【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~反逆~

ハングは左腕の爪で床石を掴み、飛んだ。

 

迫るネルガルの背中。左手を槍の穂先のように固めて、ハングは爪をその心臓めがけて突き出した。

 

ネルガルは気づかない。届くと確信するハング。

だが、残り数メートルといったところで、ネルガルが振り返ってしまった。

 

「くそっ・・・」

 

ハングの指の爪先はネルガルが張った障壁にぶつかり、止まる。

 

しかし、成果はあった。

 

火花が飛び散る障壁の向こう側でネルガルが驚愕に目を見開いていたのだ。

 

「くっはははは・・・いい、いいねぇ・・・」

 

ネルガルの顔を見下ろし、ハングは不敵に笑った。

 

「その顔が見たかったんだよ」

 

隣のリムステラから近接攻撃が迫る。

ハングと同じく、指先を槍の穂先のように固めた貫手の構えだ。

 

ハングは後ろに飛んでそれを避ける。

 

「くそっ・・・一撃で決めるつもりだったんだがな・・・」

 

ハングは十分に間合いをあけて、ネルガルと対峙する。

 

「ハング!なぜだ!!なぜ貴様は!!」

「あ?そんなに不思議なことか?」

「奴らは貴様の仇だろ!貴様の憎しみの対象だろう!!それなのに、なぜ貴様はエリウッド共に味方する!!」

 

ハングはその言葉を鼻で笑った。

 

「お前がいじくった記憶は、俺がヴァイダさんと出会う前の記憶ばかりだった」

 

ハングは隣のリムステラを油断なく見ながらそう言った。

 

「それに、お前は言ったな。俺を操ろうとして失敗していると・・・つまるところ、お前は俺を手元に置いてた期間のことしか俺に干渉することができない・・・今の俺がお前に逆らって、何の不思議がある」

 

そう言っても、ネルガルは納得いかないようだった。

そんなネルガルを前にしてハングは挑発的な笑顔を浮かべてみせる。

 

「反抗期ってやつじゃねぇのか?放任主義なんかにしているからそうなるんだ」

「なぜだ!なぜだ!なぜ、お前は従わん!!」

 

ネルガルが腕を振り、ハングの頭の中が白く染まる。

そのたびに凄惨な過去が見え隠れするが、ハングは平然としていた。

 

ハングは自分の手を持ち上げ、握ったり開いたりを繰り返す。

そして、ハングは左拳を強く握りしめた。

 

「へへへ、これで確信が持てた・・・やっぱりあんたは俺を操れねぇんだ」

 

ハングはその左腕を地面に突き立てる。

 

「あんたは俺の産みの親かもしれない。俺は造られた存在かもしれない」

 

深い夢の中。永遠に続く悪夢。

何度も見せられた自分の過去。

 

その合間に俺を魅せる、輝きを持った思い出達。

 

「でもな・・・俺が積み上げてきた時間は・・・この魂は・・・この心は・・・俺のもんだ!!この俺!『ハング』のもんだ!!」

 

ハングは再度、ネルガルに飛びかかった。

正面からの突撃に、ネルガルは障壁を張る。

 

「・・・そう何度も、防がれてたまるかよ!!」

 

ハングは左腕を地面に突き立てて、無理やり停止する。

そして、そのまま飛ぶ方向を変更し上へと飛び上がった。

 

「・・・・・・・・愚かな」

 

空中に飛び出したハングに対して、リムステラが魔法の狙いを定めた。

空中で身動きの取れないハングはいい的だ。

 

ハングは空中で姿勢を修正しながら、リムステラを見下ろす。

 

「・・・・いいぜ、来いよ」

 

リムステラの手のひらに収束した雷が放たれる。

その瞬間、ハングが空中を『蹴った』

 

「・・・・なにっ!!」

「なんだと!」

 

ハングが『蹴った』空間には魔法陣が取り残されていた。

持ち運び可能で、誰しもが発動できる結界術。光の結界だ。

ハングは空中に結界の壁を作り、そこを足場にネルガルへと飛び込んだのだ。

 

ネルガルの障壁はリムステラの魔法を通過させる為に解除されている。

ハングはネルガルの足元に着地し、その勢いを殺さずに足を踏み込んだ。

 

足裏から跳ね返ってくる反動を腰と肩の筋肉で更に加速させ、全ての力を左腕へと練り上げる。ハングは自分の持ちうる最大の一撃を叩きつけた。

 

激しい打撃音。

 

だが、やはりネルガルには届かなかった。

リムステラがハングの一撃を受け止めていた。

しかし、例え【モルフ】といえども、ハングの左腕の直撃を受けてまともでいられるはずがない。受け止めたリムステラの右腕の肉が爆ぜ、骨がむき出しになった。

 

しかし、リムステラはそんなことなどものともせず魔法を放つ準備を整えていた。

 

「・・・フィンブル」

「くそっ!」

 

ハングは慌てて後退。

それを追うように、足元から氷塊が突き上げてくる。

 

なんとか回避はしたものの、またネルガルとの距離を離されてしまう。

 

「・・・今のでも、だめか・・・」

 

なら次だ。別の戦術を頭の中で組み上げていくハング。

そのハングをネルガルは憎々しげに睨みつけていた。

 

「・・・貴様・・・正気だったのだろう」

「ん?」

 

ハングの頭では既に次の行動が決定していたが、ネルガルの言葉を待ってみることにした。

 

「まぁ、今の俺が正気だとするならな」

「なら、なぜここに来た?エリウッド達と共に来た方が、勝ち目があっただろうに。それなのに・・・なぜ、ここに単身乗り込んできた?」

 

その問いにハングは驚いたような顔をした。

 

「へぇ・・・」

 

そして、ハングの身体が震えだす。

 

「くっくっくく・・・」

 

ハングは喉の奥で笑っていた。

 

「くっくくくくははははははははは!!」

「・・・・・・何がおかしい」

「そりゃおかしいだろ。ははははははは!!」

 

ハングは目元に涙をにじませつつ腹を抱えて笑っていた。

 

「あんたが・・・全知全能みたいな物言いをしていたあんたが!自分の作り出した【モルフ】の思考も読めないとはねぇ!!ハハハハハ、こいつは傑作だ!!」

 

ネルガルの眉間に深い皺が刻み込まれる。

 

「・・・・・・・」

「ああ、おっかしい・・・んなもん、決まってるだろ。俺が独りでこなきゃ、こんな機会は巡ってこなかったじゃねぇか」

 

ハングはそう言って再び左腕を構えた。

 

「今、目の前に・・・全ての元凶がいて・・・こいつを殺せば何もかも終わる。そして、俺はお前が油断しきる場所に潜入できる。ここに来る理由はそれで十分だ」

「そんな危険を冒してまで・・・なぜお前は弱者に味方をする!なぜ儂に従わんのじゃ!!」

「それこそ愚問だろ・・・」

 

ハングは唇の端を持ち上げ、不敵に笑ってみせた。

 

「俺はな・・・別に世界どうこうなんて別にどうでもいいんだよ」

 

そして、ハングはもう一度左手を地面に突き立てる。

 

「ただな・・・守りたい親友がいるんだよ・・・」

 

時たま皮肉が出て、妙に俺のことを見透かすあの狸貴族がいる。

 

「それと・・・共に笑っていたい悪友もいる・・・」

 

ガタイばかりの脳筋馬鹿なのに、なぜか鋭い時がある山賊みたいな見た目の友人がいる。

 

「あとは・・・生きていて欲しい仲間がいる・・・」

 

長い旅だった。その中で数多くの得難い仲間と出会ってきた。

それは何物にも代えがたい宝だ。

 

「・・・そんで・・・惚れた女がいる・・・」

 

『あなたは一人前の軍師!私は一人前の剣士!!がんばろう!ね?』

『また・・・どこかで会えるよね』

『私も・・・あなたが・・・ハングが好きだから』

 

じゃじゃ馬で、お転婆で、暴力的で。

綺麗な瞳と優しい笑顔が眩しくて。

憧れて、護りたくて、幸せにしたいあいつがいる。

 

「・・・皆が生きるためには・・・てめぇが邪魔なんだ」

 

身体中の筋肉が躍動を求めて怒張する。自分の心臓が唸る。血管が爆発しそうな程に脈打つ。

これが、今生きているという実感なのかもしれない。

 

「だから・・・だから・・・俺はここに来た!俺が・・・お前を・・・・殺す!!!」

 

ハングはまたもや突撃をかました。

だが、今度は一直線に突っ込んだりせず、左右に飛びながら魔法を回避していく。

 

ネルガルとリムステラはここにきて威力の高い闇魔法に頼りだした。

しかし、それこそハングの思うつぼであった。

 

なぜなら、ハングはネルガルと相対するこの時の為に、ずっと闇魔法に精通してきたのだった。

ハングは床を破壊して魔法陣を崩し、魔法を左右にいなしながら距離を詰めていく。

そして、最大の障害であろうリムステラが立ちはだかる。

 

「どけぇぇ!」

「・・・・っつ!」

 

ハングのは盾になろうとしたリムステラを吹き飛ばした。

ここに来て、ハングは三度目の機会を得た。

 

八方向から迫る黒弾を最小限の動きでかわし、ハングはネルガルの懐に飛び込む。

 

「死ねよ!!くそ親父!!!!」

 

ネルガルの眼前に滑り込んだハング。

全てをもって確信する。

 

この一撃は届く!!

 

突き出した腕。黒い爪。その切っ先がネルガルのローブに触れた。

 

むせ返る程の血の臭いがした。

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