【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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終章~光 ①~

辿り着いた【竜の門】

その遺跡の入り口でハングは立ち止まった。

 

「なんというか・・・懐かしいな」

 

ラウス候ダーレンが率いる部隊とここで戦ったのが遠い昔のようだった。

その戦いも、今は壁の黒い染みを残すのみである。

感傷にふけるハングの肩をエリウッドが叩く。

 

「・・・そして、今一度。僕達はここに立っている・・・あの時はリキア内乱を止める為。今は世界に起こる戦いを止める為に・・・」

「随分とまあ、出世したもんだ」

 

ハングは奥へと続く通路を見やる。

この先にネルガルがいる。

 

ハング達はいつでも前に進める準備があるが、まだ全ての役職がそろってはいなかった。

 

「アトス様を待つべき・・・かな・・・」

 

ハングのつぶやきが聞こえたのか、彼らのすぐ傍に魔法陣が出現した。

 

「わしなら、ここにいる」

「アトス様!」

「おせぇよ、じーさん!!」

 

アトスは既に準備の整ったハング達を見渡す

 

「・・・どうでした?なにか、手段はみつかりましたか?」

 

リンディスの質問にアトスは確かに頷いた。

 

「うむ・・・この魔道書を使うがいい」

「これは・・・?」

 

差し出された分厚い魔道書

魔法の知識が無いエリウッドでも、その魔道書に渦巻く精霊の気配を感じることができた。それと同時に、その魔力の中に別の人間の気配がある。

 

「神将器の一つ【アーリアル】。【聖女】エリミーヌが用いた最高位の光魔法だ」

 

それはエリウッドが手にした【デュランダル】と同じ【神将器】

ここにはあの【八神将】の魂が宿っている。

 

「これならばネルガルの闇の衣をはぎ、かなりのダメージを与えることができるだろう。それから・・・これらにもネルガルに通用するよう更なる術を施しておいた」

 

アトスが杖を一振りすると、さらなる魔法陣が出現した。

その輪の中に武器が現れる。

 

「【デュランダル】は、エリウッドに。ヘクトルには、【アルマーズ】を」

 

それはエリウッド達が一度手放した【神将器】

エリウッドとヘクトルは迷わずにそれらに手を伸ばした。

 

「これは・・・以前、手にした時より・・・はるかに・・・」

「すげぇっ・・・!確かに、これなら・・・!!」

 

敵を討たんとする意志と魂が二つ目の心臓のように拍動し、更なる力をエリウッド達の体へと送り込む。

 

「・・・そして、リンディス・・・これはおまえに」

「この剣は・・・?」

「【マーニ・カティ】と対になる精霊の宿る剣・・・名は【ソール・カティ】。神将器ではないが、力のある剣だ」

「ありがとうございます!」

 

リンが手にすると、【マーニ・カティ】を手にした時のように、武器が光を放ち、そして収束した。

 

「相変わらず、剣に好かれる奴だな」

「嫉妬しないでよ」

「バカ・・・」

 

そしてアトスはニルスへと声をかけた。

 

「ニルスよ、ネルガルはこの奥にいるな?」

「うん・・・すごい力だよ・・・・・・なんだろうすごく、変な感じがする」

「・・・奴は、先の戦いで部下のほとんどを失ったはずだ。じゃが・・・うむ。わずかだが・・・わしにも気が読めるな」

 

アトスは静かに呼吸をして、目を閉じた。

 

「・・・確かに、これまでとは様子が違うようだ。気をひきしめてかかれ。奴は・・・手ごわいぞ!!」

「そんなこと、最初からわかってるっての」

 

ヘクトルがそう言って【アルマーズ】を肩にかついだ。

 

「だな、さっさと片付けて夜食にしよう」

 

ハングが不敵に笑ってみせる。

 

「気軽ね。ま、気負われてるよりはいいけど」

 

リンディスが苦笑しながらそう言った。

 

こんな時でもいつも通りの仲間達を頼もしく思いながら、エリウッドは奥へと続く一歩を踏み出した。

 

「行くぞ、みんな!」

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

【竜の門】の最奥部。彼等がここに来るのも二度目。ハングに至っては三度目だ。

 

「ネルガルっ!!」

 

そして、その中心にいるのはやはりネルガル。

逃げも隠れもしないのは自信の表れであった。

 

「フン・・・来たか。だが、遅い。すでに門は開かれた。私は、竜のより強大な【エーギル】を得る。そしてより強くより完全な存在となろう」

 

これまでも大量の人間を犠牲に【エーギル】を奪ってきたネルガル。

そして次は竜さえも手にかけるつもりでいる。

 

エリウッドが奥歯を噛み締めた。

 

「おまえは、己の力のために何人の命を奪えば気が済むんだ!死んだ者だけではない、残された者の痛みや悲しみをどう考えているんだ!」

 

エリウッドの声が静かな祭壇の中に消えていく。

 

「私は、私だ。他人の痛みなど、私は感じない。他人の悲しみなど、私は感じない。他人の死は、私の喜び私が得る【エーギル】の糧だ。貴様らも、ここで死骸になれ。この私のために」

 

ネルガルが手を横に振る。

そして浮かび上がる、魔法陣。

 

「よみがえるがいい、私のしもべたちよ!」

「また、モルフかよ。芸のない・・・・・・」

 

そう言いかけたハングの言葉は止まる。

現れた【モルフ】達の姿を見て、止められる。

 

「クソッ・・・てめぇ!ふっざけんなぁ!!おめぇはこの世界で最高のクソ野郎だ!!」

 

ハングの悪態が闇に呑まれる。

 

現れたモルフ。その姿は決して忘れることができない姿をしていた。

 

そそのかされ、リキア内乱を起こしたあの侯爵、ダーレン。

あの白い雪の舞う【黒い牙】の本拠で戦った闇に飲まれた男達、ジュルメ、ケネス。

王子暗殺事件の中で戦った、ウルスラ。

【黒い牙】を作りし男とその息子、ブレンダン、ロイド、ライナス。

その心に賛同した男、ウハイ。

 

死んだはずの彼ら。

戦い、殺したはずの奴らがそこにいた。

 

「これは・・・」

 

言葉を失うエリウッド。

 

「私の作品に感銘を受けてくれたようだな。それとも、見覚えのある顔でも見つけたか?」

「ラウス侯・・・!?それに・・・【黒い牙の】の連中・・・何のつもりだ、ネルガル!?」

 

ネルガルは卑しい笑みを浮かべた。

 

「この【モルフ】たちはそそいだ【エーギル】の持ち主と同じ力、容姿を持つよう手を加えたものだ」

 

姿形は同じでも、そこにいるのはただの【モルフ】

 

生き返ったわけでも、死体を動かしてるわけでもない。

 

それは紛うことなき、ただの【モルフ】だ。

 

「わかるか?私には力があるのだ、これだけの奇跡を行う力がな」

 

それが奇跡だなんて、言ってのけるネルガルにハングは心の底から嫌悪した。

同じ【モルフ】のハングだからこそ、その感情は人並みではない。

 

「おお、そうだヘクトルよ」

 

そして、ネルガルは何かを思い出したようにヘクトルを指差した。

 

「お前の兄、オスティア侯ウーゼルは死んだそうだな?」

 

エリウッドの眼が険しくなる。

リンディスが驚いたように息を飲んだ。

ハングはただ唇を噛みしめた。

 

「お前が望むのなら、兄の【モルフ】を創ってやってもいいぞ?お前のような心の脆い人間にはちょうど良かろう。心をもたぬ人形を相手にせいぜい傷をなめ合って・・・」

「黙れ」

 

ヘクトルが静かにそう言った。

その中には憎しみも、怒りも含まれてはいない。

彼は十分冷静だった。

 

「心のねぇ人形だ?それはてめーのことだろうが」

「・・・何?」

「力を手に入れること、自分のことしか考えられねえ・・・人の痛みも、苦しみも感じることができねえ・・・人形は、てめえ自身だ!ネルガル!」

 

そして、ヘクトルは口の端で笑った。

 

「お前が『人形』と呼んだ【モルフ】のハングの方がよっぽど人間らしいぜ!」

「フン・・・おまえたちのような弱き者には理解できんだろうさ。この世でもっとも意味のないものそれが善悪という“感情”であるとな・・・そんなものに縛られるから人は己の力を解放できずにいる愚かな・・・まったくもって愚かなり、人間どもよ」

 

その言葉を受け、ハングが一歩前に出る。

 

「ご高説どうも。善悪が“感情”かどうかは別だと思うが、今はどうでもいいな」

「・・・・・・・・」

「おいおい、無視かよ。俺の話も聴いたらどうだ?殺したと思ってたはずの俺がここにいるんだぞ?」

 

ハングの挑発にネルガルは応じる姿勢を見せなかった。

 

ネルガルにとって【モルフ】は興味のない存在だ。

それが失敗作であるならなおのこと。

生きていても、死んでいてもたいして違いはない。

 

ハングは語る意味はなしと結論付けてアトスに視線を向けた。

アトスはその目線を受けてネルガルに向けて語りかけた。

 

「ネルガルよ、あれからの長き年月・・・おまえの考えが改まることはなかったようじゃな」

「・・・アトス。おまえこそ、なぜ認めんのだ!生物は他の力を取り込んでより優れたものへと進化を繰り返す。我らは、竜の知識によって最高の進化への道を見出した。なのに、なぜ受け入れん!なぜ拒み続けるのだ!!」

「力を求めるのには反対せん。じゃが・・・他のものの命、それを奪ってまで手に入れる方法を許すわけにはいかん」

 

その台詞。気の利いた洒落でも聞いたかのように笑いだした。

 

「くくく・・・覚えている。覚えているぞ!おまえは、あの時もそう言ってこの私に手をかけた。神竜どもと結託しこの私を葬ろうとしたんだ!!」

 

そして、ネルガルは頭にかぶっていたターバンを振りほどいた。

 

「この傷を見ろ!」

 

その下から現れたのは、焼けただれ、無様に盛り上がった皮膚だった。

 

「おまえの魔法をまともに受けてできたこの傷を!誤算だったよ。唯一の理解者だと・・・友だと信じていたおまえが私を・・・滅ぼそうとするなどと。くくくく・・・おかげで確信できたがな。信頼などするから裏切られる・・・己の崇高なる目的の前に仲間の手など、必要ないのだと・・・!!」

「どうしようもないな」

 

それがハングの感想。エリウッド達もその意見に賛成だった。

 

「救いようのねえ馬鹿だな、てめえは!」

 

ヘクトルが吠える。

 

「友を手にかける時・・・アトス様が、何も感じなかったはずないんだ!どうしてそれがわからない!!」

 

エリウッドが声高に叫ぶ。

 

ヘクトルやエリウッドが何を言っても通じはしないであろうことはわかっていた。だが、言わずにはいられなかった。

エリウッドが【デュランダル】を構えた。

 

「ネルガル!僕は、おまえをここで倒す!!だけど・・・今僕の中にあるのは憎しみの感情ではない・・・人として生まれながら、人としての心を失ってしまったおまえに対しての『あわれみ』の感情だ」

「・・・『あわれみ』だと?くくく、おもしろいことを言う。貴様ごとき弱者が、この私に『あわれみ』を感じているのというのか?おもしろい・・・では、そのお手並みを拝見しよう。もしも・・・この【モルフ】どもすべてを倒すことができたらな!」

「やってやるさ!」

 

剣を抜き、斧を構え、全身の筋肉を脈動させる。

 

戦闘準備は整った。

 

そして、最終決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

こいつは一体、何の冗談だ?

 

それが、ラガルトの感想だった。

 

一度は戦い、そして決別した相手だった。

なのになぜ、またこんなことをしなければならない。

趣味が悪いったらありゃしない。

 

「・・・へっ 化け物になっても結構男前だぜ?ロイド。だけどな・・・こんなことは許しておけねぇんだよっ!!」

 

ラガルトは本来感情を表に出す人間ではない。

だが、これは例外だった。

 

短刀でロイドと渡りあうラガルト。

 

無表情のロイドを前に、感情が先走りそうになる。

それらを無理に奥底に沈めて、冷静にロイドの剣筋を見切る。

ロイドの剣戟を捌ききっていたラガルトであったが、先に短刀の寿命がつきた。

 

「だあぁぁ!くっそ!!」

 

根元から折れた短刀を投げつけ、ロイドの剣戟をかわす。

 

予備の短刀はあるが、取り出すためのわずかな暇さえロイドの連撃が許さない。

ロイドの攻勢にラガルトは体の数か所に傷を増やす羽目になった。

 

その二人に横合いから待ったがかかった。

 

イサドラとハーケンというフェレ騎士二人だった。

 

「させません!」

「あなたを一人では戦わせません!」

「ありゃ、これはなかなか頼もしい」

 

ラガルトは短刀とついでに鋼線も取り出した。

 

「久々の鉄火場だ。それに、ここは引けないんでね。奥の手も使わせてもらうよ」

 

この暗闇では視認できるかできないかの細さ。

これは、言わば見えない剣。

 

「ロイド、今楽にしてやるからな」

 

暗殺者を暗殺する【疾風】ラガルト。

その本気の力がこの暗闇の中で発揮されようとしていた。

 

そして、ラガルトがロイドと相対している近くで、その弟であるライナスを象った【モルフ】の斧が振り下ろされていた。

 

「くっ!」

 

斧の一撃を二本の剣で強引に受けたジャファル。

それでも殺しきれない威力の一撃にジャファルはたまらず後退する。

 

「ちっ・・・」

 

ライナスの斧で削られた剣が既に使い物にならなくなっている。

ジャファルは新たな剣を懐から引き抜き、背後にいるニノを庇っていた

 

「ライナス兄ちゃん・・・こんなことって・・・」

「・・・・下がってろ」

「ジャファル・・・でも・・・」

「・・・・・・・・これは・・・ダメだ」

 

普段は常闇のように動かぬジャファルの瞳が揺れていた。

それは憤怒の炎を目の奥に灯しているようにも見えたが、それは潤みだした瞳の揺らめきであった。

 

ジャファルはこれまでにない程に奥歯を噛み締める。

 

ジャファルにとってロイドやライナスは一種の『憧れ』だったのだ。

 

彼等は自分と同じ【四牙】と称された暗殺者。

だが、二人は陽だまりの中にいる存在だった。

 

酒を飲んで歌い、飯を食いながら笑う。

ニノや他の【黒い牙】の連中と楽しげに過ごす彼等は自分とはあまりにもかけ離れた存在だった。

 

自分と彼等で何が違うのか?

 

それを一度も考えなかったかと言えば嘘になる。

 

ジャファルにとって彼等は遠くに見えるが、自分の手では決して届かない場所にいる存在だった。

 

「・・・・・・・・」

 

そのライナスが今や顔色一つ変えず、ただ人を襲うだけの殺戮者になっている。

ジャファルは深く息を吸いこみ、息を吐く。肺の中の空気を七割程吐き出して、息を止め、姿勢を落とした。

 

「・・・・・こんなのは・・・許されるわけがない!」

 

ジャファルはこれまで生きてきた中で最も大きい声を放ち、ライナスへと立ち向かっていった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

方々で戦いが始まっていた。

だが、相手取っている【モルフ】は皆一騎当千の猛者達だ。一人に対し三人以上で戦っているものの、なかなかとどめを刺しきれない。

 

ネルガルが自信を持ってこの場に投入してきただけのことはある【モルフ】達だった。

だ今回、こちらは珍しく人数で有利だった。

悪趣味な【モルフ】共を味方が相手取りつつも、壁際に押し込んでいく。

 

そして遂に中央に一本の道ができた。

 

「ヘクトル!突っ込む!!ついてこい!!」

 

その隙をつき、ハングが腕を地面に突き立てる。

今までに何度も駆使してきた左腕で地面を強引に掴み、自分の身体を筋力で飛ばす荒業だ。

ハングはその勢いに任せ、ネルガルのもとへと飛び込んだ。

 

「バカの一つ覚えだな」

 

ハングは左腕を叩き込むも、例のごとく障壁に阻まれた。

だが、その表情は今までとはまるで違う。

 

ハングは清々しい程に不敵な笑みを浮かべて、ネルガルを見下ろした。

 

「だろうな。一人ならな!」

 

次の瞬間、ヘクトルがハングを踏み台にして飛びあがった。

向かう先は障壁のはるか上。

 

ヘクトルは大上段に【アルマーズ】を振り上げる。

 

ハングは素早く後退。そこにヘクトルの全体重の乗った一撃が振り下ろされた。

 

「おらぁぁぁぁぁああああぁぁ!」

 

ヘクトルと【アルマーズ】による一撃が、ついに障壁を破壊した。

窓ガラスが割れるような甲高い音がして、ネルガルの表情がわずかに歪む。

 

ネルガルは障壁を破って落ちてくるヘクトルへと魔法の狙いを定めた。

 

「ぬるい!」

「そうかな!?」

 

落ちてくるヘクトルを迎撃しようと、上を見上げたネルガルの眼が強い光にくらんだ。

ヘクトルの更に上から何かが降ってくる。

 

「ネルガル・・・貴様を止めるのがわしの役目じゃ」

「アトスか!!」

 

それは【アーリアル】の光。

障壁は間に合わない。

 

ヘクトルは空中で強引に【アルマーズ】を振り切り、重心をずらして体勢を変え、【アーリアル】の射線から逃れる。

直後【アーリアル】の日輪を思わせる程の熱量がネルガルへと降り注いだ。

 

「エリウッド!今だ!!」

「わかってるさ!」

 

ハングの指示が飛ぶのとほぼ同時にエリウッドが大剣【デュランダル】と共にネルガルへと切りかかる。

【アーリアル】により闇の守護がはがれたネルガルにエリウッドの剣先が迫った。

 

ネルガルはボロボロの体で身を引く。

【デュランダル】の切っ先が確かにネルガルの皮膚を切り裂いた。

 

手応えはあった。

 

だが、【デュランダル】に血痕は付いていない。

ネルガルの傷からは血の一滴も流れ落ちてはこなかった。

 

「人間の血は赤いんだ。ハングでさえね。お前はもう・・・」

「人間ではない!私は人間を超越したのだ!!」

「そんなのは・・・ただの幻想だ!!」

 

エリウッドが【デュランダル】を構える。

ネルガルが放つ闇魔法を躱し、弾き返し、両断する。

 

六発目の闇魔法をエリウッドが躱した瞬間、エリウッドの傍を駆け抜けて最速の剣がネルガルへと迫った。

 

リンディスの新たな剣。

 

【ソール・カティ】

 

反りがきつい、直刃の業物。

 

リンディスはエリウッドの刻みつけた傷跡に被せるように、逆袈裟の一撃を叩き込む。

 

「くっ・・・」

 

リンディスとエリウッドが追撃を仕掛けようとするが、ネルガルはまたもや障壁を築き上げ二人の接近を阻む。

だが、その障壁を目視した瞬間にはハングが既に行動を開始していた。

 

「ヘクトル!腹に力入れろ!!」

「おい、ちょっと待て!お前何する気・・・」

「問答無用!!」

「だぁあああああ!!」

 

ハングは言葉を挟む暇を与えずヘクトルをネルガルめがけて文字通り放り投げた。

 

「くっそぉぉおおお!」

 

投げられたヘクトル。もうここまで来れば取れる選択肢は攻勢のみ。

ヘクトルは勢いのまま、振りかぶった【アルマーズ】を叩きつけた。

 

その一発が張ったばかりの闇の境界をぶち抜いた。

 

「ハング!てめぇ無茶苦茶すんじゃねぇ!」

「生きてるんだから、別にいいだろ!」

「後でおぼえてろよぉおお!!」

 

目の前のネルガルは満身創痍。

 

それでも闇魔法を放とうとしてくる。そこにハングが滑り込み、魔法陣を強引にかき乱した。

闇魔法の術式を乱して、あらぬ方向へと攻撃を飛ばす。

 

「くっ・・・貴様らぁ!」

「御託を述べるか?それもいいぜ、言い訳ぐらいは聞いてもいいぞ!」

「黙れ!人形風情が!!」

 

【人形】

 

その言葉を受け、ハングは不敵に笑って一歩前に出た。

 

「黙らないぜ、わかってんだろ。親父と言えばいいか?それともパパ?死にかけてるお前を助けた方がいいのかね?」

「うるさい!!」

 

ハングの真下に出現した魔法陣をハングは左腕を使ってかき消す。

次いで出現した黒い空間を危なげなくかわす。

 

「貴様・・・」

「耄碌したらしいなクソじじぃ。俺はお前を殺すためだけに今までの人生を費やした。闇魔法は俺には通じないぞ」

「人形が!人形が!人形が!下等な存在が私をそんな目で見るな!!」

 

ハングは面白い洒落を聞いたかのように笑った。

 

「笑わせるな。俺はお前から生まれた・・・いわばお前の分身だよ。お前は俺と同じで、下等で下品な世界のはみ出しもんだ・・・違うことと言えば・・・」

 

ハングは後ろを振り返る。

 

そこには、いつもと変わらない親友が、悪友が、恋人がそこにいた。

 

「仲間がいることぐらいだ・・・」

「くだらん!!」

「そう言うのもお前の勝手だ。でも、現実を見ろ。お前は俺を殺しそこね、そしてそんな俺達に殺されかけてる・・・永遠の命を手に入れたにも関わらずな・・・」

「なぜだ!なぜだぁぁぁ!?」

「それが理解できないから・・・」

 

ハングは左腕を地面に突き立てた。

それに合わせて、後ろの仲間達が動き出した。

 

「お前はここで・・・死ぬんだよ!」

 

ハングが飛び、エリウッド達が切りかかった。

 

【デュランダル】がネルガルの腹を貫く。

【アルマーズ】が肩から腕を切り落とした。

【ソウル・カティ】が喉に傷をつくる。

 

「あぁっ・・・・・・」

「死ねよ・・・親父・・・」

 

ハングの腕がネルガルの胸を貫いた。

 

「今度は・・・届いたな・・・」

 

産まれ落ちてから憎しみ続けた相手。

 

生みの親である相手に致命傷を負わせたハングの心は自分でも予想していた以上に凪いでいた。

 

ここには憎しみも怒りも達成感もない。

 

ただ、大事な出来事が一つの終わりを迎えたような安堵が吐息と共に吐き出された。

 

ハングは倒れて来るネルガルの身体に右手をかける。

 

「なぜだ?なぜ私が敗れる・・・?」

「まだわからねぇのかよ」

「もっと力を・・・もっと強くならねば・・・私は・・・私は・・・」

「なんだよ・・・力って・・・」

「私は・・・何のために・・・力が欲しかったのだ・・・?」

 

その言葉にハングの動きが一瞬止まる。

 

『闇を覗く者は己が闇へと変わることを心せねばならない。なぜなら、お前が闇を見つめる時、闇もまたお前を見つめ返すからだ』

『大して資質を持たない者が強大な力を持とうとして自我を無くしてしまう』

『資質を持っていたとしても、そもそもなぜ力を求めていたのか、それすら忘れちまうこともしばしばだ』

 

いつぞやの会話を思い出す。

 

それを聞いたのはいつだった?どこだった?

 

『魔の島』にあった人の住んでいた気配のある家。

竜と人が手を取り合った絵。

そして、それを見つめるニニアン。

 

その瞬間、ハングの頭の中に光がともった。

いくつもの水路がつながったかのような感覚。

 

ハングはハッとして、ネルガルの顔を見下ろした。

 

今回だけは自分の頭を与えてくれたネルガルを恨んだ。

 

このことは知りたくなかった。

 

ハングは歯を食いしばり、左腕を引き抜いた。

重力に従うように、ネルガルの体が倒れていく。

 

地面に倒れたネルガルが何かを呟く。

 

「ぐっ・・・このまま・・・このままでは・・・死なんぞ・・・・我が最後の力・・・絶望に・・・震えるがいい・・・・フハハ・・・・・・ハ・・・ハハハ・・・・・・」

「・・・くそ野郎・・・」

 

ハングの悪態はネルガルの死に際の笑い声に被さって誰にも届かない。

 

「・・・お前は・・・お前は・・・・本当に・・・人だったのか・・・」

 

ハングは静かにそう呟くしかできなかった。

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