【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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終章~光 ⑤~

ハングは差し出された服を着込む。だが、左袖は中ぶらりんのままだ。

ハングの左腕は造ることができなかった。

 

「・・・はい」

「ありがとよ」

 

失った左腕の代わりにリンディスが右腕に袖を通してくれる。

気味の悪いあの腕が無くなったことが、今は少しさびしい。

 

だが、すぐに慣れるだろう。

 

ハングは自分の胸の中心を叩く。そこには確かに心臓があった。

 

これも、すぐに慣れるだろう。

だが、今はそんな感傷に浸っている時間はなかった。

 

ハング達の目の前でアトスが崩れ落ちるように倒れたのだ。

 

「アトス様!?」

「ふっ・・・力を使いすぎたな」

 

横になるアトスの傍にハングは駆け込んだ。

 

「アトス様・・・俺は・・・」

「ふふふ・・・成功したようだな・・・」

「・・・ありがとう・・・ございます」

 

ハングの頬を皺だらけの手が撫でた。

 

「ハングよ・・・お主は・・・ネルガルが・・・我が友が儂と産み出した奇跡だ・・・大事に生きてくれよ」

「・・・はい・・・必ず!!」

 

アトスの指が離れ、ハングは頭を垂れた。

アトスはブラミモンドを目だけで探す。

 

「先に逝く、友よ・・・」

「・・・私もほどなく追うだろう。だが・・・今しばし・・・また眠りにつくとしよう」

 

アトスは頷き、体から力を抜くようにして天を仰いだ。

 

「エリウッド・・・ヘクトル、リン・・・ハング・・・わしは長く・・・長く生きてきたが・・・もはや・・・これまでだ」

 

しゃくり声はニルスのものだった。

 

「嘆くことはない・・・先に逝った友らに会えるのだ・・・わしに悔いはない」

「アトス様・・・!!」

 

アトスは目を閉じた。

 

「さて・・・人よ、わが兄弟たちよ。わしがおまえたちにしてやれる最後の贈り物だ・・・死を前に・・・ 今のわしには・・・色々なことが見えるようだ。未来のことが見える・・・」

 

アトスは少ししてから目を再び開いた。

 

「おお・・・これは・・・なぜ・・・今ではないのだろう・・・わしもブラミモンドも・・・もはや人の子らを助けてやることはできんのに・・・」

「なにが・・・見えるんですか?」

「凶星は、ベルンの地よりくるだろう・・・その時、エレブの地は再び血にまみれることとなる・・・」

 

ハング達の眼に険が刻まれた。

 

「だが案ずるな子らよ。助けは、またリキアよりいずる。炎の子が・・・全てを・・・・・・」

 

そして、アトスの手が力なく、床に降りた。

 

「逝かれた・・・」

 

ハングがその手を握り、首を垂れる。

 

「・・・アトス様。最後まで・・・僕らのことを・・・」

「・・・じーさん・・・」

「・・・ね、でも見て三人とも。アトス様・・・微笑んでるように見えるわ」

「『嘆くことはない』そう仰られた。僕らが泣く必要はない・・・か・・・」

 

そんな時だった。

 

「・・・・・・この世界はまた闇に包まれる・・・でも・・・最後に・・救いの光を見られたのでしょう」

「ニニアン!」

「エリウッド様・・・」

 

ブラミモンドに支えられていたニニアンがふらつく足取りでエリウッドのもとに駆け込んだ。

 

「よかった・・・ニニアン。君が生き返るなんて・・・まだ、夢をみているようだ」

 

彼女の手を取ったエリウッド。

その小指にエリウッドは自分の指を添えた。

 

「失ってみて・・・はっきりとわかった。僕には君が必要だ。どうか、ずっと側にいてほしい」

 

約束した。でも、護れなかった。

だが、今度こそこの手を離しはしない。

 

「エリウッド様・・・わたしは・・・わたしは・・・帰らないと・・・・・・」

「っえ!?どういうことだ?」

「わたしが・・・すべての原因だから。わたしの弱い心が・・・すべての悲劇を招いたから・・・」

「ニニアン?」

 

手を離そうとするニニアン。

エリウッドはその力を認めるわけにはいかなかった。

 

「・・・このエレブの大地に・・・わたしたちの生まれ故郷にずっと、焦がれていました。人に破れ、よその地に追われ・・・それでも・・・この地を思わない日はなかった・・・・・・わたしたちの生まれたこの大地をもう一度だけ・・・見たかったんです。あの子たち・・・火の竜たちもきっと、そう・・・・・・」

 

エリウッドはより強く、彼女の手を握りしめた。

 

痛いかもしれないことはわかっていたが、エリウッドはその力を緩めることはしなかった。

 

「だけど、それはいけないことだったのです。わたしたちは、ネルガルの誘いにのって門を開けてしまった・・・一目だけ、この世界を見てそしてすぐに・・・戻るつもりでした。だけど・・・ネルガルに捕まり、そのまま・・・こんなことに」

 

エリウッドは隣のニルスにも手を伸ばした。

 

「・・・僕ら人間は、当然のようにこの大地を支配してきた。ここを去った者のことなど考えず・・・ニニアン、ニルス君たちだけのせいじゃない。なにも知らなかったからとはいえ僕たちにも、責任はあるんだ」

「・・・エリウッドさま。本当に、そう思ってくれるの?」

「ああ・・・」

 

エリウッドはニルスの頭を撫で、そっと抱き寄せた。

 

「父がここにいれば、同じことを言っただろう。僕らが、力を合わせてこれからのことを考えよう。この大地全てが、アトス様がおっしゃっていた人と竜が共存できる場所、【理想郷】となるように・・・」

 

竜の知識と人の知識。

できないことを補い合い、助け合う。

 

お互いの存在を認め合えるそんな場所を作っていきたい。

 

「・・・そうなれば。どんなに・・・すばらしいでしょう」

 

それでも、ニニアンはエリウッドから体を離そうとした。

 

「でも、それはきっと・・・ずっとずっと先の話になるのでしょうね。だから、わたしたちは・・・ここに留まることはできません。門はまだ、開いたまま・・・このままでは・・・他の竜にも見つかってしまうでしょう。その前に、わたしたちはもとの世界に戻って・・・力を回復させ、そして・・・あちら側から門を閉じます」

「もう会えないというのか?そんなことはだめだ!!」

 

そんなニニアンをエリウッドは強く抱き寄せようとした。

 

「エリウッド様・・・わたし、あなたにお会いできて本当に幸せでした。どうか・・・どうか・・・わたしのことを・・・忘れないでください」

「ニニアン!」

「・・・・・・さあ、行きましょうニルス。わたしたちの世界へ帰りましょう・・・」

「ニニアン!」

 

顔を背けようとするニニアン。

エリウッドは決して離さなかった。

 

そんな二人を見かねたようにニルスが声をかけた。

 

「ニニアン・・・この世界の空気は、ぼくたちが知っているものとまるで変わってしまったね。いつまでたっても力が戻らない・・・ここにいる限りぼくらは長く生きられないよ?」

「ニルス?どうしたの急に・・・」

「それでも・・・長く生きられないとわかっていても、ニニアン・・・ 本当はここに残りたいんだろう?ぼくには分かってるんだ・・・エリウッド様の近くにいなよ」

「ニルス!?」

 

ニルスはエリウッドの腕をすり抜け、ニニアンの背中を押した。

 

エリウッドに抱きとめられる形になったニニアン。

顔を少し赤くしたニニアンは驚いたように振り返った。

 

ニルスは悪戯が成功したように笑い、そしてエリウッドに真剣な瞳を向けた。

 

「エリウッド様・・・ニニアンのこと・・・いや、姉さんのことをお願いします」

「・・・わかっている。必ず幸せにすると・・・・・・誓うよ」

「ニルス!あなたまさか・・・」

「うん、一人で戻るよ。ぼくは長生きしたい、ニニアンみたいに物好きじゃないから」

「・・・ニルス・・・・・・」

 

エリウッドはニルスを安心させるように、彼女の肩を強く抱いた。

 

「・・・それじゃあ・・・ぼく、もう行くね」

 

ニルスは【竜の門】の前へと立った。

 

「元気でな、ニルス!」

 

ヘクトルがそう言ってニルスの頭をクシゃリと撫でる。

 

「ヘクトル様も元気で・・・って、ヘクトル様はいつも元気か」

「こいつ・・・」

 

ヘクトルは軽く拳骨を当てて、もう一度頭をなでた。

そして、リンディスがニルスの為に膝を折り、抱きしめた。

 

「さびしくなるわ・・・」

「・・・僕もだよ」

 

リンディスの細い指がニルスの頭を撫でる。

 

「リンディス様も・・・ハングさんと仲良くね」

「ええ・・・ありがと」

 

リンディスとの抱擁を終えたニルス。

ハングはニルスを右腕で抱きしめた。

 

「風邪・・・ひくなよ」

「うん・・・ハングさんも・・・」

「ああ・・・」

 

ニルスを離す。

 

本当に別れの時だ。

 

「君のことは、忘れない・・・」

「・・・・・・ニルス・・・」

 

肩を寄せ合うエリウッドとニニアン。

その二人に向けてニルスは笑いかけた。

 

「泣かないでニニアン・・・離れていても、もう二度と会えなくても・・・ぼくたちの絆が切れることはないんだから・・・それよりも・・・少しでも長く生きて・・・どうか一日でも 多く・・・幸せ・・・に・・・ね?」

 

ニルスはそう言い残して、門の中へと足を踏み入れる。

ニルスの輪郭が朧気になり、身体が揺らめき、次第にその姿が溶けて消えていく。

 

「・・・ありがとうニルス」

「ニルスーーーーッ!!」

 

向こう側へと行くニルスが笑顔で手を振り返したように見えていた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

待ちに待っていた仲間達にもみくちゃにされながら、ハングは遺跡の外へと出た。

 

「お前らな!!いい加減にしろ」

「んだよ!いいだろ!うれしかったんだから!!」

「・・・ったく・・・このっ!!」

 

飛びかかるウィルを後ろに放り投げながら、ハングは外に出た。

そのハングに暖かな光が丘の向こうから差してきた。

 

「お、夜明けだ!」

 

そんなハングの肩をヘクトルは背後から抱いた。

その隣にリンディスが並ぶ。

 

「・・・キレイね・・・また、一日がはじまるわ」

「俺は少し・・・眠い・・・」

 

ヘクトルが欠伸をしながらそう言った。

 

一晩中戦ってたんだ。それも当然だろう。

その後ろからエリウッドがニニアンの手を握って現れた。

 

「おっと・・・邪魔者は退散するかな」

「そうしましょ」

 

そうやって離れていくハングとリンディス。

 

「・・・ねぇ、ハング」

「ん?」

「・・・あの時・・・なんて言おうとしたの?」

「・・・ああ・・・あれか・・・つまらない言葉だ」

 

ハングはリンディスの腕を取り、耳元に口を近づけた。

 

「・・・いつまでも・・・愛してんぞ・・・」

 

ハングが顔を離すと、顔を赤くしたリンディスがいた。

 

「リンディスは?どうだ?」

「わ、わ・・・わ、わたしは・・・わ、わたしも・・・」

 

どもるリンディス。感情が昂ぶりすぎて、言葉がでてこなかった。

結局、口にすることができないまま、リンディスはハングの胸の中に飛び込んで全身全霊を込めてハングを抱きしめた。

 

「・・・・・・・・・」

「こっちの方が・・・恥ずかしい気がするけどな」

「・・・バカ」

 

それに応えるようにハングもリンディスを抱き返す。

 

「・・・もう・・・いなくならないで・・・」

「ああ・・・ずっといる・・・ずっとな・・・」

 

ハングは自分を『人間』へと導いてくれた時と同じ香りを確かに感じていた。

 

そんな二人を遠巻きに見つめる二人。

 

「まったく・・・邪魔者が聞いて呆れるな」

「・・・・ヘ、ヘクトル様・・・」

「ん?どうした、フロリーナ?」

「あ・・・いえ・・・その・・・」

 

エリウッドやハングに放っておかれたヘクトルとリンディスの傍に近寄れないフロリーナ。

どうせこのままここにいても、馬に蹴られるだけである。

ヘクトルはフロリーナを二の腕に乗せるように抱き上げた。

 

「きゃっ!」

「おい、フロリーナ。礼がしたいんだ。なんか食いたいものとか、欲しいもんとかねぇか?」

「ひゃふ・・・はう・・・」

「ハハハハハハハ」

 

顔を真っ赤に染めてヘクトルの髪に顔をうずめるフロリーナ。

楽しそうに笑いながらヘクトルはその場を離れた。

 

そんな友人達を見渡しながら、エリウッドは彼女の手を握った。

 

太陽の光を浴びる。

そんな当たり前のことがこうも心地いい。

 

そして、隣に愛しい女性がいてくれる。

それだけのことがこうも世界を明るくしてくれている。

 

一度は失った。

 

己の過ちで失った彼女が、ここにいてくれる。

もう二度と出会えないと思った彼女のぬくもりが確かにある。

 

振れた手から、美しい髪が、彼女の香りが、その存在がエリウッドの中で大きくなっていくのがわかる。

 

「ニニアン・・・僕といっしょに来てくれるだろう?」

「・・・はい!」

 

そのはっきりとした返事を聞き、エリウッドはそっと彼女を抱き上げた。

 

もろく、儚い、大事な宝物。

どんな花も宝石も彼女には及ばない。

 

エリウッドの腕の中で確かに生きているニニアン。

 

エリウッドは静かに彼女と唇を合わせた。

 

 

 

世界は平和だった。




終わったーーーー

ようやく、ようやく、この物語をここまで語りつくすことができました。
今まで長い間ご愛読いただき、誠にありがとうございました。

ですが、まだまだこの小説は終わりません。

なぜならば、自分が物語の中で最も好きな瞬間が『エピローグ』だからです。
全てが大団円で終わった物語の『エピローグ』こそが一番好きなんです。

なんで、まだしばらくお付き合いください。

予定ではエピローグはヘクトル、エリウッド、リンディスの三人分書く予定であり、各章で1~2話は使う予定です。それに、『魔の島』からの帰り道の話もしたいですし、できれば『物語全体のあとがき』なんかも書きたいなと思っております。

ではでは、またお会いしましょう!
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