【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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終章~光 ③~

「終わった・・・終わったんだ・・・」

 

エリウッドの手元の【デュランダル】の切っ先が石の床に当たる。

竜の血がしたたり落ち、そして乾いていく。

見上げたエリウッドと力なく瞼を閉じていく竜と目があった。

 

「・・・すまない・・・」

 

その言葉を聞き、竜は微かに笑ったようだった。

 

「やったな、エリウッド!」

「エリウッドさま!」

「ヘクトル・・・ニルス・・・」

 

エリウッドに駆け寄る二人。

 

「よくやった、ローランの意思を継ぐ勇者よ。ようやく終わった」

 

アトスのお墨付きを頂き、エリウッドとヘクトルは高い位置で手を叩き合わせた。

 

この長きに渡る戦いがようやく終わったのだ。

 

エリウッドはニルスやヘクトルと喜びを分かち合いつつ、この戦いの功労者の姿を探した。

 

「ハング!これも君のおかげ・・・あれ、ハング?」

「ん?ハング!?あいつ、どこいった?」

「ハングさ~~ん・・・」

 

彼等がいくら呼ぶも返事は無い。

エリウッド達は顔を見合わせた。

 

その背後にブラミモンドが転移してきた。

 

「アトス・・・」

「うむ・・・わかっておる・・・」

「アトス様・・・一体?」

 

その時だった。

 

「アトス様!!アトス様!!ハングが・・・ハングが!!!」

 

竜の遺体の傍から、リンディスに肩を支えられてハングが歩いてきた。

 

「アトス様!ハングが・・・ハングが・・・」

 

泣きだす直前のようなリンディスと疲れたように笑うハング。

 

「ハング・・・まさか・・・君は・・・」

「お前・・・」

 

そのハングの左腕は皮一枚で二の腕にぶらさがっている。

それは先の竜との戦いの際の怪我。

 

だが、問題はそれではなかった。

 

問題はそんなことではなかった。

 

ハングの頬には乾いた泥人形のようなヒビが走っていた。

 

「ネルガルが死んだ・・・俺だって【モルフ】なんだ・・・俺も消えるんだよ」

 

ハングの皮膚は所々がひび割れ、指は既に一本なくなっていた。

彼の体は崩れはじめていた。

 

「お前・・・こうなること知ってたのか!!」

「どうして言わなかったんだ!」

 

ハングに詰め寄る二人。

 

「言ったら・・・どうにかなってたのかよ・・・」

 

ハングはそう言って力無く笑う。

 

「言ってどうなった・・・ネルガルは殺さなきゃならなかったんだ・・・だから・・・これでいいんだ」

 

そう言ってる間にも指がまた一本落下し、砕け散った。

落ちた指は塵へと変わり、風に吹かれて消えていく。

 

ハングはそれを見下ろし、歯を食いしばるようにして喉の奥で笑う。

自分が【モルフ】である明確な証拠を目の前にして、笑うしかなかった。

 

エリウッドは首を横に振る。

 

こんなことは認められなかった。

諦めきれるわけがなかった。

 

それはヘクトルや他の仲間も同じ気持ちだった。

 

エリウッドは唯一の希望がそこにあるかのようにアトスを振り返った。

 

「アトス様なんとかならないんですか!!」

「ハングがいなけりゃ・・・俺らここまで来れなかった。なのに・・・こんなことって!!」

「アトス様!」

「アトス様!!」

 

肩を支えられたハングは皆の言葉を嬉しそうに聞いていた。

 

こんなことを言ってくれる友人が俺にはいるんだと実感していた。

 

「はは・・・やっぱ俺は【モルフ】で一番幸せ者だな」

「ハング・・・」

 

そんなハングの隣でリンディスがこらえきれずに涙を流していた。

その涙を拭ってやれる指はもう残っていなかった。

 

ハングは自嘲するように笑う。

自分が【モルフ】だと知ってなお、胸の奥から湧き上がってきた思いがあった。

 

ハングはアトスと向き合った。

 

「アトス様・・・俺、【モルフ】で・・・闇魔法の化身で・・・だれかの命を奪って産まれた存在で・・・そんなことはわかってるんですが・・・」

 

そして、ハングは弾けたような満面の笑みを浮かべて、アトスに言った。

 

「俺・・・やっぱ・・・消えたくないです・・・」

 

ハングの頬が割れ、耳が落ちた。

 

「ダメ・・・ですかね?」

 

切ない程に笑うハング。

その静かな笑顔は本物の人間のようだった。

いや、ハングが人間らしからぬ行動をとったことなど一度も無い。

 

感情の無い【モルフ】などでは絶対にない。

命の無い人形などでは決してない。

 

「アトス様!」

「じーさん!」

「アトス様!」

 

アトスはゆっくりと後ろを振り返った。

 

「ブラミモンド・・・」

「・・・・・・・・・」

 

ブラミモンドは頷き、ハングに向かって歩き出した。

そして、ブラミモンドのフードの奥から『ハング』の声がした。

 

「今・・・お前は何を見た?」

「え・・・俺が見たもの・・・」

 

この場で見て、そしてハングに関わるもの。

 

ハングはその答えに程なくたどり着いた。

 

「死者の・・・蘇生・・・」

「『奇跡は二度は起きないが、それが確立された技術なら正式な手順を踏むことで同じ結果を何度でも起こせる』・・・」

「ハハハ・・・ブラミモンドの言葉だ・・・」

 

笑った拍子にぶら下がっていた左腕が落ち、塵へと変わった。

 

「蘇生の陣はある・・・魂はここにあり・・・肉体は生成可能・・・そして精神は・・・アトスが準備していた・・・竜の娘を復活させるよりかは楽勝だ」

 

ブラミモンドの言葉に周囲は歓喜に息を飲む。

 

だが、そこにハングが待ったをかけた。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ・・・俺は【モルフ】だ。『魂』や『精神』なんて・・・」

「ああ、普通の【モルフ】にそんなものはない・・・だが、お前のどこが普通なんだ?」

「・・・・・」

 

ハングは指を失った右手を自分の胸の中心にあてた。

 

「でも・・・普通じゃなくても・・・俺は・・・【モルフ】で・・・」

 

不安に陥るハングに、アトスはほんのりと笑いかけた。

 

「あったんじゃよ・・・お主の中にな・・・」

 

ハングは顔をあげた。

 

そこには穏やかに笑うアトスがいた。

 

「心身を持つ者全てに【エーギル】が宿る・・・お主の中から【エーギル】が確かに産まれておった・・・魂が育っておったのじゃよ・・・」

「・・・俺に・・・魂が・・・」

「心を育ててくれた者に感謝することだな」

 

ブラミモンドの言葉にハングは小さく噴き出した。

幼少の頃の思い出といえば鬼の形相のヴァイダの顔ばかりが浮かんでくるからだった。

 

「ハング・・・わしはお主の【エーギル】を液体状にして渡した」

「それって・・・あの時の・・・」

 

アトスに出会った時、渡されたあの品。

 

「・・・アフアの・・・雫?」

「その通り」

 

その言葉を聞き、ハングとリンディスは目を合わせた。

リンディスは空いた手で胸元を探し、それを取り出した。

 

あの時、ハングの渡した青みがかった『アフアの雫』は今は若草色の液体へと変わっていた。

 

「魂はお主の中にある・・・肉体は生成可能・・・それらを結びつける精神は・・・ここにある・・・お主が『最も信を置く者』が蓄えた【エーギル】とお主の【エーギル】が混ざっておる『アフアの雫』がな・・・」

 

そういう意味だったんだ・・・

 

ハングは少し気まずくなって、視線を逸らす。

 

「・・・とにかく・・・それでハングは・・・助かるんですね?」

「・・・絶対とは言えないわ」

 

リンディスの声でブラミモンドはそう言った。

 

「でも、可能性はある?そうだろ!?」

「・・・理論上はね・・・あとはハング次第よ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

皆の視線が集まる。

ハングはブラミモンドへと目を向けた。

 

「失敗したらどうなるんです?」

「・・・消える」

「なんだその程度か」

 

ハングは力無く笑った。

 

「どうせこのままいったら消えちまう・・・乗ったよ」

 

ハングはリンディスの肩から腕を外そうとして、躓くようにして倒れた。

足元を見ると、右足のひざから下が消えていた。

 

「・・・肩を貸すよ」

「・・・ったく、世話のやける奴だぜ」

「ありがとよ・・・エリウッド、ヘクトル」

 

既にハングの両足も崩れ落ちた。

まだ残る腕をつかみ、二人はニニアンを蘇らせた術式の上にハングを寝かせた。

 

「ハング・・・大丈夫だよな」

「必ず帰ってきてくれよ」

「死んだら・・・承知しないからね」

 

仲間達の視線を感じる

だが、ハングはもう体を起こす体力も残っていなかった。

 

「リンディス、そこにいるか?俺の声が聞こえてるか?」

 

もう、目も見えない。

体の感覚もなくなっていた。

 

「ええ・・・いるわよ」

「・・・そっか・・・・・・」

 

ハングは笑った。

 

「・・・・・・言いたいことがある・・・聞きたいか?」

「・・・後で・・・聞くわ・・・」

「・・・そっか・・・」

「だから・・・帰ってきて・・・」

「おう・・・」

 

差し出す手はない。

もうハングの体は胴体と頭しか残っていなかった。

 

体が崩れていく。

 

ハングは自分の存在が消えていくのを感じながら、静かにその意識を手放したのだった。

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