【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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終章~光 ②~

災悪をまき散らす者が倒れた。

世界は救われたのだ。

 

ネルガルが倒れると同時に周囲で戦っていたあの【モルフ】達も塵となって消えていった。

 

戦いは終わったのだ。

 

皆が一息つくなか、ニルスにエリウッド達が近寄って行った。

ニルスは涙を流していた。

 

「・・・ニルス?どうしたの?」

「・・・わ・・・からない・・・どうし・・・てだろ・・・涙・・・が・・・・・・」

 

ぽろぽろと両方の眼から落ちる涙。

ニルスの意図とは別に流れるそれをヘクトルは乱暴にぬぐってやった。

 

「無理もねーか、ずっと張りつめてたもんな」

「・・・気がゆるんだんだろうよく、がんばったね」

「大丈夫よ、これで世界はすくわれたの。ニニアンも、きっと喜んでくれる」

 

その様子を眺めていたハング。

 

ニルスが泣いている理由をハングは悟ってしまっていた。

 

ネルガルがどうしてここまで『力』に固執していたのか。

どうして頑なに【竜の門】を開き、【竜】を呼ぶことに執着していたのか。

 

どうしてニニアンとニルスへと声をかけたのか。

 

その他の様々な要素を全て線で繋げてしまったハング。

だが、このことは自分一人の胸に留めることにしていた。

 

ハングはニルスから目を逸らし、倒れたネルガルの体を眺めた。

 

黒いローブに包まれたその身体は彼が【人間】であることを示すかのようにその場に残っていた。

ハングは自分の耳に触れる。手に付いた塵を擦り、ハングは目をつぶった。

 

その時だった。

 

神殿の中が大きく揺れた。

 

「な、なんだ!?」

「いったい・・・何が起きたの?」

「まさか・・・!」

 

再び振動。この揺れには覚えがあった。

それは前回の【竜の門】での出来事にも経験した揺れ。

 

ハング達の目線は【竜の門】へと向けられた。

 

そして、彼等の予想がは最悪の形で的中することとなった。

 

「なっ!?【門】が開いてる!!」

「あ・・・あれは・・・竜・・・!?」

「そんな・・・どうして・・・」

 

そこでは【門】が既に開き、灼熱の炎を纏いし赤き【竜】が今にも顕現しようとしていた。

 

「くそったれ!ネルガルが言った最期の言葉はこのことだったのか!」

 

ハングが悪態をつく。

 

そして彼らの目の前で【竜の門】を越えて【竜】が現れる。

 

その数、3匹。

 

「なんということだ!竜がこちらの世界に入りこめば・・・この大陸を灰に変えるまで一月とかからぬぞ!!」

 

アトスのせっぱつまった声が焦燥感を駆り立てる。

そして、真っ先にエリウッドが前に出て【デュランダル】を構えた。

 

「・・・これが・・・竜か・・・なんとしても止める!止めてみせる!!」

 

その隣にすぐさまヘクトルが並んだ。

 

「ちっ・・・とんでもねえバケモノだな。こうして立ってるだけで足が震えてきやがる・・・」

 

男二人に負けずとリンディスも一歩を踏み出す。

 

「三体もいるなんて・・・正直、神さまにでもすがりたい気分ね・・・」

 

そして、ハングが不敵な笑みを浮かべることもできずに強引に冗談を吐き捨てた。

 

「でも・・・俺の腕には似ても似つかないな・・・あの占い師め・・・でまかせ言いやがった」

 

ハングは他の連中を後ろにさげさせた。

 

「だが、ハング殿!!」

「足手まといだ!!力ある武器じゃねぇとこいつの前には立てない!!お前達は背後を護ってくれ!【モルフ】の残党が残ってる!」

 

そう言って、仲間を後ろに追いやるハング。

これで竜の脅威にさらされているのはアトスを含めた五人だけ。

 

「まず、わしが行こう。竜達の動きを止める・・・そこを討つのだ!!」

「アトス様!!来ます!!」

 

竜の咢が開れる。

刃よりも鋭く並ぶ歯が見えたのはほんの一瞬だった。次の刹那、その内側から紅蓮の炎が噴き出した。

炎はまっすぐにアトスへと迫り、彼の姿を飲み込んでいった。

 

「アトス様!!」

「じーさん!!」

 

気温差で風が巻き起こり、熱風が嵐となって遺跡内を吹き荒れた。

 

ハング達は炎の熱に煽られ、近づくことさえできない。

 

「おいおい・・・一発の炎でこれかよ・・・」

 

吹き荒れる炎がやんだ時、その内側から小さな障壁に囲まれたアトスが現れた。

 

「ぐ・・・なんという力だ。動きを止めるどころか・・・」

 

アトスが力を絞って作り上げた障壁だというのに、既に崩壊する寸前だった。

アトスの力をもってしても、一撃を防ぐだけで精一杯だった。

 

「アトス様、逃げてください!竜が近づいてきますっ!!」

 

三匹の竜が一歩前に出る。

それだけで、地面が揺れ、大気が震える。

 

存在そのものが世界が怯えさせている。

 

これが【竜】

 

だが、アトスは下がらなかった。

 

「・・・・・・ここで踏みとどまらねば・・・勝機は・・・ない」

 

【竜】の脅威を知るアトスはここが、正念場だということを悟っていた。

 

既にここに【神将器】が四つもそろっている。

 

ここで討てなければ、次はない。

 

その為なら、この身を犠牲にすることぐらい厭わなかった。

 

その時だった。

 

この空間に、またしても転移魔法の陣が現れた。

 

「このクソ忙しいときに誰だ!?」

「・・・私だよ」

 

エリウッドの声がして、転移魔法の中からフードを目深に被った存在が現れた。

 

「ブラミモンド様!?」

「準備に少し手間取った・・・」

 

フードの下の闇の中からエリウッドの声を写したブラミモンドがアトスの横に並んだ。

 

「アトス・・・【アーリアル】と【フォルブレイズ】を・・・」

「うむ・・・」

「よし、みなの力を借りるときだ・・・ここに集え・・・神将の力・・・!」

 

ブラミモンドが杖を床に突き立てる。

そこを中心とした新たな魔法陣が出現した。

 

「・・・この陣・・・まさか・・・」

 

その陣の内容にハングは真っ先に気が付いた。

それは闇魔法が古代魔法と呼ばれていた時代の遺物。

 

物理的世界と精神的世界との境界を繋ぐことを前提とした魔法陣。

 

永久機関や錬金術と同じ、理論から否定され、不可能だと言われた術式のはずだった。

 

「・・・成功・・・するのか?」

 

ハングの呟きが聞こえたのか、ブラミモンドが振り返る。

 

その時、確かにハングにはブラミモンドがフードの下で笑ったように見えたのだった。

 

次の瞬間、魔法陣が光を放ちだす。

そして、それに呼応するようにエリウッドの【デュランダル】とヘクトルの【アルマーズ】が光を放った。

 

「この光は・・・?」

「うわっ!なんだよ!いったい!!」

 

そして、輝く光が球体を作り、【神将器】から離れて飛んでいく。

集う先は魔法陣の中心。

 

「見て!あれ・・・・・・!!」

 

リンディスが指差した先。

 

光が何かを形作っていた。

 

人の形のようにも、竜の形のようにも見える物。

 

その時、【竜】が動いた。

再び咢が開かれ、炎が吹き出る。

 

打ち出された炎の塊。

 

「させん!!」

 

それをアトスが迎え撃った。

 

「くっ・・・」

 

そのアトスの背後に魔法を使える人達が集まった。

 

「お手伝いします!!」

「アトス様、これでも少しは足しにはなります!」

「・・・すまん・・・助かる!!」

 

エルクとカナスが障壁をもう一列展開して、強引にアトスを支える。

それを見てハングは苦笑いを隠せなかった。

 

「下がれって言ったのによ・・・」

 

そして、ハング達のすぐ後ろにはパントが高位の魔法を展開して巨大な氷塊を作り出していた。

 

「背後の【モルフ】は私達が引き受けます!」

「ありがたいのう」

 

アトスの声でブラミモンドがそう言い、懐から橙色に輝く石を取り出した。

それは、ニニアンの【竜石】

ネルガルの懐から奪ってきたそれを、ブラミモンドは光の中心へと放り投げた。

 

「この娘・・・竜の娘に宿りて・・・魂の復活を・・・」

 

その言葉でハングはブラミモンドが誰を呼び出したのかを知り、笑った。

【竜】に囲まれ、世界の命運がこの瞬間にかかっているというのにハングは笑わずにはいられなかった。

 

「・・・さすが・・・【八神将】が一人・・・」

 

まさか、こんなところで死者蘇生が見られるとは思わなかった。

 

魔法陣の中心の光が徐々に正確な輪郭を紡ぎだし、光の中から一人の人物が浮き上がる。

雪のように白い肌、流れるような薄い蒼の髪、薄幸を称えたような顔立ち。

 

最早、それが誰であるかなど問うまでもなかった。

 

「ニニアン!!」

 

エリウッドの声がした。

それは間違いなくエリウッド本人の声であった。

 

「ここは・・・わたしは・・・・・・?」

 

ゆっくりと周囲を見渡す、ニニアン。

ハングは駆け寄ろうとするエリウッドを抑え込んだ。

 

「落ち着け!バカ!」

「だが!だけど!!」

「【神将器】を持ってるお前が無暗に動くんじゃねぇ!」

 

光が全て消え去るのを待ち、ブラミモンドはゆっくりとニニアンに近づいた。

 

「尊き竜の血を持てる娘よ。その力で、あれらを静めるがよい」

 

指差す方向はアトス達が侵入を防いでいるあの【竜】達。

 

「・・・あ・・・無理・・・です。わたしの力は・・・ここでは・・・・・・」

「・・・力が戻っているのを感じとれぬか?」

「・・・え・・・?」

 

ニニアンは自分の内に意識の手を伸ばす。

程なくして彼女は自分の中心へと辿り着いた。

 

そこにはこの世界にきて失われたはずの力が強い熱を放っていた

 

「・・・・・・あ・・・はい・・・・・・やってみます」

 

ニニアンが一歩前に進んだ。

 

「・・・・・・・」

 

ニニアンが手をかざす。

次の瞬間、この世界で最も冷たい空気が塊となって遺跡の中を走り抜けた。

 

それは紛れもない【竜】の力。

それも、神殿を守護してきた巫女の力だ。

いかに【竜】といえど、ひとたまりもなかった。

 

「・・・もういいの」

 

二匹の【竜】が霜を全身に張り付けて動きを止め、崩れ落ち、膝をつき、瞼が落ちた。

 

「ごめんね・・・あなたたちが悪いわけではないのに・・・・・・・・・ごめんなさい」

 

祈るニニアン。

 

その祈りを遮るように残る一匹の【竜】が吠えた

 

その【竜】もニニアンの一撃で動きが鈍っている。

だが、瀕死の重傷を負ったはずだというのにその咆哮はいまだ圧倒的な存在感を示していた。

 

私はまだ戦える。

 

そう言っているかのような【竜】を前にニニアンが崩れ落ちた。

 

「もう・・・これ以上は・・・・・・」

「ニニアン!!」

 

彼女に駆け寄るエリウッドとニルス。

 

ニルスは彼女の体の調子を確かめ、安堵の息を吐いた。

 

「だいじょうぶ、気を失っただけだよ・・・よかった・・・ニニアン・・・・・」

 

姉の蘇生。ニルスの眼から涙が溢れかえった。

だが、泣いている余裕はない。

 

「竜はまだ一体残ってるぞ!」

 

そう言ったのはヘクトルの声。本人ではなく、ブラミモンドのものだった。

 

「この娘のことは俺に任せておけ」

 

そう言い残してブラミモンドはニニアンと共に転移した。

 

ハングは今だ目の前の突拍子もない出来事の連発を整理できていはいなかった。

だが、やることは決まっているなら、動き出すことは容易い。

 

「エリウッド!まだ、終わってないらしい」

「ああ・・・神に感謝するのはまた後だ」

 

ハングが自分の左拳を右の手に叩きつける。

 

「・・・さぁ・・・これが最終幕だ!!この【竜】を倒す!!気合入れろ!!」

 

仲間達の腹の底から響く返事を見に受け、ハングは不敵に笑ってみせた。

そのハングの前にエリウッド達が武器を構える。

 

【竜】が再び吠える。

 

先頭に立つのはエリウッド。

 

既に【デュランダル】に体を勝手に動かされるような感覚は無い。

今、ここに立っているのはエリウッド本人の意志であった。

 

咢が開かれ、炎が飛ぶ。

 

その炎をエリウッドは【デュランダル】の裏に隠れることでやりすごした。

炎に煽られつつもエリウッドはその場から動かない。

巨大な【デュランダル】の守り。炎を受けたにも関わらず、【デュランダル】に損傷はなかった。

 

エリウッドは炎を振り払い、竜の足元へと切り込んだ。

 

エリウッドは【竜】の前腕へと【デュランダル】を突き刺す。

 

「うおぉぉぉぉおおおお!」

 

そして、エリウッドは鱗を足場に駆け上がる。

切り裂いた腕から血しぶきが吹きあがる。生暖かい返り血をその身に受けつつ、エリウッドはその足を根元から切り落とした。

 

 

「ギャアアアアアアアアア」

 

悲鳴をあげた竜。

 

そこにヘクトルが畳み掛ける。

 

「ヘクトル!持ち上げてやる!来い!!」

 

腰を落としたハングの左腕にヘクトルが足をかけた。

 

「行ってこい!!」

「ああ!!」

 

打ち上げるようにしてヘクトルを投げ上げたハング。

 

「【アルマーズ】!!もう一度力を貸せぇ!!」

 

【アルマーズ】がそれに応える。稲光が斧の周りを走り抜けた。

 

竜の頭上に飛びあがったヘクトル。

雷を帯びた巨斧をヘクトルは振りかぶった。

 

その時、竜の眼が頭上のヘクトルを捕えた。

 

空中では回避は不可能。顔が引きつるヘクトル。

 

その時、【竜】の足元で声があがった。

 

「つっこめぇぇぇ!!」

 

下から聞こえた声にヘクトルはにやりと笑った。

 

「はしたねぇぞ!」

 

既に竜の腹の下まで踏み込んでいたのはリンディスだった。

その加速の力を足の一点で止め、【ソール・カティ】の柄に手をかけた。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

走り込んだ加速力と全身の筋肉の駆動を抜刀の一瞬に収束する。

 

一瞬にして三発の連撃が放たれる。

それが口を開きかけた竜の喉元を切りつけた。

 

「グォォォオオ・・・」

「おらぁぁぁぁぁあ!」

 

その直後、ヘクトルの攻撃が脳天を叩き割った。

鱗、頭蓋、その内側までをも破壊した感触が斧を通じてヘクトルの手に届いた。

 

そのまま落下するヘクトル。

 

「やったか・・・」

 

そう言って頭上を見上げたヘクトルと竜の眼が合った。

その眼はまだ死んでいなかった。

 

「やべ・・・・」

 

着地し、後退しようとするヘクトルに向け首が動き、顎が開かれる。

喉の奥から放たれようとする炎をヘクトルが避ける術はない。

 

「そうはさせないわ!!」

 

腹の下から駆け出したリンディスは再び抜刀。

まだ残る足を切りつけた。

竜は態勢を崩し、放たれた火炎はヘクトルをわずかにそれる。

 

炎が遺跡の中をを駆け抜けた。

 

「助かったぜ・・・・・って、あのバカ!!」

「・・・・・・くっ・・・」

 

そのリンディスが竜の右足の付近でたたらを踏んでいた。

さっきの炎に煽られて、動けないのだ

 

動きが鈍った者へと【竜】の目が向く。竜はその右足を振り上げ、リンディスめがけて振り下ろした。

 

「っ・・・・・・・」

 

息を飲むリンディス。

防御は無理、回避はできない。

迫りくる竜の腕。

 

リンディスは反応ができなかった。

 

「おらぁあああああああ!!」

 

そのリンディスの前に滑り込むハング。

ハングは足を踏み込み、その左腕を叩き込んだ。

 

「ぁあああああぁあぁあああ!!」

 

方や本物の竜、片や偽物の腕。

 

勝敗どころか勝負にすらならなかった。

ハングの鱗が飛び、腕の内から嫌な音がした。

左腕の骨が折れ、指が砕ける。

肉が裂ける音と共に、骨が前腕から飛び出した。

 

それでも、ハングは【竜】の足からリンディスを守り切った。

 

「ハング!!」

「気にするな!!」

 

ハングの腕に防がれた足が再び振り上げられる。

ハングと竜の眼が合い、足が再び振り下ろされた。

 

だが、一瞬でも時を稼げればそれでよかったのだ。

 

ハングは腹の奥から友の名を呼んだ。

 

「エリウッドォォォ!!!」

「待っていたよ!!」

 

エリウッドがその無防備な顔面の前に飛びあがった。

 

「これで・・・最後だぁぁぁぁぁぁああああ!!」

 

【デュランダル】の一撃が【アルマーズ】の作った傷跡へと叩き込まれる。

肉を裂き、骨を断ち、全てを切り裂く一閃の光。

 

「ギャァァアアアアァァァアッァアアアア」

 

竜の断末魔があがる。

 

悲しき音を響かせ、竜はついに崩れ落ちた。

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