【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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第33章~背水の陣(前編)~

「・・・とうとう、ここまで来たか。あと少しで【竜の門】だな」

 

樹海を抜け、平原をいくらか歩き、そしてハング達はわずかに見覚えのある景色を目の前にしていた。それは以前、【竜の門】へと進んだ道。山の向こうにはかすかに【竜の門】の影が見えていた。

 

あと、山を一つ二つ越えればたどり着ける。

 

体力の回復したハングは馬を引きながら、周囲を見渡していた。

 

そして、ハングは不意に片手を挙げ、部隊全体を止めるように指示を出した。

 

「ハング、どうしたんだい?」

「エリウッド、ここで少し止まろう」

「え?」

 

ハングが見据える先。険しい山に囲まれた隘路が北、北東、東の三方向に向けて伸びている。これらの道は全てこの先の遺跡に繋がっている。

それは、ネルガルの下にいった時、わずかな時間で得られた情報の一つだ。

 

「もし、俺が本当にネルガルの下で戦ってたとするなら・・・ここで待ち伏せをしかける」

「偵察を出すか?」

 

ヘクトルの発案にハングは首を横に振る。

 

「それよりアトス様を少し待とう。偵察は今散っている斥候だけでいい。何も気づいてないふりを装う。向こうが焦れて出てきてくれたらそれもよし、ってとこだな」

 

そう言ったハングにリンディスは笑顔を向けた。

 

「なんだよ?」

「べつに。ハングが戻ってきたんだな・・・って、思っただけ」

「どういう意味だか」

 

その時、ハングは空を見上げてふと目を細めた。

 

「あぶない、ハングさんっ!!よけてっ!!!」

「っっ!!」

 

ニルスの声に反応し、ハングは後方へと飛んだ。

その直後、ハングのいた場所に雷が降り注いだ。

 

「理魔法・・・サンダーストームか・・・ニルスっ!!助かった!」

「・・・うん、ぼくももう逃げない!ニニアンのかわりに・・・ううん、ニニアンの分もぼくが戦って運命を変える!!」

「いいね・・・良い顔になったじゃねぇか!」

 

周囲は既に戦闘態勢を整えた。

敵が待ち伏せではなく、急襲を選んだ理由を考えてハングは不敵に笑って見せる。

 

「さて・・・隠れてんのか?それとも遠くで見てんのか?どっちでもいいが・・・出てこいよ!!」

 

ハングが声を張り上げる。

 

ハングには相手が誰だかわかっていた。

 

この魔法の持つ空気の歪みには覚えがあり、エリウッドやヘクトルではなく単体でハングを狙ったことで敵が誰なのかを考えれば、相手を予想するのは簡単だった。

 

「・・・・・・」

「何者っ!?」

 

リンディスが剣を向けた先、唐突に出現した【モルフ】

その【モルフ】にハングは長年の友人と出会ったかのような笑みを向けた。

 

「よう・・・リムステラ。どうした?随分とまあ、殺気を放ってるじゃねぇか」

「なぜ・・・生きている?」

「『生きてる』?その表現はおかしいだろ。俺達は死なない、消えるだけなんだ。『死なないものは生きてはいない』ってな・・・知らないか?バクスターの『死と罰』だよ」

 

睨みあうハングとリムステラ。

 

「・・・どうでもいい・・・もう一度・・・消してやる」

「さて、そう簡単に行くかな。今回は俺一人じゃねぇ。そして・・・お前は一人だ」

「・・・関係ない・・・おまえたちの【エーギル】をもらう」

「やれるもんならやってみな!」

「・・・出でよ我が下僕たち」

 

リムステラはそう言い残して素早く転移魔法で姿を消した。

 

その直後、周囲の森や山々が色めき立った。

鳥が飛び立ち、獣が騒ぎ出す。そして、次々と出現を見せる【モルフ】の軍勢。

当然、見えている敵が全軍であるはずがない。

 

この視界の通りにくい地形でどれだけの兵が伏せられているのか。

ハングは出現してきた敵兵の規模を考え、頭の中で敵の総数を計算してほくそ笑む。

 

「いいね。まだチャンスはありそうだ」

 

そう言ったハングにエリウッドが疑問の声をあげた。

 

「チャンス?」

「【モルフ】を作るのには【エーギル】がいる。目の前の軍勢は俺が把握している数とそう大差ない。ネルガルの野郎、【エーギル】をケチってやがる」

「それは・・・」

「【竜の門】を開けるためには大量の【エーギル】がいるんだろ?ネルガルの奴にも余裕はねぇってことだ」

 

ハングはそう言って不敵に笑う。

全てを見透かしたかのように不敵に笑う。

勝利を確信したかのように不敵に笑う。

 

それを見て、エリウッドも静かに微笑む。

 

「ハング」

「ん?」

「・・・おかえり」

 

エリウッドの言葉にハングは呆気に取られたような顔をしたが、すぐさま軍師の顔に戻った。

 

「ああ、そうだな・・・ただいまだ」

 

ようやく自分がいるべき場所に戻ってきた。

ハングはそのことを心の底から実感していた。

 

ハングは気を引き締め、目の前に横たわる三本の道を眺めた。

 

東の道は他の道に比べて平地部が広いが、右に左に曲がりくねり、敵拠点までの総距離が長い。

北東の道は砦が数か所に配置され、【ロングアーチ】も見え隠れする。森も深く、最も伏兵を警戒すべき道だ。

北の道は最も道幅が狭く、川もあるため大軍の展開はできない。だが、敵拠点までほぼ一直線に向かえる。

 

「ハング、部隊を集中させて一点突破を狙おう」

 

エリウッドの提案にハングは首を横に振る。

 

「それはだめだ」

「でも・・・ここで部隊を分けるのは各個撃破の危険があるんじゃないのか?」

「確かにその危険はあるが、それ以上に警戒すべきことがある」

「・・・挟撃か」

「そうだ。他に道から敵に裏を取られて前後から挟撃されるのがもっとまずい。ただでさえ、地の理は向こうにある。隘路で包囲殲滅されるのが一番危険だ。だから俺達は3方向の道を全て突破する。それができなきゃ、ここは勝てない」

「厳しいね」

「厳しいさ。敵はほぼ全軍をここに突っ込んできてる。ここが決戦場だ。死力を尽くせ!」

 

ここでハング達が負ければ【エーギル】を奪われ、【竜の門】が開く。

そして、行きつく先は地獄絵図だ。

ここで引くわけにはいかなかった。

 

「分ける部隊の面子はどうする?」

「ヘクトル、リン。二人にも部隊を率いてもらう。リンは身軽な連中を連れて北東へ、ヘクトルは川に注意しつつ北へ、エリウッドは騎馬部隊で東の道を制圧しろ。飛行部隊は俺が指揮する」

 

ハングはエリウッド達に流れるように指示を飛ばし、戦場を素早く整理していく。

 

「リン!できるだけ素早く【ロングアーチ】を抑えろ!3本の道で別々に戦う以上、横の連携は飛行部隊にかかってる!制空権は命綱だ!」

「わかってる!任せなさい!」

「ヘクトル!敵も重装部隊が突っ込んでくることはわかってるはずだ!魔法部隊に注意しろ!!」

「へっ!心配すんなよ!」

「エリウッド、お前の道が最も迎撃が激しいはずだ!やれるか?」

「当然!これでもハングのいない間は僕が指揮をとっていたんだ」

 

素早く陣形を整えていく自軍。

 

何度も一緒に戦ってきた仲間達はさほど多くの言葉を必要とせずとも、勝手に最適の位置に収まっていく。

 

軍を見渡すハング。

 

その隣にエリウッドが並んだ。

 

「さっき・・・」

「ん?」

「『死なないものは生きていない』・・・そう言ってたね」

「・・・ああ」

「『命とは人と人との間に築く関係性の蓄積によって成り立つ』そういう言葉もある」

「ああ、知ってる。チューナー・ベルの言葉だ」

「君は・・・生きている」

「・・・知ってるよ。心配するな」

 

エリウッドはハングの肩に軽く拳を当てた。

ハングもエリウッドの肩を一発殴る。

 

「行こう、ハング!最終決戦だっ!!」

「おうよ!ここで敵戦力を削り落とすぞ!」

 

今ここに最後の戦いの幕が開く。

 

人間と【モルフ】の決戦であった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

東側の道を馬で駆け抜けていくエリウッド率いる騎馬部隊。

エリウッド達は前を塞ぐ敵を突き崩しながら足を止めることなくひたすらに進んでいた。

 

「マーカス!イサドラ!先行して左右の山の伏兵を警戒してくれ!」

「心得ました」

「はっ!」

 

エリウッドの指示でマーカスとイサドラが左右に広がっていく。

その直後だった。

 

「・・・・・敵だ」

 

エリウッドと馬を並べたラスが一言そう告げた。

 

「どこだ?」

「・・・・・前方距離八十、岩場の影」

 

そういいつつ、ラスは弓を構えた。

馬上で素早く弓を連射するラス。

エリウッドは後方のプリシラにも魔法による牽制を指示する。

 

放たれた矢と火球が放物線を描いて、岩場の陰へと降り注ぐ。

すると、ラスの指摘通り敵の【モルフ】がぞろぞろと湧き出していた。

 

エリウッドが剣を引き抜き、後方でセイン、ケントの両名が同じく剣を引き抜いた。

 

「いくぞぉぉぉぉ!!」

「参ります!」

「うおらぁぁぁぁあ!」

 

岩場から平地に姿を現した敵をエリウッド達が駆け抜けざに薙ぎ払っていく。

なんとか回避することができた【モルフ】も後続を任されたロウエンの槍に突き崩される。

エリウッド達は素早く反転し、陣形など構築する暇すら与えずに一気に揉みつぶした。

 

敵を粉砕したエリウッド達は馬の呼吸を整えつつ、更に前進する。

だが、山の向こうには【ロングアーチ】があるため、そうそう突出することはできない。

馬を全力で駆けさせることができないもどかしさをエリウッドは冷静な自分で抑え込む。

 

今はハングの合図を待つ。

 

飛行部隊の位置を見ながら速度を調整するエリウッド達。

だが、山を一つ迂回した時にエリウッドは停止の合図を出した。

 

「迎撃の構えだな」

 

大きな遺跡の隣では弓兵と斧兵の混成部隊が迎撃のための陣を敷いていた。

先行したマーカスとイサドラと合流し、エリウッド達はその場で馬の息が整うのを待つ。

 

「いかかがいたしましょうか」

「あそこを抜ければ、そこから先に伏兵を置ける位置は少ない。多少無理をしてでも、突破する」

 

エリウッドは飛行部隊の位置を確かめる。

その直後、周囲に甲高い音が響いた。笛を先端に付けた矢が放たれた音だった。

 

「・・・来たか!!」

 

それは敵【ロングアーチ】を確保した合図。ほぼ同時に今まで牽制を続けるだけだった飛行部隊が敵のペガサス部隊に襲い掛かっていた。

一気に攻勢をかけるなら今しかない。

 

エリウッドは槍をかかげ、突撃の指示を出した。

 

「行くぞぉおおお!」

 

エリウッドを先頭にした鋒矢陣形。突撃に特化した陣形でエリウッドは敵に向けて突進を開始した。

それを見た【モルフ】の弓部隊が矢を引き絞り、放った。

 

空を覆う無数の矢。

 

エリウッドの手に汗が滲む。敵が待ち受けるところに真正面から攻撃を仕掛けることに恐怖を覚えていた。だが、鋒矢陣形の先頭にいるエリウッドがここで歩を緩めるわけにはいかなかった。

 

今、エリウッドが引き下がれば後方に続いてきている仲間達全ての動きが止まる。

矢の雨が降り注がんとするこの場で立ち止ってしまえば、敵の矢と斧兵の突撃を受けて甚大な被害となる。

 

エリウッドは沸き起こってくる恐怖を強引に飲み込み、歯を食いしばる。

 

そして、唇の端でニヤリと笑ってみせた。

 

エリウッドは素早く槍を振りあげる。

 

「陣形変更!直線陣形!!」

 

エリウッドの槍の動きを合図に騎馬部隊が素早くその並びを変える。

横に広がった鋒矢陣から縦一列の陣形に変わる。それは敵の攻撃の被弾面積を下げる直線陣。

 

エリウッドは左右に逸れる矢を全て無視し、頭上に迫ってきたものだけを槍で叩き落とす。

エリウッド達は速度を緩めることなく一気に敵陣へと駆け込んだ。

 

エリウッドは槍を構え、突き出し、敵の頭部を吹き飛ばした。

そのまま次の敵を突き倒し、左右の敵を槍の石突きで昏倒させる。地面に倒れた敵兵は後続の騎馬の足元に消えてすぐに見えなくなる。

 

エリウッドは目の前に立ちふさがる敵をひたすらに突き崩していく。

左右から迫る斧を弾き、人の群れを押し返す。

【モルフ】相手に決して敵に後れを取ることないエリウッド。だが、迫りくる人の壁が死の恐怖と重なることは止められない。

 

それでもエリウッドは槍を振り続ける。

 

何時までも続くと思われた敵の壁。

それは唐突に終わりを迎えた。

 

エリウッドの視野が一騎に開けた。目の前に広がるのは山に囲まれた平野。そこに敵影は無い。

 

敵陣を突破したのだ。

 

エリウッドはそのまま走り抜け。後続が抜けてくるのを振り返って確認する。

そして、殿(しんがり)であったイサドラが抜けてくるのを確認し、再び槍を振り上げた。

 

エリウッド達はその場で素早く反転する。

馬を駆けさせて大回りするのではなく、一人一人がその場で同時に反転するのだ。

全員の息が合わなければ混乱を引き起こしてしまう荒業であるが、エリウッド達はその芸当をやってのけた。

 

今まで長い間共に過ごした仲間達の呼吸は一糸たりとも乱れることはなかった。

 

「鋒矢陣!!」

 

イサドラを先頭に陣形が変わる。ケントとセインが両翼を固め、ロウエン、マーカスがラスとプリシラを挟みこむように守護する。

最後列となったエリウッドは味方が敵の背後にいる弓兵達に襲い掛かるのを見ながら、戦局をつぶさに把握していた。

 

再び騎馬の突撃を受けて混乱する敵部隊。だが、それでも離脱兵や四散する敵はいない。

【モルフ】達は恐怖など欠片も感じないような顔をしながら、エリウッド達に殺到してきた。

 

だが、敵は既に連携を取ることをやめていた。

隣の仲間を守ることもせず、ただ目の前の相手を見ることしかできない。

 

そんな相手に仲間と呼応して動くエリウッド達が負けるはずがなかった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ヘクトルが率いる重量部隊はその質量差にまかせて、次々と敵陣を粉砕していった。

その後方ではカナスとエルクが援護としてついてはいるが、ついていくのに必死だ。

特に【ロングアーチ】を確保してからの進軍速度は並ではなかった。

 

「ハァ、ハァ!まったく・・・あの人達は・・・」

 

エルクが息を切らせながらもなんとかくらいついてく。

その隣ではカナスも額に汗を垂らしながらついていっていた。

 

「困りますね・・・援護する側としては」

 

ヘクトル達は陣形も戦術もおかまいなしに、ただ一人でも多く敵を打ち倒すために前進し続ける。

 

「ドルカス!そっちは任せたぞ!!」

「・・・・どっちの敵だ?」

「うわはははははははは、本能に任せろ!!」

「・・・・やめろ」

 

バアトルが勝手きままに敵に切りかかり、ドルカスがなんとか左右をフォローする。

 

援護するエルク達からしてみれば、好き勝手に戦う仲間に攻撃を当てないようにするだけで一苦労なのだ。

 

しかも、そんな戦い方をするのは一人や二人ではない。

ダーツがファーガス海賊団の切り込み隊長を名乗りながら突っ込み、ワレスが敵の攻撃を弾き返しながら突出し、ホークアイが咆哮をあげながら敵の頭を粉砕していく。

その隙間をオズインやドルカスがなんとか埋めて戦っている。

 

それに加えて、戦闘にほぼ参加していないはずのセーラがちょこまかと動き回るのだから、たまったものではない。

 

エルクとカナスの溜息も漏れようというものだ。

そして、それらの中央で誰よりも多くの敵を相手にしているのがヘクトルだった。

その隣ではマシューがヘクトルに周囲の情報を逐一教えている。

 

「若様!敵影3!前方上空です!」

「ホークアイ!オズイン!そっちをあたれ!他の奴らは前進あるのみ、一匹残らず叩き潰せ!」

「若様!西に増援の気配があります!」

「バアトル、ドルカス!そっちを抑えろ!ダーツ!てめぇは俺と一緒に来い!!」

 

陣形も連携も度外視したように見える戦い。

だが、ヘクトルの指揮は極めて的確に作用して前線を保っている。

 

ヘクトルは全員が奮闘すれば、被害を出さずに戦えるギリギリの線で軍を動かしていた。

要するに『全力を費やせば勝てる』戦い方なのだ。そしてそれは『誰かがさぼった瞬間に仲間が死ぬ』ことを意味する。

 

ヘクトルは自分に割り当てられた部隊の面子を見て、正攻法は無理だと判断した。

傭兵上がりが多く、猪突猛進な人間が多い。

ならば、下手に陣形で縛るよりも各々が最善を尽くせる戦い方をさせるべきだと判断したのだ。

 

それは闘技場でこういった人種を数多く見てきたヘクトルだからこそ取れる選択肢であった。

 

「若様も・・・なかなか、上手くなりましたね」

「マシュー、無駄口叩いてる暇があんのか!?」

「ないですね、こんな無茶苦茶な戦いをしているんですから」

 

ヘクトル達はただ目の前の敵を屠ればいいわけではない。

連携を取っていないからこそ、周囲に目を配り仲間の背後を脅かす存在を優先的に潰さなくてはならないのだ。

白兵戦の様相を呈しながらも彼らが人的被害を抑えられているのは、それぞれが戦場に慣れ、乱戦に慣れているからだった。

それは海賊のダーツや傭兵のドルカス、バアトルはもちろんのこと、傭兵として過ごした期間のあるワレスなどの視野の広さの賜物であった。

 

ある意味、人選にあった戦い方ともいえるがやはりそれは補助に回る人間がいてこそである。

気苦労の多いオズイン達であるが、その中でも特に頭痛に悩まされているのがエルクであった。

 

「セーラ!あまりうろうろしないでくれ!それでなくても、大変なんだから!」

「何よ、ふきげんそうな顔しちゃって」

 

不機嫌なのではなく、必死なだけだ。

 

そう言いたいのをぐっとこらえ、エルクは魔法で敵を焼いていく。

 

「でも、ようやく私の命令を聞く気になったみたいね」

「・・・だから、きみの命令じゃないよ。僕がきみの傍にいるのは、ハングさんの指示。それ以外のなにものでもないから」

「とか言っちゃって、本当は嬉しいくせに。無理しなくていいのよ、エルク」

「してない。というかうるさい!こっちはこっちで本当に大変なんだ!」

「ふーん・・・・ま、いいわ。はいっ!!」

 

次の瞬間、セーラが放った眩い閃光が戦場を一閃した。

味方の隙間を縫うように放たれた一撃が、敵兵の何人かにまとめて手傷を負わせた。

 

「・・・・・」

「ふふん、上達したでしょ。これでもルセア様にご指導を・・・」

「あぶない!!」

 

エルクが素早く魔導書を開き、セーラに迫っていた【モルフ】に雷の電熱を浴びせた。

 

「大丈夫かい!?」

「ちょっ、ちょ・・・雷するときは・・・前もってなにか、い、言いなさいよ」

「本当に世話が焼けるな。そんなこと言う暇なかったじゃないか。それより、腰が抜けたならそこにいてくれ。後方にいてくれた方がまだましだ」

「何よそれ!あんたまだ私のこの部隊における偉大さがわかってないみたいね。覚悟しなさい、一からちゃんと説明してあげるから!」

 

そう言って立とうとするが、いきなり落ちた雷のせいで彼女の足は震えたままだ。

結局、セーラはエルクにすがるようにしてその場に立った。

 

「ちょっ、ちょっと!き、きちんと支えてよ!」

「あのさ・・・どうして僕に絡むのかな。僕が気に入らないなら放っておけばいいだろ?」

「いいでしょ、私の勝手!あ、あんたの根暗な性格わかってる人って、私しかいないじゃない!ケガしてもやせがまんして一人で死んじゃいそうだし・・・しょうがないから、傍にいてあげるんじゃない」

 

そう言いつつも、セーラの足はまだ震えている。

それでも去勢を張りつつ、魔法を放とうとしている姿は健気とも言えなくはないが、エルクとしては不安でしかなたない。

 

「僕だって同じだよ。君みたいな子ほっといたら、何しでかすかわからないからね。しょうがないから、守ってあげてるんだ」

「何よっ!」

「そっちこそ!」

 

火花を散らす二人。

 

「エルクさん!援護を!!」

「あ、すみませんカナスさん!君に構ってる暇はないんだ!おとなしくしてくれ!」

「この部隊の杖使いは私だけなの!皆が戦ってる前線にいないと意味ないじゃない!」

「ああもう!だったら僕から離れないでくれよ!」

「わかってるわよ!だから、しっかり守りなさいよ、エルク!」

 

仲が良いのか悪いのか。

 

きっと良い方なんだろうとカナスは思いつつ、次の魔法の狙いを定めていった。

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