【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
リムステラの塞ぐ古い砦を突破した一行。
ハングはその最後尾で散って行った自分と同種の存在を弔っていた。
墓標を作り、塚となる土を盛った。だが、その下には何も無い。
墓標にはただ『リムステラ ここに眠る』とだけ書かれたいた。
ハングはその前に膝をつき、ベルン式の祈りを捧げる。
管理する者もいない墓場。この墓はいつか朽ち果て、自然の中に溶けていくだろう。
ただ、それでもいいと思う。
自然の理を外れた【モルフ】
ならば最期ぐらいは自然の中に還っても良いではないか。
ハングは最後に手で聖印を組んで、祈りを終えた。
周囲には敵影はないということで、ハングの護衛についているのは二人だけだ。
一人はカナス。彼も【モルフ】の墓作りに協力してくれた。
そしてもう一人は・・・
「レナートさんでしたね。お付き合いいただき、ありがとうございます」
「・・・気にするな」
レナート
司祭の恰好をしながらも、漂う雰囲気はどうも傭兵のそれだ。
ただ、何かを悟ったような姿勢のみが目立ち、老兵のような空気があった。
言動と雰囲気と姿勢の全てがちぐはぐで、なんだか不可思議な人だというのがハングの印象だった。
「カナスさん、行きましょう」
「ええ・・・それにしても、ハングさんが【モルフ】だったなんて」
「そういえば、ゆっくり話すのは初めてですね」
「ええ、そうですね」
歩き出すハングとカナス。
その後方にレナートが続いた。
「あ、あの・・・ハングさん・・・」
「【モルフ】について聞きたいんですか?」
「い、いえ!?・・・・いえ・・・やはり聞きたいことがあります」
「それでこそカナスさんだ」
「これを聞くのは失礼だとは思うんですが・・・ハングさんは夢を見るのでしょうか?僕たちのように考え、悩んだり・・・してましたね」
「そうですね・・・悩んで苦しんで傷つけて・・・そんなことばっかりだったですね」
ハングは何かを思い出すかのように空を見上げる。
「ただ、俺は・・・他の【モルフ】とは毛色が違います・・・感情と記憶を持ち、人の中に溶け込む為の実験台・・・それが俺ですからね・・・一般的な【モルフ】とは・・・」
「でも、ハングさんは自分を持っています。それはすばらしいことだと思いますよ」
「ありがとうございます。だからって俺を解剖したりしないでくださいよ」
「そんなことしませんよ」
ハングはふと視線を感じて振り返った。
「どうかしましたか?」
「・・・・・・・いや・・・」
「その返事は『どうかした』というように聞こえますよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「答えにくいならそれもいいですけど・・・でもレナートさん・・・」
そして、ハングは少し皮肉を含んだ笑みを見せた。
「・・・俺が言うのもなんですが・・・顔が怖いですよ」
冗談のようにハングはそう言った。
だが、その直後、レナートは何か衝撃を受けたように目を見開いた。
「え・・・あの・・・レナートさん・・・」
「・・・すまない・・・」
「・・・え?」
「・・・すまない・・・」
ハングはカナスと目を見合わせた
レナートの足が止まり、ハング達も立ち止まる。
この際だとハングは思い、ハングはレナートに一つ質問をした。
「レナートさん・・・俺・・・聞きたいことがあったんですが」
それはハングが彼と出会った時に最初に抱いた疑問だった。
「俺・・・あなたに・・・会ったこと・・・ありましたか?」
「・・・・・っ」
「なんか、懐かしい・・・じゃないですけど、以前会ったような・・・そんな気がするんですが・・・」
ハングも何時出会ったのかは定かではなかった。
だが、記憶のどこかに引っかかるものがあったのだ。
それは遥か昔のこと。
旅をしていた時だろうか?
ベルンの竜騎士時代だろうか?
それとも、それよりももっと前?
その時のことを何度か思い起こそうとしたが、記憶は霞がかかったようにはっきりしない。
「・・・・・・気のせいだ」
「そう・・・ですかね?」
「私はここ数十年この【魔の島】から出ていない」
「それは・・・」
「だから、気のせいだろう」
言い切った彼はこれ以上の追及を断るような雰囲気だった。
「前の部隊に遅れてしまう。いこう」
ハング達に先んじて歩き出すレナート。
「レナートさん!」
その背にハングは声をかけた。
「あなたは・・・誰ですか?」
「・・・レナートだ」
「聞き方を変えます」
ハングは息を大きく吸い込んだ。
「あんたは・・・何なんだ?」
低く、地を這う声。それは軍師としての声。
レナートは信頼を置けるのか、軍に害を及ぼさないのか。
単なる興味ではなく、現実的な言葉としての言及だった。
「私は業を背負う者・・・お前に敵対することはない・・・」
「言葉を信じるにはそれなりに根拠がいるが?」
「・・・信じてもらえないのならそれもいい。だが、私がネルガルに協力することはない」
そう言ったレナートの背中はそれ以上語る気がないことを雄弁に物語っていた。
ハングはしばしその背中を見つめていたが、結局諦めたように肩をすくめて歩き出した。
「これ以上、咎めても仕方ありませんかね。本当に置いていかれる」
「そ、そうですね。急ぎましょう」
空気に飲まれつつあったカナスが慌ててそう言った。
ゆっくりと歩き出す三人。
ハングには先を行くレナートの背がなんだかやけに小さく見えていた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「ニルス、もしよかったら君たちのことを教えてくれないか?」
「・・・え?」
それは樹海の中の小休止内でのことだった。
リンディスやヘクトルと共に歩いていたニルスにエリウッドがそれを訪ねたのだった。
「話したくないなら無理強いする気はないが・・・」
ニルスは少し悩むように視線を彷徨わせ、決意を固めて顔を挙げた。
「ううん、いいよ。ぼくも知っててほしいからぼくとニニアンのこと・・・」
「俺達は・・・外そうか?」
ヘクトルがそう言うと、ニルスは首を横に振った。
「ううん、みんなに聞いてほしいんだ」
そして、ニルスは自分達のことを語り始めた。
「・・・ずっと昔、1000年も前・・・ぼくたち竜族は、人との戦いに敗れこの地から追われることになった。行き場を失ったぼくたちは・・・死を覚悟の上で、【竜の門】を使い別の世界へと逃げたんだ。時空のはざまをくぐりぬける時多くの仲間を失ったけど、ぼくらはなんとか別の大陸にたどり着くことができた。そこにも人間はいたけど、まだ、数が少なかったから・・・小競り合いをしながらでも、なんとか暮らせる場所を見つけたんだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「なに?」
ニルスの話を遮るように、ヘクトルが声を挟んだ。
「ってことは、え?お前、1000年以上生きてんのか?」
「うん、そうだよ。まだ僕は若い方なんだけどね」
「それは・・・つまり、【竜】の中では見た目相応ぐらいの年齢ってわけか?」
「そうだね」
ヘクトルはそれを聞き、どうにも複雑そうな表情になった。
「話を戻していい?」
「お、おう。悪かったな」
ニルスはそのまま続きを話しだす。
「その地での暮らしが安定して、ぼくらがもと居た大地に思いをはせるようになった頃・・・その「声」は届いた。向こう側の地でニニアンは【竜の神殿】の巫女でとても強い力を持つ者だった。ぼくら姉弟がいつものように神殿で祈りを捧げていた時、【竜の門】から・・・ぼくらを呼ぶ「声」が聞こえた。それは、とても懐かしい仲間を呼ぶ声で・・・・・・ぼくらは、いけないとわかってたのに、門を開け・・・この世界に来てしまった。その「声」の主がネルガルであると気付かずに・・・」
「・・・・・・」
「だけど、そこで計算違いがおきた。ぼくらは、【竜の門】を開く時と・・・それからこちらに着いた時点で力のほとんどを失ってしまった・・・体に残る【エーギル】は普通の人間より少ないほどにね。ぼくらは、命をながらえるため、この世界の空気に合うように人の形になり、残った力を【竜石】というものに変えたんだ。だけど、その竜石を取り上げられ、奴の望むまま、竜を呼び出すための道具にされかけた・・・ぼくらは、逃げ出した。自分たちのせいで、仲間たちを危険にさらすわけにはいかない・・・踊り子と吟遊詩人の姿に身をやつし、各地を逃げ回った・・・リン様と出会ったのもその頃だったね」
ニルスがリンディスを見上げると、彼女はどこか悲しそうな顔をしていた。
「・・・ずっと奴らに追われていたのね?どうして、話してくれなかったの?」
「・・・リン様も、ハングさんも、いい人だったから。巻き込みたくなかったんだ。でも、ハングさんは自分からネルガルを追ってしまったし・・・」
「まぁ・・・あの時のハングは・・・ね・・・」
それでも、ニルスはハングには感謝していた。
ハングはニルス達を餌にネルガルに近づくこともできた。
だが、ハングはキアラン城で別れる時に通行証や偽装の身分証などで逃亡に力を貸してくれた。
ニルスが心の底からハングを信頼したのはあの時だったのかもしれない。
「でも・・・結局、僕達もまた捕まって・・・自分たちの命を絶つしか逃れる方法はないと・・・絶望しかけた時・・・エルバートおじさんに会った」
ニルスはそう言って、エリウッドの瞳を見上げた。
「おじさんは、とても強くてとてもいい人で・・・ぼくらの正体や・・・事情を知っても全然、責めたりしなかった。むしろ、ぼくらを少しでも和ませようと国にいる家族の話をしてくれた。ぼくもニニアンも・・・話を聞くうち、おじさんの奥さんや息子さんが・・・大好きになった。ひらめき・・・よりもかすかにだったけど・・・その息子さんならぼくらを救ってくれる・・・・・・そんな気がした」
そして、ニルスは優しく笑った。
「そして、エリウッド様は僕達を助けてくれた」
「・・・・・・・」
救ってはやれなかった。
それをニルスに言ってしまう程はエリウッドは弱くは無い。
だが、そこで笑い返してあげられる程には強くはなれなかった。
「だから・・・だからね、エリウッドさま!ぼくは、あなたを信じるよ。ニニアンがいなくなってもあなたを守り続けるよ。だって、それがニニアンの願いだった。ぼくら姉弟の願いだった・・・ネルガルを倒そう!それは、エリウッド様しかできないんだ」
「・・・ニルス」
「話はまとまったか?」
突如、声が降ってきた。
皆が見上げると、ハングがちょうどヒースのドラゴンから飛び降りてきたところだった。
「少し見回ってきたんだが、東に妙な遺跡があった。中に人影も見える。放っとくと背後が危うくなるから、叩いとこうと思う。出発しよう・・・ん?どうした?」
いきなり現れたハングに対し、エリウッドは少しためらうように口を開いた。
「ハング・・・」
「ん?」
「ニルスのことなんだが・・・」
そんなエリウッドをハングは制する。
「俺だって色物なんだ。今更、ニルスがどんな存在だったとしても興味ないね。こいつはただの吟遊詩人ってことで俺は構わん」
ハングは笑って、エリウッドの背を叩いた。
「ほれ、しゃきっとしろ!俺達はまだ戦える。必ずなんとかするんだ!」
「ハング」
「まずは目の前の邪魔者を排除する。いくぞ!!」
「それで、勝算は?」
「ないわけないだろ。任せとけ」
歩き出したエリウッドとハングにリンディスが並ぶ。
「頼りにしてるわよ。ハング」
「ああ、やってやるさ」
すぐさまヘクトルも歩調を合わせrた。
「無理はすんじゃねぇぞ」
「ヘクトルにだけは言われたくない」
ニルスは歩き出した彼らを見て、自分の内からもどこからか力が湧きあがるような気がした。