【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~旅路の途中で(前編)~

リンディスことリンはサカの民であった父親の血と、リキアの貴族だった母親の血を受け継いでいる。

しかし、母の生まれた土地であるリキアの地を踏むのは初めてのことであり、また、リキアという国のこともさほど知識は無かった。

 

「ねぇ、ケント。リキアってどんな国?」

 

リキアの国境を越えてしばらくの後、リンはケントにそう尋ねた。

 

「リキアとは正確には『リキア同盟』と言います」

 

ケントは生真面目に正面を向いたまま、馬上のリンの質問に答えた。

 

「いくつかの細かい領地を各々の領主が治めている国です。故にリキアという国には明確な国王はおりません。有事の際は各諸侯が団結してことに当たるような取り決めがされております」

「へ~・・・つまりその領地の一つがキアランなのね?」

「その通り!もっとも情熱的な男が住むといわれているのがキアランです!」

 

馬を挟んでケントの反対側にいたセインも大げさに答える。

そこに一瞬だけ冷たい視線を送ったリンは小さく溜息をついた。

 

そして、視線を前に送る。

 

マントを羽織った、騎士に比べれば少し小さな背中。

ほんのりと頬が上気したのを感じて、リンは目を背けた。

 

セーラが変なこと言うから意識しちゃうじゃない・・・

 

国境の宿でのひと時のせいで、リンは今朝からまともにハングの顔を見ることができなかった。

それどころか、視界に彼を捉えるだけでなんだか妙に気恥ずかしい思いをしなければならない。

 

その原因であるハングはちょうどウィルに声をかけられたところだった。

 

「ハング」

「ん?」

 

振り返ったハングの口には一本の草の茎が咥えられていた。

 

「何食べてるんだ?」

「サルマリアっつう多年草だ。茎の中に蜜を貯める変わった種類の植物でな、茎を噛んでると甘い汁が次々出てくんだ。口がさみしい時なんかは重宝するぞ」

「へー、美味いの?」

「ほれ、一本やるよ」

 

そう言ってサルマリアを差し出したハング。

ウィルは恐る恐るといった感じでその茎の根元をかじった。

 

「おっ、ホントだ。甘い!」

 

それを聞きつけたセーラが物欲しそうな目をハングに向けた。

 

「あ~いいな~わたしもほしいな~」

「まったく・・・セーラとエルクもいるか?」

 

ハングは少し呆れたように笑いながら、サルマリアを配っていった。

リンも興味があったが、今はハングと話をできる状態ではなかった。

 

「おいしい~!ちょっとハング!こんなのあるなら教えときなさいよ~」

 

セーラが頬を緩めながらそう言った。

 

「っつてもな、さっき偶然見つけたんだよ。探してもいいけど、アブラムシがたかってることが多いから気をつけろよ。そういうのはあんまり蜜も残ってないから美味くないしな」

「どうやって探すんですか?」

 

そう尋ねたのはエルクだ。彼はどちらかというと、この植物の植生について興味があった。

 

「特徴はこの細長い茎と青い花だ。花は一本の茎に一輪だけで、花弁が一枚だけだからわかりやすいと思うぞ。群生してることが少ないけどリキア中に生息してっから、すぐみつけられるはずだ」

 

雑学を披露しながら茎を口に含んむ笑顔のハング

そのハングがリンを振り返った。

 

「あと、二本残ってっけど誰かいるか?」

 

ケントとセインが真っ先に手を横に振り、遠慮の意志を示した。

 

「私は結構です」

「俺も。レディたちを優先してくれハング殿」

 

ドルカスもまた小さく首を横に振った。

 

「リンは?」

「え?」

 

裏返った声がとても恨めしい。

 

彼女は顔が熱くなるのを感じていた。

 

「いや、だからサルマリアいるか?って、話聞いてたか?」

「聞いてたわよ!」

「怒鳴らなくてもいいっての。んで、いるのか?いらねぇのか?」

「あ・・・えと・・・」

 

リンは妙に上気してしまった頭を抱え、言葉を探す。だが、なぜか口からは一言も出てこない。曖昧な返事をしたまま、リンは俯くようにして目を逸らした。

 

「そうか、ほれ。フロリーナは?」

「あ、えと・・・も、もらえ・・・ますか?」

「おう」

 

リンは熱くなった耳をなんとかしようと指でこする。そうして、周囲の会話が上手く聞き取れないうちに、ハングはもう前を向いていた。

 

「リンディス様?」

「え!?な、なに?ケント」

「いえ、口にしないのですか?」

「へ?」

 

リンが自分の手の中をみれば、いつの間にか一本の茎が乗っていた。

隣に目を向ければフロリーナがペガサスの上で茎を咥えている。

 

思わず溜息がこぼれた。

 

「私・・・なにやってんだろ・・・」

 

リンの声は様々な周囲の音にまみれて誰にも届かなかった。

リンはフロリーナを真似て茎を口に咥えた。

一噛みすると、茎の中からほんのりと甘い香りがあふれてきた。

 

 

しばらく、道なりに進み小さな民家の側で昼食を兼ねた小休止をいれたリンディス一行。彼らは食事もすんだ後の休みの時を迎えていた。

 

ウィルとドルカスが井戸から水をわけてもらっているそばでハングとケントが話し込んでいる。そこから少し離れてセインがその民家の女性に暴走し、セーラとエルクは近く木陰で休んでいた。

 

近くの草むらには馬たちとペガサスの世話をしているリンとフロリーナがいた。

 

「ねぇ、リン。大丈夫?」

 

馬たちの世話の間にフロリーナはそう尋ねた。

 

「ん、なにが?」

 

とぼけようとしたリンだったが、その声が疲れ気味なのは隠すことができなかった。

 

「今日、溜息ばっかりついてるよ」

「そうかな?」

「うん・・・」

 

フロリーナの心配そうな視線を受けて少し俯きがちになるリン。

 

「らしく・・・ないよね・・・私・・・」

「え?」

 

その時、ハングの声があがった。

 

「お~い、そろそろ出発すんぞ~」

 

遠くから聞こえたその声がリンの中に少し染み渡る。

空を見上げて大きく息を吸い込んだリン。そして、息を吐き出した後、彼女は屈託のない笑顔をフロリーナに向けた

 

「さ、行きましょう。フロリーナ」

「う、うん」

 

少なくとも上辺だけは元気になったリンを見ながら、フロリーナも出発の準備に取り掛かった。

 

再び道を歩みだした一行に、ハングは今の行程を伝えた。

 

「これなら、明日にはアラフェンに入れそうだ。ペースはこのままで進む」

 

アラフェンとは文字通りリキア同盟の一つであるアラフェン領の中心ともいえる街だ。

アラフェン侯爵の居城を始め、領地として機能するための様々な施設を包括する街である。

 

「どんな街なの?」

 

ハングにそう訪ねたのはリンだった。

ハングは少しだけリンと目を合わせて前を向いた。

 

「オスティアに次ぐリキアでも二番手の街だ。領地の豊かさも二番手だから結構でかい街だぞ」

 

リンはそっと胸を撫で下ろした。

 

よかった、普通に喋れる・・・

 

「ハング殿、『豊かさ』とは?」

 

そんな折にケントが質問を挟んだ。

 

「ん?文字通りの意味だよ。ま、俺の基準で二番手って意味だがな」

「へぇ、ハング殿はアラフェン領に行ったことがおありで?」

 

セインも参加してきて、ハングの周りが少しごった返す。

 

「リキアは一通り回ってるよ。まぁ、キアランは四番手ってとこだ」

 

ハングの話題を聞きつけてセーラとウィルもやって来る。

 

「なになに?面白そうなこと話してるわね」

「ハングがつけるリキア侯爵領の順位か。少し興味あるな」

 

そんな皆にハングが苦笑する。

 

「いいのか?俺の独断と偏見に満ちた順位だぞ」

「私も興味ありますね」

 

ケントのその一声が鍵となり、ハングが講義の時間へと入って行った。

 

「まぁ、一番は当然オスティアだろうな」

「そりゃあ、そうよ!」

 

セーラが胸を張る。

決してセーラの手柄ではないのだが、余計なことは誰も言わなかった。

 

「最近即位した新侯爵の勤倹尚武の政治は今の堕落しがちな貴族社会に風穴を開けるだろうしな。こっから更に伸びると思うぞ」

「きんけん?しょうぶ?」

 

ウィルが首を捻る。

 

「勤倹尚武。『無駄な贅沢をするな!体と精神を鍛えよ!』ってことだ。それに基づく平民、貴族問わない徴兵制度と評価制度。堅牢な重装歩兵と装甲騎馬部隊はリキア同盟の一大戦力だろうな」

 

皆が感心の声をあげるなかでハングは次の話に移る。

 

「二番手はさっきも言った通りアラフェン領だ。土地が豊かで人材も豊富。交易も盛んだしな、傭兵部隊を遊撃手とした変幻自在の戦術もなかなか見所がある。ただな~・・・」

「なにか、問題でもあるんですか?」

 

エルクがそう尋ねた。

ハングは腕を組み、苦虫でも噛み潰したかのような顔をした。

 

「今の領主がな~・・・結構、無能なんだよな」

「ん?でも、さっきは人材が豊富って言いましたよね?」

「いや、それがな・・・領主の唯一の才能でさ。人の才能を見抜くのだけは上手いんだ。周囲を優秀な人材で固めて傅かせるのが至高の楽しみっつう人なんだよ」

「なにそれ?変なの~」

 

セーラの不満そうな声にハングは苦笑する。

 

「ま、税率も悪くないし。暮らす住人は豊かではあるな」

 

自分を納得させるように頷くハングにケントが続きを促した。

 

「ハング殿。三番手はどこですか?」

「フェレ領だ」

「え!!」

「えっ!?」

「え~」

 

セイン、ウィル、セーラはそろって驚きの声をあげた。

声にこそ出さなかったものの、ケントもエルクも少し面食らった顔をしていた。

わけがわからないのはリンとフロリーナだ。

 

「フェレ領ってどんなとこ?」

 

リンの質問に答えたのはケントだった。

 

「リキア同盟の東のベルン国境の近くの小さな領地です。中央から外れた、悪く言えば田舎の領地です」

 

その説明を受けて二人は周りが驚く理由を理解した。そこにハングが講義を挟む。

 

「まぁ、間違っちゃいないがな。確かにあそこは少し田舎だが、そのぶん腐りやすい貴族社会がもうほとんど残ってないんだよ。領主だけが少し偉くてそれ以外は上下がほとんど無い。しがない村人でも領主に提言できて、役人も威張りちらして鞭打つことも無い。自然、民に近い目線での政治となるからなかなかいい領地だぞ。もともと山の幸も海の幸も豊富だしな。まぁ交易はひどいもんだが」

 

セインたちもハングの言葉に頷いている。

言われてみれば思い当たる節があるのだろう。

 

「ベルンとの国境付近だからな。山岳戦闘を想定した軽装歩兵と他の国境への救援可能な騎馬部隊は少数精鋭。山賊や海賊もあの辺じゃ大人しいもんだしな。それになにより今の領主がいい」

「現フェレ侯爵と言いますとエルバート様ですか?」

 

その名前を聞いてハングは思い出したように少し笑った。

 

「ああ、気さくな人でな。話してて面白くてしょうがない。まぁ、奥さんと息子さんの話が八割を占めるんだけどな」

「会ったことがあるんですか?」

「ああ、こんな旅人の俺でも簡単に会えるぐらい領主の敷居の低い土地だよ」

 

そう言う、ハングにリンが一言。

 

「どうせ、行き倒れてたんでしょ」

「んで、四番手にキアランが入ってくるわけだ」

 

リンの言葉を見事に黙殺して、ハングは話しを続けた。

 

「キアランは政治も悪くないし、人も集まって悪い領地じゃないんだが。どうしても土地が痩せてるんだよな。そのぶん交易で栄えてるからそんなに民が困ることは無いが、やっぱり有事のことを考えると順位が下がるから四番だ」

「軍備は他とは劣りはしませんけどね」

 

拗ねたようなセインの言葉にハングは声を出して笑った。

 

「ハハハ、まぁな!あの領地の機動力を高めた軽装騎兵と歩兵部隊は素晴らしい。なんでも、キアランには門外不出の兵士強化の訓練があるとかないとか・・・」

 

不敵な笑みを浮かべてセインとケントを順に見るハング。その二人は気まずそうに前を向いていた。できれば話したくない。というか、思い出したくもない。といった感情がありありと浮かんでいた。

 

「なるほど、まぁ、深くは聞かんよ」

 

もう一度笑ったハングは講義を再開する。

 

「んで、後は大概横一列だな。カートレー、トスカナ、サンタルス、ラウス・・・」

「えっ!ラウスがそこに入っちゃうんですか?」

 

再び驚きの声をあげるセイン。そこに呆れ返った目を向けたハング。

 

「あそこは土地は豊かで交易も盛んだよ。外から見りゃいい土地だけどな。あそこは無い、下手すりゃ最下位だ」

「ずいぶんな物言いですね」

「あそこは侯爵とその周囲が酷い。貴族社会の弊害だけが残ってて、威張れんのが血筋だけって連中ばっかりだ。侯爵は若い女を囲うのが大好きなだけのジジィだし、次期侯爵の息子も負けず劣らずの無能っぷりだ。ああそうだ・・・リン!」

「なに?」

 

突然話を振られたリンは内心では結構動揺していたが、それでも冷静を装う。

そこにハングの視線が刺さった。

 

「こっから先、ラウス侯爵家と会うことがあったら隙を見せんなよ。お前ならそれこそ『嫁によこせ』って言われることもあり得るからな」

「そんな・・・」

 

バカな話は無いわよ

 

と、言おうとしてリンは口をつぐんだ。

ハングの目が真剣そのものだったからだ。冗談を言っている顔ではない。

リンはその目に気圧されると同時に、抑えていた照れが顔にあがろうとしてるのを感じた。

 

「わ、わかったわ。心に留めとく」

「よろしい」

 

緩んだ顔でハングが笑う。

 

「まぁ、お前なら多分剣抜けば向こうも諦めるだろうから、そんな心配は無用かもしれないけどな」

 

そう言って前を向いたハング。男性陣がなぜかハングの顔を見ていた。ハングは気づいていないのか、気づいても無視しているのか、特に何の変化も見せずに飄々と歩き続けていた。わずかにドルカスが何かを呟いていたがそれもハングは反応しなかった。

 

リンは熱くなった顔を仰ぐ。そして出そうになったため息を飲み込んだ。

 

「もう・・・ダメね・・・これじゃあ・・・」

 

今日の夜も変わらずハングとの剣の打ち合いや軍略の講義がある。

それをこんな状態で乗り越えられるとはリンも思っていなかった。

 

リンは手綱を握りながら、自分の頬を二、三度叩いて気合をいれたのだった。

 

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