【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~樹海の中の一時(後編)~

樹海の中で野営地を設営したハング達。

夕餉の食糧の節約の為に数人が狩りに出ており、斥候や警戒の仕事の無い人達には少しの自由時間が与えられていた。

そんな部隊の中心から逃げるように離れていったのは一匹のドラゴンを連れた竜騎士だった。

 

「・・・なんだハイペリオン。その眼は?」

「グルルルル」

 

ヒースは律儀についてくる相棒のドラゴンの唸り声を聞き、足を止めた。

 

「腹でも減ったのか?」

「ガルウ!」

 

喉の奥から憤怒の声をあげるハイペリオン。

 

時々、ドラゴンはせいぜいトカゲ程度の知能しかないと言う人間がいるが、ヒース達ドラゴンナイトからすればナンセンスもいいところだった。

ドラゴンは時に人間よりも敏感に人の気持ちを感じ取り、人間よりも人間らしい仕草を見せることがある。

 

そして、今回ハイペリオンが言いたいことをヒースは正確に読み取っていた。

ヒースはハイペリオンの眉間に手を置いた。

 

「・・・・・・・いいんだ・・・これで・・・」

 

責めるようなハイペリオンの眼を受け、ヒースは言い訳じみた言葉を吐く。

後悔と未練の乗ったその声は樹海の底に飲み込まれ、消えていくはずだった。

 

だが、それを聞いている人がいた。

 

その人影を最初に見つけたのはハイペリオンであった。

そして、ハイペリオンの視線を追いかけ、ヒースもそこに誰かが立っていることに気が付いた。

 

「プリシラ・・・さん」

 

彼女は先回りしてたのか、樹海の木の陰からが姿を見せた。

 

「ど、どうやってここに・・・」

 

ヒースは逃亡兵として逃げ回る生活を送っていた、そう簡単に追跡されたり先回りされない術は知っていた。それでなくても迷い易い樹海だ。彼女が一人でこんな森の奥まで来れるはずがなかった。

 

つまり、プリシラがこうしてヒースを追いかけることができたのは協力者がいる。

 

ヒースが部隊から離れる時間帯も逃げ先の傾向も全て知りうる人物。

樹海だろうが山岳地帯だろうが容易に踏破してしまう人物。

 

「ハングと・・・隊長か・・・」

 

少し離れたところからヴァイダのドラゴンであるアンブリエルの息遣いが聞こえてきていた。

 

プリシラは意を決した表情でヒースに詰め寄った。

一歩後ろに下がろうとするヒース。その逃げ道をハイペリオンが素早く塞ぐ。

 

「くっ・・・」

「ヒースさん・・・どうして、私を避けておられるんですか?」

「別に・・・避けてるわけでは・・・」

 

間近にまで詰め寄られたヒース。

ヒースは押しのけることも逃げることもできずに、目をそらした。

 

「避けています!今だって、目をそらして・・・私、何かしましたか?」

 

ヒースは答えられない。

 

もっと言うなら、答えたくなかった。

 

口にしてしまえば、それが決定的な事実だと認めるしかなくなる。

今なら、楽しい白昼夢だったと思えるのに。

 

「ヒースさん!」

 

黙秘を貫こうとしたヒース。だが、胸元にまで迫り、見上げてくるプリシラに耐えられなくなる方が早かった。

 

ヒースは静かに話し出した。

 

「・・・あなたが、エトルリアの伯爵令嬢だと聞きました」

 

目を合わせず、未だに現実を見たくないと訴えるかのようにヒースは固い声で話す。

 

「知らぬこととはいえ、これまでの非礼の数々・・・どうかお許し下さい」

 

頭を下げるヒース。それが、プリシラの足を下げた。

そうやって開いた空間が、二人の間に立ちはだかる分厚い壁であるかのようであった。

 

「そんな・・・」

「あなたは、ご存知ないでしょうが・・・俺はベルン王国からの逃亡兵です。この首には少ないとはいえ、懸賞金までかかっている。普通なら、こうして並んで立つことも許されない」

 

ヒースは頭を上げる。

だが、最後までプリシラの方を見ようともしない。

 

「もう行きます。どうか今後、俺を見ても無視して下さるよう・・・」

 

ヒースはその場から離れようと背を向ける。

 

「ハイペリオン、行くぞ」

 

だが、手綱を引いてもハイペリオンは動かなかった。

 

「ハイペリオン!」

 

ハイペリオンが不服を漏らすように鼻息を噴きだした。

話を強引に切り上げたつもりでいるヒースに対して、ハイペリオンはプリシラの話がまだ終わっていないことを察していた。

 

「ハイペリオン!」

 

四肢をふんぱって耐えるハイペリオン。

 

その間、プリシラは俯き、唇を噛み締めていた。

 

こう言われるであろうことをプリシラは覚悟していた。

それでも、ヒースの口から実際に聞くことの衝撃は大きかった。彼から突きつけられた拒絶の意志に思考が硬直し、身体が強張り、行動する勇気がしぼんでいく。

 

だが、そんなプリシラの脳裏に蘇ってきた言葉があった。

 

『あいつは押しに弱い。押し切れ』

 

「・・・です・・・」

 

ヒースの動きが止まる。

 

「いやです・・・いやです!」

 

プリシラは顔をあげ、再度ヒースに詰め寄った。

ヒースは突進してくるような彼女に反射的に振り返ってしまった。

 

「そんなのいやです!せっかく仲良くなれたのに!」

「プ、プリシラ様」

「約束・・・しました!どんな、ささいなケガでも、私のところに来ると・・・あなたは、約束を簡単に破る人なんですか?身分が違うとか、知らなかったとか・・・そんなの、身勝手だわ!」

 

もうヒースには目を逸らすことはできなかった。

 

「私は・・・私の気持ちなんて・・・なにも・・・」

 

彼女の涙を無視できることなど、ヒースにはできなかった。

そして、一度視線がかち合ってしまえば、もう自分の気持ちに嘘をつくことはできなかった。

 

こうなることがわかっていたから、極力避けていたというのに。

 

「・・・泣かないでくれ。そんなつもりじゃなかったんだ。俺の素性を知れば、きみも迷惑なんじゃないかって・・・」

 

ヒースも自分が身勝手なのはわかっていた。

 

だが、それでもヒースには近づけなかった。

彼女のことを想えばこそ、ヒースはプリシラに近づくことができなかった。

 

「・・・プリシラ・・・さん。今は『さん』でも構わないよな」

 

これじゃあ、ハングにどうこう言えないな。

 

ヒースはそう思いながら、しゃくり声をあげるプリシラの体に手をまわした。

 

「きみを泣かすぐらいなら、俺、傍にいるから・・・この戦いの間だけでも・・・・・・いっしょにいるから」

「・・・ヒースさん・・・」

 

ヒースの革の胸当てに顔を埋めるプリシラ。

彼女の頭を抱えながら、ヒースは強く彼女を抱き締めた。

 

「このまま・・・時が止まってしまえば・・・いい・・・のに」

「・・・・・・ああ・・・本当に・・・」

 

そんな二人を見ながら、ハイペリオンが『疲れた』とでも言いたげに大きく欠伸をした。

少し離れたところで木に背を預けていたヴァイダもため息を吐き出す。

 

「・・・ったく、うちの馬鹿どもは本当に世話がやけるよ」

 

ヴァイダはこれ以上は無粋と思い、野営地へと歩を向ける。

 

「それと、そこにいる奴。護衛はもういいから、あんたも戻んな」

 

ヴァイダが樹海の奥に向かってそう呼びかけた。

夕闇の中、樹海の奥から湧き出てきたように姿を見せたのはジャファルであった。

 

「・・・・・・・・」

「あんたもお節介だね。ま、私も人のことは言えないけどさ」

 

ジャファルは衛生兵と竜騎士の二人が樹海に消えようとしていたので、勝手に護衛していた。この樹海はかつて彼の縄張りでもある。ネルガルが近くにいる以上、警戒するに越したことはないと思ったのだ。

 

ただ、ジャファルは誰の命令も受けずに行動を起こした自分に少なからず驚いていた。それはニノの命を救ってもらった恩義から来る行動なのか、それとも自分の中に人としての感情が残っていたからなのか。それは自分自身でもよくわからなかった。

 

ただ、あまり悪い気分ではなかった。

 

ジャファルはプリシラ達の行動を遠目に見ていたのだが、その結果目撃したのはジャファルの予想の範囲外の出来事だった。

 

ジャファルは今まで自分の世界には存在しなかったものを見て、自分の心臓の拍動を始めて聞いたような気がしていた。

 

ジャファルはヴァイダに向けて珍しく自分から口を開いた。

 

「・・・・・・・お前は、優しいのか?」

「はぁっ!?あたしがかい?そんなわけないだろ!あたしはね、部下があまりにも腑抜けの腰抜けになっちまってるから、発破かけてやるためにあの姫様をけしかけたんだよ!勘違いすんじゃないよ!」

「・・・・・・・・・」

「だいたいなんだい!ハングもヒースも女に恥かかせてばっかりで、まったくどういう育ち方すればあそこまでへそ曲がりになるんだい!見ているこっちがイライラしてくるよ!!」

「・・・・・・・・・」

 

ぶつくさと文句を言いながら、ヴァイダは足早に野営地へと戻っていく。

取り残されたジャファルは最後に、今も無言でお互いの存在を確かめ合っている2人を振り返った。

 

そんなジャファルの無表情の顔の中にわずかに赤みがさしているのを見た人は誰もいなかった。

 

ヴァイダに続いて野営地へと戻っていったジャファル。

その姿を見つけ、ニノが駆け寄ってきた。

 

「ジャファル!」

「・・・どうした?」

「これ、あげる」

 

そして、ニノが差し出してきたのは一つのペンダントだった。

 

「・・・なんだ、これは?」

 

受け取り調べてみるが、特に武器や毒薬が仕込まれているわけでもなかった。

護身用の武器ではなさそうであった。

 

「あたしの一番の宝物!綺麗でしょ?」

 

『宝物』

 

ジャファルはその言葉に改めてペンダントを見下ろす。

そう言われれば確かによく磨かれていた。

 

「これを・・・どうして俺に?」

「ジャファルに持っててほしいの」

 

そう言われるなら、持つことはかまわない。

 

ジャファルはそれを懐に仕舞おうとして、ふと目を引くものがあることに気が付いた。

 

「・・・このペンダントの紐にこびりついた汚れ・・・これは血か?」

「えっと・・・うん、そう・・・気持ち悪い?」

「いや」 

 

今更、血の汚れに気を使うジャファルではない。

 

「かなり古いものだな?おまえの血ではないようだが・・・」

「あたしの本当の・・・母さんの・・・なんだ。母さんが・・・ネルガルと・・・ソーニャにやられた時に、つけてたんだって」

 

それを聞き、ジャファルは受け取ったペンダントをニノに返そうとした。

 

「・・・大事な形見だ。自分で持っていろ・・・」

 

差し出されたペンダントを前にニノは首を横に振り、悲しそうに微笑んだ。

 

「・・・あたし、本当の母さんの顔ちっとも思い出せないんだ。命をかけて守ってくれた大事な大事な人なのに・・・だからそれを持つ資格ないよ」

「・・・小さかったなら仕方ないだろう」

「でも・・・」

 

どうしても受け取ろうとしないニノ。

その顔に映る寂しさや自責の感情をジャファルは読み取った。

 

ジャファルは暗殺者の訓練で人の表情や仕草から感情を読み取る手法を身に付けさせられていた。それは標的を暗殺するタイミングを決める為に必要な技術の一つに過ぎなかった。だが、今ではそこから得た情報から、彼女の気持ちを思いやることができるようになっている。

 

それはジャファル本人にはまだ自覚のない変化。

 

そして、『死神』が『人』に近づきつつある変化であった。

 

ジャファルはペンダントを握りしめ、懐の奥へとしまい込んだ。

 

「・・・気持ちの整理がつくまで・・・預かっておく。おまえは俺にとって・・・仲間で・・・大事な友人だ・・・ずっと側に居るから・・・安心してまかせろ・・・」

「大事な友人?あたしのこと、本当にそう思ってくれてるの?」

「・・・ああ」

 

ジャファルは『我ながら何を言っているのだか』とも思いはした。

だが、それは決して悪い気分ではなかった。

 

「ありがとう!ありがとうジャファル!!あたしすごく嬉しい!!」

 

ニノに飛びつかれたジャファルは胸の内で何かが浮きあがるような不思議な気持ちを味わっていた。

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