【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
もう、次の戦いはないのですからこの話は『物語の間』ではなく、『全てが終わった後の無駄話』なので、『閑話』となっています。
ではでは、まだまだ彼等の物語をお楽しみください。
「・・・・くあぁ・・・」
口から欠伸を放ち、ハングは目を開いた。
霞む目をこすり、瞬きを繰り返す。
「・・・・・・・」
何があったっけ・・・
ハングは今見てた夢を思い出していた。
訳が分からない、とりとめのない夢。
初めて見た夢にハングは混乱していた。
「これが『人間』なんだな・・・」
声を出し、視界がはっきりしてくる。
ここは遺跡のすぐ傍だった。
ああ、思い出した。
【竜の門】での戦いが終わって、そのままそこら辺で倒れるように眠り出したんだった。
ハングは左腕を動かそうとして、既に失ったことに気が付く。
右腕を動かそうとして、今度は動かないことに気が付いた。
「・・・ん・・・んん・・・」
そちらを見ると、リンディスがハングの右腕を枕にして眠っていた。
彼女にかかる前髪をどけてやりたかったが、それができる手は彼女の頭の下だ。
ハングは自分の額を彼女の顔に摺り寄せた。
「・・・ん・・・あ・・・ハング?」
「おはよ・・・リンディス・・・」
「・・・・・・いい・・・夢・・・」
「おい・・・」
ハングの体に手を回すリンディス。
抱きしめられて悪い気はしないが、今は少し遠慮してほしかった。
「どいてくれるか?」
「・・・ん?あ・・・え・・・」
「リンディス?」
「・・・・・・・・・」
寝ぼけていた彼女の意識がようやく覚醒した。
「どいてくれるか?」
「・・・・・・う、うん・・・」
彼女が頭を少しあげてくれる。
ハングは右腕を引き抜き、リンディスの前髪を払ってやった。
「ありがと・・・」
「うん・・・」
ハングは彼女の額に唇を落とした。
「ゆっくり寝てろ・・・」
「うん・・・」
ハングは自分のマントを渡して、立ち上がった。
リンディスは今の出来事に少し頬を染め、ハングのマントに顔を埋めた。
埃っぽい太陽の匂いと、わずかに草原の香りがした。
それがとても幸せで、リンディスは再び深い眠りへと落ちていった。
遺跡の周囲を歩くハング。
至るところで何の規則性も無く眠る仲間達。
疲れ果て、その場で眠りこけた人達の末路である。
子供のように手を繋いで寝てるニノとジャファル。
見張りをしようとして失敗したマーカスとオズイン。
ドラゴンの背に身を預け、抱き合って眠るヒースとプリシラ
ハングはそれらを踏まないように気を付けながら、遺跡の裏へ回った。
「うぐっ!」
「・・・おっと失礼」
曲がり角で寝てたロウエンを踏んでしまった。
そんな彼も、レベッカと肩を寄せて寝ているのだから幸せそうなのでまあよしとしよう。
遺跡の裏には小川が流れている。
飲むと腹を下す類の水なので飲み水としては使えないが、顔を洗うぐらいは問題ない。
ハングは靴を脱ぎ、小川へと足を踏み入れた。
水を掬おうとして、左手が無いことにまた気付く。
「慣れないな・・・」
心臓が真ん中にあることも、あの気味の悪い腕がないこともまだ慣れない。
右手で水を顔にかけ、顔を洗う。
「やあ・・・ハング」
「エリウッド・・・お前も夕涼みか?」
「もうすぐ夜だよ」
「一日寝てたな・・・ロウエンの奴もそこで寝てたぞ」
「ああ、踏んでしまった」
「そうか・・・」
ハングは投げ渡された水筒に口をつける。
「終わったな・・・」
「ああ、終わった・・・」
水筒を投げ返し、ハングは水辺に腰を下ろした。
「・・・でも、これからが大変だ」
エリウッドはそう言って靴を脱ぎ、川に入っていく。
「フェレ、サンタルス、ラウス、キアランそしてオスティア・・・この一連の事件でいろんなものを失った・・・やることは山ほどある」
「お前ならできるさ」
「ハングもいるしね」
「あんまり期待するなよ」
エリウッドは大きく伸びをして、顔ごと川に突っ込んだ。
そして、髪を振りあげ、犬のように水をまきちらして空を仰いだ。
「ハング・・・あの時の質問覚えているか?」
「思い当たる節はいくつかあるが、どれのことだ?」
「君がだした宿題だよ・・・」
「四方を敵に囲まれたあの状況か?」
「それだ」
三方向を敵に囲まれ、一方向からは賊がやってくる状況。
「時々、考えてた・・・」
「そいつは殊勝な心がけだな」
「そして・・・答えを出した」
「・・・へぇ」
ハングは言ってみろ、とうながした。
「・・・海賊を説得し・・・船で逃げる・・・」
「・・・どう説得する?金貨を一万枚程積むか?」
「・・・いや・・・彼らをフェレの民にする」
ハングは一瞬だけ呆けたような顔をして、そして笑い出した。
「アハハハハハハハハハハハハ」
「・・・ハング?」
「アハハハハハハハッハハ・・・そいつはいい。お前にしかできないことだ!なるほど・・・ハハハハハ!」
「・・・そんなにおかしいかい?」
「おかしいさ・・・おかしいよ!賊を国民にするなんてな!・・・リンが激怒する顔が目に浮かぶ」
「言われてみれば、確かに」
エリウッドも笑い出し、ハングの隣に腰を降ろした。
「僕はこの旅で色んな人と出会った・・・」
「・・・だな」
「領地を渡り・・・国を渡り・・・様々な考え方を持つ人達に出会った」
「・・・・・」
「そして、世間では悪人呼ばわりされている人達が必ずしも悪人でないことを知った・・・戦わなくて済む方法もあったはずだった・・・」
「それで・・・賊を説得する・・・か・・・」
「彼らが住む場所と働ける環境・・・他者と生きることを・・・人らしく生きる方法を共に模索したい」
「・・・へぇ・・・」
ここで『与えてやる』と言わないのがエリウッドだよな。
ハングはそんなことを思いながら頬杖をつく。
「けど・・・そいつをやるには、条件が足りないんじゃないのか?」
「ああ・・・フェレはそこまで豊かではない」
「そういうことだ」
「・・・だから僕は・・・この戦術が取れるように良い国を作りたいんだ」
「・・・・・・・そっか」
そんなものは戦術とは呼ばない。
ハングはそう思ったものの、決して彼を笑わなかった。
これが、エリウッドがこれから挑んでいく戦いなのだ。
「ハング・・・」
「ん?」
「ダメ元で聞いてみるんだけど・・・」
「じゃあダメだ」
エリウッドはハングのその言葉を黙殺して、話を続けた。
「ハング・・・力を貸してくれないか・・・」
「回りくどい言い方すんな。はっきり言え」
「・・・ハング、フェレに来てくれないか?」
ハングはその質問が来ることを予想していた。
そして、その答えももう決まっていた。
「確かに・・・その質問は『ダメ元』だな・・・」
「来てくれないだろ?」
「まぁな・・・手を貸すのはいいが、そこで定住するのは・・・ちょっとな・・・」
「そう言うと思ったよ・・・君には旅が似合ってる」
「ああ・・・俺もそう思う・・・」
ハングにはもう復讐なんて言葉は無い。突き進む目的もない。
だから、ハングに残った道は旅の軍師に戻ることぐらいだ。
「・・・リンディスはどうするんだ?」
「・・・どうすると思う?」
「決めているんだろ?」
「お前もわかってんだろ。狸貴族」
ハングは笑って腰をあげた。
「まぁ、しばらくはリキアで働くよ。力になるから、こき使え」
「そうさせてもらう」
ハングはエリウッドに手を伸ばして、引き起こした。
「あ、そういや」
「どうしたんだい?」
「晩飯作る奴がいない」
エリウッドが苦笑いを浮かべた。
「・・・起こすのは忍びないな・・・どうする?」
「傭兵間で有名な野戦料理でいいか?味は保障しないが、栄養はとれる」
「手伝えることはないか?」
「あるある。手は何本あってもいい。」
久々の料理だ。
腕が鳴るというより、腕が心配だった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
ハング達は今樹海を歩いていた。
【竜の門】から船へと向かう道のりだ。
「・・・くぁああ・・・」
「・・・ふあぁぁ・・・」
大欠伸をしたハングにつられて、隣で歩いていたヘクトルも欠伸をした。
ヘクトルの手にはもう【神将器】は無い。
ブラミモンドが『また封印する』と言って元あるべき場所に戻したのだ。
ヘクトルが言うには『手放してもまだ繋がってる気がする』そうだ。
「欠伸するな・・・写るんだろ」
ヘクトルがそう言った。
「今のうちにしとけ。オスティアに帰ってみろ、玉座の上じゃそんなことできないぞ」
「だな・・・」
ヘクトルはそう言って再び大口を開けて欠伸をする。
「俺がリキア盟主か・・・」
「ガラじゃないな」
「言われなくてもわかってる」
襲撃の心配もない帰り道。
気楽な列を並べての道のりでハングとヘクトルは最後尾を歩いていた。
二人の前にはフロリーナとリンディスが肩を並べて歩いている。
そんな二人の背中を見て、ヘクトルが呟いた。
「それにしても・・・あんな女のどこがいいんだ?」
「あのな・・・聞こえたらもう一度竜と戦う羽目になるぞ」
「そいつは恐ろしい話だ。で、答えは?」
「答えて欲しいなら、俺にも教えろよ」
「わかったわかった・・・だから言ってみろ」
肩に腕を乗せてきたヘクトル。
こんなところでする話ではないとは思ったが、ヘクトルの表情には引く気はなさそうだった。別に隠す話ではないのだが、口にしようとすると気恥ずかしい。
だが、ハングも大きな戦いを終えた帰り道で気が緩んでいたのだろう。
ハングは小声で語りだした。
「美人で、器量も礼儀も兼ね備えてる上に剣の腕もたつ、しかも良家の姫さんなのに特にしがらみも無し。ちょっと直線的な考え方が傷だがそれでも余りある誠実さがある・・・とか、誰かが言ってた」
確か、そう言ったのはラガルトだったと記憶していた。
その言葉にヘクトルは眉間に皺を寄せた
「・・・そんな言葉じゃ納得できねぇよ」
「そりゃそうだ」
「で、本音は?」
ハングは『言いたくないな』と思いながらも正直に答えることにした。
「・・・憧れたんだよ・・・あいつにな・・・」
「憧れた?」
「あいつの中にはな・・・復讐で濁った炎があった・・・なのに、あいつは他人の為に戦える優しさを持っていた・・・家族とか、友達とか・・・そういうものの為に真っ先に動けるとこが・・・羨ましかったんだろうな」
「・・・羨ましい?」
「俺は復讐に取りつかれて・・・仲間も何もかも捨ててネルガルを殺すことだけに生きていたからさ・・・だからまぁ・・・憧れたんだよな。あいつの強さにさ」
ハングはそう言って楽しそうに笑った。
「で、情募と友情がごっちゃになって・・・最終的には愛情に変わった・・・それが・・・最初で最後だ。そこから感情が変わらず今に至る・・・『人間』になった後もな・・・」
そんな自分の気持ちを説明するなら『変わらなかった』と言うのが正しいだろう。
彼女と出会ったあの日から動きだした運命の歯車は今も噛み合ったまま回っている。
そんなところだった。
「で、結局・・・具体的にあいつのどこがいいんだ?」
「どこがいいのか?と問われたら少し困るが・・・」
前を歩く彼女を見て、ハングは言葉を選んだ。
「・・・やっぱ・・・そうだな・・・」
ハングの視線に気づいたのか、リンディスが振り返った。
「私の悪口言ってない?」
「言ってない」
ハングがそう言うと、若干納得してないような顔で彼女は前を向いた。
そしてハングは口元に微笑を浮かべた。
「勘が鋭くて、からかうと楽しくて、怒らせると怖い・・・だから一緒にいて飽きない」
「なるほど・・・そいつは大事だ」
他にも挙げれば色々ある。
すんでの所で何度も支えてもらった。
笑顔がまぶしくて、ずっと笑わせてあげたかった。
いつも傍にいてくれることが嬉しかった。
でも、やっぱりハングにとって一番のことはそこだった。
彼女となら旅ができる。
ハングはヘクトルが納得したのを見て、逆に話を振った。
「それで、ヘクトルはどうなんだよ?」
「ん?」
「だから、フロリーナのどこがいいんだ?」
「あぁ・・・えーとな・・・いざ言うとなると結構恥ずかしいなこれ」
「ああ、知ってる。さっき経験した」
ようやく攻守が交代だった。
ハングはヘクトルがなんとか喉奥から言葉をひり出してくるのを楽しそうに眺める。
「・・・あいつ・・・しょっちゅう泣くだろ?」
「まぁ、そうだな。ってか、お前が泣かしてた」
「それはしょうがねぇだろ!?あいつが男苦手だってんだから!」
「まぁな・・・それで・・・」
「で、そこが放っとけねぇってのが、最初だった」
「それって、飼い猫とかに対する感情じゃねぇのか?」
「だから、最初は、って言ったろ。んで、本格的に惚れたのは・・・・・・」
ふと、ヘクトルから言葉が続かなくなる。
ハングがヘクトルの顔を覗き込むと、彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「どうした?」
「あぁ、その・・・やっぱ、言うのやめていいか?」
「おいこら、侯爵に一番必要なのは誠実さだぞ!初っ端から躓いてどうする!ってか、言いだしたのはお前だろうが!」
ハングの左腕が残っていたら掴みかかってるとこだった。
「わーったよ!だから喚くな!」
「ほう・・・なら、さっさと吐け」
「ああっと・・・その・・・」
そして、ヘクトルはか細い声で呟いた。
「代わりに泣いてくれた時だ・・・」
「ん?」
「決戦の前にな・・・あいつ・・・兄上のことで・・・・泣いてくれたんだよ・・・それで、その・・・それを見て・・・なんつうか・・・少し軽くなったんだ・・・俺は・・・泣けてるんだ・・・ってな」
「・・・ああ、なるほど・・・」
その感覚はハングにも少し覚えがあった。
ハングがかつていた竜騎士部隊。
その仲間が死んだという話をヒースから聞かされた時、ハングは泣けなかった。
色々なことが積み重なっていたし、古い話でもあったから涙が出てこなかったのだ。
そして、感情が溢れないせいで、自分が仲間を軽んじているような気がしてしまうのだ。仲間が死んだのにのうのうと生きてる自分。それが許せなくなる時がある。
そんな時は本来なら泣けばいい。
泣いて、自分が悲しんでいることを実感すればいい。
でも、それができない時もある。
そんな時に代わりに悲しんでくれる人が側にいるのは心強いのかもしれない。
「んで、思った・・・こいつが傍にいてくれりゃあ・・・俺はちゃんと侯爵やれるんじゃねぇか・・・ってな・・・って、ああぁ!!俺はなに女々しいこと言ってんだ!」
「自分で言い出したんだろ」
「俺は女の涙に惚れた!これでいいだろ!!」
「いいのかよ」
騙された馬鹿な男、って感じだ。
だが、まぁ・・・
ハングはヘクトルの大声に驚いて振り返ったフロリーナを見て思う。
ヘクトルが猪だから、隣にいるのは寂しいと耐えられなくなる兎でちょうどいいのかもしれない。
「お前・・・なんか失礼なこと思ったか?」
「さぁな・・・それより、そろそろ日が暮れる。野営にしよう」
「おっ、昨日の野戦料理また食わせてくれよ」
「断る。大変だったんだぞあれ」
「俺も手伝うからよ」
「ロウエンとレベッカに相談してからな」
ハングはマシューを呼び、全軍に停止を命じたのだった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
ヴァロール島からの帰りの船。
ファーガス海賊船のマストの見張り台に上ったハングは西にに沈みゆく太陽をながめながら、煙草をふかした。
「ふぅ~・・・」
見張り台の淵に肘をかけて外を眺め、パイプを咥えて慣れないタバコの煙を体の中に入れる。
そんな時、ハングの後ろからリンディスが顔を出した。
「ハング・・・ここにいたの」
「よ、リンディス」
マストを登ってきたリンディス。ハングはの彼女の方を見ずにそう答える。
リンディスはハングの隣に並び、縁に肘を置いた。
「・・・勝手にいなくならないでよ」
「悪い悪い、お前の視線から逃げたくなったんだ」
「そんなに見つめてません」
「どうだか」
穏やかに笑いながら、ハングとリンディスは雑談にふける。
ハングは煙草の中身を捨てた。
「リンディス・・・少し話がしたい」
「奇遇ね。私も少し話がしたかった」
ハングとリンディスは少し視線を交わらせて、どちらが話すかを目で問いかける。
無言のやりとりの後、リンディスが先に話をはじめた。
「ハング・・・あなた・・・この後、どうする?」
ハングはその声音からこの質問は彼女の本題ではないことを悟った。
真に話したいことの前置きのつもりだろうか、だとしても話題の選択はあんまり良いとは言えない。
『キアラン公女』としては落第だ。
そう思いつつも、ハングは意地悪などせずに素直に答えることにした。
「そうだな・・・しばらく、リキアにいるだろうな。この一連の騒動の収拾のために俺の頭はまだ使える。動ける奴は一人でも多い方がいいしな」
「・・・その後は?」
「・・・その話は後でしよう。俺はそのことについて話したかったんだ」
「え・・・じゃあ、そっちの方を先に・・・」
ハングはゆっくりと首を横に振る。
「それよりも、お前の話を聞かせてくれ。本当に俺に言いたかったことがあるんだろ?」
ハングはそう言って笑みを向ける。
その表情を見て、リンディスは自分の気持ちを吐き出すように大きく息を吐いた。
「・・・何もかも・・・わかってるのね・・・」
「あのな。どれだけ一緒にいたと思ってる」
その言葉にリンディスは何か吹っ切れたような顔をした。
ハングは全てをわかっている。
なら、自分はそれに甘えることにしよう。
リンディスはハングに向けて、自分の奥底にある一つの『想い』を語りだした。
「私ね・・・草原に・・・帰りたい・・・」
リンディスは静かにそう言った。
「・・・身勝手だとは思うの。おじいさまは、あんなお体で・・・キアランを継げるのは、私だけしかいないって・・・わかってるけど・・・」
ハングは相槌を打ち、先を促す。
「でも・・・私の心はいつも・・・サカの草原にある・・・風の匂いと広がる大地・・・焦がれるぐらいに・・・帰りたいの」
いつか、彼女がそう言いだすことをハングはなんとなく察していた。頼られるだろうとも思っていた。
だから、既にハングの中の答えは決まっていた。
「ねぇ・・・ハング・・・私はどうしたらいいと思う?」
不安そうな顔をするリンディスの頭にハングは右手を伸ばした。
「・・・ハウゼン様はわかってくださるよ。以前そんな話をしたことがある」
「・・・え・・・」
「『リンディスには石の建物は合わない』ってさ・・・大丈夫、皆わかってくれるさ」
「・・・ハング・・・でも、キアランは・・・」
「そっちは心配しなくていい」
「え?」
「手は打ってる。そして、これから何手か差し込む」
ハングはそう言ってリンディスから手を離し、カンテラを手に取った。
下の連中に光の信号で『異常なし』と伝え、ハングはリンディスに再び顔を向ける。
「わかって・・・くれるかな・・・」
「・・・大丈夫さ・・・なんなら、駆け落ちするか?お前の両親みたいに」
ハングがそう言うと、リンディスは小さく噴き出した。
「・・・それでハングの話は?」
「ああ・・・リキアが落ち着いた後の話なんだけどさ・・・」
「うん・・・」
「俺は・・・また、旅に出ようかと思ってる」
「・・・え?」
「家族はいないってことはわかったが、俺には仲間がいた。その墓の場所もヒースから聞いたし、まずはそっちに顔を出そうかと思ってる」
「・・・ハング?」
「んで、その後は適当に・・・」
「ハング!!」
「ん?」
ハングがリンディスの方を見ると、物乞いでもしそうな勢いでこちらを見上げているリンディスがいた。
「どうした?」
「・・・ハング・・・あなた・・・・・・ん・・・いえ・・・なんでもないわ」
「『私を置いてどこかに行くの?』って言いたかったのか?」
リンディスの顔がわかりやすく硬直した。
「んで、『私にはハングを引き留める理由も縛り付ける力もない』そう思ったろ?」
それも、図星らしい。
ハングは本当に予想通りの彼女の反応に、『やれやれ』と首を振った。
「そういうことは口にしろよ。変に抱え込むと話がこじれるって学んだろ?」
「それ・・・ハングが言う?」
「ははは、違いない」
そして、ハングは息を大きく吸い込み、何かを決断したかのような顔をした。
「それで・・・旅をするにあたって・・・少し聞きたいことがある。リンディス、一つ教えて欲しいんだが・・・」
ハングのその表情にリンディスが息を飲む。
その顔は別れ話でもされるんじゃないかと思っているような顔だった。
ハングはマストに背を預け、夕陽とリンディスを見ながら弾けるような笑みを見せた。
「リンディス・・・サカの民に・・・他の地方の人間がなるにはどうしたらいい?」
「・・・・・・え?」
潮風が止まる。凪の世界に入った船の上。
ハングはこんな時間を作ってくれた、粋な海の神に心の中で感謝をささげた。
「墓参りを済ませて・・・迷惑かけた連中に顔出して・・・その後の俺は、もう・・・何も残ってない・・・」
音の消えた船の上は不思議なほどに声がよく通った。
「それでも俺は・・・旅を続けたい・・・ずっと・・・ずっと・・・」
リンディスはそこでようやくハングが言わんとしてることに気付いたようだ。
「俺はこれから一生・・・サカの草原を旅していたい」
それは『好き』だと告げたその一歩先。
『愛している』と言った先の未来。
「・・・それには遊牧民になるのが一番だろう?」
「・・・・・・うん・・・」
「だからさ・・・できれば・・・ロルカ族の一員にしてほしいんだ・・・」
「・・・うん・・・うん!」
「ダメか?」
リンディスが瞳を潤ませながらハングの胸に飛び込む。
それを受け止め、ハングの心臓は強く高鳴ったのだった。