【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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エピローグ~結婚式~

ここはキアラン城。

 

ハウゼンの自室であった。

 

ハウゼンは既にやせ細り、食事も満足に取れない程に衰弱してしまっていた。

補助がなければ体も起こすことはできない。もう、(とこ)で死を待つばかりの状態。

 

だが、今のハウゼンの表情は決して暗いものではなかった。

 

「・・・レーゼマン・・・」

「はい、ハウゼン様」

 

ハウゼンは傍にいた自分の信頼する宰相の名を呼んだ。

 

「わたしは・・・幸せだ・・・」

「・・・ハウゼン様・・・」

「起こしてくれ・・・せめて・・・最後ぐらい・・・かっこつけさせて欲しい」

「仰せのままに」

「ふふふ・・・かしこまらないでくれ・・・友よ」

「・・・はい」

 

レーゼマンはハウゼンを支え、その背中に木枠で固めた枕を積んだ。

その部屋の隅には既にケント、セイン、フィオーラ、ファリナが並び、背筋を伸ばして屹立していた。

 

彼等は護衛ではない。その証拠に彼等は一切の武装をしておらず、鎧もつけていなかった。

彼等は皆、一人の友人としてこの場に立っていた。

 

ノックの音がしたのはその時だった。

 

入ってきたのは礼服に身を包んだハング。

そして、それと同じく礼服を着こんだウィルとフロリーナだった。

ハングはいつもより少し硬い顔をしていた。

フロリーナは随分と落ち着いた様子。

そして、ウィルはガチガチに固まっていた。

 

「失礼します」

「・・・し、失礼!します!」

「失礼します」

 

ハングはウィルに軽くひじ打ちを入れた。

 

「お前が一番に緊張してどうする。フロリーナでさえ落ち着いてるぞ」

「だってさ!だってさ!フロリーナはもう侯爵婦人なんだぜ!俺はただの一般人だ!こんな場所で緊張するなってのが無理だ!」

「うるさい」

 

ハングは問答無用とばかりにウィルの足を踏み抜いた。

 

「・・・・っ!!」

 

音にならない悲鳴をあげたウィル。

レーゼマンが呆れたように首を振り、ハウゼンは楽しそうに笑った。

 

そしてまたノックの音。

 

入ってきたのは聖職者。

 

「来ていただいてありがとうございます・・・ルセアさん・・・それと、レナートさんも」

 

ハングは入ってきたレナートの顔を見上げる。

ハングよりもわずかに高い位置にある彼の顔は【魔の島】で会った時と比べてどこか憑き物が落ちたような顔になっていた。

 

レナートは首を小さく横に振り、ハングの肩に手を置いた。

 

「無理を言ってすまなかったな」

「いえ。ただ、意外でした・・・レナートさんが俺らの祝福を担ってくださるなんて・・・」

 

今日は結婚式。

 

ハウゼンの病態が悪化した。

だからせめて、ハウゼンが存命のうちに孫娘の晴れ舞台を見せてあげたかった。

それが、この場を作ったのだった。

 

最初、ハングはルセアに声をかけた。

だが、そのルセアからレナートへと話が行き、彼が『是非やらせて欲しい』と願い出たのだった。

 

彼がどうしてそう言いだしたのかはハングも知らない。

知ろうともしなかった。だけど、きっとそれが良いことになると、ハングの中の『誰』かがそう訴えかけたような気がしたのだ。

 

「ルセアさんも、お忙しかったでしょう?」

「いえいえ。お二人の最高の舞台ですからね。微力ながらお手伝いさせていただきます・・・レイヴァン様が来られないのは残念ですが」

「あいつらしいですよ・・・」

 

そして、ハング達は静かにその時を待った。

 

三度目のノック。

 

ハングは息を吐き出し、気持ちを引き締めた。

 

扉が開いた。夕陽が差し込む。

 

その光の中に彼女がいた。

 

橙色の光の中で彼女は白く輝いていた。

 

純白のウェディンドレスを身に纏ったリンディス。

 

一瞬、ハングは自分を見失った。

彼女があまりにも綺麗で、あまりにも美しくて、自分が今何をしているのかハングは見失いそうになった。

 

見とれていた。

見惚れていた。

 

そんな表現すら陳腐に思える程に今の彼女は輝いていた。

 

彼女と目が合い、ハングはようやく我に返った。

 

リンディスが歩を進める。

エスコートするのは既に涙で顔面をぐちゃぐちゃにしたワレスであった。

 

楽器も歌もない、静かな結婚式。

 

リンディスはハウゼンのもとへ行き、頭の上のベールを降ろしてもらう。

 

「・・・綺麗だよ・・・リンディス」

「・・・おじいさま・・・」

 

リンディスが泣くまいとしているのがすぐにわかる声だった。

 

ハングはこっそりとほくそ笑んだセインと目があった。

多分、自分も同じ顔をしているのだろう。

 

そして、リンディスのもとへとハングは歩み寄る。

 

「ハング殿!ハング殿!このワレス!このワレスは!!うおぉおおおん!!」

 

最早、泣いてるのか叫んでるのかわからないワレス。

その腕からリンディスが離れ、ハングの腕に手を乗せる。

 

「お前も泣くか?」

「泣かないわよ」

 

ワレスが誰よりも声を上げて泣いているせいで、緊張が良い具合にほぐれていた。

ハングは部屋の中を少し歩き、ハウゼンの隣でレナートの前に立った。

 

「・・・それでは、これより・・・お二人の結婚式をとりおこないます」

 

レナートの宣言。

ただ、これから行う言い回しは本来のリキアの伝統のものとは異なる。

それは、リンディスの希望だった。

 

「ハング、あなたはこの者を妻とし、長き旅路の中、一欠片のパンを共に分け合い、一雫の水を共に啜り、父なる空のもと永遠に彼女を愛することを誓いますか?」

「・・・はい、誓います」

 

それはサカの民に伝わる誓いの言葉。

 

「リンディス、あなたはこの者を夫とし、長き旅路の中で、一欠片のパンを共に分け合い、一雫の水を共に啜り、母なる大地の上で永遠に彼を愛することを誓いますか?、」

「・・・はい、誓います」

 

かつて、彼女の父と母がサカの草原で交わした誓いを今ここで執り行う。

それがリンディスの希望だった。

 

実の娘の結婚式を見ることができなかったハウゼンへの彼女なりの気持ちであった。

 

「では・・・指輪をここに・・・」

 

ルセアがレナートへと二つの指輪の乗った箱を手渡した。

その指輪は決して高級な品ではない。

どこにでもあるただのシルバーリング。

ただ、そこに刻まれた模様は今ハウゼン様が身に着けている品と同じもの。キアランの家系のものであることを示す文様だった。

 

ハングはウィルに手袋を渡す。ウィルはその手袋がまるで爆弾でもあるかのように震える手でその手袋を受け取っていた。

 

その隣でリンディスは手にしたブーケと手袋をフロリーナに渡した。

 

「・・・リン・・・綺麗よ」

「ありがと」

 

ハングとリンディスは再びレナートへと向き直る。

 

「それでは・・・指輪の交換を・・・」

 

ハングは差し出された指輪を手に取った。

 

ただのシルバーリングのはずなのに、異常な程に重く感じた。

 

「これが・・・幸せの重さ・・・かな」

 

口の中だけでそう呟き、伸ばされたリンディスの左手を手に取った。

ハングは器用にその手の薬指に右手だけでリングを滑らせた。

 

「ハングも泣いちゃう?」

「泣くかよ」

 

小声で話し、笑う。

ワレスがまだ声をあげて泣いているので誰も気にしなかった。

 

「ハングは、右手になるのね」

「・・・しかたないさ」

 

左腕は過去に置いてきた。

ハングはリンディスに右手を伸ばす。

 

リンディスはその手を取り、薬指に指輪を差し込んだ。

 

「では・・・誓いの口づけを」

 

ハングは右手で彼女のベールを持ち上げた。

二人の間に遮るものは何も無い。

 

見上げててくる彼女の深緑色の瞳。

 

この瞳に憧れて、焦がれて、恋をした。

 

ゆっくりと瞼に隠れるその瞳を見つめ、ハングは彼女の顔に近づく。

 

ここに来たかった。

 

この場所に立ちたかった。

 

ハングはその思いを噛みしめるように、彼女の口元にそっと自分の唇を重ねた。

 

祝いの鐘も、飛び立つ鳩もいない。

 

それでもここにいる人の拍手に包まれたことがハングにとって何よりもの祝福だった。

 

 

キアラン侯爵ハウゼンが亡くなったのはその三日後のことだった。

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