おまえ」
「・・・・・・続けてください・・・」
声には張りがなく、かすれ気味だ。
眼窩は落ち込み、頬も少しこけた。
それでも、瞳に宿る光は失ってはいなかった。
その光を見初めたアトスは鷹揚に頷き、話を再開した。
「・・・彼らは、人竜戦役のとき人と戦うことを嫌い、そこに逃れてきたのだという。人目を逃れて暮らすことを望む彼らに、わしとネルガルは魔法で結界をはったオアシスを作り出し・・・そこに彼らを招き住まわせた。そこでの生活は・・・とても穏やかで、満たされたものだったよ。いつしかその村は【理想郷】と呼ばれ、迷い込む旅人のやすらぎの場となった」
「・・・理想・・・郷」
エリウッド声が響く。
人と竜の共存。
あったかもしれない未来。
あったかもしれない幸せ。
あったかもしれない笑顔。
エリウッドは拳を強く握りしめた。
「・・・竜族の知識は、わしらを夢中にさせた。むさぼるように彼らの言語、歴史を学んだ。一〇〇年、二〇〇年・・・時は瞬く間に過ぎてゆき・・・わしらの考えは少しずつ別の方向へと分かれていった」
「・・・どんな風に?」
リンディスの質問にアトスは苦悩をため込んだ表情をした。
「・・・わしは、竜の英知を他の者にも伝え、いつか・・・この理想郷をもっと広げていければと考えた」
「・・・ネルガルは?」
「竜の知識を使い・・・他の生き物から【エーギル】を奪い、己の力を増す術を発見した」
ヘクトルの肌に鳥肌が立つ。聞いただけでもおぞましい術だ。
「・・・恐ろしいことだった。それに気付いたわしと長老はネルガルにやめるよう、強く説いた・・・じゃが、力に魅せられた奴は耳を貸そうとはせんかった・・・・・・始めは小さな生き物から、小動物に・・・犬から馬になり・・・そして、その対象が人に移った時・・・・・・わしは、村の民と力を合わせ奴を・・・倒した」
アトスは首を振り、訂正する。
「いや、正確には倒したつもりだった、か」
誰からともなく吐息が漏れる。
それが、今回の事件の発端なのだ。
「・・・死を免れたネルガルは、ベルンに逃れ・・・わしらに見つからぬよう力をためていたのだ・・・たくさんの【エーギル】を使い、自分の意のままに動く【モルフ】という人形を作り出した」
アトスは視線をベットで横たわるハングへと向けた。
「人を魅了する容姿、人を越える頭脳・・・黒い髪に青白い肌・・・唇は血塗られたように赤い。・・・何より印象に残るのは金に光る双つの瞳・・・」
ヘクトルの拳が床板を撃つ。
エリウッドが唇を噛みしめた。
やはりそれは事実だというのか。
苛立ちを抑えられない二人に対し、リンディスはやけに冷静だった。
「確かにみんな・・・同じような特徴だったわね。そういえば、ヴァロールにいたエフィデル・・・【黒い牙】のソーニャも・・・・・・みんな創られたものだということ?」
「・・・神を冒涜する行為じゃよ・・・」
「・・・そうね・・・」
リンディスの手がベットのシーツを強くつかんだ。
そして、驚いたことに彼女はヘクトルとエリウッドに向けて笑いかけてみせた。
「でも・・・ハングが【モルフ】なら『人を魅了する容姿』っていうのは備わってないわよね」
一瞬、部屋にいる誰もが鳩が一石を当てられたような表情をした。
そして、ヘクトルが声を殺すように笑った。エリウッドも状況を忘れて笑いそうになる。
「・・・ちげぇねぇ」
「・・・そうかもね」
リンディスは二人に向けて、今出来得る最高の笑顔を見せた。
ハングがいたらもっと厳しく叱咤するだろうと思うのだが、今はこれが彼女の限界だった。リンディスは少し軽くなった二人の顔を見て、胸の内だけで溜息を吐く。
『だから、お願いだから・・・帰ってきて』
誰よりもそれを願うがゆえに、リンディスは笑うのだった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「ニルス、なにかありましたら、いつでも言ってください
フィオーラは部屋の中にそう声をかけ、食器の乗った盆を手に部屋を出る。
廊下では心配そうな顔をしているイサドラが待っていた。
「ニルスの様子はどうですか?」
部屋から出てきたフィオーラは力なく首を振るだけだった。
「そうですか・・・」
イサドラも悲しげな顔をして目を伏せる。
姉の死を知らされてから、ニルスはずっと部屋にこもったままだった。
食事にも手をつけず、水もほとんど飲んでいない。
そしてそれはニルスに限った話ではなかった。
「フロリーナさんの方はどうです?」
「・・・あの子も・・・似たようなものです」
ニニアンと仲の良かったフロリーナ。
彼女もあれからずっと目を泣き腫らしている。
ただ、フロリーナは戦いを生業とする覚悟がある。そのせいで、無理やり食べ物を口に突っ込んではいるが、その姿があまりにも痛々しくて見てられないとプリシラが言っていた。
「付いていてあげないのですか?」
「ああいう時は私よりファリナの方がいいと思っていますので、彼女に任せています」
「そうですか・・・ですが、できるだけ一緒にいてあげた方がいいと思いますよ。家族なんですから」
「・・・・・・そうですね」
イサドラはフィオーラから食器の乗った盆を受け取る。
フィオーラはニルスのことをイサドラに任せることにした。
「すみません・・・あとはよろしくお願いします」
「はい」
廊下を歩いていくフィオーラ。
イサドラが手に持った食器に目を落とすと、やはりほとんど手が付けられた形跡は無かった。
イサドラは溜息を飲み込み、そんなものが出そうになった自分を諌めた。
ハングとニニアンという二人を失い、部隊の雰囲気はこの下なく沈んでいる。
こんな時に溜息などついてはられない。
笑顔を見せる必要はないが、少なくとも毅然としているべきなのだ。
イサドラは「しっかりしろ!」と胸の内で叫ぶ。
今こそ、騎士としてしっかり立つべきなのだ。
エリウッド様の気持ちをこれ以上煩わせるこのの無いようにしなければならないのだ。
だが・・・
「あ・・・イサドラ」
「ハーケン」
ふと、ハーケンに出くわした。
少し体が強張るイサドラ。
ハーケンとイサドラは再会を果たした後も度々会話を重ねていた。
だが、ハーケンの顔から憂いは消えず、イサドラの顔にも悲しみの色は濃く残っていた。そんな二人の間で交わされる言葉はいつも上辺ばかりのものになってしまっていた。
ハーケンが何か口を開く気配がした。
だが、イサドラはそれを遮るように速足で歩きだした。
「イサドラ!待ってくれ!!」
「・・・・・・」
イサドラは止まることなく、廊下を歩いていく。
走れば簡単に追いつける。
だが、ハーケンにはそれができない。
彼女の背中が自分を拒絶していることぐらいわかっていた。
部隊がこんな状況で私的なことを話している余裕がないことはハーケンも理解している。
そしてなによりも、自分を見た時にイサドラが浮かべる悲しい顔を直視することができなかった。
自分が全てを捨てて【黒い牙】に潜入していた一か月という期間。
その間にフェレがどれだけ大変で、イサドラがどれだけの心労を抱えていたのかは想像して余りある。
彼女を見るとその現実が付きつけられるようで、ハーケン自身もまた心の底から再会の喜びに浸ることができない。
どうしてこんなことになってしまったのか。
これからどうしたらいいのか。
答えはいつも淀んだ胸の中だ。
唇を噛み、廊下に佇むハーケン。
その背中に声がかけられた。
「ハーケン殿、ここにいましたか」
ハーケンが振り返ると、キアランの騎士の二人が並んでいた。
ケントとセインは手に槍を持ち、剣を履いていた。要するに完全武装である。
「なにかあったのですか?」
その質問に答えたのはセインであった。
「いやなに、相棒がこの城の兵の訓練に付き合いたいって言い出しましてね。ついでなんで、うちの部隊の騎士連中を探してたんですよ」
「今は、少しでも力を付けるべきです。必ず自分達が必要となる時が来ます。我々は出来ることをすべきです」
ハーケンは生真面目な顔をするケントの方を見て少し驚いたような顔をした。
ケントはハングともニニアンともそれなりに長い付き合いがあったと聞いていた。
それでも、彼は今自分にできることを必死にこなそうとしている。
「ケント殿は・・・立派な騎士ですね・・・」
ハーケンの口からそんな言葉が零れる。
部隊の仲間や仕える主君を失ったハーケン。生き残ったことが罪に思えてフェレにも帰れず、自ら命を絶つにはまだすべきことが多すぎた。何をすべきかわからずに彷徨い歩いた挙句、全てを捨てて【黒い牙】の中に潜入したのだ。
今のハーケンからは普段と変わらずに訓練を続けようとする二人が眩しく映っていた。
だが、その言葉を向けられたケントは苦笑いを浮かべていた。
「ハーケン殿、それは買い被りですよ。私も・・・正直、自分が何をすべきなのか・・・わかっていません」
ケントの言葉に隣のセインも困ったように頷く。
だが、次の瞬間、ふとケントの口角が僅かに持ち合がった。
「ですが、私はこういった時にいつも不敵な笑顔で指示を出してくれる軍師を知っています。そして、彼ならきっとこうするだろうと考えて、行動しているだけなのです」
「それは・・・ハング殿・・・ですか?」
「はい」
ハーケンはかなら昔にハングと面識があった。
エルバート様の盗賊退治に一時的に参加してもらったことがあったのだ。
あの時はまだ彼も軍師として駆け出しだった。だが、それでも的確な策と指示を出していた。
彼の自信に溢れた声に導かれるようにして、盗賊退治は非常に滞りなく終わった。
あの時は本当にただの旅の軍師であった。
だが、今や彼の存在は数多くの人の根幹を支えている。
やはり、あの時、強引にでもフェレに来てもらうべきだったのかもしれない。
そんなことをハーケンは思った。
「君の言うとおりだな・・・すぐに自分の武器を取ってくる」
「わかりました、半刻後には始めますので」
「はい!」
敬礼をするハーケン。そんな彼にセインが口を開いた。
「それで、イサドラさんも訓練にお誘いしたいんですが・・・ハーケン殿から見て彼女はどうですか?」
ハーケンは一度イサドラの去った方向を見やり、二人に言った。
「イサドラは・・・今は、そっとしておいてくれないか?」
「・・・あぁ・・・やっぱりそうだよな・・・いいよな、相棒」
「ああ、彼女のことはいくつか聞いております。無理はさせない方がよろしいでしょう」
「聞いている?誰から?」
「ファリナだ」
ハーケンはまた少し驚いたような顔をした。
ケントとファリナ。
その二人が並んでいる姿というのが想像できないハーケンからすると、二人が話をしているというのは意外でしかなかった。
「どうかしましたか、ハーケン殿?」
「・・・・いや、別に・・・」
首を傾げるケント。
その方にセインが自分の腕を置いた。
「セイン?なんだ?」
「・・・相棒・・・俺は、俺は!お前に言いたいことが!!」
ケントは面倒になりそうだと感じ、踵を返した。
「って、おい!話を聞けよ!!」
「貴様の軽薄な話を聞く暇はない」
「いやちょっとだけでいいからさ!!お前の春についぶうベべあラら!」
「この非常事態に不謹慎な話をするな!!」
昏倒してぶっ倒れるセイン。
ハーケンもこのやり取りは何度か見慣れており、いつもの光景として流すことにした。
そんな時だった。
反射的にケントが剣を抜き、ハーケンが拳を振りぬいた。
その直後、一瞬で復活したセインが槍を振り回した。
三人が戦闘を終えた後、廊下には敵兵の身体が三人分転がっていた。
三人は敵を倒したことを確認し素早く左右に散って柱の影に身を隠した。
その瞬間、無数の矢が廊下を通過していく。
「敵襲だと!?どうなってんだ相棒!!」
「わからん!」
ケントはそう言いながら、廊下の向かいにいるハーケンに剣を投げ渡した。
受け取ったハーケンは剣の重さを確かめつつ、鞘を腰に履き、剣を引き抜く。
「ハーケン殿!魔法部隊です!!」
「見えています!」
次の瞬間火球と雷の嵐がそれぞれが隠れる柱に直撃する。
飛び散った欠片で髪を白く染めながら、セインとケントが後退する。
「くそったれ!これじゃあ突っ込めねぇよ!!」
「とにかく伝令だ!セイン!走れ!!後ろは私とハーケン殿が務める!いいですな!?」
「了解した!」
「了解だ相棒!!」
ケントはセインから槍を受け取り、構える。
「しかし・・・数が多いですね」
「厄介になりそうだ」
そして、二人は敵の攻撃をさばきながら、その場で戦闘態勢を取った。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「敵襲!敵襲ですっ!!」
ハングの部屋に血を流した兵士が飛び込んでくる。
「なん・・・だとぉっ!?」
「ヘ、ヘクトル様っ!大変ですっ!!謎の一団が城内に入り込みました!!」
「城に入り込まれるまでどうして気付かなかった!?」
「いきなり、何もないところからわいて出てきたのですっ!!突然の奇襲に、城の守備兵団は壊滅状態です!」
ヘクトルは舌打ちをした。
この奇襲には覚えがある。
「ネルガルじゃ・・・やつが手下どもを魔道の力によって送り込んできたのじゃ!!」
「ちくしょう・・・なめやがって!なんとしても玉座だけは死守するぞ!兄上の留守に城を奪われるわけにはいかねぇ!!」
ヘクトルはマントを翻して飛び出していく。
「待って!ヘクトル!!私も行くわ!!」
「・・・リンディス、だめだ」
「なに、エリウッド。また私はハングの傍にいろって言うの!?」
「・・・そうだ」
エリウッドは食いしばった歯の隙間からそう言った。
リンディスは胸の内から飛び出そうになった言葉を抑え込むのに随分と苦労した。
ここで、何もせずに皆が傷つくのに耐えてろと言うの!!
そんな役回りはもううんざりよ!!
リンディスはそう叫び出そうになる自分を無理やり押し込めていた。ハングの隣にいることだって大切なことなのだ。
それでも、リンディスは戦いたい。
ハングが前に出れない今、少しでも指揮が取れる人間は多い方がいい。
そのことはエリウッドもわかっていた。
だが、今ここでハングを無防備にするわけにはいかないのだ。
「・・・・・・頼む」
「エリウッド!!」
「・・・頼む・・・」
「エリウッド」
「・・・ハングを・・・頼む・・・」
何度もそう言うエリウッドにリンディスの方が根負けした。
「わかった・・・エリウッド・・・あなたも無理はしないで」
「・・・大丈夫・・・僕はそこまで弱くないさ」
部屋を出ていこうとするエリウッド。
だが、エリウッドが部屋を出ようとした瞬間、目の前に敵兵が立ちふさがった。
「なっ!!」
「エリウッド!!」
エリウッドの目の前で振り上げられた剣。防御も回避も間に合わない。エリウッドはそこで引くことはせず、あえて前に突っ込んだ。敵兵に肩から突撃し、剣の間合いの内側に強引に入り込む。
そのままエリウッドは足をかき、敵兵を廊下の壁まで押し込んだ。
その時、エリウッドは敵兵が無機質な言葉を繰り返しているのを耳にした。
「・・ネルガル様からの伝言を伝えます。私は【魔の島】で、お前たちを待っている・・・」
平坦に、無感動にそう告げる声。
エリウッドが顔をあげると、意志の無い瞳がエリウッドを見ていた。
「ネルガル様からの伝言を伝えます。私は【魔の島】で・・・」
エリウッドはそいつの胸倉をつかみ、体を巻き込むようにして力を込めて足を払い、床に叩きつけた。
「ネルガル様からの・・・」
エリウッドは剣を奪い取り、そいつの胸に突き刺す。
「お前を・・・待っている・・・」
そして敵兵の身体は絶命した途端に崩れて砂となってしまった。
【モルフ】
エリウッドは拳を強く握りしめた。
「・・・やっぱりこの部屋にも守りを割いた方がいい。後で何人か向かわせる。アトス様!ネルガルがこれ以上増援を送り込めないようにできますか!?」
「うむ、ここ一帯に障壁を張ろう。それで、転移は防げるようになるはずじゃ」
「お願いします。リンディス!ここは任せたよ」
リンディスは今度は何も言わずに頷いた。
「気をつけて・・・」
「ああ・・・」
廊下を駆け抜けていくエリウッドの背中。
障壁を張る準備をするために出ていくアトス。
それらを見送りながら、リンディスは剣の柄を握りしめた。
私も・・・しっかりしなきゃ・・・
強く前を見据えるリンディス。
彼女は前を向いた。
だからこそ気付かなかった。
背後で横たわるハングの指がわずかに動いたのを・・・